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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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第三話

 人には本分というものがある。
 人それぞれの成すべきこと。もともと備わっていた性質。
 それを超えようとすればしっぺ返しを受けることもある。
 学生の本文であれば学ぶことであり、大人であれば社会の運営や家族を養うための労働であるかもしれない。
 武芸者であれば都市の治安や民を守ることであろう。
 その役割にあった、適した働きというものがある。

 その上でレイフォンは思った。

 念仏にしか聞こえない授業。右から左へ抜けていく講師の言葉。書き写しただけで意味不明な文字の羅列。
 ああ、自分の本分は武芸者だったのだと。
 クラスの名簿を片手に眺める講師を見て、今更ながらに強くそう思う。

「……うーんと、アルセイフ君でいっか。アルセイフ君、ここの答え分かる?」

 流石にこれがわからない人はいないよね。そんなノリの声に指名され空虚となっていたレイフォンの意識が戻る。
 隣にいるクラリーベルは頬杖ついて面白そうにこちらに視線をやり、前の席のルシルは指で何かサインを出しているが全く意味がわからない。
――分かりません。
 何かを悟ったレイフォンの声が教室に響いた。






「おい、大丈夫か」

 昼休憩の時間。レイフォンにとっては癒しとも一時の息継ぎとも言える時間だ。
 一時間ほどあるこの時間、学生は昼食を食べるのが一般的だ。レイフォンたちもそれに習い昼食を食べている途中だった。
 寝坊でもしなければ基本的にレイフォンとクラリーベルの昼食は弁当であり、食べる場所は教室が大抵で偶に外だ。教室の場合は前の席のルシルも参加する。パンを齧りながらルシルに言われた言葉にレイフォンは疲れた視線を返す。
 
「駄目だよ。慣れはしたけど」
「本当に勉強ダメなんだな。オレより耐性がないやつ初めて見たぞ」
「これでも頑張ってるんだけどね」

 だが、その頑張りも余り意味を見せない。最初の頃から比べれば意識が飛ばすにノートをちゃんと取れるようになっただけ進歩しているがその程度だ。
 学校が始まって既に日数も経ち、生活リズムも慣れた。だがそれは勉強になれたのとは別の話だ。最初の初期的なおさらいの部分はまだギリギリ理解が出来たが、進むにつれレイフォンの理解の範疇を超えて行った。

「一応言っておきますが、板書を写すだけで頑張っているとは言いませんよ。寝ないのは当然ですし」
「だけって言うなだけって。それでもオレ達からしたら頑張ってるんだぞ」

 クラリーベルに対してのルシルの言にレイフォンは無言で力強く頷く。そんな二人にクラリーベルは悲しいものを見る瞳で見る。
 レイフォンは一般人への認識を改めていた。今までずっと武芸をして来て生きてきたが、武芸者でない人たちは皆こんな勉強をしていたのだ。レイフォンは武芸を辛いと思ったことはない。幸いにも才能があったのも理由の一つで、それをする上で技術的な困難は無いに等しかった。

 だが一般の人たちは才のあるなしに関わらずこんな事をしていたのだ。素晴らしいことではないか。
 武芸者としての才能もあって頭もいいクラリーベルのことはまあ、何かの間違いだろうとレイフォンは思いたかった。

「クラリーベルは家でも予習とか復習してるの?」
「特に何も。実家である程度まで教えられてまして……まあ、正直言って一、二年生のうちくらいは授業寝てても平気なんですよ私」

 それに教科書読めばだいたいわかりますよね。ほくそ笑んで楽しげに言うクラリーベルはやはり別世界の住人だと再確認する。
 気にするだけ無駄だとレイフォンは思考を切り替える。何かあったらクラリーベルに頼ればいいという事だ。

「あ、そう言えば内職やってたよねルシル。良かったら見せて」
「いいぞ。と言ってもオレも他から借りたのを写しただけだけどな」

 来週提出の小プリントを受け取り軽く答えに目を通す。横からクラリーベルがそれを覗き込んでくる。

「……何て書いてあるんですかこれ」
「何って、答えだが」
「ちょっと読みづらいけど普通に読めるよ」

 確かに雑な字だが、レイフォン自身字が丁寧とは言えないので慣れたものだ。自分しか見ない前提のノートの中身などこれよりも一層酷い惨状である。付き合いの長さ故かそんなレイフォンの字でもある程度は解読可能なクラリーベルだがルシルの字は読めなかったらしい。
 渋い顔をして食事を再開したクラリーベルも、最初はレイフォンの普段の字を別言語と言っていたのだ。いずれこの字も読めるようになるだろう。

「期限までに返してくれればいいぞ」
「すぐに写すよ」
「そうか。そう言えば二人共部活見て回ったんだろ、何か入ったのか? バイトとかもさ」
「部活はまだ考え中。クラリーベルはいくつか興味持ってたけど……何だっけ」
「オカ研とか面白そうでしたね」
「ああ、そっち系の……」

 胡散臭いが、そういうのがクラリーベルは好みらしい。胡散臭いか、やたらと黒い色で悦に入るようなそんな方面にクラリーベルが興味あるのだとレイフォンはそこで初めて知った。
 部を回っていて漆黒とか真紅とかそういう単語に良く反応していた。

「暇なら後でいくつか一緒に回ろう。オレも見たい所あるし」
「いいよ。まだ見終わってないし。バイトは今のところ配達だけかな僕は」
「郵便? 出前? 足はあるのか」
「郵便で手紙がメインだけど、他にも色々してるみたい。バイク貸してくれるし、免許は費用出してくれたから。地理覚えるのが大変だけど」

 対人関係のバイトは同僚や上司によって(心の)難易度が激変する。それを知っているレイフォンはある程度個人で動けるバイトを選んだ。郵便配達物の仕分けや配送を行う仕事がそれだ。
 都市全体に行き渡らせる為に足が必要であり、アパートの位置を教えたら立地が考慮され通勤にも使えるようにとバイクを一台貸して貰っていて現在はアパートの近くに停めてある。
 運転には許可証が必要だが低出力のものなら二日ほどで取れる。免許を上のものに更新すれば高出力の物も貸してくれ、仕事も増えるが時給も上がるというので現状はそれを目指す方針だ。デメリットといえば短期で辞めると免許費用の返済などを求められる点だが、まあその心配は今のところ無いので関係がない。
 都市間郵便は不定期であり基本は都市内の割外が多い。それでも余り忙しいものではないためもう一つくらい入れようかと考慮中なのが現状だ。

「バイクって結構いいよ。もう少し速いのが欲しいから免許グレードアップしたいかな」
「偶に貸してもらいますが、動くのに便利ですよね」

 アパートに置いた為だろう。気づけばほか二人もいつの間にか免許を手にしており、レイフォンの仕事の時間を外して使うことがあった。本来借り物なので問題があるのだが、それとなく上司に聞いたところ「何かあったら買い取れ。俺は何も聞かなかった」という裁定で終わった。

「速さ上げてもどこで乗るんだって話だがな。それとバイト、他にも考えてるなら先輩から聞いたの紹介するぞ。オレもやってるやつ」
「入るかわからないけど、部とか決めた後で余裕あったら頼もうかな」
「了解。ロンスマイアの方は何かしているのか」
「それが決まらないんですよねー。単発でなら面白そうなのいくつかやりましたけど。まあゆっくり決めようかと」
「Aランだったか。羨ましいことだ」

 学費全免除のAランク奨学生。稼ぐのは生活費だけで十分。レイフォンはD、ルシルもDで学費のことも考える必要がある。
 最も、レイフォンとクラリーベルはその心配もほとんどないのが実のところではあるが。

 ふと時計を見ると昼休憩も既に半分以上過ぎていた。ルシルはトイレに立ち、レイフォンは食べ終わった弁当を片付けてパックのお茶で喉を潤す。

「そう言えばレイフォン、どこかで放課後の予定を開けておいて下さい」
「いいけど、用でもあるの?」
「グレンダンの上級生がいるので一応挨拶に。サヴァリス様の弟です」
「……えー」
「あからさまに面倒な顔しないでくださいよ。安心して下さい、兄弟といっても全然違いますから。弟の方は普通の人でしたから」
 
 自分自身、物凄く嫌そうな顔をしている事がレイフォンにもわかった。それだけ自分にとってサヴァリスの名前は鬼門に近い。正直な話関わらなくていいなら関わりたくない。
 一度会っておいた方がいいのはレイフォン自身理解している。天剣授受者の弟で、ツェルニにおいてはグレンダンの事情にも通じている。聞けば小隊の隊長も勤めているとか。何かあれば手を貸してもらえるかもしれない。
 ツェルニにおけるコネだなんだ、いざとなれば兄のことで脅せなどと言うクラリーベルにレイフォンは渋々と頷く。サヴァリスが突然変異なだけで、本当に普通の人なら有難い事だ。

「分かりました。それとクラリーベル、今日の放課後空いてる?」
「レイフォンと違って基本暇人ですよ。何ですかデートですか」
「研究の成果を見に来ないかってハーレイさんに呼ばれてるんだ。興味あるって言ってたよね」
「面白そうですし行きます。それと少しは反応して欲しいんですけどね」

 ノリが軽すぎたのは理解しているが全くの無反応っぷりにクラリーベルは嘆息する。何となくの流れで言っただけなので反応があれば有ったで困っていたのもまた事実だが。
 ストローを咥え濃縮果汁を無言で啜るクラリーベルを尻目にレイフォンはプリントを写していく。
 精度の高い無駄に正確な動きで雑な字を高速量産しつつレイフォンが口を開く。

「暇なら何かする予定はないの? さっきの続きってわけじゃないけど、バイトとか。ほら、陛下から言われてるし」
「んー……厳密に言うと私は指定されてないんですよねそれ」
「そうなの?」
「ええ。常識を知るってだけですから対象は色々あったレイフォンだけなんですよ。私はまあ、ついでですね。それでも一応やろうとは思ってるんですが……強制でないなら面白そうなこと以外やる気が出なくて」

 その言い方からして興味を惹かれるようなものが今のところ見つかっていないのだろう。
 バイトにも色々と種類がある。飲食業から清掃業や配送業。そう言った俗にサービス業と言われるものから農作物の収穫や家畜の世話などといったものまで幅広い。
 人と触れ合うか触れ合わないかでも大きく違うし職種によって求められるスキルも違う。金銭を稼ぐ、人脈を広げる、スキルを得る。求めるものによっても違ってくる。

 金銭目的で昔いろいろと粗探しを繰り返し、色々と胡散臭い類の仕事も探せばあることをレイフォンは経験として知っている。まあ、だからといってそういったものを探して紹介しようとは思わないのだが。
 特に切羽詰った理由や必要もないならゆっくり探せばいいとレイフォンは思う。何せモノによっては精神的にも影響が及ぶのだから。

「遠い目してますが大丈夫ですか。手が止まってますよ」
「ああ、うん。大丈夫。ちょっと昔を思い出していただけだから」

 クラリーベルの胡乱な目がレイフォンを見る。

「まあ実際、自由に使えるお金が増えるってのは良いですよね。この間アイシャさんに奢って貰いましたけど」
「アイシャは古本屋だっけ、珍しいよね。僕のとこ月払いだけど隔週だって言うし」

 資源が限定されるレギオスではデータ媒体の物が目立つが紙媒体も存在する。新聞部が発行する週刊ルックンスなどがそれに当たるだろう。本屋に行けば小説や様々な情報誌もあるし図書館といった施設もある。
 だが必要がなくなったものは資源として回されることが推奨されている。古本、といった物を個人でなく店として置くところは珍しいだろう。

「休みの日で、ちょうどタイミングよくてお昼奢ってもらいました。喜んでついて行きましたけど今考えたら私駄目人間みたいな気が」
「じゃあ僕のバイト代が入ったら二人に何か奢るよ」
「タイミング的に嫌味が隠せてませんよ。まあ奢られてあげますけどね」

 無意味に上から目線でクラリーベルが言う。
 
「クラスが違ってバイトもしてると会う機会減ったよね。まあ部屋はすぐ隣だから大抵朝と夜は会うけど」
「向こうは向こうで動きますからね。前に聞いたヨルテム組と一緒に動いてるらしいですが」
「そういえばこの前三人でいるとこ見たっけ」

 思い出しながら言ったレイフォンにクラリーベルは怪訝な目を向ける。

「……あれ、三人でしたっけ? 私の記憶違いですかね」

 適当に会話を交わしつつ時計を見ると休み時間は残り少しとなっていた。席を戻し戻ってきたルシルに写し終わったプリントを返し、レイフォンは次の授業の用意を机の上に並べる。
 時間になって入って高学年の男子生徒の言うまま、指定されたページを開く。
 お腹も満ち足りた暖かな午後の時間。始まるのは理解不能な言語空間。
 レイフォンの睡魔との戦いが始まった。







 

 多くの学園都市は六年制でありツェルニもそれに準じている。
 武芸科など一部の特例を除き三年まで全生徒は一般教養科に籍を置き、四年から専攻の科へと進んでいく。

 より深い知識を学ぶための上級一般教養科。
 錬金鋼を始め様々な機械工学を扱う錬金科。
 水産、畜産の生産並びに品種改良を行う養殖科。
 他にも医療科、建築科など生徒個人の要望によって進める多種多様な科が存在している。

 このうちハーレイが所属する錬金科は特別枠が設けられており、希望を出し特殊な試験をパスした生徒は二年時からの配属が許可されている。これは必要とする知識の多さ、経験の蓄積、一般教養の線路上にない専門性の高さが理由である。

 放課後少し遅く、レイフォン達が訪れた研究棟はそんな錬金科のために設けられた施設の一つであり、棟内には多くの研究室と大型器具をおいた実験室が入っている。
 向かう先はその一室であり、ハーレイが所属している研究室だ。
 扉を開いてまず感じたのは機械油の匂いと僅かな異臭。いくつもある机の上は整理されていない書類の束と放置された空のカップ麺容器。機材周辺だけは物の整理がなされておりそれ以外との格差が目に付く。
 部屋の中にいたのはハーレイ一人だ。扉の音に気づいてハーレイがこちらに近寄ってくる。

「いらっしゃい。ロンスマイアさんもきたんだ」
「ええ。興味がありましたので。それとクラリーベルでいいですよ」
「そっか。期待に応えられれば良いけど」

 ハーレイは部屋の中を見回すと近くの椅子を二つ引き寄せレイフォン達に勧める。
 
「もう一人関わっている奴がいてね。多分向かいの部屋にいると思うから呼んでくるよ。座って待ってて」

 廊下を挟んだ反対側の部屋も同研究室の持ち部屋だという。出て行ったハーレイを見送りレイフォンは椅子に座る。

「思っていたより整頓されていないね。どこもこんな感じなのかな」
「そうですか? 普通の部屋だと思いますけど」
「クラリーベルはもう少し家事を頑張ろうか」
「レイフォンが几帳面すぎるんですよ。何処に何があるかわかれば十分ですって」
「孤児院だと整理整頓しないとすぐ物がなくなったからなあ」

 呟きながらレイフォンは部屋の中を何となく見渡す。錬金科に行く予定はないが、それでもこのままツェルニに居て学年が上がればどこかの科に入らねばならない。目的を考えれば一般教養科に居続けるのが最善と言えるかもしれないが強制はない。

 謹慎処分というに相応しい身。だがいずれそれは解ける。武芸者という戻る場所が決められている。
 最終到着点が決まっているならばこそ、その過程としてどこの科へ行こうと変わりはしないだろう。なら、四年時からは自分の希望を決めなければならない。決めて、こういった研究室に入ることになるのだろう。

 今すぐに、という話ではない。少なくともあと三年はある。
 その空間にいるからだろう。ずっと先の話だが、何となく思考が跳ぶ。

「まあ、三年間もいるって保証はないけどさ」

 少なくとも変な匂いのする部屋は嫌だな。壁に掛かったシミ付きの白衣を見ながらレイフォンはそう思う。
 シュナイバルでよく行ったハーレイの家の設備室はキチンと整理整頓がされていたなと何となく思い出す。
 
 ハーレイが呼んできたのは車椅子に座った男子生徒だった。肌は白く、うっすらとクマが見える姿は不健康さを醸し出していた。
 ともすれば不機嫌そうに見える鋭い目つきがレイフォンたちを見る。

「キリク・セロンだ。レイフォン・アルセイフと……誰だ?」
「クラリーベル・ロンスマイアです。面白そうだと思って見が――」
「どうでもいいが、自分から来ておいて退屈だなどと後で騒ぎ出すなよ。迷惑だ」

 吐き捨てるようにキリクが言う。口は悪い人物のようだ。隣のクラリーベルが一瞬口元を引きつらせたのをレイフォンは見逃さなかった。
 
「あはは、キリクは口が悪いんだ。ごめんね」
「謝る必要はないぞハーレイ。何も知らず興味無い癖に来るこういう女どもは面白くないと勝手に吐き捨てて帰るような奴らだ」
「去年のことを引きずり過ぎって。クラリーベルはレイフォンと同じ側の人だから平気だよ」

 机の上の書類。それと部屋の奥にあった機材をハーレイは運び、コードやら何やらを配線していく。

「ハーレイさん、彼は」
「ああ、キリクは知ってる側だから大丈夫だよ。口止めもしてあるから」

 放課後すぐではなく夕焼けに染まり始めるような時間になってから研究室に来たのはレイフォンたちの事情を加味してもらったためだ。同じ研究室の面々が居なくなってからからでないと話はできない。
 そういった意味で今この場にいるキリクはこちらのことを知った上で問題のない人物なのだろう。
 ハーレイが言うには研究分野の関係でレイフォンのことを知っているのは研究室ではキリクだけらしい。

「力があるくせに使わんのは気に食わんが他所に逃げられても困る。言いふらし理由などない。安心しろ」
「そういう訳だから平気だよ。口は悪いけど性根は問題ないから。……よし、これで良いかな。レイフォン、調整するからこれ握って」

 差し出された柄だけの部分の錬金鋼を握る。いつも剣を握る時と同じように力をいれる。柄尻部分から伸びたコードはハーレイが操作する機械と連結されており、伝わったデータを元にハーレイは柄の弾性力や形状を変えていく。
 
「レイフォンは手伝ってもらうけど、悪いけどクラリーベルは見てるだけになると思うよ。退屈かもしれないから飽きたら気にせず帰っていいからね。さっきのキリクの事なんか無視してさ」
「何するのか興味あるので平気です」
「ならいいんだけどね」

 レイフォンがクラリーベルの方を向く。

「多分ですけど、本当に暇になりますよ」
「そうなんですか?」

 シュナイバルの時のことを知っているのでそうレイフォンは言うが、クラリーベルは今ひとつ分かっていない様だ。
 クラリーベルはグレンダンでいつもしていた錬金鋼の調整くらいだとでも思っているのだろう。レイフォンも最初はその程度としか思っていなかったのでしょうがないが、これは言葉で言って分かるものでもない。
 実際に体験してその暇さを理解して貰うしかないだろうと何も言わずレイフォンは視線を戻す。

「調整はこのくらいでいいかな。じゃあ復元するよ」

 入力信号が送られ、レイフォンの手の中で一本の剣が復元される。
 青石錬金鋼の片刃で直刀の剣だ。刀身は幅広で大きく、表面にはうっすらと紋様が刻まれている。蛍光灯の光を受けて細かな粒子が輝いている。

「片刃なのはキリクの推薦だよ。そっちの方が合ってるんだってさ」
「データは見させて貰ったが不足していてな、今後少しずつ合わせていってやる」

 親切心、からなのだろう。だがレイフォンとしてそれ以上踏み込んで欲しくはない。
 何か言おうとするが、言ったところで理由を問われるだけだ。探られる様な、主に実戦データの様なものがない限りこれ以上弄られることもないだろう。なら、今は何も言わないほうがいい。

「それじゃ次は刀身の調整を――」
「おいアホ、要らん事をするな。本題に入る前にどれだけ時間を使うつもりだ」
「要らないことじゃないよ。この刀身は前のレイフォンのを復元したものだけど昔と比べて背は伸びてるし体重の変化でも重さや重心の位置を調整しなきゃいけない。僅かな差でどれだけ無意識下での伝達効率の違いが出ると」
「長い。それは本人の問題だろう。今回は錬金鋼側の技術の話のはずだ。やめろ」
「……ちぇ」

 不満げなに呟きながらハーレイは手を止める。

「レイフォン、取り敢えず剄込めてくれる。壊れる寸前くらいまででお願い」

 言われるままに剄を込めていく。周囲にバレぬよう抑えてだが。青い刀身が次第に赤みを帯びていき、白熱化して周囲の空気が熱を帯び始めたあたりで止める。
 その様子を見てキリクが眉を潜める。

「錬金鋼が耐えられんか。聞いてはいたが本当にあるのだな。なるほど、確かに化け物じみている」

 機械を操作していたハーレイがモニターをこちらに向ける。映っているのは二つの線グラフと多くの数値だ。

「赤いほうがシュナイバル時のデータで、青いほうが今のね。青いほうが緩やかになってるの分かるよね」
「確か熱量、でしたっけ?」
「そ。つまり熱が溜まりにくくなってるの。耐久性の向上って事。今見てもらったように錬金鋼が壊れる理由は過熱による破損だから、それを何とかしようと思ったんだ。で、取り敢えずいくつかのアプローチを試してみたわけ。その一つがそれなんだけど、表面触ってみてくれる」
「はい」

 言われるままに刀身に触れる。真っ赤な刀身に。

――ジュ

「っ熱!!」
「あ、ごめん。氷持ってくるね」
「いや、普通にそこは気づきましょうよ」

 クラリーベルにバカを見る目で見られる。
 冷やした刀身に改めて触れると表面が凸凹しているのが分かる。小さく溝ができている、とでも言えばいいだろうか。

「熱による破損を防ぐ方法は大きく分けて三つ。変換効率を上げて熱を出さないか、耐熱性を上げるか、熱の放射を高めるか。それは表面積の増加と骨子密度で冷却効率を上げるっていうコンセプトだよ。刀身を広くとったのもその為」
「キラキラ光ってるのはなんですか?」
「微細粒子を刃の表面上に塗布したんだ。切れ味をあげようと思って。切断ってのは物理的には摩擦が関わるからさ。まあついでにね」

 原理的なことはレイフォンには分からないが、切れ味が上がるらしい。

「素材が関係ないからな。これは他の錬金鋼へもすぐに応用出来る。シュミレーションで結果が出しやすく安価だが、他のと比べるとそう飛躍的な物ではないがな。こんなもの余興程度に暇つぶしで走らせておけばいいのだ」
「それって馬鹿にしてるの?」
「そういうわけではないさ。だが単純に効果を上げるなら変換効率を上げる方が楽だということだ。熱が生まれるのは変換されきれてない無駄があるわけだ。そちらの改善の方が技の威力にも直結する。複数錬金鋼のアモルフォスを検討したほうが良い」
「そう言っていつも過冷却し過ぎて錬金鋼壊してるじゃないか。予算には限りがあるんだよ。全然見通しが経ってないしそれなら試作品のカートリッジタイプの方がまだいいって。使い分けできるし、何より実物がある。結果出さなきゃ駄目だってわかってるからあれも着手してるんでしょ」
「単なる固定化なら目安は出来ている。後は設定面での柔軟性と安定化だ。そもそもカートリッジはその性質上複数錬金鋼とそれに見合う剄量を要求される。そこにいるような一部例外にしか無用な物など意味は薄い」
「安定化って一番駄目な所でしょ。設定が変わるなら固定化の詰よりも磁化曲線とでもにらめっこしてなよ。僕も関わってるんだから目安出来てるならさっさとやってよ」
「貴様こそさっさと具体的データを纏めろ。現状では熱変性で容易く変わるぞ戯け」

 ハーレイとキリクが互いに論をぶつけ合う。
 
「実際に使う人にとっては実物があるっての一番なんだよ。理論だけで終わるなんてダメだ。だよねレイフォン」
「まあそうですね」
「複数の錬金鋼の長所があったほうがいい。妥協で選んだ武器を使いたくはないだろうアルセイフ」
「まあ、確かに」

 適当に答えていく。マトモに取り合っても面倒だし、そもそも理解していないのだから口の挟みようがない。
 手持ち無沙汰げにレイフォンは剣を軽く振り、刃表面の粒子を触る。刃引きされているので刃部分を触っても指が切れることはない。指の腹がくっつかずにするりと滑っていく。
 
「こんな感じなんですか」
「こんな感じなんです。暇って言ったじゃないですか」

 触らせてと手を伸ばされ剣を渡す。クラリーベルは撫でたり溝を爪でなぞったり。
 よく分からない単語を応酬する二人を前にレイフォンはシュナイバルを思い出す。サットン親子が会話している姿はよく見ることがあった。
 肩を叩かれたレイフォンが振り向くとクラリーベルが剣を構えていた。

「真剣白刃取りってあるじゃないですか」
「はい」
「あれって実際どの程度出来るものなんですかね」
「サヴァリスさんは……ああでもあれ実物じゃないか。どうなんだろうね」

 やってみたいというクラリーベルに答え剣を受け取ったレイフォンは何度か軽く振るう。
 比較的ゆっくりならば容易いが速度を上げていくと何度かクラリーベルは受け取り損なう。

「それならば電場を使って表面にナノレベルの微細膜でも張ればいいだろう。簡単に多種多様な特性が示せるぞ」
「そんなの使っていうちに剥がれちゃうじゃないか。後からの変更が出来ないのは妥協して形にすべきだよ」
「ならば内部を多層膜にすればいい。電荷を付加させれば出来るだろう」
「その案なら折り返し技法を使うほうが楽だって。刀の製法の応用がって言ってたでしょ。元さえあればデータ入力で弄って完成っていう形の方が現場を考えるなら」

 ハーレイたちの会話は終わらない。今日はいつ帰れるのだろう。遅くなるようなら無視して途中で帰ってもいいだろう。
 ふと思いついたレイフォンが不意に軌道を変える。クラリーベルの手は何もない虚空を叩いた。
 引っかかったその姿にレイフォンはつい口元を歪ませてしまう。

「……ちょっと交代しましょう」

 いい笑顔のクラリーベルが剣を取り素振りを始める。
 やっちゃったなとレイフォンは手を構える。明らかにクラリーベルの視線はやる気だ。
 タイミングを見過ごすわけには行かないと意識を尖らせたレイフォンの耳にノック音と部屋の扉が開く音が聞こえた。

「失礼します。書類貰いに来ました」

 聞き覚えのある声についレイフォンが振り向くと知った顔がいた。
 声をかけようとした瞬間、頬の辺りで風が動く。

「あっ」

 クラリーベルのつぶやきが耳に届く。
 自分が何をしていたのか。それを理解すると同時、薙ぎ払われた剣がレイフォンを吹っ飛ばした。
 痛みが走るがレイフォンの体は反射的に自分から転がり受身を取る。
 衝撃による僅かな意識の空白。だからレイフォンは自分の体勢に気づいていなかった。
 
「えっと、アルセイヌ君何してるの?」

 声は真上から届いていた。
 扉の方へと吹っ飛び……受身ではあるが傍から見れば自ら転がり床に倒れたレイフォンをレヴィは真上から覗き込む。視線を上げたレイフォンに何を思ったのか一歩下がり、スカートを抑える。
  
「えっち」

 物凄い誤解だった。

「君、そういう子だったんだ。パンツ覗きたいのは分かるけどさ、人前ではダメだよ」
「誤解です」
「あ、でも二人きりなら良いって訳じゃないからね。誤解しちゃダメだよ」

 弁解しようと体を起き上がらせる。レヴィはからかうように笑っていた。どうやら事情は理解している様だ。
 思えば音もあったし、レヴィの位置からならクラリーベルの姿も見えているはずだ。分からないはずがない。

「レイフォン、君ってやつはそこまでして」
「お前、冷めた顔して熱いやつだったのか」

 議論に熱中していたバカ二人は除いてだが。
 誤解を解くべきかと振り返るとクラリーベルは素知らぬ顔で椅子に座りどこからか出したお茶を飲んでいた。剣は既に手元にはない。
 熱い目で見てくるバカ二人を冷めた目で見つつ、まあいいかとレイフォンは諦める。

「他の子にしちゃダメだよアルセイヌ君。心の広い私だったから良いけど、知ってる子が都市警のお世話になったら私悲しいし」
「誤解ですからね。他の人になんてしませんよ」
「え、じゃあ私だけってこと。私告白されちゃった? きゃー」
「……めんどくさいので話進めます。何しに来たんですか」

 このままでは進まないとレイフォンは冷めた目でレヴィの言を切り捨てる。だがそれが気に召さなかったのかレヴィは腕を組み、私怒ってますよ、と言わんばかりに視線を返し露骨に溜息をつく。

「あのね、一応先輩だよ私。もっとこう、恭しく可愛く尻尾振る犬みたいな態度とっても罰は……よし分かった。だからゴミを見るような視線をやめようか」
「気のせいですよ。それより何か用があったんじゃ」
 
 レヴィは部屋の中を見てハーレイに目を止める。部屋の中で一人だけツナギだ、ここの住人だとすぐにわかる。

「この部屋の人ですよね。実験室の使用許可の申請書、一応今日が締切なんですが」

 何の事だと思うレイフォンの見ている先、露骨にハーレイが動揺する。

「明日じゃ……というかキリク出してないの?」
「出していない。お前の仕事だろうそれは」
「無くなってたからてっきり誰か出したと」

 個々の研究室にも実験器具はあるが大型の物となると資金的、場所的にもいくつも持つわけにはいかない。その為、共用物として使いたければ申請書を出し、許可を出された日時に使うという事がある。その書類を出し忘れたらしい。
 ハーレイの視線は割り当てられた自分のデスク、書類や私物が溢れかえっているそこに向いている。

「あの、明日ということには」
「可能は可能ですが……この部屋は提出物が遅れることが多々ありますので、出来れば今日の方が。何かの際、その方が融通利かせられます」
「すみません、すぐ探します」

 ハーレイは机の上を漁り始める。あの中から紙一枚探すというのは至難の業だろう。
 
「いつも申し訳ありません、すぐに見つけますので」

 レヴィに椅子を勧めるキリクにハーレイの声が飛ぶ。

「キリクも手伝ってよ!」
「日頃から少しは片付けろと言っているだろう。全く」

 キリクも捜索隊に加わる。
 ポツンと残されたレヴィを見ながらレイフォンは考える。レヴィの見ている前で続けるわけにもいかないし書類がすぐに見つかるとも思えない。今日は帰ったほうが良いかも知れない。
 クラリーベルもその事を察したらしく席を立ってレイフォンの方に寄ってくる。

「お久しぶりです」
「ロンスマイアさんだっけ。久しぶり」

 入学式以来、それもクラリーベルがレヴィを背負って爆走した以来の出会いだ。

「前の時もだけど、何ていうかそのさ、元気だね」
「無理に褒めようとしなくてもいいですよ。その節はすみませんでした」
「まあまあ。元気なのはいいことだよ。人一人背負って走ったりなんて私出来ないもん。いくら私が雲のように軽くったってさ」
「自分で言って虚しくないですかそれ」

 呆れたようにクラリーベルが言う。

「まあ鍛えてますから。武芸者でなくとも鍛えれば人一人くらいなら何とか背負って動けますよ」
「私全然そっち方面駄目だから凄い憧れるよ。運動とか授業かダイエットくらいしかしないや」
「身を守ったり出来るようにと。嗜み程度ですけどね。あの時も肩で息してましたし」
「そっか。私も、一人だけでいいから背負えるようになりたいな。階段二段飛ばし出来るくらいでさ」

 しみじみとレヴィは言う。
 レイフォンは無言の抗議の視線をクラリーベルに向けるが、プイと視線を逸らされる。

 書類はまだ見つからないらしい。やはり帰ったほうがよさそうだ。
 レヴィに別れを言ってレイフォンたちは部屋を出る。
 部屋を出る際、必死で探し回るハーレイたちの姿が視界に映る。探しているのか、それとも散らかし直しているのか部外者には分からない様なその探し方と乱雑に纏められた資料の束が目に留まる。
 クラリーベルには部屋の掃除をするようによく言おう。
 そうレイフォンは思った。








「部屋? 普通に片付けてるよ」

 夕食の席。レイフォンに聞かれアイシャはそう答えた。
 クラスやバイト先も違う三人だが夕食は一緒に取るのがほとんどだ。レイフォンが作った数品の料理がテーブルの上には並んでいる。レイフォンが作る料理は量が多い。孤児院で育ち一度に多人数分を作ることが習慣になっていたのと、自身が武芸者であり見積もる一人分が多くなってしまうことが理由だ。
 夕食時は並ぶ料理をつつきながら近況報告をすることが多い。とは言っても知らせる必要のあることなどそうあるわけでもなく、単なる世間話がほとんどだ。

「どうしたの急に」
「この間知り合いの研究室に行ったら散らかっててさ。クラリーベルはそういうの苦手だから」
「そういえば、クラリーベルの部屋片付けてたっけ」

 一般人からしたら少し気後れするほどの量だが三人はそれを当然と食べ進める。武芸者である二人は分かるが小柄なアイシャもそれと同じ程度に黙々と食べ進める。

「私の部屋も、好きに片付けていいよ」
「綺麗なら別にいいよ。それに女性の部屋に入るってのも気が引けるから」
「大丈夫。いつでも」
「そう? でも、女の子なんだから気にするんじゃないの」

 孤児院にいた頃は大部屋の生活だったし明確に一つの家の中だった。家族であったし、だから他の部屋に入ることへの抵抗も薄かった。
 だが今はその感覚は薄い。それに女性の部屋を男である自分が弄る、というのもいかがなものであるのかという意識もある。嘗てノックをせずリーリンの部屋に入った際に怒られて以来、レイフォンは何となくそういうものなのだろうと理解していた。

「遠まわしな悪口やめませんか」

 不意にクラリーベルが口を挟む。

「急にどうしたの」
「なぜそこで素で疑問顔を……あ、いえ何でもないです」

 諦めたようにクラリーベルは口を閉ざす。クラリーベルのことは話題に出していなかったはずだがどこか琴線に触れるものがあったのだろう。アイシャに視線を飛ばすがわからないという様に首を小さく振られる。
 
「部屋は、ちょくちょく片付けてる。汚いと言われるし」
「僕は何も言わないよ。変なこと聞いてごめんね」
「そういう話じゃないけど……とにかく、平気」

 中を見たことがないので実態は分からないが、そこまで言うからには大丈夫なのだろう。思えばアイシャの部屋をレイフォンは見たことがない。クラリーベルの部屋は掃除に入ったことがあるので無意味に黒いカーテンだのマントだのワイングラスだのと使用用途不明の物が転がっているのは知っているが。
 間取りは三部屋とも同じなのは知っている。まあ、そこまで気にするものでもないのだけれど。

「アイシャさんの部屋って物少ないですよね。好きなものとか買いましょうよ」
「本なら結構買ってる。面白いよ」
「面白いのあればぜひ私にも。ですがそうでなく、私みたいにインテリア的なものや服なども」

 クラリーベルの言葉にアイシャは少し考える。

「でも私、仮面に興味ないよ」
「ぐふっ。いえあの、あれは趣味ですし何もそれだけではなくてですね」
「指抜きグローブも私は興味――」
「研究室といえば。アイシャさんは何か興味ある分野とか無いんですか。将来の展望といいますか」
 
 露骨すぎる話題変更をクラリーベルが切り出す。何が、といえば、なのだろうか。
 続く言葉を遮られたアイシャは口を小さく開いたまま、何を言うべきか考えるようにクラリーベルを見る。

「ほら、私たちは言ってはなんですがほぼ将来決まってるじゃないですか」
「……確かにそう。あなたたちは武芸者だから」
 
 静かにアイシャが肯定の意を示す。
 武芸者といってもただの武芸者ではなくクラリーベルは三王家の一員で、レイフォンは天剣授受者の成り損ない。武芸者の数や財政から道場などの兼業している者も多い中、二人はそれ一本に絞って余りあるだけの存在だ。
 逸らした先の話題に乗っかってきたのを譲らぬ様にクラリーベルは続ける。

「勿論、だからと言って考えてないわけでもないですけどね。正直ここで頑張らなくても帰れば何とかなるかなとか甘えですし」
「……」

 何故視線がこちらをを向くのかレイフォンは不思議だった。不思議だったが、何か言っても意味がなさそうなので黙って静かに箸を動かし続けた。
 それでもとりあえず思ったのは、頑張るのは何も勉強に限らないはずだという思いだった。

「とは言っても決めるのは三年後ですし今どうこう言う必要もないですけど。正直一年の今の時期で決まってる人なんてロクにいないですよね」

 なら何故聞いた。
 自分で話題を振り返事も聞かず自分で回収したクラリーベルにレイフォンは内心突っ込んだ。

「……手伝いを」

 一瞬、視線がこちらを向いた気がした。

「『誰か』がやるべきことを。やると決めて、けれど何らかの事情で足止めに会うことがあるなら、それの手伝いをしたい」
「困っている人の手助けって事ですか?」
「そう、なのかな」

 自分自身分かっていないかソレを探るようにアイシャの視線が宙を見る。

「何でも上手く行くとは思わない。必要な障害もある。けど、いらない障害があるなら、それをどけられれば良いなと」
「考えてるんですね結構真面目に。私なんか現状、適当にやって興味持ったの流れで決めようかなとか思ってますよ」

 それは甘えではなかったのだろうか。

「真面目に遊ぶつもりなんでいいんですよ其の辺は」

 視線に気づいたらしくクラリーベルがレイフォンを見て言う。

「私の周り、結構やりたいこと決まってる人が多いけど、普通は違うんだ」
「周りって、一緒にいるクラスの人の事ですよね」
「そう。ミィ……一人は記者で、もう一人は警官って言ってた。だから新聞部と都市警にいるって」
「夢に一直線ですね」

 しみじみとクラリーベルが言う。
 入って一年目で何がやりたいか決まっているなんてレイフォンからしたら理解が及ばない。決められていたのでもなく必要に迫られたのでもない自分の意志が決まっている。熱意があり遠い世界の話のようだ。
 
「それにしても記者で新聞部ですか。いいですねえ。新聞部って結構いろいろやってるみたいですしコネもありそうです。便利な情報源を持てるって良いことですよほんと」
「色々聞くよ。美味しい店の話とか、不良のグループの話とか」
「あー、やっぱりそういうのもいるんですね。人が集まれば当然といえば当然ですが」

 どこの都市にもそういった外れ者はいる。集団行動が合わぬ者、成績不振でグレた者。そういった行動に憧れて入った者。理由は目的は様々だ。中には小隊関係者に絡もうとする者もいるという。
 グレンダンにも試合成績が振るわず「武芸者」として認められなかったものはそうなるものが多かった。レイフォン自身何度か絡まれたことはある。
 幼い少年が大会で優勝し名が売れれば年上のそうした連中からのやっかみもある。幼かったのだろう。他の手段も知らず面倒だからと、さっさと実力の差を見せてのす事がほとんどだった。

「そういえばレイフォン、ちょっと調べたんですけどね」
「はい」
「私たち以外にもそこそこ居るみたいです。教養科の武芸者」

 気になったから調べたのだとクラリーベルは言う。

「ほら、フェリさんいたじゃないですか。それでちょっと疑問に思って」
「そういえば確かにロス先輩もそうだね」

 教養科から武芸科に移った先輩のことをレイフォンは思い出す。身近な実例だ。
 武芸者なのに教養科なんて、と思っていたがそこまで珍しいわけではないということなのだろうか。

「ですから仕方ない場合は武芸者だとバラすのは良しということで。頑なに一般人だと嘘をつき続けた方が悪印象かもしれません」
「分かりました」
「ただ無意味に言う必要もないので明言せず、適当に誤魔化す感じでお願いします。アイシャさんもそれでお願いします」
「分かった」

 いざとなればバレても問題ない。そのことに少しレイフォンは気が楽になる。物事を隠し続けるというのは苦手なのだ。

「そういえばミィが、その新聞部の子が今度の小隊戦を見に行くって言ってた。誘われたから行くけど、二人は行くの?」
「ああ、ありましたね確か」

 アイシャの言葉にクラリーベルが思い出したように答える。
 小隊同士の対抗戦。二つの小隊が攻防に別れ勝ち負けを競う試合だ。結果は都市間戦争の際の指揮系統における順位などに影響する。また、単純に小隊からしたら自分たちの強さやそれまで鍛錬の成果を示せる日でもある。
 武芸者による本気の争いが一般人にも見れる機会でもあり娯楽要素も含め人気は高い。新聞部の人間なら関心を示すのも当然だろう。
 レイフォンの記憶が正しければ次の小隊戦、出るのは

「十七小隊が出るはずですよね。見に行くつもりです。ねえレイフォン」
「うん。ニーナさんが出るなら見たいね」

 関わったのは一時といえ、今のニーナがどの程度の強さを持っているのかレイフォンには興味があった。練武間での練習風景は見たが練習と試合は違う。それにニーナが隊長を務める小隊だ。どんなチームなのか他の隊員の事も気になる。
 その日空いているか、バイトのシフトが平気だったか確認しないといけない。

 食べ終わり空いた皿を片付けながら、レイフォンは頭の中で予定表を開いた。








 放課後の時間帯の居住区に小さな駆動音が響いていた。シティローラーと呼ばれる二輪駆動車の駆動音だ。路面バスよりも幾分早い速度で道路を通過していく。
 ハンドルを握るジェットヘルの搭乗者は一般教養科を示す制服を着ており体の各部位にプロテクターを付けている。

 路面バスが通る広い道から曲がり、やや細い道を走っていく。マンションタイプの住居が建つエリアまで進んだところでシティローラーが止まる。
 アイドリング状態のまま車体から降りず、運転手は何かを探すように周囲を見わたす。だが見えづらかったのか、スモークシールドを上げ顔を出す。
 
「このあたりだったはずなんだけど」

 運転者――レイフォンは小さく呟き、近くに見つけた地名に目的の場所のすぐ近くだと理解した。
 現在、レイフォンは配達のバイト中だ。レギオスの配達物にはいくつか種類があり、大別すると二つ。外からか、中からか。外からとは勿論他のレギオスから送られてくるものであり、中とは同じレギオス内で配達されるものだ。

 配達方法も大別すると二つに分かれる。郵便受けに入れられるものと受取人に直接手渡すもの。一般的な手紙や報告書などは前者で、後者は一定サイズ以上の荷物や現金や貴重品などが多い書留郵便などだ。この場合不在時には不在票が投函され後日ということになる。
 レイフォンのバイト先である郵便局は一般的な範囲でそれらを扱っており、今は自分の受け持ちの分を配達している最中。あと少しで配達終了、というところだ。
 
 目的のマンションの下にシティローラーを止めレイフォンはヘルメットを脱ぐ。これらはバイト先からの貸与品だ。最初の頃は扱いに困り転んだことも何度かあったが、今ではすっかり慣れたものだ。
 シティローラーとは主に都市内を走ることを目的として作られた二輪駆動車だ。レギオスの外の荒野を走ることを目的とされたランドローラーの技術を基にされている。

 都市内での使用、ということもありランドローラーに比べれば車体は小さく、出力もリミッターが付けられ制限がかけられている。
 免許をグレードアップさせ制限を解除させるか、或いは上の車体に変えれば出力は上がるが、現状そう必要となるものではない。また、住民が気づけるように排気音も操作されている。

 路面バスによる移動が基本であるレギオス内においてシティローラーを扱い機会は酷く少ない。
 必要とあらば都市内を隅まで自由に行き来し、バスのように時間に縛られる事なく動く必要があるこの仕事はその数少ない一つだろう。

 マンションの自動ドアを潜りエントランスを通る。掃除が行きとどき高い天井。上の下か中、といったところだろうか。オートロックはないがレイフォンがいる場所と比べればずっと上の居住空間だ。意味もなく気後れしてしまう。

「うわ、エレベーターある」

 目当ての階まで上がり記憶していた番号の部屋の呼び出しボタンを押す。だが反応がない。

(留守かな)

 居留守という可能性もある。押しかけや押し売り、変な勧誘も少ないがあるらしい。そういうことへの自衛。めんどうさいだけや単に寝ているだけの可能性もあるが。
 少しして二度目を押す。聞き逃しもあるから基本的に二度押し、或いは三度。それでも反応がなければ帰るように言われている。
 だが、今回は帰らなくてよさそうだ。扉越しに近づいてくる人の気配がする。
 待つ間にレイフォンはカバンを開け郵便物である包みを取り出す。再度、部屋が間違っていないことを確認していると鍵を開ける音がした。

「何かようか?」

 開いた扉から聞こえたのはどこか幼さを含んだ声だった。出てきたのは赤毛を後ろで一つに束ね、どこか動物的な雰囲気がある小柄な少女だ。

「ゴルネオさんのお宅でよろしかったでしょうか」
「うん。合ってるぞ」
「郵便です。サインお願いします」
「分かった。何か書くもの持ってるか」

 受け取り票とペンを少女に渡す。
 受け取り票に目を通しペンを握る少女を見ながらレイフォンは世の中は広いと自分の思い込みを改めていた。
 宛先欄に書かれていた名前はゴルネオ、というものであり響きからして屈強な男性をイメージしていた。だが現実、出てきたのはそれとは反した小柄な少女だ。きっとこの少女がゴルネオなのだろう。

 などと。

 一切そんな事は信じていなかったがまあそれでいいかとレイフォンは納得した。
 少女自身受け取り票を見て否定しなかったし部屋の中から出てきたのだ。仕事の説明をしてくれた先輩も宛先さえあっていれば余計な事は気にするなと笑って言っていた。
 実際部屋はあっているし簡易確認もした。それに広い世の中ゴルネオという女性がいないとも言い切れないではないか。
 
「書いたぞ、これでいいのか?」
「はい。こちらが荷物です」
「うむ。確かに受け取ったぞ。ありがとな」

 『ごるねお』と。明らかに慣れていない字が書かれたそれをレイフォンは受け取る。自分(ゴルネオ)が頼んだにしては興味津々に包みを開けようとしている少女に笑顔を向ける。

「ではありがとうございまし――」



「おい、待てええええええ!!!」


 
 何か影が見えた。そう思ったら目の前に巨漢の男がいて少女の手の中にあった箱を奪っていた。凄まじい早業だ。

「ゴル、何を怒っているんだ?」
「シャンテ。なぜ怒られないと思っているんだお前は」

 男は上半身裸に近かった。ズボンにボタンの止まっていないシャツ一枚。鍛えられているとひと目で分かる屈強な体だ。
 目の前の言い合いにレイフォンは巻き込まれたくなかった。気配を消しそのままゆっくり扉を閉めていく。だがあと少しというところで男の手が扉のヘリに掛かる。いかつい顔がレイフォンに向けられる。

「途中で邪魔して申し訳ありませんでした。では僕はこれで――」
「帰ろうとするな。それに誤解だ」
「守秘義務は守りますので。では」
「だから違う。シャワーを浴びていただけだ。頑なに帰ろうとするな」

 女子生徒を連れ込んで上半身裸とはそういうことではないのだろうか。シャワーとはそういうことではないのか。

「貸せ」

 受け取り票とペンを奪われる。少女が書いた名前を二重線で消し、新たに男が書いて返される。返される際、男が何かに気づいたようにレイフォンの顔をまじまじと見る。そしてその視線はそのままレイフォンの胸元、配達用のネームプレートに向かう。

「お前、レイフォン・アルセイフか」

 嫌な予感がして手元の受け取り票に視線を向けたレイフォンはやはり早く帰るべきだったと悟った。
 そこにははっきりとゴルネオ・ルッケンスと書かれていた。






「茶しかなくて済まない。他の物はシャンテのやつに飲まれてしまってな」
「ありがとうございます」

 レイフォンはゴルネオに誘われて家に上がっていた。既にゴルネオは着替え、今は武芸科の制服に身を包んでいる。共にテーブルを挟んでソファに座った状態だ。怒られた少女、シャンテは少し離れたソファでふて寝している。
 気まずかった。何を話すべきかわからず湯呑の中身を少しずつ飲むだけの時間が経っていた。
 誘われただけであり何を話すべきかレイフォンは特に思い浮かばなかった。そもそもあのサヴァリスの弟だという意識が強い。向こうもそうなのか無言の時間が過ぎていく。
 
「今更だが良かったのか。配達の途中だったのだろう」
「いえ、ここで最後です。少しくらいは」
「そうか」

 そしてまた会話が途切れる。湯呑が空になりそれに気づいたゴルネオがそれを持って立ち上がり台所へ消えていく。
 ゴルネオ・ルッケンスとは本来クラリーベルと共に会う予定だった。だがそれが期せず前倒しになった形になるのだろう。その為の予定も空けていた。帰ったらクラリーベルになんと説明すべきかレイフォンの思考は跳ぶ。

 レイフォンから見たゴルネオはサヴァリスの弟という前知識しかない。
 そもそも名前を知ったのもクラリーベルに言われてから。前に一度聞いただけでロクに覚えていなかったのが裏目に出てしまった。それにゴルネオ側はレイフォン・アルセイフの事をどの程度知っているのか全く分からない。
 
 することがなくレイフォンは部屋の中を見わたす。広さだけならレイフォンの部屋の方が上だが他はここの方が上だ。床には絨毯が敷かれソファも座りやすい。几帳面な性格なのか目立った汚れもなく整理整頓もそこそこにされている。
 身じろぎしたシャンテを見ているとお代わりを入れた湯呑をゴルネオが持って戻ってくる。

「言っておくがさっきのは誤解だ。シャンテにソースをかけられたからシャワーを浴びていた」
「はあ」
「動物的な奴でな。同じ隊の仲間なのだが懐かれているらしい。やめろと言っているのだが度々入り浸る」
「……」 
「その度に隣の部屋に返すのだが……もう少し節度を持って欲しいものだ」
「惚気だけなら帰ってもいいですか?」
「何故そうなる」

 心外だとゴルネオは眉を潜める。本人にとっては苦労話のつもりだとしても部外者から見ればそうとしか見えない。
 
「少し気になっていたのだがレイ……アルセイフは」
「レイフォンでいいですよ。呼びやすい方で」
「そうか。兄が呼んでいたのを何度か聞いていたのでこっちの印象が強くてな。そっちも呼びやすい方で構わない。でだ、率直に聞くがおれは何か嫌われることをしたか? 隙を見ては帰ろうとしているが」

 正直に言うべきか。少し悩むが、嘘を言う理由もないかとレイフォンは正直に言う。

「嫌いというわけではなくて、何というか前知識の時点で苦手意識が」
「それは何故……ああいや、済まない。聞くまでもなかったな」

 何かを察したようにゴルネオは同情的な視線を向ける。
 深い諦めと疲れを潜ませたそこには同じ悩みを抱く仲間の色がレイフォンには見えた様な気がした。

「ゴルネオさんも分かりますか」
「レイフォンのように直接的ではないがな。だが弟して生まれた時から十五年同じ家で一緒にいた」

 十五年。その長さにレイフォンは胸を打たれた。
 現状ゴルネオはツェルニの五年という事で二十歳といったところ。つまり人生の四分の三を共に過ごしたということになる。レイフォンの人生で言えば生まれてから今までと同程度だ。

「っ、それは、酷い……僕なんか実質的な時間としては一年半程度だっていうのに」
「いや、そっちの方が酷いさ。おれは殴り掛かられるなんて事、向こうの暇つぶしの教導で数える程。下手に才能が無かったのが功を奏した」
「それでも同じ家で何て僕としてはとてもとても」
「弟だからな。親も兄弟のじゃれあい程度にしか思っていなかった。色々と諦めたさ」

 そこには少し前の遠い距離感も沈黙もなかった。形は違えど同じ悩みを持つもの同士の奇妙な連帯感と暖かさ。故郷では得られなかった同胞がいた。

 ひたすらにレイフォンは愚痴を吐いた。何度死を覚悟したか。出稼ぎに都市を出たとき安心したか。憧れの天剣授受者が精神異常者さながらのこと。そのせいで逃げる技術が上がったこと。悪夢にまで出たこと。文字通り生き残るための技術を必死で磨いたこと。
 ゴルネオも愚痴を吐いた。弟なのだから同じ程度に強くなるだろうと一時期おもちゃにされていたこと。親が兄弟なのだからと兄に自分の教導を頼んだこと。死を覚悟したこと。逃げることの大事さを知ったこと。ツェルニに来て正直嬉しかったこと。

 傍から見れば情けなかっただろう。二人の男が一人の男への愚痴を吐く。
 惨めで、男気などなく女々しく、情けなくて。
 けれど確かな友情がそこにはあった。疲れた笑顔には溌剌としたものがあった。

「……」

 哀れなものを見るようなシャンテの視線など気づかず二人は話し続けた。

「まだ早いがもう少ししたら外に食べにでも行くか。奢ろう」
「いえ、一旦事務所に戻らないといけませんので」
「そういえばそうだったな。また今度にしよう」
「是非。楽しみにしてます」

 既に結構な時間話し込んでしまっていた。もうそろそろ帰らないといけないだろう。

「そういえば今更だが、今度会う時は何を話すつもりだったんだ?」
「ああ、それ忘れてました」

 本来そっちのほうが主目的のはずだがすっかり忘れていた。レイフォンは改めて自分がこの街に来た理由を話す。勿論、賭け試合や脅迫のことなどはぼかして。
 完全に隠さないのは賭け試合のことはいずれ知られてしまうから。ゴルネオもグレンダンの人間なのだから。

「謹慎か。一般常識を学ぶ、というのは確かに大事だ。特に……特に、力のあるものは常識が大事だ」
「はい。そうだと思います」
「何故武芸科の制服ではないのだと思っていたが、理解がいった」

 ゴルネオからすればそれは確かに疑問だっただろう。

「問題を起こしたことは弁護することも許容も出来ない。歴とした悪だ。だが、更生する行い自体を否定する理由にはならん」

 最も、一番正さねばいけない人間が野放しな気もするが。
 そうゴルネオは呟く。

「何より女王命令ならば従わない理由などない。女王がそういうのならばそうなのだろう」

 グレンダンの者としてそれは共通認識。女王とはそういう存在だ。
 
「クラリーベルからも話はあると思いますが、何かあった際は力を貸してくれると嬉しいです」
「露骨な贔屓などは無理だ。小隊長としての立場を利用することもだ。だが、あくまで個人として可能な範囲なら相談は受けよう」

 小隊の長といえばそれなりの発言力などもある。それを思っての発言だろう。
 堅気な性格だ。真面目というべきだろう。兄弟でこうも差が出るとは不思議なものだ。
 最もレイフォンとしてはそれで十分でもクラリーベルが納得するかは分からないが。

「それで十分助かります。そろそろ帰りますね」

 荷物を取り玄関に向かう。少し長居しすぎた様だ。僅かだが空は来た時よりも暗くなっていた。
 靴を履くレイフォンの背に声がかかる。

「レイフォン、最後に一ついいだろうか。聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか」

 振り返った先のゴルネオは、すぐには口を開かなかった。何かを思いつめるように眉根を寄せ、その言葉を発していいのか迷っていた。

「……いや、何でもない。長い事引き止めて悪かったな」
 
 ゴルネオが何を聞こうとしていのか。気になったが、敢えて聞くものでもない。
 
「今度会う時はクラリーベル様も入れて三人でだな。飯はその時にでも奢ろう」
「楽しみにしています」

 






「行ったか」

 玄関の鍵を閉めゴルネオはリビングに戻る。
 レイフォン・アルセイフはゴルネオが思っていたのとは少し違った人物だった。あの兄に追いかけられ苦もなく生き残っている。兄の関係者だと、そう思っていたが実のところは自分の同類に近かったのだろう。
 最もある面ではというだけで本質は違う。兄に失望の目を向けられた己と目にかなったレイフォン。才能という余りにも高い壁があることに違いはない。

 台所に立ちシンクに沈めてあった洗い物を片付けていく。レイフォンが来る前、腹を好かせたシャンテに軽食を作っていた。かけられたソースもその時のものだ。
 ひとり暮らしも長い。ゴルネオは慣れた手つきで洗い終わった食器を乾燥機へとかけていく。
 
 一通り乾燥機に入れリビングに戻りソファに体を預ける。

「ゴル。色々大変だったんだな」
「何だ急に」

 まるで可哀想なものを見るような視線をシャンテから向けられる。
 気にするなとでも言うようにシャンテがゴルネオの肩に手を置く。

「ゴルはあいつに何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」
「……まあな。だが、聞く勇気が出なかった」
「前に来た手紙に関係してるんだろ? 聞けばよかったのに」
「そう簡単なことじゃないんだ」

 シャンテが首をかしげる。直情的な彼女は思えばすぐに行動に移す。悩むなんてことほとんどしないのだろう。

「ゴルがそう言うならいいんだけどさ。けど結構悩んでたし、ゴルが元気無いの嫌だ。あいつが原因なら……」
「無関係ではないが、レイフォンは原因じゃない。おれ個人の悩みだ、どうにもならん。それにお前じゃ無理だ」

 動物的過ぎて深く考えず行動しようとする事があるのがシャンテの欠点でもある。悩んでいるなら大本を物理的に排除すればいい、何て思っていたのだろう。

「強いって聞いたけど寝込みでも襲えば」
「兄の……天剣授受者の相手をできる何て奴は逆立ちしても勝てんさ。あれは人の形をした化物だ。それよりお前もさっさと帰れ。腹は膨れただろ」
「う~」

 不満げなシャンテを送り出す。
 誰もいなくなった部屋の中、ゴルネオはソフォに全身を預け天井を見上げる。
 思うのは先程のこと。レイフォンに問いかけようとした疑問。ずっと前に届いた、恩人からの一通の手紙。

「……一体、何と言えばいいのだ」
 
 どう聞けばいいのだろう。
 そしてどんな答えを貰えば自分は納得できるのだろう。

 ガハルド・バレーンは強かったのか。
 あの日、その手はお前に届くほどだったのか。
 たったその二つを聞ける日が、自分には来るのだろうか。









 夜遅く、アパートから暫し離れた場所にある開けた空き地にレイフォンとクラリーベルはいた。
 同じ区域とはいえ区内でも端、縁外部近く。住宅などなくあるのは店の在庫を置く倉庫や使われなくなって久しい解体待ちのビルくらいだろう。もう少し外に向かえば直にレギオス外の荒野も見渡せるだろう。そんな場所と時間帯もあり人の気配などない。

 空き地には時折金属音が響き渡り、時折散った火花が一瞬だけ周囲を照らす。
 二人がしているのは組手だ。
 女王からの命令の一つに戦闘技術の維持というものもある。基礎能力の維持というだけなら訓練器具を用いた室内でのことだけでもある程度事足りる。だが実戦の感というものもある。
 武芸科に入れず、また十分に相手に足る存在という意味での最適解という結果が定期的なクラリーベルとの組手である。
 人目を避けた結果としてのこの場所であり、発覚に繋がる大きな剄技を控えた模擬試合だ。

 都市にいる武芸者に気づかれぬように、と剄量は制限している。また露骨に傷跡を残すわけにもいかないのでレイフォンは余り外力系衝剄変化を使わずに戦っている。
 だが、クラリーベルは違う。歴とした化錬剄の使い手でもある。剄を様々な形状や性質に変化させる化錬剄は単純な威力だけはない。罠として接地面に仕掛けたり足を掬ったり視界を防ぐ発光体を生み出すことも出来る。戦闘の幅はレイフォンほど狭まりはしない。

 土地や芝生とは違い有機プレートの地面はある程度の損傷ならば朝までには修復される。だが倉庫などの建造物に刻まれる傷跡はそのまま残り続ける。その点も気をつける必要がある。
 本来総合的に見た技術はレイフォンが上だが、そういった点もありこの模擬試合は差などなかった。

 距離を取られれば化錬剄による追い打ちが来る。剄を罠として潜ませる伏剄や本物さながらの気配を持った幻影だ。極力レイフォンは距離を取らず、近距離で攻め続ける。
 特に怖いのは伏剄だ。これは熟練者が使えば一定時間保持することが出来るのだ。どの程度まで保たせられるのかレイフォンは知らないし教えて貰えないが少なくとも一日は出来るらしい。
 前もって仕掛けておくなど卑怯だと正直思うが卑怯だからで咎められるものでもない。あくまで個人的意見でしかない。
 前に一度、ひたすらに試合中ひたすら逃げ回ることしか出来なかった時もある。その時のクラリーベルは酷く楽しそうでその笑顔を見ているとレイフォンは文句を言う気も失せた。

 地面は危ないと壁を蹴って宙を動きレイフォンは姿勢を下げたクラリーベルに斬りかかる。少なくとも超間近に接近している間は危険が減る。
 受け止められた、そう思った瞬間、受け止める力が一瞬抜かれる。引き、受け流されたそのままにレイフォンの剣の表面をクラリーベルの剣が滑る。さながら鞘走りからの抜き打ちの如く放たれた剣戟が首を薙ぐよりも一時早く、レイフォンは体を地に沈みこむようにクラリーベルの懐に入る。一瞬遅れた髪の一房が風切り音と共に散ったのがわかった。

 抜き打ちに伸ばされたクラリーベルの右手。その手首をレイフォンの左手が抑え拘束する。クラリーベルの使う胡蝶炎翅剣の塚は両手で持つそれではなく利き腕の指を穴にはめ込み握る拳鍔のそれだ。打ち合いでの力押しには向かず、利き腕を押さえれば剣の危険性は減る。
 無論、この距離ではレイフォンの剣も十分には使えない。剄を込めた剣を地に突き刺し一時手を空ける。

 掴んだ腕を引くと同時体をひねり、引き寄せられたクラリーベルの鳩尾に掌を当てる。当てたまま掌を捻り、瞬間的に小さく踏み込み掌底を打ち込む。
 もう一撃。そう思い動くよりも早く、レイフォンはクラリーベルの手首を掴む自分の手に熱を感じた。火で炙られるかのようなそれに拘束を離し、密着したまま全力でクラリーベルの体を突き放す。刺さっていた剣を抜きレイフォンは下がる。

 わずかに距離があく。胡蝶炎翅剣が赤い炎をような剄に包まれていた。化錬剄の炎だ。あれで炙られたのだろう。焼かれたのは一瞬だったが間近で受けたためかレイフォンの手に小さな火傷の痕があった。

「クラリーベル、一つ聞くよ」
「はい何でしょうか」
「いつも思うけど完全に殺しに来てるよね僕を。刃引きされてても一応凶器だよこれ」

 レイフォンとクラリーベルの剣は刃引きがされている。だがそれでも危険なものは危険だ。刃が潰れているからといっても金属の塊である。金属バットで人をフルスイングした一発病院行きである。
 大怪我などはしないよう、当たりそうならば寸止めをするなど取り決めをしている。
 そういったこともありレイフォンは剣だけでなく拳での打ち込み等も行っている。だが明らかにクラリーベルは守っていないようにレイフォンは思ったのだ。

「大丈夫ですって。ちゃんと避けられてるじゃないですか。危なかったら止めますって」
「いやでもさっき髪切れたよね。刃引きされてるのに切れたよね。避けられなくても絶対止まらなかったよねあれ」
「レイフォンなら避けてくれるって信じてましたから」

 信じてもらえるのは嬉しいが、だからと言って組手で死を意識したくはない。レイフォンからしたらそんな理不尽はサヴァリスだけで十分だ。
 
「それはそうと」
「そう簡単に片付けられても困るんだけどね」
「まあまあ。それより感想はなしですか」
「何の?」
「触ったじゃないですか今」
「何を?」
「胸を」

 言われて気づく。

「ああ、確かに。気づかなかった」

 思えば当てた上で捻りもした。だが戦闘のさなか事だ意識してのことではない。
 それに

「気づきませんか。そうですか」
「いやでも当てたの鳩尾でそんなつもりなかったし骨当たって硬かったから全然そんな……」
「硬くて悪かったな!!!」

 叫び、クラリーベルが剣を振るう。それと同時にレイフォンは危険を感じ全力で後ろに飛ぶ。
 瞬間、レイフォンがいたところに複数の燃え盛る剄弾が着弾した。飛んできた方向はクラリーベルのいる方向とは全く別。伏剄だ。
 それを皮切りに至るところで剄の気配が湧き上がる。剄の刃として、炎として、目くらましの光弾として、足を奪う罠として、純粋な剄の塊として。一つ一つは小さい、けれど今日仕掛けたにしては明らかに過剰過ぎる数のそれがクラリーベルの意思に合わせレイフォンへと向かう。

「すみません、間違えました! 柔らかかったです凄かったです!!」

 レイフォンはお世辞を言いまくる。だが攻撃はやまない。

「セクハラ死すべし。それと私は成長期ですから」

 何言っても駄目だったのではないだろうか。
 そう思いながらレイフォンは迫る剄の嵐とクラリーベルの刃から逃げ続けた。




 猛攻を避け続け暫く経った。気づけば伏剄は無くなり最初と同じ剣での斬り合いが主体のそれに戻っていた。
 ここに至るまででレイフォンは至るところすり傷や浅い切り傷だらけだ。最も、この程度の傷なら寝て起きれば治っているが。
 攻撃をさんざしてクラリーベルは満足したのか、それとも怒っていたこと自体忘れたのかさっきまでの様子はない。

 不利な姿勢での鍔迫り合いに負け、レイフォンは大きく後ろに飛んで下がる。
 斬りかかってくるクラリーベルの一刀を受けるべく構えようとした瞬間、レイフォンは別の気配を感じた。レイフォンのものでもクラリーベルのものでもない第三者の者だ。
 すぐさまレイフォンは殺剄を行い近くの建物の廃材の影に隠れる。クラリーベルも気づいたようで殺剄を行い隣に来る。
 今更になって最初の空き地から随分と離れてしまったことに気づく。もうほぼ外縁部だ。

 気づかれぬよう殺剄を維持したまま建物の影からレイフォンは向こうを覗く。一人の青年がいた。
 それも、前に見たことがある。

「あの人って確か、十七小隊の」
「医務室にいた人ですよね」

 同じように覗き込んでいたクラリーベルが耳元で呟く。こそばゆいそれをレイフォンは我慢し小さく頷く。
 ニーナの部下の一人だ。何故こんなところにいるのかは不明だが、上半身は薄手のシャツ一枚のところから見るに鍛錬でもしていたのだろう。
 
 二人が見ている先で青年は無手で型を行っていく。錬金鋼は剣帯に付けたままだ。
 淀みないそれは長い事培われた技術の賜物だろう。気づけば足が交差し動作の質が変わる。動作の節を感じさせず体捌きも高いレベルだ。
 何故青年の存在に気づくのが遅れたのかレイフォンは目を凝らして気づく。青年は剄を殆ど使っていない。活剄も最低限で寧ろ殺剄を行っているようだった。
 その姿に前回会った際に感じた違和感をレイフォンは再度思い出す。何か引っかかるものがある。

「どうします。このまま見てるのも何ですし逃げますか?」
「ニーナさんの所の人なら見つかっても平気は平気ですが……」

 青年は型を終えたのか動きを止める。少しして逆立ちになり腕立て伏せを始める。

「何で此処でやってるんでしょうね」

 最もな疑問だった。
 外縁部に近いからか都市が動く度に都市内部よりも揺れを顕著に感じる。体を支えるようにクラリーベルの手がレイフォンの肩を掴む。
 クラリーベルはレイフォンの後ろにいるのだ、覗き込もうとすれば体を前に出すしかない。自然とクラリーベルの体がレイフォンの背中に一部押し付けられる様な形になる。

(……)

 背中に感じる熱に少し前の会話を思い出しレイフォンは無言になった。背中に当たる感触から逃れようと僅かに体を前に出す。
 だが支えにしている体が前に出ればクラリーベルの体も前に出るのは当然のこと。寧ろ体が前のめりになる分余計にレイフォンの背中に密着する面積が増える。吐息が僅かに当たりさえする。運動後で体温も高い。その為レイフォンはまた僅かに体を前に出す。
 無心での行い。それを三度繰り返し足を動かした時、レイフォンは置かれていた廃材を蹴り飛ばした。小さな衝撃ではあったが廃材の一部が地面に倒れ音が鳴る。

『……』

 気まずい沈黙が二人の間に流れる。すぐさま顔は引っ込めたが確実に気づかれただろう。
 何やってるんだというクラリーベルの冷たい視線がレイフォンを貫く。
 少し柔らかかったし暖かかったんだからしょうがないじゃないか。
 レイフォンは心の中だけで言い訳をする。

「誰だそこにいるの」

 青年の声にどうするべきかと視線を交わす。
 建物の影から再度覗き込むと青年は明らかに二人がいる方を向いていた。

「反応はなしか……誰かいると思ったんだが。ふむ」

 そのまま見ていると青年は殺剄を解き、剄を練りながらこちらに歩いてくる。

「まあ適当にぶち込めば分かるか。隠れてる方が悪い」

 酷く荒っぽい方法だ。
 逃げてもいいがこのままでは周囲一体が衝剄に荒らされる。
 二人は殺剄を解いて影から出て行く。

「あの――」

 姿を見せるが問答無用で衝剄が放たれる。反射的にレイフォンも衝剄を放ち相殺する。
 炸裂音と衝撃が響き渡る。

「二人か。どこかで見た顔だな」

 知った顔を見た青年が構えを解く。

「前に練武館で会いましたよね」
「ああ、あの時の。隊長の知り合いらしいな。もう一人は知らないが確かレイ…フォ……フォン・レインだったか。アルフだった気も」
「レイフォン・アルセイフです」
「惜しいな。人の名前を覚えるのが苦手なんだ」

 レイフォンが名前を間違えられたのは二人目だ。もしかして自分の名前は覚えづらいのだろうかと思ってしまう。

「こっちはまだだったな。三年のアイクだ。二人は何やってるんだこんなところで」

 今更だが自分たちの現状をレイフォンは思い出す。夜に二人、男女で人気のないところで隠れている。服は汚れておりレイフォンは所々に傷を負っている。動いたあとだから多少顔も赤らんでいる。 
 普通に考えてアウトにしか見えなかった。

「励むのはいいが場所は考えろよ」
「誤解です。組手をしていただけです」
「そうか、五回、組手をか……聞きたくはなかった」
「勘違いです。軽く手合わせをしていただけです。先輩と同じです」

 先ほどのこともあるし今更武芸者ということを隠す必要もない。相手はニーナの隊の人間だ。それよりも変な誤解を持たれるほうが困る。
 近づいてみてわかったがアイクのシャツの裾からは包帯が見える。前に聞いたまた幼馴染とでもやりあったのだろうか。

「レイフォン、態々言い直す必要ありました?」
「あ、クラリーベルはちょっと黙っててください」

 口を挟んできたクラリーベルを静かにさせる。知識が有無は知らないが温室育ち故かこういった方面の言い回しには疎いのだろう。

「先輩こそ何でこんなところで?」
「前はアパートのすぐ近くでやっていたんだが、周辺住人に都市警に通報された。それ以来場所を色々と変えている」

 どこに住んでいるのか聞けば住宅街だ。不審者扱いされてもしょうがないところもあるだろう。

「不審者情報として回ったときは流石に驚いた。逆立ちで歩き回ったのが不味かった」
「そりゃそうですよ。こんなことは毎日してるんですか」
「まあ、時間があればな。小さい頃からの習慣に近い。勝つためには必要だからな」
「幼馴染でしたっけ確か。その包帯もですか」
「猛獣みたいなやつだよ。そいつを殴り飛ばすのが幼少時からの目標だ」

 言葉からしたら負けてばかりという事だろう。この場合ライバルという表しであっているのだろうか。

「それと、小隊戦が近いってのもある」
「今度の休みですよね。見に行く予定です」
「中に入るにはチケットがいるぞ。人気にもよるが、当日だと確実性が薄れるから気をつけろ。まず平気だがな」

 アイクは少し考えるように言葉を止める。

「アルフ、一つ頼みたいことがる。頼んでもいいか」
「アルセイフです。そう難しくなければいいですよ」

 脱いだ上着の元にアイクが向かう。そして何かをレイフォンに向けて投げる。
 財布だ。結構軽い。

「小隊戦の裏で賭けが行われてるの知ってるか」
「初耳です」
「非公式だがな。どっちが勝つか、誰が何人倒すか誰が生き残るか。そんな内容での賭けがある」

 あっても不思議ではない。レイフォン自身、賭け試合に出ていた過去もある。無論、ここでのそれがグレンダンでのそれよりも大人しいものではあるだろうけれど。
 グレンダンでのそれは武芸自体を見世物とし、ツェルニそれは試合の副産物として扱っている。話を聞く限りそういった違いはあるようだ。

「へー、楽しそうですね」

 クラリーベルも不思議には思っていない。本来武芸者の倫理観からしたら外れているが、特にそこまで気にした様子もない。

「買えたらでいい。その中身で俺に一点賭けしといてくれ。小隊員というか、本人じゃ買えなくてな。確か新聞部の部員が一枚噛んでたはずだ」
「買えたらでいいんですよね。分かりました」
「助かる。個人的に買いたいなら隊長にでも乗っとけ。低倍率だろうが安全牌だ」

 確かにレイフォンが買うならニーナだろう。本当に買ってみようかという気になる。
 賭け方をレイフォンに言ったアイクは汗をぬぐい上着を羽織る。帰るのだろう。

「一回手合わせ願いたかったが隊長殿から止められててな。これで帰らせて貰う。賭けの件、頼んだぞ」

 アイクを見送りレイフォンはどうするかクラリーベルと話し合う。

「賭けのこと引き受けちゃいましたけど良かったんですかね」
「普通にダメです。ここにいるのもそれが理由ですし。もう少し頭使ってください」
「やっぱりそうですか」

 やっちゃったなあとレイフォンは眉を歪める。
 そんな様子にため息を吐き、クラリーベルはレイフォンの手から財布を取る。

「けどまあ、程度ですかね。グレンダンと同じ扱いかは分かりませんし。一般生徒なら誰でも参加できる感じでしたら、まあ。そうだとしても買うのは私がやりますが」
「調べてみないとですね」
「ええ。ともかく私たちも帰りましょう。結構やりましたので」

 クラリーベルが言う。あまり遅くまで起きていて次の日に支障をきたしても問題だ。
 レイフォンは同意し二人もアパートへと戻っていった。


 
 

 
後書き
 前に「ここまで次で更新するよ」って言った部分まで予定より分量増えたので二分割しました。
 後半も一応既に出来てるので明日か明後日くらいに更新します。多分。 
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