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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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咎の炎と罪なる星空


人々の心を悪に染める超反転魔法、ニルヴァーナ。
今現在、その標準はウェンディ達の所属するギルド、化猫の宿(ケット・シェルター)に向けられている。
ニルヴァーナを止める唯一の方法は、足の付け根にある8つの魔水晶(ラクリマ)を破壊する事。
1にナツ、2にグレイ、3にルーシィとルー、4に一夜、5にエルザ、6にアルカとアラン、7にティアとヴィーテルシア、8にジェラールが、最後の力を振り絞って向かう。
しかし、8つのうち1つの前には六魔将軍(オラシオンセイス)のマスターゼロが立ちはだかる。
作戦決行まであと12分。






1番魔水晶(ラクリマ)
そこにはナツとゼロの他に・・・来るはずのない2人がいた。

「ジェラー・・・ル・・・」

1人は8番魔水晶(ラクリマ)に向かったはずのジェラール。
彼はナツへと炎を放った。
そして、もう1人。

「ティア・・・何でお前が・・・」

7番魔水晶(ラクリマ)に向かったはずのティア。
彼女はゼロに水を放った。

「貴様・・・記憶が戻ったのか」

笑みを浮かべ、ゼロが問う。
それに対し、ジェラールは不気味な笑みを浮かべたまま、口を開いた。

「ああ」

記憶が戻った―――。
つまりは、自分が悪党だと思いだしたという事。
それが示すのは、ジェラールが敵になり、再びナツ達の前に立ちはだかるという事。

「くう~・・・」

全身にジェラールが放った炎を纏ったナツは、ぐぐぐ・・・と体を起こし―――

「ジェラァアアアアゥル!!!!!」

怒りの表情を浮かべ、ジェラールに向かって駆け出した。
右拳を握りしめ、殴ろうとする。
それに対し、ジェラールは笑みを浮かべたまま左手をナツに向けた。

「くっ!」

ボゴォ、と音を立て、ジェラールの手から炎が放たれる。
その魔法はナツへと直撃した。
刹那――――――



「―――――1歩でも動いてみなさい。アンタの首をぶった切るわよ」



「!」

目の前から声がした。
いつの間にかジェラールの目の前に立っていたティアが、水の剣をジェラールの首に突きつけている。

「竜の勘を頼りにして、まさかアンタに会うとは思わなかったわ」

その青い目に怒りと憎しみと殺気を込め、体から殺気を放出する。
彼女はエルザの事に関して怒りを覚えているのではない。
それとはまた別の事―――シモンの事に関して憎んでいるのだ。

「にしても、アンタとは思えない凡ミスね。アイツに炎は効かないわよ」

ナツは炎を食べる。
そのナツに炎を放つという事は、波動に向かって魔法を放つのと同じ事。
が、ジェラールは笑みを浮かべたまま、口を開く。

「知ってるさ。思い出したんだ」
「は?」

ティアが眉を顰める。
ジェラールは不気味な笑みではなく、どこか優しげな笑みを浮かべて続けた。




「『ナツ』と『ティア』という希望をな」




その言葉に、ゼロの表情から笑みが消えた。

「何!?」
「ア?」
「希望・・・ですって?私とコイツが?」

ゼロが目を見開き、ナツはジェラールを睨み、ティアは水の剣を突き付けたまま小首を傾げる。

「炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。その魔力は炎の力で増幅する」
(炎の・・・力で・・・)

ジェラールが放った炎は、ナツの体で燃えている。
上半身に纏う炎を、ナツは見つめた。

「そして“星竜の巫女”、膨大な魔力を得た時、星の竜殺しの力を得る」
「・・・」

ジェラールの言葉が何を意味するか解っているのだろう。
ティアは鋭い目つきのまま睨みつける。

「貴様・・・記憶が完全に戻ってないな」
「言った通り『ナツ』と『ティア』を思い出しただけだ。ニルヴァーナは止める!立ち位置は変わらんぞ、ゼロ」

2人の間で繰り広げられる会話。
が、ナツとティアにとっては意味の解らない言葉が飛び交う。

「何言ってるの?アンタがニルヴァーナを止めるって・・・利用するの間違いじゃないの?」
「何だよ・・・記憶って・・・」

2人はジェラールの事情を知らない。
だからこそ殴りかかって剣を向けている。

「オレはこの地で目覚める以前の記憶がない」

この地で目覚める以前の記憶がない。
それを聞いた2人は目を見開く。
つまり、自分達の事を覚えていないのだ。

「最低のクズだった事は解ったが、自覚がないんだ。どうやら君達やエルザをひどくキズつけたらしい・・・だが今はウェンディ達のギルドを守りたい。ニルヴァーナを止めたい。君達の力になりたいんだ」

それはジェラールの本音だった。
亡霊に魅入られる前のジェラールはこうだったのだろう。
だが―――――――



「ふざけんなァッ!!!!!」



敵であるジェラールしか知らない2人にとっては、言い訳にしか聞こえない。
ナツがジェラールを思い切り殴りつけ、叫んだ。

「あの事を忘れたっていうのか!?何味方のフリしてんだテメェ!」
「記憶喪失なんて理由で私達が納得出来るとでも思ったの!?アンタと戦った私達が!」

ティアも感情が爆発する。
ぐいっとジェラールの胸倉を掴んだ。

「頼む・・・ナツ・・・ティア・・・今は炎と力を受け取ってくれ」

自分より背が低く華奢な少女に胸倉を掴まれるジェラールが呟く。
が、かつて敵対した人間を、エルザを傷つけた人間をそう簡単には許せない。
ティアの場合はシモンを殺した事にあるのだが。

「オレは忘れねえ!!!!エルザの涙を!!!!お前が泣かしたんだ!!!!!」
「アンタはどれだけの数の人間を不幸にすれば気が済むのよっ!!!!!」

怒りの声で叫び、2人はジェラールを責め立てる。
覚えていないが全て本当の事である為、ジェラールは視線を逸らし目を伏せた。
すると、ゼロが呆れたように口を開く。

「やれやれ、内輪もめなら別の所でやってくれねーかな。鬱陶しいんだよ!」

そう言うと同時に、ゼロは再び常闇奇想曲(ダークカプリチオ)を放つ。
ジェラールを責め立てていたナツとティアは迫ってくる魔法に目を向けるが、回避行動は間に合わない。
このままでは2人が攻撃を受けてしまう。

「!」

すると、それを見たジェラールが胸倉を掴むティアの手を振り切り、2人の前に出た。





そして―――――常闇奇想曲(ダークカプリチオ)から、ナツとティアを守った。





「ほう」

ゼロが呟く。
一瞬の出来事に2人は目を見開いて呆然とする。

「・・・ウソ」

ティアが呟いた。
ナツとティアは、前にも似たように守られた事がある。
両腕を広げて、何も考えずただ守ろうとする背中を、見た事がある。
―――――目の前に立つ男によって、殺されたシモン。
そのシモンを殺した男が今――――シモンと重なって見えた。

「お前!」

しばらく痛みに震えていたジェラールは、ドサッと座り込む。
自分達を守ると思わなかったナツが声を掛けると、ジェラールは笑みを浮かべながら口を開いた。

「オレをやるのはいつでも出来る。もう・・・こんなにボロボロなんだ」

弱々しく紡がれる言葉に、2人は目を見開く。
ジェラールはゆっくりと、自分の両手を掲げた。

「今は・・・奴を倒す力を・・・」

ボワッと、2つの光が手に現れる。
右手にあるのは炎、左手にあるのは魔力。

「金色の・・・炎・・・」

ナツの目に映るその炎は美しい金色に輝いて。

「竜殺しの、鍵・・・」

ティアの目に映る魔力は金を帯び、紺色に煌めいていた。









ジェラールは8番魔水晶(ラクリマ)にいない。
本来行くはずだった魔水晶(ラクリマ)の前には、ウェンディとシャルル、ココロがいた。

「本当に出来るの?ウェンディ、ココロ」
「これは私がやらなきゃいけない事なんだ」
「大丈夫・・・絶対に出来るはず!」

ウェンディとココロは顔を見合わせ、頷く。
2人はここに来る前・・・ジェラールと交わした会話を思い出していた。






「ジェラール、具合悪いの?」
「頭痛いの?大丈夫?」

破壊の魔法が使えないウェンディとコブラ戦で魔力、毒で体力を限界まで消耗してしまったココロは、様子が変なジェラールに声を掛けていた。

「いや・・・ウェンディ、君は確か治癒の魔法が使えたな?ゼロと戦う事になるナツとティアの魔力を回復出来るか?」

その言葉に、ウェンディは俯く。

「それが・・・」
「何バカな事言ってんの!今日だけで何回治癒魔法を使ったと思ってるのよ!これ以上は無理!元々この子は・・・」
「そうか」

治癒魔法は使用にかなりの魔力を消費する。
それを知っているシャルルが猛反対するが、ジェラールはそれを途中で遮った。

「ならば2人の回復はオレがやろう」
「え?」
「思い出したんだ。ナツという男の底知れぬ力。ティアという女の封印されし力。希望の力を」

そう言うジェラールは、優しげな笑みを浮かべていた。

「君達はオレの代わりに8番魔水晶(ラクリマ)を破壊してくれ」
「でも・・・私・・・」
「咆哮1回分くらいの魔力は回復してるけど・・・私1人じゃそんな重要な魔水晶(ラクリマ)壊せないよ」

ウェンディは破壊の魔法を使えない。
だからココロは1人で壊そうと考えたが、自分にそれほどの戦闘力はなかった。
コブラの時だってほぼナツが戦っていたし、結果的に倒したのは叫びだ。
それを聞いたジェラールはしゃがみ、2人と目線を合わせる。

「君達になら出来る。滅竜魔法は、本来ドラゴンと戦う為の魔法。圧倒的な攻撃魔法なんだ」

そう言うと、ジェラールは言葉を紡ぐ。
2人の抱える不安を取り除くように。

「空気・・・いや・・・空・・・“天”を喰え。空気中の塵・・・いや・・・“灰”を喰え。君達にもドラゴンの力が眠っている」










「ドラゴンの力・・・私達の中の・・・」
「天を喰え・・・灰を喰え・・・」

ウェンディとココロは呟く。
そして、叫んだ。

「自分のギルドを守る為なんだ!お願い!グランディーネ!力を貸してっ!」
「私達のギルドは私達が守る!グラウアッシュ!私に力を!」











「これは“咎の炎”と“罪なる星空”」

倒れるジェラールの両手に、金色の炎と金を帯びた紺色の魔力が乗っている。

「許しなんていらない。今は君達に力を与えたい。オレは君達を信じる」

向けられる炎と魔力。
ナツとティアはそれを信じられないものを見るかのように目を見開いて見つめる。
曇りのない目で真っ直ぐに2人を見つめ、ジェラールは口を開いた。




「エルザが信じる2人を・・・オレは信じる」




怒りが、消えた。
真っ直ぐ向けられる目は、発せられる言葉が真実だと告げている。
そして――――――ナツは咎の炎を、ティアは罪なる星空を、ジェラールと握手する事で受け取った。
その腕を伝って、炎と魔力が2人の全身を包む。

「がぶがぶがぶ・・・」
「・・・我は星竜の一族の巫女・・・時は来た・・・我に竜殺しの力を・・・」

ナツは咎の炎を喰っていく。
ティアは何かを呟きながら、目を閉じて魔力を体内に流し込んでいく。

「フン」

ゼロが鼻で笑う。

「頼んだ・・・ぞ」

その言葉を呟いたと同時に、ジェラールの手が力なく落ちる。
そして、ナツの喉がゴクリッと動いた。

「ごちそー様」

ナツが口元を拭う。
ティアがゆっくりと・・・瞳を開く。

「確かに受け取ったぞ、ジェラール」
「後は任せておきなさい」

咎の炎を喰い終え、罪なる星空を流し込み終えたナツとティアは真っ直ぐにゼロを睨みつける。
ゼロは笑みを浮かべた。

「咎の炎と罪なる星空か。それを喰っちまったら貴様等も同罪か」

その言葉に、ティアは溜息をついた。
呆れたような目を向け、鋭く睨む。

「生憎ね。罪には慣れてるのよ、私達妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士・・・特に私とコイツは」

仕事に行けば必ずと言っていいほど何かを破壊するナツに、起こした問題を数えるには3ケタ必要のギルド最強の女問題児であるティア。
そう言うのを『器物損害罪』とか言うのだろうが・・・だとすると、この2人は仕事に行くたびに罪を増やしているという事になる。

「本当の罪は・・・眼を逸らす事」

ナツが前かがみに構える。
バキバキと音を立て、足元の床がナツの足を形取るようにへこむ。
そして―――――――



「誰も信じられなくなる事だァ!!!!」




次の瞬間、全身に炎を纏ったナツの体当たりがゼロに直撃する。
ゼロの懐に潜り込んだナツはゼロの服を掴み、思いっきり投げ飛ばす。

「ちっ!」

すぐに体勢を立て直したゼロはナツに向かって常闇奇想曲(ダークカプリチオ)を放つ。
その魔法はナツの目の前まで迫り――――――

「!」

バチィッと音を立て、ナツは片手で弾いた。
先ほどは防ぐのに左拳をボロボロに傷つけたというのに。
ゼロは目を見開く。
ピキッ、パキッと小さい音を立てながら、ナツの目の下に鱗のような模様が現れた。
―――――そして、全身が金色の光に包まれる。

「こ・・・この光・・・ドラゴンフォース!?」

ゼロは更に目を見開く。
が―――――敵はナツ1人ではない。

「私がいる事・・・忘れてるなんて言わせないわよ!」
「!」

ダン、と力強く地を蹴ったティアが真っ直ぐにゼロに向かって飛ぶ。
そして右足に金色の光を纏い―――――決める。




「星竜の鉤爪!」




踵落としのように鋭い蹴りがゼロに炸裂する。
頬や腕、足に鱗のような模様が現れ、ティアの体が星の輝きを集めたように眩い光に包まれた。

(まさか・・・これは・・・カトレーンの一族、星竜の巫女だけが使用を許された太古の魔法(エンシェント・スペル)・・・)

ブレインとして古文書(アーカイブ)で見た魔法。
カトレーンの一族の中の、星竜の巫女と呼ばれる人間だけが使用を許された魔法。膨大な魔力を得る事で星の竜殺しの力を得る太古の魔法(エンシェント・スペル)

竜の双眼(リュウノメ)か!?」

今、ここに。
――――――火竜と星竜が姿を現した。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ちょっと話を変えました。ティアも戦いますよー!過去編にはとっておきがあるんで!ふふふ・・・。
よっしゃ、この調子で頑張るぞーっ!おーっ!
・・・と、意気込んでみる。

感想・批評、お待ちしてます。 
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