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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
挿話集
  妖精達の凡な日常③

 
前書き
セインとシウネーの恋路は如何に!? 

 

ちょっとした騒ぎがありつつも、買い物を終えたセインはアシュレイの店からは少し離れたイタリアン調のレストランで軽い食事をしていた。
このままゲームプレイを続けるならばログアウトしてリアルで食事をとるべきだ。セインはそこのところを疎かにしないタイプのVRMMOプレイヤーだったが、先ほどのこともあって食欲があまり無い。

シウネーまで付き合わせるのも何だったので、彼女には一度昼の休憩を取って貰う事にした。

そう言う訳でセインの向かい側の席には意識の抜けたシウネーのアバターがいる。
雑踏の中を吹き抜ける風がシウネーのロングヘアーをサラサラと揺らし、その静かな寝顔を覆い隠した。

(……何だかこうやってじー、と見ているのはイケナイ事のような気がするなぁ……)

思わず、その整った顔立ちを隠してしまった髪を払い除けようと身を乗り出して手を伸ばす。
ログアウト中の意識の無い他人のアバターに手を触れるなどという非マナー行為は親しい間柄でもタブーだ。

しかしこの時、セインの頭からその事はすっぽりと抜けていた。
あまりにシウネーとの時間が自然で、心地よくて、無意識に体が動いていた。
絹のように柔らかなそれを指先でサッと肩に払う。

「ハッ……⁉︎」

正気に返った所で硬直。慌てて身を引こうとしたところでタイミング悪くシウネーが目覚めた。

「…………」
「…………」

両者はかなりの近距離で見つめ合っている。体勢としてはセインが片手をシウネーの肩に置き、シウネーはそんなセインを上目遣いで見上げていて、心無しか彼女の視線には何かを期待するような成分が混じっている。

ーーー当の相手であるセインはどう考えても言い訳出来ない状況で思考が停止し、生来の鈍感さも合間ってそれに気が付いていないのが現状だが……。

「あの……セインさん……?」
「っ⁉︎……な、何でしょう⁉︎」

何でしょうも何も現在進行形でハラスメント行為を行っているのはセインの方なのだが、そもそもシウネーがこの行為を勘違いしていた為にその事を突っ込まれる事は無かった。だが…………

「その……ここは人目が多いので、出来ればもう少し静かな場所が……」
「へ?……あ、ち、違います!すみません。失礼しました‼︎」

頬を染めてモジモジし出したシウネーを見てようやく己のした事を再認識したセインが飛び退くように離れ、深々と頭を下げた。このレストラン、値段も安く、席もたくさんあるので気軽に入って時間を潰す事が出来るのだが、つまり常にそれなりのプレイヤーがたむろっている。
端から見れば頬を染めた美人に男が頭を下げている光景は、つまりはそうゆう事にしか見えない。
すなわち、ナンパかプロポーズ。事実、辺りのプレイヤー達は密かに聞き耳を立てたりしている。

ーーー閑話休題(それはともかく)

「では、これからどうしましょうか?」

互いに落ち着きを取り戻した後、メニューからエスプレッソ的な何かを注文し、今後の予定を話し合う。
急な事とは言え、彼とて女性を誘う手前無計画に呼び出した訳では無い。以前レイやハンニャが何故か彼に吹き込んだ、アルン周辺の穴場スポットの中から候補地を幾つかリストアップしていた。

「アルン北東部に大きな湖があるんですが、そこに行ってみませんか?道中厄介なモンスターも出ませんし、湖も余程奥に行かなければ安全ですから」
「湖ですか……。そう言えば私、アインクラッド以外のフィールドにはあまり詳しく無いです」
「丁度良いですね。僕はALOでは古株なので良かったら案内しますよ?」
「本当ですか?じゃあ、お願いしますね」

そうゆう訳でとりあえずの方針は決まった。






















厄介なモンスターは出ないとは言え全くの無警戒とは行かない。最近導入された制度でアルンを囲む高原には24時間毎にランダムで配置が変わる邪神級NMが居る。運悪くそれに遭遇しようものなら中々面倒な事になる。
が、幸いにもそんな事は無く無事に目的地である《ガモス湖》に到着した。

「わぁ……‼︎」

まるで海のような広大な湖。春の穏やかな日差しが水面に反射し、キラキラと輝いている。

「綺麗な所ですね!」
「ええ。クエストとかでもあまり来ないので、本当にただの観光地ですけど……」
「そういう所も良いですね」

ただ、容量をやたら食う液体環境を、しかもこんな巨大な湖として作るはずが無い。セインは密かにその事を不審に思っていた。
まあ、あのハンニャですらクエストを見つけていないのでただの思い過ごしなのかもしれないが。

湖畔は湖に向かって緩やかな坂となっていて、水面と接する所は海の様に砂浜となっている。

「まるで海みたいです。……あら?湖なのに波が……」
「現実世界だと風とか、湖を横断する船が波を造るらしいですけど」
「そうなんですか……ですが風は穏やかですし、船は通ってませんね」

と、言いつつシウネーはブーツを徐装し、水の中に入って行く。
念のため辺りに索敵をかけてみるが、前情報通りモンスターはあまり出ないようだ。

「きゃ……⁉︎」
「っ!どうしました⁉︎」
「あ、いえ。……エフェクトだと思っていた小魚が、どうやら動的オブジェクトだったみたいで……少し驚きました」
「な、なるほど……」

ALOフィールドにおけるモンスター以外の動的オブジェクト、鳥や虫、魚などは特定のアイテムによる捕獲、もしくはそれ自体がアイテムに設定されていない限り触れる事は()()出来ない。おそらくその小魚はアイテムの類いだったのだろう。

「見たこと無い種類の魚ですね。レアアイテムでしょうか?」
「さぁ……採取系のクエストはあまり受けた事が無いので、何とも言えませんが……」
「え……道具をお持ちなんですか?」
「いえ、このようなアイテムは道具が無いと入手出来ないのが原則なのですが、ここはVRMMO……しかも《プレイヤースキル制》の仕様ですから。素手で捕る事も出来なくはないんです」

勿論、その裏ワザは生易しい技術ではない。
セインがこの技術を修得したのは少し前にレイが彼に課した地獄修行の副産物…………のようなものだ。

(まぁ、お陰で今役に立つんだけど……)






















「ーーー何?」
「うん……ユウキさんとの試合で使った『あの技』を僕に教えて欲しい」

レイは頬を指で掻くと、眉間にシワを寄せながら言った。

「何故?」
「もっと強くなりたいから……じゃダメかな?」
「いや……俺が聞きたいのは何故『あの技』なのか、という事なのだが……」

それだけ言うとレイは何かを言おうとするセインを制し、掛けていた椅子から立ち上がった。

「セインの器用さならあるいは出来るだろう」
「本当かい⁉︎」
「……本当にどうした、お前。妙だぞ?」
「え?……いや……そうかな?」
「まあいいがな」

「修行は厳しいぞ、若人よ」と、レイは黒い笑みを浮かべるのだった。
















(イメージは『水』……そっと、撫でるように)

湖に膝辺りまで浸かると、スッと両手を水に入れる。仮想の水圧が現実とは微妙に違うそれを感じさせるが、セインは《修行》を仮想世界でしかしていないため、あまり関係ない。
小魚はセインが手を入れた瞬間こそサッと散って行ったが、水面の波紋が収まるにつれ元のルーチンルートを泳ぎだす。彼はそのルートを割り出し構える。

自分から小魚(攻撃)取り(防ぎ)に行くのでは無く、『向こうから飛び込んでくるのを察知しその予測地点に手を添える』。これがレイの《観の目》の原理だ。

「ふっ……‼︎」

セインは自ら彼の手の中に入って来た小魚を岸に向かって弾いた。


陸に上げられた1匹の小魚は数秒間跳ねていたがやがてその動きを止め、セインのアイテムストレージに格納された。
本当に素手で魚を獲れた事に感激した様子のシウネーの拍手に若干照れつつウィンドウを開く。

(アレ……?)

だが、新規入手欄に現れたアイテムは魚ではなかった。

《翡翠魚の鱗》

ランク的には確かにレアものではあるが、特に用途も聞いたことの無いアイテムだった。
ストレージからそれをオブジェクト化しシウネーに見せるが、彼女も知らないらしい。

「すみません。なんだか大した事無くて……」
「いえいえ、凄かったですよ!セインさん」
「あ、ありがとうございます」

シウネーの素直な賛辞にセインは少し頬を染めた。
























アルヴヘイムの1日は短い。これは決まった時間帯にしか出現しないモンスターを決まった時間しか入れないプレイヤーも狩れるようにするための仕様だ。
便利なこの機能だが、人間の本能として辺りが暗くなると目的が無い限り何となく街へ戻って来てしまう。
セインとシウネーもまた、あれからアルン沿革の観光スポットを気の向くままに回ってからアルンに戻ってきた。

「はぁ〜。凄く楽しかっですね!」
「それは良かったです。僕も行った事の無い所もあったので、上手く案内出来たか不安で……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと楽しめました」

彼女のその綺麗な笑顔が素敵で、暖かくて…………愛おしかった。
互いの腕はいつの間にか組んだまま。今思い出してみれば他の場所でも腕を組んだり、手を繋いだままだったかもしれない。

(素直じゃないな、僕は……)

本当は自分の気持ちに気付いていた。なのにその事を考えようとはしていなかった。それは自分が現実とゲームを区別し、光也とセインを別人としていたから。
VRゲームが普及し、現実世界と仮想世界の差は2D時代に比べ格段に無くなった。人々はそれに気がつき差別化しようとしつつ、仮想世界もまた現実であるという事を受け入れなければならない。ゲーム内で出会い、会話する相手は間違いなく何処かに存在する人間であるし、そこで交わされる言葉や感情は現実のものと何ら変わりはない。

人々はVRゲームをプレイするのは他の誰でもなく自分の事であり、対峙しているのは紛れもなく同じ人間であることを認識しなければならない。



故に、そこに恋慕が生じればそれは間違いなく自分の相手を想う気持ち。ゲームを構成するコードでは無く、自らの魂から生じた自分の正直な気持ち。
相手が手の届く所、触れ合う事が出来る身近な所に居る。魂が求めている、堪らなく愛おしい人が隣にーーー


「シウネーさん」
「はい、何でしょうか?」
「まだお時間は大丈夫ですか?あと一つ、行ってみたい所があるんですが」
「もちろん大丈夫ですよ。どちらへ?」
「世界樹中腹にある展望エリアです。ここから直接翔んで行けますよ」
「分かりました。……じゃあ、下は向かない方が良いですね」
「はは。お願いします」


















世界樹の中腹には幾つか独立した展望台があるが、一つにつき3、4人が同時に立てるぐらいの広さしかない。飛行制限が無くなったアルヴヘイムでこんな所に展望台がある理由は不明だが、いづれにせよここはあまり人が来ない。

「綺麗です……」

手を取り合って降り立ったそんな小さな展望台から夜のアルンの街並みを見下ろす。
雑貨店や露店商、宿やレストラン、街灯から漏れる様々な色の灯りがアルンを彩っていた。アルンを囲む水路もそこを航行する船と街の光を受け、光のリングのように煌めいている。

「シウネーさん、あっちを見て下さい」
「……!あ、あの湖は……」
「先程行った所ですね。こうやって見ると随分と小さく見えますが」
「何だか……少し緑色に見えませんか?」
「そう言えば……あ⁉︎」

突然あげた声にシウネーが驚き振り返ると、セインとシウネーの間に翠色の球が2つ浮いていた。

「これは……」
「さっきの魚の鱗……?」

翠色の球はまるで生きているかのように鼓動し、光り続けている。視線を戻してみれば湖もまた同色の光がまるで共鳴しているかのように輝いていた。

やがて光が収まり、2人の手にそれぞれオブジェクトが落ちてきた。
緑がかった水晶のリング、その奥からは光の粒が次々と湧き出ては消えていた。

「……そうゆう事か」
「え?」
「いえ、こちらの話です。…………シウネーさん」
「え、あ、はい‼︎」

彼にこの穴場スポット……もといデートスポット巡りを細かく、順番通りに進ませるように理詰めを交えながら吹き込んだ2人の意図はつまりはこのためなのだろう。
どうしようもない世話焼き、いや、お節介というか、何というか……。
彼らだって忙しいのだろにここまでわざわざお膳立てして貰ったのだ、彼らの善意に報いる為に、自分の為にしっかりと応えねばなるまい。



「僕は……貴女の事をもっと知りたいです」
「‼︎……え、あ、あの……」
「本気です。シウネーさんの事も、名前も知らない貴女の事も!」
「っ…………」

シウネーは手の中のリングを握り締めると、俯いて肩を震わせた。

「っ……セインさん……」
「はい」
「私は……っ‼︎」
「わっ……⁉︎」

何かを耐えかねるように声を詰まらせた彼女はセインの胸に抱きつき、静かに泣きはじめた。普段おしとやな様子からは想像出来ないその行動にセインはしばしの硬直を強いられる。
空と地上が光に彩られる中、可憐な妖精はようやくたどり着いた止まり木に掴まり、長く、苦しい孤独を終わらせようとしていた。














数週間後。



「ね、螢」
「んー?」
「シウネーとセイン、最近どうなの?」
「ん……何でもこの間リアルで会ったらしいぞ。仲良くやってるみたいだ」
「そっか。ジュンがさぁ〜、この間それ知って血涙流してたからどうなったかなぁーって」
「残念ながら離れる様子は無いな。ご愁傷さまって言っといて」
「りょーかい」

木綿季がSAO生還者の為の学校に編入して来てから数日が経った。
俺はまだ松葉杖が手放せない状態だが、回復傾向はある様なので近い内に元の生活に戻れるだろう。

セインこと三沢光也とシウネーこと安施恩(アンシウン)さんが恋人同士となったのはもう数週間も前で俺が死にかけてから数日後の事だった。
「気持ち悪い」と神医、水城雪螺に言わせる程の回復力で一般病棟に移り、あろうことか(多分意図してだろうが)隣になった姉、桜と頭の悪い悪口の応酬を繰り広げていた時、一足早く退院し、見舞いに来ていた沙良によってその事を知らされた時はやっとか、という思いだった。

「ーーーさて、昼休みももう終わりだし、戻ろう」
「はぁい」

やや不満そうなユウキが立つのを手伝うと並んでゆっくりと校舎に向かって歩き始める。

「そだ、木綿季」
「ん、何?」
「紺野木綿季さんは水城螢の恋人、未来の嫁さんです」
「っ⁉︎……ど、どうしたの急に⁉︎」
「悪い悪い。だけど、真面目な話な」
「……うん」

さっと晩春の生暖かな風が2人を撫でる。

「水城の家は……古い言い方をすれば『武侠』と言われる一族なんだ。ちょっと違うが言い換えれば任侠、極道みたいなものだ。意味は分かるな?」
「うん」
「もちろん、家を継ぐのは蓮兄だから俺達はあまり関係ないって言えば関係ないけど……近い内に水城と同じ武侠の人達と関係者が一同に会する集まりがあるんだが……そこの絶対遵守の規約によれば「いいよ」木綿季も……って」

「沙良に聞いたよ。ボクも将来『水城』になる人だから、螢と一緒に居たいなら覚悟ておいたした方が良いです、って」

「そう、か」

ーーー覚悟が足りなかったのは俺の方か……。

「……じゃあ頼むよ、木綿季」
「任せて、螢。もうずっと、一緒に居るから」







空を見上げれば東の空は少し灰色に染まって来ている。
穏やかな春は過ぎ去り、暗雲立ち込める梅雨の時期がやって来るのだ。

普段は何ともない左腕の義肢、その接合部がジンと疼く。

それは新たな戦いの前兆であり、闇に隠れていた因縁が再び現れる予言だ。
 
 

 
後書き
ふう……予想外に難産だった。
やっぱり自分は砂糖担当ではない(確信)

この番外編は主人公のレイ君無しで繰り広げるはずが、最後の最後で我慢出来ず出て来てしまったようです。この目立ちたがりやめ。


最後のはまあ、アリシゼーションの最初の方の前振りと時系列の説明ですからそんなに気にせず流して下さい。

久々の執筆で表現方法とか前にどんな事書いたっけ?のように記憶喪失気味でやや時間がかかりました。紅き死神本編の更新はまただいぶ先になってしまうかもしれませんが、気長に待っていて下さいm(__)m

つぶやきにてアンケートを開催しております。良かったら答えて下さい。


感想やご指摘お待ちしております。


デートスポット監修

涙カノ先生、FMラジオ先生、霊獣先生、蕾姫先生、Cor Leonis先生、鋼鉄の翼先生

順不同
ご協力ありがとうございましたm(__)m 
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