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Transmigration Yuto

作者:レギオン
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旧校舎のディアボロス
  兵藤一誠

 駒王学園に入学して二年が経った。
 リアスと朱乃が入学した時に廃部になっていたオカルト研究部を復活させ、僕と小猫はそれぞれ入学すると同時にオカルト研究部に入部した。
 まあオカルト研究部、などとは言うが、部長から副部長、末端の部員まで全員がオカルト的な存在と言うことは如何なものだろうか。部室も壁や床、天井に魔方陣と悪魔文字を刻んでいるし。
 と言うか。刻まれている魔方陣の一部はほとんど意味がないものなんだが、あれは何故だろう?冥界から直で使える転移用の魔方陣まで設置しているのに、疑問である。
 人前ではリアスのことを部長、朱乃のことを副部長と呼んでいる。公私は分けなければならない。
 高校生活は充実したものだった。
 勉強は問題ない。交友関係もそこそこ築くことができている。部活は、まあほとんど何もやっていないようなものだけれど。
 予想できていたことではあったが、女子生徒からのアプローチが凄まじい。告白やラブレター、デートのお誘いは日常茶飯事だ。
 異形の者や異能者、裏との繋がりがある者ならばともかく、一般人からのアプローチは全て避けている。数人で遊びに行くくらいならば何度か付き合ったこともあるが、やはり一般人である彼女達をこちらの世界に巻き込みたくはないので明確な線引きをしている。
 その代わり、駒王学園は悪魔と親交のある特殊な環境で育った人間を受け入れていることもあって、そちらからアプローチをされることもある。まあそれ以外にも人型の異形の存在も通っているが。
 「騒ぐな!これは俺らの楽しみなんだ!ほら、女子供は見るな見るな!脳内で犯すぞ!」
 教室に向かい廊下を歩いていると、とある教室の前で怒声が聞こえてきた。
 聞こえてきた教室の中を覗き見れば、この駒王学園で有名になってしまっている三人組の内の一人だった。
 詳しくは知らないが、変態三人組、変態トリオなどと称され、女子生徒や教師陣から忌み嫌われている三人だ。
 その内の一人、兵藤一誠。
 少し特徴的な髪型をした三人の中では一番容姿が優れている男子生徒だろう。他の二人は平凡である。
 …………彼はつい先日、堕天使に命を狙われ、一度死んだ。
 しかし、リアスによって転生悪魔となり、グレモリー眷属の兵士(ポーン)として甦った。
 正直に、はっきり言わせてもらうと、あのような才能もなく、素行の悪い一般人をリアスの眷属とすることには反対だ。
 兵士(ポーン)の駒を八つも使っている以上、最低でも強力な神器(セイクリッド・ギア)は宿しているだろう。だが、彼はグレモリー眷属に相応しくない、僕はそう考えている。
 才能は、まあ努力次第でそこそこ何とかなるだろう。才能や家柄で見下すようなことをするつもりはない。むしろ努力家であるならば大きく評価しよう。
 だが、エロ三人組などと呼ばれ、覗きの常習犯であり、学園から問題児として扱われている彼では納得が行かない。行くはずがない。
 いくら致命傷を受けて救命が必要であり、死ぬ直前に簡易魔方陣のチラシによってリアスが召喚されたとは言え、面白くない。
 自然と表情が険しくなってしまう。
 まあ、いざとなればトレードに出してもらえればいい。眷属を集めていない方とトレードを行えば、再び兵士(ポーン)を選ぶことができる。
 彼と視線が合った。
 僕は兵藤一誠から視線を外し、教室を目指して歩き出す。





 翌日の放課後。
 「やあ」
 僕は今日、兵藤一誠を訪ねていた。
 半眼で僕を睨んでくる兵藤一誠に対し、僕は目を細める。
 廊下や、兵藤一誠の教室の各所から黄色い歓声が上がっているが気にしない。
 「で。何の御用ですかね」
 面白くなさそうに兵藤一誠が言う。
 「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだよ」
 ―――不本意だけどね。
 「……OKOK、で、俺はどうしたらいい?」
 「僕についてきてもらう」
 先程まで黄色い声を上げていた女子たちから悲鳴が上がる。
 「そ、そんな木場くんと兵藤が一緒に歩くなんて!」
 「汚れてしまうわ、木場くん!」
 「木場くん×兵藤なんてカップリング許せない!」
 「ううん、もしかしたら兵藤×木場くんかも!」
 僕は女子達の声に小さく溜息を吐いた。
 「あー、わかった」
 兵藤一誠が了解する。
 僕は会釈もせずに振り向き、足を進める。
 「お、おい、イッセー!」
 変態三人組の一人が兵藤一誠を呼び止める。
 「心配するな、友よ。決闘とかじゃないから」
 「これ!『僕と痴漢と時々うどん』をどうするんだ!」
 そう言ってDVDを掲げる坊主頭の男子生徒に、僕は軽蔑の視線を向けた。
 兵藤くんは天を仰いでいた。





 兵藤一誠を引き連れ、校舎の裏手に向かう。
 木々に囲まれたそこには旧校舎と呼ばれる現在は使用されていないことになっている建物がある。
 僕達オカルト研究部はその旧校舎の一室を使い、活動している。一室などとは言うが、実質的に校舎全てを使い、管理している。
 外観は木造で古いが、ガラス窓は一枚も割れておらず、壊れた部分はほとんどない。
 使い魔達が、だが頻繁に掃除をしているため埃一つない。
 僕達は無言で二階建ての木造校舎に入り、階段を上って二階の奥まで歩みを進める。
 目的地に辿り着き、僕はとある教室の前で足を止めた。
 戸には『オカルト研究部』と書かれたプレートがかけられている。
 困惑した様子の兵藤一誠を放置し、僕は戸をノックする。
 「部長、連れてきました」
 引き戸の前から確認すると、「ええ、入ってちょうだい」とリアスの声が聞こえてきた。
 僕は戸を開け、部室に入る。僕に続いて兵藤一誠も部室に入った。
 兵藤一誠は室内の至るところに書き込まれている悪魔文字と教室の大半を占める中央の魔方陣に圧倒されている様子だ。
 ソファに座って黙々と羊羹を食べていた小猫と兵藤一誠の視線があう。
 「こちらは兵藤一誠くん」
 自分から名乗る様子を見せなかったので紹介してみせる。すると、小猫はペコリを兵藤一誠に向けて頭を下げた。
 「あ、どうも」
 兵藤一誠も頭を下げる。
 小猫はそれを確認すると、また黙々と羊羹を食べるのを再開した。
 シャー、と部室の奥から水が流れる音が聞こえてくる。リアスがシャワーを使っている音だ。
 正直、部室にシャワーを設置するのはどうかと思うが、まあ一応主の意向なので口出しはしない。
 僕は小猫ちゃんの隣に腰を下ろし、小猫ちゃんの手元に手を伸ばした。
 しかし、避けられる。僕は悪魔の身体能力を活用しながらそれを追いかける。しかし、避けられる。
 これだけのことが凄まじい速度で行われているのだが、兵藤一誠はシャワーのある方に視線を向けていて気付いていない。
 結局僕が騎士(ナイト)の素早さを活かして一つ摘んだ。小猫は悔しそうに半眼で睨んでくる。
 いつものことなのでそれ以上は何もない。僕はニコニコと笑いながら羊羹を口に運ぶ。
 これも修行だ、的なノリなのだ。
 キュッと水を止める音が静かな部室に響く。
 「部長、これを」
 「ありがとう、朱乃」
 カーテンの向こうからはリアスと朱乃の声が聞こえてくる。
 「……いやらしい顔」
 若干不貞腐れている小猫が兵藤一誠に向かってぼそりと呟く。
 兵藤一誠はこちらに視線を向けてくるが、小猫は黙々と羊羹を食べ続けるだけだ。
 カーテンが開かれる。
 そこには髪を濡れたままにして制服を着込んだリアスの姿があった。
 リアスは兵藤一誠を見るなり微笑んだ。
 「ごめんなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びてなかったから今汗を流していたの」
 事情は聞いているが、流石に女性としてほぼ初対面の下級生と同衾するのはどうかと思う。
 リアスの後方には従者よろしく朱乃が佇んでいる。
 「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」
 ニコニコと笑みを浮かべながら丁寧に挨拶をする朱乃。
 「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ、はじめまして!」
 兵藤一誠は緊張した様子で挨拶を交わした。
 リアスはそれを「うん」と確認する。
 「これで全員揃ったわね。兵藤一誠くん。いえ、イッセー」
 「は、はい」
 「私達、オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」
 「え、ああ、はい」
 「悪魔としてね」
 いきなりそれはどうかと思う。それと、自分はまだ納得してないでーす。




 
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