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《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》

作者:P笑郎
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ネメシス

 
前書き
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本当にありがとうございます。嬉しくて胸が一杯です。 

 
〈9〉





そのダンションは、先のアップデートで実装された代物だった。

都市の地下に迷路状に設置されたそれは、核戦争で文明が滅びる以前に、非人道的な兵器やモンスターを製造していた研究所だったらしい。お馴染みの設定というやつだ。

実際、後ろめたい事があったのではと思える場所だった。培養液の入ったカプセルがずらっと並ぶその様は、いかにもと言った雰囲気をひしひしと伝えてくる。そこから血痕が目立つ白い廊下を抜けて、無骨なエレベーターでさらに下へ降りると、今度はとても広い空間に出た。最下層の実験所である。

これまでの雰囲気とは打って変わって、天然の岩が剥き出しになっている空間は、天井や奥の壁が霞んで見えるほどの広大さだ。簡易の司令塔と思われるビル群や、移動のための道路まで走っていることからして、真相は実験所というよりは地下都市に近いようだった。

現在、巨大すぎるそのスペースには、野放しにされた強力なモンスター達が闊歩していた。人工灯のうすら寒い光の中、異形の姿を晒す彼らは、さながら旧文明の負の遺産と言ったところか。

しかし、プレイヤー達にとってそれらは皆、自らを強化するための経験値でしかない。鍛え上げたステータスにものを言わせ、モンスターを屠っていく”作業”には、恐怖も畏怖も存在しないのは明らかだった。こうしている間にも、大型のモンスターが光線銃の集中砲火で地に沈む。

狩る者と、狩られる者。極めてシンプルな構造がここでは出来上がっていた。そして自分は常に狩る側であることを、メイソンは一度も疑ったことがなかった。

「呆気ねぇ、こんなもんかよ」

ダンションの一角、元はコントロール施設だったと推測されるコンクリの残骸の中で、一暴れし終えたメイソンはつまらなそうに言った。

バレット・オブ・バレッツ、通称《BOB》と呼ばれるプレイヤー同士の大会まであと3日。腕が鈍らないように仕掛けた対人戦闘だったが、油断しきっていた標的は歯ごたえがないことこの上なかった。

やれやれと溜め息をついて、手の中の《ウージープロ》をくるくると弄ぶ。その姿はいつもの真っ赤な装備に、黄昏色の結わえた長髪と変わりなかったが、彼の二つ名の由来ともなった道化師の仮面だけが不在だった。

滅多に晒されない素顔は、美形と言って差し支えないものである。肉食獣を連想させる、シャープな顔立ちに似合いのつり上がった目。エメラルドグリーンに輝くそれは好戦的な光を宿している。薄い色の唇には、大抵の場合、冷笑か嘲笑が浮かんでいた。

青白い頬と目の回りに施されたペイントは、彼なりの自己主張の結果だろう。瞳を貫いて縦に走る傷跡らしきラインは、ピエロを模したものだと想像がつく。

「てめぇ、メイソン……! 引退したんじゃなかったのかよ」

不意に絞り出したような声がメイソンの耳に届いた。反射的にそちらへ銃口を向けたメイソンは、しかし次の瞬間、思わずぷっと吹き出した。派手に瓦礫に埋没し、上半身だけ露出させたプレイヤーがそこにいたからだ。

「良い格好だな、最高にイカしてるぜ。……つーか馴れ馴れしいぞお前。俺の知り合いか? 初対面のはずだろ、俺とお前はさぁ」

「はっ!? 俺のこと覚えてねぇのかよ! バカかてめぇ!?」

「……否定はしねぇが、癪に触るから黙れ。いちいち雑魚の名前なんか覚えらんねぇっつーの」

心底どうでもいい話だと思った。隠すつもりもなかったので、態度と言葉で丁寧に伝えてやると、その男は屈辱にぶるぶると身を振るわせた。自由に動かせる両手で地面を叩いて罵っている。

「調子乗ってんじゃねぇぞクソ! お前、こんなことして《ネメシス》が黙ってると思ってんのか!?」

「……ネメシス?」

どこかで聞いたことがある響きだった。それをきっかけに、メイソンは半年以上前の記憶を慎重に掘り下げていく。埋没したピースを復元するのは、殊の外難しい作業である。

数秒の後、カチリと何かがはまる音がした。

ーーあぁ、あれか!

とアホ面で叫ぶことをすんでの所で押さえ、メイソンは唇をつり上げて言った。

「あっは、思い出したぜ。頭数だけは立派なボンクラ集団じゃねぇか! どうりで歯ごたえがねぇわけだ。するとお前はあれだろ…………そうだな…………リーダの腰巾着的な何かか?」

……参った。雑魚の話になるとどうも記憶力に自信がない。それを挑発と勘違いしたらしいプレイヤーが、顔を真っ赤にして怒鳴った。まさに怒髪天をつくといった様子だ。

「巫山戯たこと言ってられんのも今の内だ! もうゼロさんには連絡はつけといた。あの人がそのつもりなら、今頃は出口封鎖してお前のこと殺りにくるぜ!」

「ふん、おもしれぇ」

メイソンは笑みを張り付かせたまましゃがみ込み、喚く男の眉間にゴリッと銃口を押しつけた。彼は怯んだように口を閉じる。彼の表情を楽むようにのぞき込んだメイソンは、べろんと長い舌を出して馬鹿にした。

「ーーさぞ気分が悪りぃだろうな。スコードロン総出で、プレイヤーの一人も仕留められなかったさぁ。目に浮かぶようだぜ、お前らが猿みたいに顔真っ赤にして騒ぐ姿がよぉ」

「……っ! 黙れ! お前っ、お前がっ!」

男はもはや興奮しすぎてろくに喋れないようだった。良い趣味ではないと自覚しているが、完全に屈服させた人間をからかうのは楽しい。しばらくの間存分に男の様子を観察したメイソンは、遊んでいる暇もそれほどないと思い至り、ひと思いに引き金を引いた。

パン、と乾いた銃声が空気を振動させる。薬莢が地面に落下して音を立てる頃には、男のアバターはポリゴン片となって爆散していた。罵倒の続きは街でたっぷり出来ることだろう。

「……さてと」

メイソンは装備についた塵をはらって立ち上がった。ごきごきと首を鳴らして、今後どう動くか軽く考えを巡らせる。

あのように啖呵は切って見せたものの、状況は正直言ってよろしくない。

半年間のブランクがあるのにも関わらず、よく調べもしないで狩り場をここに選んだの失敗だった。出口を封鎖したという言葉が真実であれば、すでにそれなりの《ネメシス》のメンバーが到着したと見て間違いない。

袋の鼠。時間が経てば経つほどこちらが不利になる仕組みである。

ならば、早急に行動を起こした方がいい考えるのは当然で、残弾を確認しつつ一歩を踏み出した、まさにその時だった。

カランッ、と何かが目の前を転がる。始めは落ちてきた瓦礫かと思ったが、コンマ数秒の時間を置いてそれが間違いだと悟る。

メイソン自身もよく使用する武器、プラズマグレネードだった。

薄い外装を突き破り、急速に膨れあがったプラズマの奔流を、躱すことができたのは殆ど奇跡だった。完璧な不意打ちである。

油断していた我が身を呪いつつ、2丁の《ウージープロ》を振り上げたメイソンの目に映ったのは、物陰から飛び出し、銃口をこちらに向ける複数のプレイヤーだった。それなりに腕に覚えのある連中であることは動きを見れば分かる。表示された数え切れないほどの弾道予測線に、メイソンはたまらず壁際へと飛んで逃げた。

一瞬、彼らが胸に付けているエンブレムが見えた。翼と剱を持つ女性の絵は、戦女神とも取れるがそうではない。メイソンの記憶が正しければ、あれは”神罰”の象徴たる《ネメシス》を意味するものだったはずだ。

事態は、自分の予想よりも急ピッチで進行していたらしい。

「糞……!」

空中で体を捻り、壁を思い切り蹴飛ばしたメイソンは、その勢いで敵の眼前へと突っ込む。弾丸が不吉な音をたてて頬を掠めた。

着地と同時にメイソンの銃口が持ち上がり、間近で呆けていた2人に風穴を穿った。が、如何せん敵の数が多すぎる。

敵の前衛は確認できただけで20人近く。後方に控えるプレイヤーがそれより多いことはないが、それが勝機に繋がるとは到底思えなかった。

狙いを定める暇も惜しく、敵をなぞるようにして引き金をひくメイソンは、このままでは弾丸が持たないことに気がつき始めた。

じわじわと流れが敵の方に引き寄せられているのが分かる。

何も考えずに突進したくなるような衝動を抑えつつ、メイソンはセミオートに設定した《ウージープロ》に途切れ途切れの銃火を閃かせた。すると、比べものにならない数の反撃が返ってきて、知らず奥歯を噛みしめる。

自慢の素早さでも全弾回避は叶わない。着弾の鈍い衝撃を受けてメイソンは顔を歪ませた。

咄嗟にプラズマグレネードを投げ込み、それを目くらましにして敵の視野から逃れる。側面から一気に強襲してやるつもりだ。正攻法では歯が立たないのは、悔しいが認める他なかった。

しかし、その策も一瞬のうちに看破され、メイソンは驚きに目を見開いた。舞い上がった粉塵の中、またしても着弾予測線が体をなぞったのだ。完全とは言えないにしろ、敵の目は確かに潰した。なのに、なぜーー?

体をギリギリまで倒し、弾丸をやり過ごす。その勢いを借りて地面を一回転すると、上手い具合に敵の狙いが外れてくれた。半分以上勘で引き金を絞り、敵を牽制する。布陣が乱れた隙をついて、さらに一人敵を仕留めることに成功したが、状況は一向に良くならない。いや、むしろ矢継ぎ早に入れ替わる敵の勢いに押されつつあった。

苦戦の理由はそれだけではない。

途中、何度か敵の視線を振り切った感覚があったのだが、不思議なことに、連中はこちらの位置を正確に把握しているようだった。まるでレーダーでも使われている気分だ。焦りが雫となって額を伝う。

気がつけば、入り組んだコントロール施設跡から追い出され、岩が剥き出しなった後方の空き地まで追い込まれていた。

爆発実験でも行われていたのか、高熱でガラス化したクレーターが転々と存在している。

そのうちの一つに飛びこみ、最後のマガジンを《ウージープロ》に差し込んだメイソンは、HPもイエローゾーンに突入していることに気がつき盛大に舌打ちした。味わったことない屈辱だった。三下と侮っていた相手にここまで追い詰められたのもそうだが、自分の速さが通用しないという事態に陥ったのは初めてだったのだ。

気持ちを切り替えるように首を振ると、オレンジ色の尻尾が肩に掛かった。ーーまだ、終わってない。なにかあるはずだ、逆転の糸口が……

瞬間、拡声器で拡大されたバカでかい声が、いんいんと周囲に響き渡り、メイソンの鼓膜をも振るわせた。

『ハロー、ハロー!? 聞こえてるかぁ? ひっさしぶりだなぁ、メイソォン。それにしても腕が鈍ったんじゃねぇの? 岩陰でガタガタ震えてんのが見えるぞ』

その声には聞き覚えがあった。メイソンはうんざりの度合いをぶち破って、情けない顔になった。銃身を額にぶつけながら呟く。

「……うるせぇのが出て来やがった」




 
 

 
後書き
最近飴をなめています。一日一袋ペースです(←ファッ!?

虫歯以前にお肉がwww
 
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