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しるし

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第三章


第三章

「代々伝わっているのよ。家系にね」
「そういうのだったの」
「どうしてお姉ちゃんは話さなかったのかしら」
 叔母はそのことを不思議に思いはじめた。
「知ってるのに」
「お父さんに遠慮したのかしら」
 美月はこう考えた。
「こうした痣が家系に引き継がれていくってやっぱり変わったことだし」
「隠す必要もないと思うけれどね」
「お母さん遠慮する性格だから」
「昔からね」
 こうしたことは妹である彼女の方がより知っているようである。また明るい笑顔になった。
「そうなのよね。お姉ちゃん謙虚でね」
「私にも偉そうにするなって言うわ、いつも」
「それでいいのよ」
 だがそれでいいとも言うのだった。
「それでね。人間偉ぶっても何にもならないから」
「それは何となく」
 彼女にもわかった。偉そうにしている人間は周りから好かれないことは学校のある教師を見ていてわかることだった。そうした教師は残念なことに実に多い。
「わかるけれど」
「だからあんたにも言わなかった」
 彼女にもわかった。
「そういうことね。けれどね」
「ええ」
 そのうえでさらに話をするのだった。美月もその話を聞く。
「この痣。あんたが結婚してね」
「私に子供が生まれたら」
「出るかも知れないわよ」
 こう話すのだった。
「女の子だけに出て出るのは兄弟で一人だけだけれど」
「ひょっとしたらなの」
 自分の右手の痣をここで見た。その痣を。
「この痣が」
「私の娘にもあるから」
 叔母は自分の家族のことも話した。
「左肩にね。あるのよ」
「左肩に」
「それで悪いことは何もないし」
「そうね。何か漫画みたいだって言われたことはあるけれど」
 右手の甲を顔に近付けてさらにまじまじと見る。覚えている限りこの痣でいじめられたりからかわれたりしたことはない。漫画やゲームの設定のようだと言われたことはあってもだ。形が神秘的なのでそういうふうに言われたことは今までないのだ。
「それでもね」
「私もよ。だからね」
「娘に出ても気にしなくていいのね」
「そういうこと」
 結論としてはそうだった。
「それでね。いいから」
「そうなの。じゃあ」
「さて、誰に出るかしらね」
 叔母はにこにことして美月に話す。
「あんたが結婚して子供ができたら誰に」
「この痣が」
「この痣が出てる娘には本当にいいことがあるしね」
「本当にって!?」
「いい相手が来るわよ」
 こう美月に語るのだった。
「私の旦那みたいにね」
「叔母さんの旦那様みたいに」
「ホークスファンなのは御愛嬌」
 実はそのことには案外悪いようには思っていないようである。
 
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