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美しき異形達

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第一話 赤い転校生その七

「その頃だね」
「外野の娘はもう三人いるけれど」
「それでもだね」
「薊さんの肩ならね」
 外野も出来るというのだ。
「だからって思ってだったの」
「外野ねえ」
「そう、その脚と肩なら秋山さんになれるから」
 西武、そしてダイエ^ーで活躍した。抜群の運動神経で知られていた名外野手だ。
「けれどね」
「悪いね、本当に」
「いいわ。また人探すから」
「そういうことでね。ところであんたは」
「私は?」
「あんたの名前は何ていうんだい?」
 薊から彼女の名を問うたのだった。
「それで」
「私ね、私は藤坂裕香っていうの」
「裕香ちゃんだね」
「そう呼んでくれるのね」
「ああ、ちゃん付けがあたし好きでさ」
「じゃあこれからは私を」
「裕香ちゃんって呼んでいいかい?」
 実に明るい顔で裕香に問う。
「それで」
「ええ、いいわ」
 裕香は特に嫌なものを感じずに薊に答えた。
「それじゃあね」
「よし、じゃあこれから宜しくな裕香ちゃん」
「宜しくね」
 裕香は明るい笑顔の薊に大人しい、慎ましやかな態度で応えた。こうしてだった。
 薊の学園生活ははじまった、クラスにおいては無事に打ち解けられた。そして放課後の部活では。
 道場、中国風のそのいささか日本のものとは違う映画の少林寺に出てきそうなその道場の中で一人の少女がいた。かなり大柄な青いカンフー着を着て棒を持っている男に対して。
 赤いカンフー着の薊もまた棒を持っていた、どちらも中国拳法で言う棍である。
 両者は構えて対峙している、その時に。
 男は一気に前に出た、大柄な身体に似合わず素早い。その俊敏な動きで。
 薊に続けざまに突きを繰り出す、だが。
 薊はその突きを己の棒で全て防ぐ、自分の身体の前で回転させてまるでそこに気の壁を作り出したかの様にして。
 そうして防ぎだ、今度は。
 自分からも突きを繰り出す、その突きを見てだった。
 周りで稽古を見ている部員達がだ、こう言うのだった。
「おい、あの転校生な」
「凄いな」
「さっき十五キロ一気に走った後だってのにな」
「あれだけ動けるのか?」
「相当な体力だよな」
「しかも」
 薊の今の動きがだった。
「副部長動きも速いのにな」
「その副部長以上の動きだぜ、あれ」
「防ぐのも上手だったしな」
「今の突きも」
 まるで流星群の様だった、凄まじい速さと勢いだ。
 対する副部長はここで防ぎきれないと見たか。棒以外の攻撃を仕掛けた。
 屈み右足で足払いをかける、だがその攻撃も。
 薊は跳びかわした、そして。
 上から振り下ろす、副部長も薊もプロテクターを付けているので力を抜くか寸止めをする必要がない為思いきりだった。
 その一撃で副部長の頭を打った、それでだった。
「勝負あり!」
 審判を務めていた部長、端整な顔の長身の彼が叫んだ。それでだった。
 副部長は頭のプロテクターを外してだ、薊に笑顔で言った。 
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