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聖夜に降る灰色の雪

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Episode 1 邂逅

 「嘘……だろ?」
 健は目を疑った。昨日までそこに「あった」大学の建物だけでなく門からなにから全てが、始めから「無かった」かのように消失してしまっていた。
 12月25日。世間はクリスマスの話題で持ちきりであったが、彼女のいない健には関係なかった。
今朝もいつものように起き、普段と同じ時刻に家を出て、自転車で10分程度の距離を走り大学に到着する。
そこで健は、呆然と立ち尽くすしかなかった。なにが起きたのか皆目見当もつかない。今朝のニュースでもこんなことは一切報道されていなかった。
 健は携帯電話を取り出し、「南大 消えた」と検索をかける。しかし彼の携帯に表示されたのは「該当する検索結果はありません。」の文字。その後も、南大に関して検索をしても、その大学自体が最初から無かったかのように、「該当する検索結果はありません。」の文字が表示され続けた。

 南大ーーそう略されるのは国立南夏(みなつ)大学。西秋大、北冬大、東夏大と並び、日本でもトップクラスのレベルの大学で、多くの大手企業への就職が約束されるというエリートの集まる大学である。
 彼ー皐月健は、この大学へ来るため猛勉強をし、この春、晴れて入学する事が出来たのである。実家から通うのが遠いため近くのアパートを借り、一人暮らしを満喫していた。

 「本当、どうなってんだよ…」健は、フラフラとした足取りで大学「だった」土地に足を踏み入れる。
 その時、遠くに何かあるのを見つけた。この距離ではそれが何なのかは全くわからない。彼はゆっくりとそれに近づいていく。段々と、大きくなる「それ」が、一人の少女であることを知るのにそれほど時間はかからなかった。
 「何でこんなところに女の子が?しかも一人だよな…」周りを見渡しても、親と思われる人物は見あたらない。「迷子なのか……え!?」健は、彼女の姿を見て思わず声を上げてしまった。それもそのはず。この寒空の下、何もないところで倒れている少女の姿を見て驚かない人がいるだろうか。


 健はすぐさま駆け寄って、彼女に問いかける。
 「あのー…えと……君、大丈夫?」
 彼女はゆっくりとこちらを見る。見た目は中学生か、見方によっては小学生にも見えそうな顔立ちをした、黒髪の美少女であった。健はその姿にどこか悲しげな雰囲気を感じた。
 「どうして、こんなところに一人で倒れているの?」健は彼女に聞くが、彼女の声は聞こえない。
と、次の瞬間彼女は信じられない言葉を口にした。

 「……やっと会えたね。健兄さん。」

 今にも消えてしまいそうな声で彼女はそう言った。 
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