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アーチャー”が”憑依

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四話

「それでは、始めるぞ」

「構わん。ただ、余り愉快なものではない、とだけ言っておこう」

エヴァンジェリンは魔法を発動し、ネギの記憶の海へと潜っていった。


「………………」

「………………」

沈黙。現実の時間にして凡そ一時間。エヴァンジェリンがネギの全てを見るのに要した時間だ。

「これは、本当のことなのか……? 貴様は異世界……いや、平行世界の英雄、守護者という存在であったと?」

「君が見たものが全てだ。証拠ならば既にその一端を見せたはずだが?」

エヴァンジェリンは思い出す。今まで誰もなし得なかった呪いの解呪を容易くしてみせたナイフを。また、それを理解不能な方法で取り出した目の前の男を。

「ああ、確かにそうだ。認めよう、お前はこの世界で一番特異な存在であるとな」

「それは光栄なことだ。それで、そろそろ結論を聞かせてもらえないか?」

「結論……? ああ、そういえばそうだったな」

ネギの記憶の特異さに、思わず本題を忘れていたエヴァンジェリンは思考する。
この男の存在は極めて特異。その前世とも言えるエミヤと言う名であったころの能力や生き様、その全てがこの世界では想像できないようなものだ。面白い……暇を潰すどころか、自分の時間を目一杯注いでも問題ないほどに。だが、一つだけ気になった……


「おい」

「何だ?」

「お前は正義とは何だと思う?」

この世界の魔法使いにとってはさして珍しくない言葉。そして、自分が狙われる際に、相手がよく使っていた言葉だ。しばらくの沈黙のあと、ネギは口を開けた。

「正義とは何なのか……そんなことは、私が聞きたいくらいだ。私が目指し続けた唯一……だが、それがなんなのかは結局分からずじまいだ。だが、唯一言えるのは、全てに共通する正義は存在しない。それだけだ」

「そう、か」

その結論は、奇しくもエヴァンジェリンが見出したものと同じだった。かつての敵対者達、彼等にとっての正義とは化物(わたし) を排除することであり、私にとっての正義とは、化物(こう) なってしまった自分を助けてくれる“何か”だったのだ。
彼等と私の正義は異なっており、自分の正義だと思った彼等に“自分とは異なる正義”を持って殺されかけた。結局、正義とは人によって異なりその当人にとって都合のいいものでしかないのだ。それが、エヴァンジェリンの出した結論だ。

「ネギ・スプリングフィールド、お前を我が弟子……いや、対等の存在として認めよう。私はお前を認め、お前は私を認める。文句はあるか?」

「ない。よろしく頼む、エヴァンジェリン」

「エヴァでかまわん」

「ならば、君も好きに呼ぶといい」

「なら、私はエミヤと呼ぼう。一人ぐらい、かつての貴様の名を呼ぶものがいてもよかろう?」

「ああ、かまわないさ」

こうして、600年を生きた真祖の吸血鬼とかつて英雄にまでなった男は互いを対等の存在として認め合った。この絆はある意味他の何よりも強いものとなっていく。







「はあぁああああぁああ!!」

「おおぉぉおおぉおおお!!」

南の島を思わせる砂浜で、ネギとエヴァ……二人の拳が衝突した。



「さて、早速だが貴様がどの程度できるか見せてもらおう」

二人の会合から三日の時が既に過ぎていた。準備が整ったとの知らせをうけたネギはエヴァ宅を訪れてすぐに、この”別荘”へと連れてこられたのだ。曰く、この中でなら学園の結界によって封じられている魔力は回復するらしい。さらに、破損しても修復が容易とのことでここが修行場所に選ばれたのだ。

「ああ、そういえば見せたのはエミヤの頃の記憶だけだったな」

つまり、エヴァはエミヤとしての実力は知ったものの肝心のネギとしての実力は全く知らないのだ。仮にも師となるのならば、弟子の力を把握することは必至だろう。

「そういうわけだ。どうせ傷ついても直ぐに治る。思い切りやって構わんぞ」

「了解だ」

背負った長杖を手に、ネギは詠唱を開始した。





――魔法の射手・光の37矢!

――魔法の射手・闇の37矢!

白と黒の光の矢がぶつかり、弾け飛ぶ。魔法使いにとって基礎となる攻撃魔法、”魔法の射手”。二人の戦いはそれの打ち合いとなっていた。基礎とあなどるなかれ、応用がしやすく、また数も大量に容易できるこの魔法は戦いにおいて非常に役立つ。それに、基礎であるが故に腕の差が如実に表れるのだ。

――魔法の射手・雷の83矢!

――魔法の射手・氷の83矢!

互角……エミヤと言う過去の経験を持つとはいえ、この世界に生を受けて10年たらずで最強の魔法使いたるエヴァと並ぶのは賞賛に値する。しかし、この程度で実力を測りきれるはずもない。二人の戦いは次の展開へとうつっていった。

――戦いの歌!

魔法の射手から一転して自身への魔力供給による身体強化を施すネギ。接近戦を行うつもりなのだ。実力を測らんとするエヴァにそれを避ける理由はなく、エヴァもまた身体強化を施した。




先ほどまでとはうって変わって戦いは地味なものとなった。なんせ両者ともにまだ一撃も攻撃をくらっていないのだ。いなし、かわし、防ぐ。次々と繰り出す拳や蹴りの嵐を、互いに完全に見切っているのだ。

「ふっ」

小さな声とともに放たれたネギの高速の拳。それを当たり前のようにかわしたエヴァは突き出された拳をからめとり……

「はっ!」

そのまま投げ飛ばした。投げ飛ばされたネギも追撃を受けまいとすぐさま体勢を立て直し、高等技法”虚空瞬動”を用いて再びエヴァへと向かっていった。




戦いを初めておよそ二時間。それだけの時間戦闘を行っても二人は互いに無傷。精々服がボロボロになっている程度だった。

「やれやれ、埒があかんな」

「そうだな。だが、もういいだろう」

「ああ」

「「終わらせよう」」

二人から発せられる膨大な魔力に、足元の砂が弾け、空をまう。まるで競い合うかの様に魔力を放出する二人……先に動いたのは、ネギだった。”瞬動”、地上においての高速移動技法である。先ほどまであまり使われていなかった技法をつかってくるネギにエヴァは顔を楽しそうにゆがめる。一体、何をしてくるのかと。エヴァの頭の中にあるのはそれだけだった。

――魔法の射手・光の57矢!

無詠唱で放たれた57の光の矢。その軌道をを見たエヴァは、直ぐにその狙いを看破した。

(目くらましか!)

着弾。エヴァの足元へ向けて放たれた魔法の射手は、砂塵を巻き上げネギの姿を隠した。

「ちっ、どこだ!」

本来ならば、エヴァにこの程度の目くらましは意味はない。なぜなら長き戦いの時を生きたエヴァは非常に高い魔力察知能力を身につけているからだ。しかし、先ほどまで感じ取られていたネギの魔力を今は微塵にも感じない。完全な隠蔽……つまり、身体強化すら行っていないということだ。今のエヴァに殴られれば軽傷程度ではすまない……運が悪ければ死ぬかもしれない状況に、迷いなくその身を置くネギに、エヴァはそういう男だと知っていても戦慄した。

――解放、魔法の射手・戒めの風矢!

そんな事を考えていたからだろうか……解放された呪文が放たれるその瞬間まで、エヴァはネギの接近に気付くことができなかった。

「遅延呪文!?」

魔力の感知から発動が恐ろしく速い。そのことからエヴァはネギが”遅延呪文”を使ったと判断した。しかし、それが分かった所で回避が間に合うわけもなく、エヴァは風の矢によって体を締め付けられ捕縛される。

「なめ、るなああぁああぁああ!」

その身に宿す膨大な魔力を放出し、力づくで拘束を破ろうとする。エヴァをもってすればその時間は一秒もあれば十分だろう。しかし、ネギの行動の方が遥かに速かった。なぜなら、ネギは既に準備を終えているのだから。

――解放、雷の暴風!

風を伴う雷が、エヴァの体を飲み込んだ。




「それで、私の腕はどうだった?」

「どうだったもなにも、学園ではタカミチと爺ぐらいしか相手にならんだろう」

「ほう、それは嬉しい評価だな」

二人は机に並べられた料理を見事なテーブルマナーで食していった。

「まさか遅延呪文を使ってくるとは……いささか驚いたぞ」

「ああいう技術は身につけておいて損はないからな」

食後の一杯にエヴァ秘蔵のワインを開け、杯を交わす。最も、ネギは子供の体であるため本当に一杯だけだが。

「んむ、それでいつ使った?」

「遅延呪文か?」

「少なくとも、私はいつ遅延呪文を準備したか察知できなかった」

少なくとも魔法に関しては自分が上だと思っているエヴァにとって、遅延呪文を察知できなかったのはいささか屈辱だったのだろう。その言葉には自分を卑下にする感情が若干含まれている。

「そうだな……ここに入ってからおよそ三時間。となると、丁度四時間ほど前だな」

「んな!?」

驚愕。確かにネギは四時間前だと言った。遅延呪文は使い手が少ない技法だし、エヴァ自身もそんなに使用したことはない。だが、少なくとも四時間程の時間を簡単に遅延させられるとは思えなかった。

「ちょっとまて、それは本当なのか?」

「ああ、私は常に二種類の魔法を遅延させている。最も遅延させられる時間は四時間が限界なのでその度に術式を構成しなおしているがな」

開いた口が塞がらないとはこの事か、エヴァはネギの前で間抜け面を曝していた。

「そろそろ、私の口から今までどのような修行をしてきたか伝えておくか」

「あ、ああ。そうだな」

ネギの声でようやく気を取り戻したエヴァは頬を赤く染めながら首肯した。そして、ネギの口から麻帆良に訪れるまでの修行の内容が明かされていった。


「私が特殊だと言うことは君も分かっていると思うが、実はそれが魔法にも影響を与えていてな。世界を救った英雄”ナギ・スプリングフィールド”の息子、”ネギ・スプリングフィールド”には親譲りの膨大な魔力。そして、それを使いこなせるだけの才能はあった。しかし、実際にその体を動かしているエミヤシロウの魂にはとことん才能がなかった……才能のある体と才能の無い魂、この二つに齟齬が生じるのだ」

「齟齬?」

「ああ。例えば火を灯す魔法だが、習得と言う点においてならば私は初めて呪文を唱えた時に成功した。だが、次は魔力を多く込めて火力を強めようとしたが、これがなかなか上手くいかなかった。魔法の射手も似たようなものだ」

「なるほど、ようするに……」

習得は速いが、練度が中々上がらないというわけだ。それもかなり深刻である、と言うことだろう。事実、ネギは戦闘で使えそうな呪文は先の実力試しで使ったものを含めて十程度しかない。

「それが分かってからは、ある程度習得する呪文を絞り練度を高める修行をしながらそれらをより生かせそうな技術の習得に時間を費やした。と、まぁその結果が先ほどの戦いと言うわけだ」

「そういうことか。では、今貴様が使える呪文で一番高位なのは」

「雷の暴風だな。実用に足る呪文ではあれが一番強い。まぁ、放つだけならもっと上があるが」

エヴァは頭の中で今後の方針を模索する。この厄介そうな弟子をどうそだてたものかと、考えを巡らせているのだ。

(奴が充分だと判断したものに関しては教える必要はないな。となれば魔力の効率運用や総合戦闘等が主か。そういえばエミヤはやけに器用だったな。魔法薬や、魔法具の作り方を教えれば面白いものを創るかもしれん。ああ、ついでにアレも教えてみるか? 人の身には負担が大きいが、エミヤなら使いすぎて暴走……何て無様な真似はしないだろう。ククク、面白くなってきた)

「もういいのか」

いつのまにやら紅茶を飲み始めているネギは漸く気を戻したであろうエヴァに声をかける。途中から顔に笑みを浮かべていたことから察するに、当人にとって楽しい・面白いと思える思考だったのだろう。

「エミヤ、修行は明日からさっそく始める。平日は最低二時間、休日は最低五時間は行う。この別荘をフル活用するからな。覚悟しておけ」

「了解だ。たとえ来るのが夜中でも、ここを使えば睡眠不足に陥る心配もなさそうだ」

最後にもう一度ワインを酌み交わし、二人はそれぞれ床についた。





とある女子寮の一室。

「ネギ先生、それは……」

「刹那か。これはイギリスの知り合いに協力してもらい鍛ったものだ」

ネギの手に握られているのは一本の小刀。丁度ネギは手入れをしていたのだ。

「見せてもらってもよろしいですか?」

「構わんよ」

一応、鞘に戻して刹那に手渡す。刹那は鞘から引き抜き、あらゆる角度からその小刀を検分した。その表情はとても真剣で、戦闘中のものとさして変わらないほどだった。

「素晴らしいです。ネギ先生はこれほどのものを鍛つことができるのですか」

「さすがに一人では無理だがな。まぁ、趣味のようなものだ」

これほどのものを鍛っておいて趣味と言っては世の鍛冶師が泣くのではないかと刹那は思ったが、言わぬが花と口を開かなかった。

「気にいったのなら譲るが……他にも何本かあるから出してやろう」

「い、いえ! そのようなことをしていただくわけには!」

「気にするな、ほとんどただで鍛ったものだからな」

最初は材料は持ち込みで少しばかりの金を払って器材の貸し出しと手伝いを頼んでいたのだが、譲った影打ちが大層な値段で売れたらしく、これからも影打ちを数本鍛ちそれを譲ることを条件に材料も向こうが用意、さらには器材の貸出料もいらないと言われたのだ。なので、ある一時からネギは一銭もかけずに刀剣を鍛つことができていたのだ。

「そら、好きなのを選ぶといい」

「本当によろしいので?」

「私が持っていても殆ど使ってやれんからな。ただ放っておくより万倍よかろう」

「そこまでおっしゃるのなら……」

遠慮気味に、刹那は十本近く有る中から一つの小太刀を選んだ。どうやらその一刀が一番自分の気がなじむようだ。

「ありがとうございます」

「何、構わんよ」

「ところでネギ先生」

「何だ?」

さっぱり空気とかしていた真名が声をかける。

「私には何かないのかい?」

「あいにくと銃器は専門外だ」

この日から数日の間、真名が不機嫌だったとか何とか。それを見たネギは、とりあえず使えそうな魔法具をいくつか見つくろって真名に贈った。 
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