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少女1人>リリカルマジカル

作者:アスカ
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第四十九話 思春期③



「少年A……お前、焼けたな」
「夏休みの間、飼育小屋の掃除とか色々していたからね。その所為かな」

 長い夏休みが終わり、ついに登校日となった。夏祭りの時にみんなと一度会っていたが、こうして改めて会うと、今までの違いに気づくことがある。

 俺は仕事で忙しかったため、なかなか友人たちと遊ぶ時間が取れなかったから余計にだ。もっとも他のやつらもそれぞれ用事が入っていることが多かったから、クラ校友人勢が全員そろったのは、本当に久しぶりだったりする。

「アルヴィンはあんまり焼けていないよな。俺も建物の中にいることが多かったから、アレックスほど焼けていないけど」
「へぇー、少年Cもあんまり外に出なかったのか。意外だな」
「俺だって色々調べ物があったからな。海に行って水着美人の姿をシャッターに収める機会は多少減ったが、それに負けないぐらいの収穫が手に入ったんだぜ!」
「……少年B、ツッコミの出番」
「なんで久しぶりの全員集合20秒で、早々ツッコミが必要な事態になるんだ」

 サムズアップするランディこと少年Cと、もう諦め通り越して悟りの道を開きそうなティオールこと少年B。ちなみにリトスこと少年Eは、2日後に再開される給食の献立表を見に行っている。こいつらぶれねぇな。


「ごきげんよう、アルヴィンたちは相変わらず元気みたいだね」

 蜂蜜色の柔らかな髪と、色々呆れの入った色を宿した緑の瞳を持つ少女。俺を含め、男子連中は身長が伸びた以外は身体的な変化はあまりない。だけど妹含め、女子連中は現在第2次性徴期の真っ最中である。思春期の心身の変化って結構すごいよな。

 まぁなんだ、地球の一般常識では、この時期は性別とかそういうのを気にし出す時期らしい。だけど11歳という年齢ながら、俺たちのクラスは基本男女混合。男や女で各自集まることはあるが、性別の境界線は正直未だに曖昧なのだ。そのため、メリニスのように男グループの会話の中に遠慮なく入っていけるし、男連中も女子グループの会話の中に入っていける。いつも一緒にいるメンバー以外は、さすがに気後れすることはあるけど。

 あと、女子連中がなまじ男よりも強いのだ。クイントとかメガーヌとか。地球とは違い、ミッドでは女性が最前線に立って戦闘する場面なんてよくあること。女性は守るものという考え方は間違っていないが、それ以上に非戦闘員は守るものという考え方の方が強い。どこの戦闘民族だ。

 非戦闘員には、当然男も女も両方いる。逆に言えば、戦闘ができる人だって一緒。そのため、性差などの配慮はあれど、ミッドチルダは基本男女平等な社会なのだ。白馬の王子様という言葉と一緒に、白馬のお姫様なんて言葉もあったりする世界である。

 ミッドチルダの結婚年齢が早い理由の1つが、この社会の仕組みらしい。当たり前のように男女が一緒にいるのだから、わからないでもない。その代わり、早期妊娠問題や逆に近すぎて恋愛感情がわからなくなるという問題があるようだ。こういう文化とか社会の構成って、一長一短がやっぱりあるよな。

「どうしたの、アルヴィン? ぼぉーとして」
「いや、俺たちの成長期について考えていたら、いつの間にかミッドの社会構成について考えていた」
「だから君の思考回路は、どうやったらそんな化学変化を起こせるんだ」

 おかしい、なんで友人2人から諦念まじりの目で見られないといけない。


「改めて、おはようメリニス。夏祭り以来だね」
「そうね、ティオ。夏休みは研究ばっかりしていたから、あんまりみんなに会えなかったもの」
「あぁ。確かメェーちゃん、図書室の先輩さんたちと一緒に魔法の研究をしていたっけ」
「えぇ。私のお母様が使う魔法と、先輩の友人さんの得意な魔法、そして先輩の魔法技術を合わせた合成魔法よ」

 少し興奮しているのか、頬を桃色に染めながら語るメリニス。図書室の先輩さんは、レティ先輩の友人さんだったっけ。俺はあんまり会わないから詳しくはわからないが、レティ先輩と一緒に中等部を卒業して管理局に就職したらしい。廃スペックトリオ全員が入ったらしいし、管理局の混沌さが増した気がするのは気のせいだろうか。

 そんな先輩とその友人さんとメリニスは仲がいいようだ。ちきゅうやで3人そろって漫画やアニメを見ていたのを、俺とエイカで見守っていた。なんでも完成したその魔法は、3人の思いを1つにしたものらしい。メリニスから、図書室の先輩がその魔法で大活躍していると聞いている。うん、友情パワーって微笑ましいよな。

「そうだわ、アルヴィン。無限書庫でのお仕事ってまたない? 私に手伝えることがあったらいつでも言ってね」
「あ、あぁ。というか俺より仕事に積極的だよね、メェーちゃん」
「だって……私、あんなにもどきどきしたのは初めてだったんだもの」

 美少女が恥ずかしそうに目を伏せ、桃色から完璧に朱へと変わった顔を手で隠す。大変かわいらしいのだが、興奮対象が本というのは女の子としていいのだろうか。司書である俺は、一般人の同伴を一応認められている。管理局の仕事でも、機密事項外や危険性のないものなら補佐として呼べるのだ。たぶん、資格を取った俺に一番喜んでくれたのはメリニスだろう。

 なんせ俺が司書資格を取った3ヶ月後に、無限書庫への立ち入りパスを独自で入手してきたのだから。別に俺の仕事は、ロストロギアの調査や古代ベルカ語の翻訳ばかりではない。魔法技術の効率化のための方法模索や、多次元世界の情報をまとめたりという仕事もある。後半のような仕事は、民間協力者の手を借りることだってある。俺にとって、検索魔法の師匠であるメリニスの助力を得られるのは助かる。そのため、司書権限で色々お願いをしたものだ。

 本人は別の夢を目指しているため、俺のように司書資格を手に入れるために勉強する時間はない。だけど、無限書庫に入るだけなら昔の俺みたいに立ち入りパスを手に入れればいい。俺という司書の許可があれば、存分に本が見れる。いや本当に、彼女の知識欲にはいつも脱帽する。


「あ、お兄ちゃん。お仕事で思い出したけど、今日はみんなと遊べるの?」
「ん? アリシアか。そうだな、この1週間は書類をまとめるだけでいいから問題ないぞ。学校が始まる前にかなり減らしたし」
「本当! それじゃあ、やっとお兄ちゃんに私の新しいお友達を紹介できるよ」

 先ほどまで他のクラスメイトと話をしていたアリシアが、嬉しそうに報告をしにきた。こちらに歩いて来る妹の髪がさらりと流れ、彼女の自慢である腰よりも長い金色の髪は艶めき、光沢を放っている。本人が気にしている低めの身長が、愛らしさをアップさせているが、顔のパーツは母さんとよく似ていた。たぶん大きくなっていけば、かわいいよりもきれいという形容詞が似合ってくるだろう。

 俺にとって自慢の妹。彼女は知らないだろうが、俺はこの子に何度も救われてきた。俺を純粋に慕ってくれて、家族だと当たり前のように傍にいてくれる。友人が増え、環境が変わり、一緒にいる時間だって初等部当初と比べればかなり減ってしまっただろう。それでも、アリシアの笑顔は太陽みたいに照らしてくれる。

 俺がアリシアを自慢の妹だと言えるように、俺も妹に自慢の兄だと言ってもらえるような人間になりたい。俺がどれだけ長い年月がかかっても、折れずに頑張っていけるのは支えてくれる人がいるからだ。

 だから俺は……誰が何と言おうと、どれだけ月日が経とうと、シスコンは絶対にやめない。これ、心理。

「新しい友達…。そういえば、夏休みにできたって言ってたっけ」
「うん。お兄ちゃんがいるって話をしたら、「お姉様のお兄様なら、妹分としてきちんと挨拶をしなくては!」って言っていたから」
「あれ、俺が知らないうちに妹が増えていた」

 妹増殖中。あかん、これちょっと俺の世間体大丈夫か。シスコンと言われても喜ぶだけだが、さすがに性癖を疑われたら泣くぞ。


「はい、みなさん。それでは、夏休みの宿題で出した観察日記を集めますが……、どうしたのアルヴィン君」
「先生、実は俺が知らないところで妹ができていたみたいなんです」
「さらっとすごいこと言った」
「この場合、俺に対する周りの目ってどんな感じになるんでしょうか」
「え、気にするのはそこなの。その妹さん隠し子だったの? でもテスタロッサさんはシングルマザーだから、隠し子って言わない。……お父さんの方に娘ができたってことなのかしら…」
「シスコン乙とか生暖かい目ならいいんですけど、自信がなくて…」
「ごめん、アルヴィン君。混乱しているのはわかるけど、まずは先生との会話を成立させようか」

 長年の振り回された経験のおかげか、すぐに軌道修正をはかった先生であった。



******



 夏休みの宿題。「観察日記をつけましょう」(題材は自由です。製作活動について書いてもかまいません)


 登校日初日は、始業式と提出物や配布物の確認で終わったため、子どもたちは元気に下校していった。職員会議や教室整備を終え、先生は先ほど子どもたちから集めた作文用紙を手に取る。1年生の頃から見てきた子も多いため、成長したな…、と色々感慨深くなりながら読み進めていた。ちなみに何が成長したのかは、ご想像にお任せする。

 そして、いつも通り最後の7枚を前に手を止めた。さて、ここからが彼女の正念場である。教師人生において、これほどまでにすさまじいオーラを放つ作文を、目にしたことがあっただろうか。だがそんな経験を彼女は、5年間も続けてきたのだ。人間にとって最大の武器の1つとされるものを、彼女は会得していた。

 曰く―――慣れである。


 題名:『ねこの観察日記』 作者名:アリシア・テスタロッサ

『私の家ではねこを飼っています。名前はリニスと言って、ふさふさな女の子です。リニスの毛はとても温かくて、抱っこするとすごく気持ちがいいです。5歳の誕生日の時に出会ったリニスは、私にとって大切な家族です』

 アリシアの作文から感じられる、情愛の感情。彼女が本当にリニスという猫をただのペットとしてではなく、家族として大事にしているのだと文章から伝わってくる。

『リニスはすごく強くて、クラナガンの元締め姉御として名を馳せています。この前、動物界のドンさんと決闘して見事に勝利を飾ったそうです。その時に使った猫パンチや壁走りのやり方を、他の動物さんに伝授していて毎日大変そうです。でも、すごく生き生きしています』

 そして、何かおかしい猫に対する認識具合も同時に文章から伝わってきた。

『私はクラナガンの姉御と呼ばれるリニスが、普段どんなことをしているのか気になりました。なので、今回の宿題で観察をしてみようと思います。事前にリニスや他の動物さんたちにも取材の許可をもらい、頑張りました』

「猫や動物からどうやって許可を……というのは今更なのかしら」

 相手はあのテスタロッサ家。猫と会話ができる能力を持っていても、何故かおかしいと思えない摩訶不思議さ。すでに序盤から冷や汗を微妙に流しながら、先生は続きに目を通していった。



《観察日記①》

『夏休みが始まって3日目。日に日に暑さが増してきたように思います。強い日差しが窓から入ってきますが、リニスは太陽の陽が当たらない涼しい場所で寛いでいました。リニスは家にいる時はお昼寝をしたり、毛づくろいをしたりして過ごしていることが多いです。時々コーラルを転がして遊んだり、ブーフをカリカリしたり、闘う訓練をしたりしています。今日はどうやら、ウィンクルムと一緒にねこパンチの修行をすることにしたみたいです。リニスはお姉ちゃんとして、色々気にかけてくれます』

「妹さん思いなのね…。そして猫さんたちは一体何を目指しているの?」



《観察日記②》

『リニスとウィンが家で修行を始めてから数日経ちました。でも今日から、2人の修行は外でやることになったみたいです。やっぱり広々とした場所の方が、伸び伸びとできます。訓練所を使わせてもらっているからか、周りの人たちも2人の修行風景をよく見に来ていました』

 猫とウサ耳を持った少女による猫パンチの修行風景。想像すると確かにかわいらしい。和みそうだ。

『リニスもウィンも楽しそうです。この前はウィンのうさぎパンチが唸りを上げ、衝撃波を起こしてしまって家の壁に罅を入れてしまったから大変でした。2人ともお母さんに怒られて、しょぼんとしていました。でも、訓練所なら地面に穴ぼこができても大丈夫なので、安心して修行ができました』

「それ大丈夫じゃないよね!?」



《観察日記③》

『お仕事がお休みだったお兄ちゃんが、久しぶりにリニスに闘いを挑んでいました』

 いきなり初っ端から書かれる文章。もはや疑問すら起きない日常風景らしい。

『お兄ちゃんの目標は、リニスを抱っこして、思う存分にもふもふすることみたいです。そのためにいつも勝負を挑んで、打倒リニスのために頑張っています』

 ……もはや疑問すら起きない日常風景らしい。

『リニスの高速移動と跳躍、そして攻撃は最大の防御と言わんばかりのパンチの嵐。お兄ちゃんも転移と放電とトラップを駆使して、リニスの足を止めようと奮闘していました。2人とも修行の成果を発揮していましたが、おやつの時間になったので引き分けに終わりました。なかなか決着がつかなくなってきたみたいです』

「君たちの戦闘訓練ってこのため?」



《観察日記④》

『今日の修行はお休みで、クラナガンの見回りにリニスは出発するみたいです。なので私も一緒に、リニスの隣を歩くことにしました。道案内をしてもらいながら、リニスを見るとすぐにお腹を見せてくれる動物さんたちをいっぱい触らせてもらえました。楽しく見回りをすることができました』

 金髪の少女を見ると、いきなり服従のポーズを取る動物が何匹か現れた、という噂を先生は思い出した。

『見回りの途中に、お兄ちゃんがよく通っている管理局を見に行きました。白い建物は大きくて、高くて立派でした。入り口の近くまで行くと、マスコットさんがお仕事をしているところを見かけました。確かお母さんが開発したおまわりさんです』

 プレシア・テスタロッサが開発した、地上の守り手。所有者の意に従って、行動する忠実なる人型機械である。無印の原作では、時の庭園内に突入したなのは達を迎え撃った、無人の鎧兵器たちであった。時代を超え、過去ではなく未来を守るための守護者として、彼らは命を授かった。

 開発に開発を重ね、さらにチームを組んで取り組んだプレシアたちは一切自重することなく、100体以上の数を作り上げた。しかもそれがほぼAクラス魔導師と、同じだけの力を持っている。それが現在3種類のタイプまで作られており、ミッドチルダ中で任務に就いていた。犯罪者は泣いていいと思う。

『1年ぐらい前にお母さんから、「ミッドの平和を守るロボットなら、アリシアはどんなデザインがいいと思う?」と聞かれたので、「犬のおまわりさんみたいな感じで、くまのお兄さんみたいなの!」と答えたことを思い出しました。「ふもっふ」と挨拶をされたので、リニスと一緒に「お疲れさまでした」と頭を下げました』

「ミッドに着ぐるみみたいなのが大量発生した理由ってそれなの!?」

 ちなみにその傀儡兵の役割は『砲撃兵』。原作にて高いバリア出力を誇り、なのはとフェイトの2人がかりで倒した傀儡兵と同じである。多少小型化され、量産化されているが、能力は健在。犯罪者は泣こう。

『あと、お兄ちゃんは2種類の案を出したみたいで、緑色と赤色の怪獣さんでした。前にテレビで「たーべちゃーうぞー」とか「魔導砲ですぞぉー」って言って悪い人を追いかけているのを見ました。私も次のデザイン案では、もっと頑張ろうと思いました』

 ミッドチルダは着ぐるみで守られていた。



《観察日記⑤》

『お兄ちゃんがニボシでリニスを1本釣りしようとして、失敗していました。次にチーズや鶏肉とか色々試していましたが、難しかったみたいです。「女を物で釣るのは大変なんだぜ」ってラン君がクラスのみんなに言っていたけど、このことなんだとわかりました』

「ランディ君、明日職員室に呼び出し(メモ)」



《観察日記⑥》

『今日もリニスは見回りに出かけるみたいです。私もリニスに教えてもらった道をぐるっと回っていたら、前からローズグレーのきれいな髪の女の人が現れました。リニスを見た瞬間、嬉しそうに抱き着いてゴロゴロ甘えていたのにはびっくりしました。猫耳としっぽが生えていたので、使い魔さんみたいです。ウィン以外で使い魔を見たのは、初めてでした』

 ちなみに甘えまくった後、リニスの傍にいたアリシアにようやく気づき、「うにゃァーーん!?」と羞恥心で爆発したのは余談である。

『ねこのお姉さんはアリアさんって言って、リニスの妹分としてミッドを守っていると教えてもらいました。アリアさんはリニスとお話をして、「お姉様のお姉様!?」とすごく驚かれていました。十代後半ぐらいの見た目だったけど、私とリニスよりも本当は年下だったみたいです』

 使い魔の見た目は、その主人と使い魔自身で任意に決めることができる。アルフやウィンクルムのように幼い頃に使い魔になった場合、力の消費を抑える為と制御の仕方を覚えるために幼い姿しか取れないことはあった。だが1年あれば、使い魔にとって最適な成長を遂げられるのだ。

 ちなみにウィンクルムは、自身の年齢に沿って成長するように設定したため、未だに幼い見た目のままだったりする。これがもし最適な姿で普段を過ごしていたら、脱ぎ癖があった妹に兄は本気で涙を流していただろう。抱き着く癖もあったので、貧血にも悩まされていたかもしれなかった。然もあらん。

『まだちゃんと人型になれないぐらい幼かったアリアさんを、リニスが救ってくれたのだと話してくれました。すごいです。リニスはただのねこさんではなく、まさにミッドのヒーロー……スーパーキャットだったのです。とんでもない事実が発覚してしまいました』

「その事実はもともと公のものだったと思うよ」



《観察日記⑦》

『アリアさんとお友達になり、私も「おまもりリニス」の仲間に入れてもらいました。なんだかどきどきしてしまいます。リニスと今日も見回りに行くと、前と同じ場所でアリアさんを見つけることができました。だけど、不思議です。なんだか私の何かがムズムズと違和感を訴えてきました。アリアさんを観察してもわからなかったけど、耳を見てピンッときてしまいました。これは触って確かめるべきだと、私は行動を起こしました』

 ちなみに兄に鍛えられていたアリシアに、耳としっぽをもふもふされて、「うみゃァーーん!?」と生娘のような声をあげていたのは余談である。

『やはりアリアさんとは違い、耳としっぽの形も質も手触りも少し違いました。「さ、さすがはアリシアお姉様…!」と息を切らしながら言われ、ロッテさんというアリアさんの双子の妹さんなのだと教えてもらいました。すごくそっくりさんで驚きました。私とお兄ちゃん以外に、双子って見たことがなかったからびっくりです。……私もお兄ちゃんと似ているのかな?』

「内面に関しては太鼓判を押します」



《観察日記⑧》

『お兄ちゃんがねこじゃらしを片手に頑張っていました。リニスもじっとねこじゃらしを見つめていました。リニスを抱っこすることはできなかったみたいだけど、仲良く一緒に遊んでいました。お兄ちゃんはすごく笑顔でした』

「お兄さん、結構努力家よね…」



《観察日記⑨》

『もうすぐ夏休みが終わりそうです。リニスとの見回りもだいぶ慣れてきました。この観察日記を始めて、リニスがみんなに頼られている理由がなんだかわかったような気がします。アリアさんとロッテさん、2人とお友だちにもなれました。ミッドの動物さんとも仲良くなれました。今度お兄ちゃんと遊べるときに、紹介しようと思います』

「アリシアちゃんも、お兄さんが大好きよね」

『お兄ちゃんのことを伝えると、ロッテさんがお兄ちゃんとリニスがよく闘っているって聞いて、すごくメラメラ燃えていました。アリアさんも、妹分として認められるには力を示さないと駄目なのかしら、ってグッと拳を握り締めていました。他の動物さんたちも盛り上がっています。リニスもなんだか楽しそうです。よくわからないけど、お兄ちゃん頑張って!』

「アルヴィン君! 君が知らないところですごい展開になっているよ!?」



《観察日記⑩》

『今日は家族みんなで、家の中でのんびりしていました。お兄ちゃんがうさぎモードのウィンを膝に乗せて、ブラッシングをしてあげていました。ウィンはすごく気持ちよさそうで、うとうとしていました。少しして、ブラッシングが終わって眠っちゃったウィンを下したお兄ちゃんの膝の上に、リニスが乗ってきました。お兄ちゃんはそれに少し驚いていましたが、小さく笑って「仰せのままに、お姫様」とリニスの毛を優しく梳いていました。それを見ていると、すごくぽかぽかした気持ちになりました。私たちみんな、仲良しです』

「最後すごくきれいにまとまった…!」



******



 アリシアの作文を読み終わった彼女は、無言で観察日記を机の上に置く。そして、大きく一息ついた。今の先生の胸中で感じることは、天然とツンデレとカオスがミックスされて、さらに化学変化が起こされたそんな状態である。ぶっちゃけ訳が分からない状態だった。

 最終学年になろうと、根本的なところは全然変わっていない。むしろ、行くであります! と言わんばかりにあらぬ方向に突撃していた。彼女の心の中では、応援歌が流れている。自分で自分を応援するぐらい許してください、という心境だった。

「頑張れ、私。みんな素直で元気な子たちなのよ。……大丈夫、問題ない」

 暗示終了。彼女は新たにやる気スイッチを入れて、再び作文に向かう。残り6枚の作文がまだ残っているのだ。ここで終わるわけにはいかない。

 先生としての意地を発揮し、己を奮い立たせる。新たに気持ちを入れ替えた彼女は、意を決して次の作文の題名に目を落とした。


『僕の食べられる召喚獣観察日記』
「召喚獣がもはや非常食扱いッ! 後回し!」


『同僚さんがいかにランデブーまでいけるのか観察日記』
「それたぶん死語だから!? 君の着眼点は本当に相変わらずだね! 後回し!」


『左腿前面にスリットラインの入った本局の制服か、左右腿にスリットラインが入った地上部隊の制服か、青地に前開きのスカートな提督の制服、どれが最も猛るのか観察日記』
「どうしてこれを夏休みの宿題で書こうと思ったの!? 先生普通に困るよ! 後回し!」


『ぷにゅのような存在感を手にするための観察日記』
「やっぱり存在感を気にしていた! 観察対象から一体何を学ぶ気!? 後回し!」


『先輩たちと考える魔法少女の変身コスチューム製作日記』
「先輩さん周りの影響力を考えて! 後回し!」


『ツッコミを製作できないかを真剣に考える日記』
「まずい! ちょっとカウンセリングしてあげないと!」


 ―――我が道を突き進みまくる子どもたち。もはや、先生のライフポイントはゼロだった。



******



 先生が悲鳴をあげていた同時刻。クラナガンの街で1人の少年も同じように叫びながら、全速力で逃げまくっていた。世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ。クロスケ君の言葉が、アルヴィンの心の中で響きまくっていた。

 こうして新たに、アルヴィンの原作登場人物欄に、徐々に名前が刻まれていくのであった。

 
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