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少年少女の戦極時代Ⅱ

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オリジナル/未来パラレル編
  第17分節 世界樹の塔


 ユグドラシル・タワーは、大樹に寄生され、タワーと大樹の絡み合ったオブジェと化していた。

 紘汰やザックに聞く所によれば、クラック用に地下に保存してあったヘルヘイムの樹の切株が、ある時、凄まじい成長速度を見せ、タワーを突き破って大樹の姿を見せたのだという。

 咲は無機物の塔に生い茂る濃緑をしばし見つめてから、タワーの中に踏み込んだ。





 記憶退行になってから、一つおかしな点があった。

 昨日、咲はついにスマートホンの電話帳を見た。その中にヘキサの番号は登録されていなかった。

 由々しき事態だ。室井咲がヘキサの連絡先を知らないなどありえない。その時初めて、咲はヘキサの現在について考えようともしなかった自分に気づいた。

(ミッチくんと会った時は舞さんとのかけおち結婚のインパクトでギモンに思うヒマなかったけど、よく考えたらおかしい。ミッチくんなら、真っ先にあたしとヘキサの仲のこと言ってもいいのに)


 受付に人はいなかった。代わりに地下から生えた大樹が床の大理石を突き破り、天井をも突き破るという壮観があった。日本版ジャックと豆の木だ。

(こんなになっても、まだこのビルに人がいられるってことに、びっくり)

 案内板を指で辿りながら目当てのフロアを探す。

(――あった。研究開発部門。35階ね)

 無人のエントランスホールを横切り、エレベーターへと向かう。
 「△」を押すとエレベーターはすぐに開いた。咲は乗り込み、35階のボタンを押した。ドアが閉まり、エレベーターが動き始めた。


 ――光実を除けば、ヘキサのことに最も詳しいのは彼女の長兄である呉島貴虎だ。光実にもう一度会って話を聞くという道もあったが、最初に会った時に何も言われなかった事実が、光実に聞くという選択を迷わせた。


 エレベーターが停まった。もう着いたのかと顔を上げたが、電光表示は22階で止まっている。
 開いたドアの向こうを見て咲は納得した。

 このフロアにもヘルヘイムの大樹が廊下を塞ぐように横たわっている。おそらくエレベーターの上まで成長しているのだろう。

 咲はやむなく22階のフロアに降り、廊下を塞ぐ大樹の幹に手足をかけた。

(スカートで来なきゃよかった)

 げんなりしつつも大樹の幹をどうにか乗り越え、廊下に再び足を着けた。

(大樹をイメージして建てたタワーがマジに大樹に寄生されてるって皮肉だなあ)

 その後も、幹の隙間を潜ったり、壁に背を這わせてじわじわ進んだり、どうにか大樹の侵食を避けてタワー内を進んだ。
 時には廊下や階段を塞ぐ幹の前に道案内の立札が立ったりしていて、咲の笑いを誘った。

 なぜこんな不便かつ危険な場所に呉島貴虎が居続けているかは知らない。思い出せていないのかもしれないし、本当に動機を知らないのかもしれない。――今の咲にはどうでもいい事柄だ。



「や、やっと着いたぁ」

 35階。「研究開発部門主任室」と表札が貼られた部屋の前。咲は膝に両手を突いて深い溜息をついた。

 一つ深呼吸。
 ドアをノックする。中からのいらえを受け、咲はその部屋に踏み込んだ。 
 

 
後書き
 何気に本編でも叶っていない咲と貴虎の一対一(初対面ではミッチが一緒でしたし、兄さんが正体不明のライダーだったので(^_^;))。
 ちなみにこの日の咲はスカートです。これメタ的には重要だったりします。
 読者諸賢、覚悟の貯蔵は充分か?(by F○te/SN) 
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