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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos17リンドヴルム~Collector of The Lost Logia~

 
前書き
諸君、私は「HELLSING」が好きだ。諸君、私は「少佐」が好きだ。諸君、私は「少佐の演説」が大好きだ。
 

 
†††Sideシュリエルリート†††

『――で、ロウダウナーがようやくゲロッたのだけど、征服剣はどうやらリンドヴルムの手に渡ったらしいのよ』

「リンドヴルム?・・・・ああ、あのリンドヴルムか」

主はやてや皆が眠りに着いている今は0時。私は喉の渇きを覚えたことで台所に水を飲みに行こうとしたところ、本当に小さな話し声が漏れ聞こえて来るのに気付き、声の出所であるルシルの部屋へ寄った。そして聞こえてきたのが、今の会話だ。いったい誰と連絡を取っているのかと思い聞き耳を立ててみる。

「よく聞き出せたな。結構頑なに拒んできたんじゃないか、連中」

『まあね。でも、管理局(うち)にも聴取のプロが居るのよ』

「プロ?」

『それは秘密。こっちとしても管理局の捜査情報をあなた達に流す危険行為を犯しているんだから』

ルシルは管理局員と連絡を取っていたのか。犯罪者の情報にやけに詳しいな、とシグナム達と話していたのだが、ルシルのことだから何でもアリ、という結論に至っていた。まさか管理局員に協力者がいたとは驚きだ。となると、先日の蒐集ミスの一件。情報未確認というのはおかしな話になってくる。管理局員から情報を得ているのであれば間違えるはずがないのだ。では何故ルシルはあんなミスを犯した?

「そうだった。グレアム提督にはいつも世話になっています、と伝えてほしい」

(グレアム!? 主はやてのご両親の友人、ギル・グレアムの事を言っているのか・・・!?)

驚くべき事実は再び、だ。もしそうだとしたらとんでもない事態だ。協力者とは言え管理局に主はやての正体を知られている。もし彼らが我々を売ったりでもすれば、一気に不利になってしまう。コレは私ひとりで抱えるには重い事実だ。が、ルシルを信じたい、という思いもあるのだ。シグナム達に知らせるのは少し待とう。

『・・・父様は少し懸念しているわ。あなたが犯したミスは管理局に波紋を呼び、そしてパラディース・ヴェヒターが闇の書の守護騎士だっていうことも知られて。でも父様はあなた達を切り捨てるつもりはないらしいわ。まだあなたに賭けているからよ、ルシリオン。あなたは言った。闇の書ははやてに掌握される。闇の書の旅路ははやての代で終わるのだ、って』

(何の話をしている・・? ルシルは何を根拠にそんな事を・・・?)

“闇の書”に終焉が訪れることを知っているとでも言うのだろうか、ルシルは。いや管制プログラムである私だからこそそれはない、と言える。私は――“闇の書”はもう壊れている。此度の主、八神はやて。あの優しく温かい幼き少女の未来は守りたい。しかしそれは難しいのだ。シグナム達は記憶が曖昧で憶えていないようだが、今の“闇の書”は災厄をもたらすだけの破壊兵器と化している。しかも主を取り込んで成る兵器だ。
ゆえに完成させたとしても主はやての病は治せない。止めたい気持ちもある。が、蒐集しなければ主はやての死期を早めてしまう。どちらを選んでも手詰まり。私はもちろん、おそらくルシルも知っているはずだ。それを承知で蒐集させているということはやはり知っているのだろうか、“闇の書”の旅路を終わらせる方法を。

『父様だって本当は八神はやてを犠牲にしたくないって思っているもの。あたし達もそうよ』

「・・・判っている。だから俺たちは協力することにしたんだ。はやてを犠牲にせずに闇の書の旅路を終わらせる為に。だから今はただ、信じてくれ、と言う他ない」

『・・・以前、協力関係を結んだ際にも言ったように具体的な策を教えてもらいたいんだけど』

私も知りたいぞ、ルシル。しかしルシルは「それは結果で示そう」と口にすることはなかった。相手も『まぁそんな気はしてたから深くは訊かないわ』と流した。

『だけど、以前伝えた通りあなたの策が失敗するような状況になった場合、こちらの策が優先されるから』

管理局の策とはなんだ。これまでのように艦載砲で蒸発でもするのだろうか。いや、それは策とは言えんな。また別の手を取って来るのかもしれない。警戒しておかなければ。

「判ってる。グレアム提督や君たちの為にも失敗はさせない。それでリーゼアリア。今回の連絡の本題はなんだ?」

『あーそうそう。リンドヴルムが動き出したって話なのよ。リンドヴルム。古代遺失物ロストロギアの収集家。その素性、外見も不明。高ランクの私兵魔導師を抱え、次元世界に解き放ってロストロギアを収拾する、胸糞悪いコレクター』

「それが? 征服剣の捜索は管理局の仕事じゃないか」

『はぁ。判らないの? あなた達を狙っているのはロストロギアの収集家リンドヴルムをリーダーとした魔導師集団なのよ、ロストロギア・闇の書の裏の参謀さん?』

「「っ!」」

息を呑む私とルシル。リーゼアリアという女性は『連中の情報網は計り知れない。おそらくキャッチしているはずだわ』と気になる話をした。

「あーあ。管理局の相手をしなければならない時にまた面倒な相手が来たものだ」

『それもあなたの情報確認ミスが招いた結果よ。まったく。しかも蒐集したのは11年前、闇の書の暴走時に殉職したクライド君――ハラオウン提督の妻子の乗艦する艦船アースラの関係者・・・あっ!』

「何か?」

『・・・何か、じゃないわよ。あなたは知っていたはず。PT事件が終わっていたのも、プレシア女史が死んでいる事も全部!・・・何せPT事件を引っ掻き回した、死亡扱いされている被疑者テスタメントなのだから・・・! そうよ。フェイト・テスタロッサが無実であることも、高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスが民間人であったことも・・・。どうして、知っておきながら蒐集したの!?』

待て待て待て。彼女の話が事実だとすれば、ルシルはわざと民間人から、しかも管理局と関わりのある者から蒐集したことになる。そんなことをすれば否応なく管理局に目を付けられるだろうに。判らない。かつての主、オーディン以上に読めない。ルシルの心の内が。
彼は一体何を考え、目指し、事を成そうとしているのだろうか。主はやての未来を守りたいのではないのか? どんな返答をするのかと胸が苦しくなるような思いでいれば、「決まっている。はやての為だ」とルシルは簡潔に、それが当然であるとでも言うように即座に答えた。

『八神はやての・・・?』

「そう。俺が描いているシナリオは全てはやての未来の為だ。まぁ少々強引、それに悲しませるような思いをさせているけど、それは最高の結果の為。過程である今は少し辛いだろうけど耐えてもらうしかない」

(ルシル。お前は本当に一体何を見ているのだ?)

「ありがとう、リーゼアリア。心配してくれているんだな」

『んなっ? べ、別に心配しているわけじゃないわよ! ただ、そっちが捕まったことで父様に迷惑を掛けないでほしいっていうだけよ! 伝えたからね! 父様の為にも負けたら承知しないから!』

怒り、もしくはテレ隠しか、その大声を最後に彼女の声は途絶えた。通信が切れたのだろう。と思えば、『おっと、あともう1つ報告があったんだった』と続けた。

『あなた達の捜索・逮捕を担当するアースラからリーゼ(あたし)達に、闇の書の情報を集めるよう協力要請が来たんだけど。どうする?』

「どうするって・・・、受けるしかないじゃないか。断ったら変に思われるだろうし」

『そうじゃなくて。どこまで集めさせていいのかって話よ。あなた達にとって知られたくない情報だってあるんじゃ――』

「無い。そんなものは無いよ、リーゼアリア。隠す必要も無い、嘘を吐く必要も無い、包み隠さず、納得のいくまで情報を集めさせてオーケーだ。遅かれ早かれいずれは辿り着く真実の扉。そうだな、12月25日。その日までには辿り着いて、ノックをし、扉を開け、知っていてもらわないと。闇の書の抱える真実を」

『・・・そう。じゃあ、怪しまれない程度に手伝うわ。それじゃあね』

今度こそ通信が切れたのか静まり返るルシルの部屋。私は「ルシル。いま良いだろうか」扉をノックしながら呼びかける。

「シュリエル? どうぞ」

「失礼する」

入室を促されたことで私は部屋へ入り、ベッドに腰掛けて自身の周囲にいくつも展開されているモニターと睨めっこしていたルシルを視界に収める。

「もしかして、聞いていたりしたか今の」

「あ、ああ。・・・ルシル。お前の心の内はどうなっている? 先の子供たちのことを知っていたそうだな」

私はルシルを責めるつもりはない。ないのだが、その口調は責めているかのようになってしまった。ルシルは僅かに自嘲するかのような乾いた笑い声を漏らした。

「知っていた。彼女たちの名前も、魔導師であることも、民間人であることも全部。半年以上前、俺はテスタメントという偽名を名乗り、変装したうえでジュエルシードを巡って彼女たちと戦った」

ルシルは話してくれた。強大な魔力を秘めた宝石ジュエルシードを巡る戦いを。参加した理由はやはり、“エグリゴリ”を打破するため、だった。そして、どうしてあの子供たちを狙ったのかも。確かにそれは、主はやての為、とも言える理由だった。だから信じようと思う。彼が描く、未来予想図(シナリオ)、というものを。

†††Sideシュリエルリート⇒シャマル†††

私たちは今、本拠地である日本を離れて他国(ルシル君の話じゃ中国という大きな国)に赴いている。場所は複雑な地形の上に存在しているゴーストタウン。私としてはこの世界を離れて別の世界を戦場にしたかったんだけど、それはルシル君が反対。同じ世界、だけど別の国を戦場として選んだ。

――向こうも情報網がすごいようなんだ。おそらく俺たちの本拠地が第97管理外世界・地球であることも知っているはず。もし、連中が俺たちに会いに来たとして、そこに俺たちが居なかったら? 連中は目的のためなら手段は選ばないそうだから、下手をすれば――

「原住民に攻撃しかねない。私たちを挑発して呼び込むために、か・・・」

そんなことをさせるわけにはいかない。万が一にはやてちゃんや私たちの住む街が標的になったとしたら。想像するだけで恐怖と怒りで頭がどうにかなりそう。だから私たちは連中を、リンドヴルムをこうして待ち構えている。私たち“闇の書”を収集するために、私たちを撃破するための戦力を。

『私はランサーの指示通り各騎の戦闘状況を知らせる後衛に回るわ』

『『『『『ヤヴォール!』』』』』

ランサーことルシル君、セイバーことシグナム、バスターことヴィータちゃん、マスターことシュリエルから強い返事が。私は側に控えているザフィーラに視線をやって、「護衛をお願いね、ガーダー」私を護ってくれるザフィーラに小さく頭を下げる。

「任せておけ。ランサーは本気を出すと言っていた。我が抜けたとしても問題はあるまい」

そう。ルシル君は今回の戦いの相手によっては今の今まで出したことのなかった本気を出すって言っていたわ。オーディンさんに比べて魔力量は少ないけど、それでも強力な魔導騎士。そんな彼が本気を出した時、連中はきっと思い知るわ。私たち――八神はやての騎士にケンカを売ったことがどれだけ無謀なものなのかを。

(はやてちゃん。今日一日、一緒に居られなくてごめんない)

はやてちゃんには申し訳ないけど、今晩だけは一緒に居られない。だけどその代わりに、ルシル君とシグナムとヴィータちゃんが間違って蒐集しちゃったあの子たち、なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、そして・・・。

(イリス――ううん、シャルちゃん)

イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト。かつて共に戦った騎士リサと同じミドルとファミリーネームを持つあの子たちとお泊り会。フェンリルを召喚して2人きりにするよりも、新しく出来たお友達と親睦を今のうちに深めた方が良いっていうのがルシル君の意見。どうやらルシル君は全てを片付けた後、はやてちゃんとなのはちゃん達に魔導師付き合いをさせたいみたい。

(私としてもその考えは良いと思うし、大賛成。だけど・・・)

シャルちゃんとフェイトちゃんは管理局員。そんな2人が居る中にはやてちゃんを置いておくのは少し恐い。一応、はやてちゃんの魔導資質――リンカーコアはシュリエルが手にしている“闇の書”の中。管理局に連れて行かれて精密な検査を受けない限りはバレないはずとは言え。
さらにもう1つの不安。なのはちゃん達が魔導師であること、間違って蒐集してしまった被害者であることを、はやてちゃんにはまだ伝えていないことだわ。もし万が一にでも魔法の話が予期せぬ形ではやてちゃんに伝わったりでもしたら、私たちの正体が管理局に知られることに。

(・・・っ! 来た!)

不安を無理やり払拭しないといけない状況になった。はやてちゃんとなのはちゃん達への不安を頭の片隅に追いやる。

『各騎に通達。ランサーの情報通り、リンドヴルムの構成員と思われる敵性魔導師が結界内に侵入した模様。注意して、みんな』

『『『ああ!』』』『おう!』

私の張った結界に侵入者が入り込んできた。数は4人。私の前面にルシル君たちを表示させたモニターを展開。続けて結界上空、侵入者4名を表示したモニターを展開。全員が紫一色のローブを纏っていて、フードで素顔を隠してる。裾の方には飛竜のエンブレムが描かれてる。

「これがリンドヴルムのロストロギア収集の実行部隊・・・。あ、『こちらヒーラー。敵数は4名! ランサー、セイバー、バスター、マスターの元へ――』」

私とザフィーラを結界の中心点として、北方1km先のビルの屋上にヴィータちゃん、東方1.5km先の運動場にシグナム、南方2.5km先の公園にルシル君、西方2km先のショッピングモールにシュリエルが居る。連中はそんなみんなの元へ降り立った。

『違う、ヒーラー。結界外にもう1人いる。遠距離系の魔導師か、もしくは連絡係か、おそらく前者だ。各騎――特にヒーラーは要注意。ガーダー、最大警戒を』

『ヤヴォール、ランサー』

気付かなかった。私の魔力探査能力じゃせいぜい結界内だけだから。もしルシル君でも気付かなかったら私、やられていたかもしれない。そう思うと、『ごめんなさい、ありがとう』ルシル君に謝罪とお礼を言う。

『いいよ。みんなで守り合おう』

優しい声色で返してくれたルシル君。ほうっと胸の奥が温かくなってく。うん、心地いい。それなのに、『闇の書の守護騎士ヴォルケンリッター諸君』この心地よさを台無しにするデバイスのような機械音声が私の耳朶を穢した。私とザフィーラの前、ルシル君たちそれぞれの前にモニターが展開された。新しく展開されたソレら全てに飛竜のエンブレムが表示されている。

『素顔を、肉声を、お届け出来ないのが実に残念だ。初めまして。龍の王、蛇王子、宝物庫の長、空の城主、コレクター、クレイジー・ドラゴン、キュリオシティ、ファナティック、プランドラーetc…。個人的にはミスター・リンドヴルムが好みな、リンドヴルムの首領だ』

なんとなくだけど自分という人間に酔い痴れているのが解る。ルシル君が『自己紹介は結構。敵、その一文字だけで十分お前を表せる』って言い放った。

『ミスター。ロストロギア収集家のお前が、闇の書を収集するために私兵を寄越した。敵対抗戦行動は確実。潰すぞ? お前の戦力を。構わないな?』

『いいともランサー。彼らは金銭が好きで、戦いが好きで、魔法が好きで、殺しが好きで、敗北すらも良しとする戦闘狂どもだ。喜んで戦いに死んでくれるさ。もちろん、簡単には死なない。私の目的の為、自らの欲の為、その契約が果てるまで全力で戦い、生き、勝ち続ける。そちらも殺す気で来ないと、本当に死ぬぞ』

『・・・残念。主の守護を司る我ら騎士は、主が為に殺しはしない、と決めている。が、殺された方が、死んだ方がマシだと思えるような敗北もあると知った方が良い。ああ、そうだ。殺す気が無くても勝てるんだよ』

『面白いな、ランサー。実に面白い返答だ』

ミスターのモニターから愉快と笑う声と拍手が聞こえてきた。それを遮るように『ミスター。私からも質問がある。答えてもらおう』シグナムが冷ややかな声で問う。

『何かな? 騎士セイバー。手短に頼むよ。管理局がその世界近くで張っているものでね。あまり時間は掛けたくない』

『貴様はロストロギアにおいては博識な収集家と聞く。闇の書についてもある程度の情報を得ているのだろう。ならば、だ。闇の書は完成前も完成後も主以外を持ち主とは認めないことも知っているはず。そんな物を収集して意味はあるのか?』

『あるともさ! 聴いていなかったのかい、騎士セイバー? 私は収集家だ、飾るに決まっているだろう! 私はロストロギアが好きだ! 書物型、武器型、宝石型、様々なロストロギアが大好きだ! 眺めるのが好きだ、触れるのが好きだ、調べるのが好きだ、創造過程を想像するのが好きだ、使うのが好きだ! 歴史の遺物、文明のなれの果て、過去を知る導、現在を狂わす毒、嗚呼、素晴らしき哉、古代遺失物ロストロギーーーア!!』

ミスターの声高らかな演説を聴いたヴィータちゃんが『なぁ、みんな。コイツ、さっさとぶっ潰した方が世界の為じゃね?』ミスターのモニターに向かって“グラーフアイゼン”を突き付けた。ルシル君もシグナムもシュリエルも『ああ』って頷いてそれぞれ対峙している私兵にデバイスや拳を突き付けた。

『では始めよう、諸君。リンドヴルム第6小隊ドラゴン・スケイル。私の為、己が為、死線に狂い、勝利に狂い、敗北に狂え。さぁ、戦闘開始だ!』

『『『『サー・イエッサー!』』』』

ミスターの通信モニターが消える。と同時に4人の私兵が纏っていたローブを脱ぎ捨てた。3人が男性で、1人が女性。そして手ぶらだったのが、今ではそれぞれ武器のような物を携えていて。ルシル君と対峙していたのは女性。その女性が持っているのは、裸体を晒した綺麗な女性の石像というか棍棒?で、石像が立つ台座には柄があってそこを持ち手にしてる。それと首から提げた小瓶。形状からして香水のような物。
シグナムと対峙している男性が持っているのは、黒い鞘に収められた一振りの剣、それだけ。ヴィータちゃんと対峙している男性が持っているのは、一振りの無骨な、だけど綺麗なバラ色の剣。シュリエルが対峙している男性が持っている、というよりは装備しているのは周囲に浮いている4枚の楕円形の盾。武器は持っていない。

『各騎、注意しろ。予想通り全員、ロストロギアで武装しているぞ!』

ルシル君から思念通話。ロストロギアを使ってくるかもしれない。ルシル君からリンドヴルムという連中が何なのかを聴いた時、それも一緒に私たちに伝えられていた。まさかとは思っていたけど、収集したロストロギアを私兵に渡すなんて。懐の広い収集家だわ。

『ランサー。連中のロストロギアの効果、判るか?』

『すまない、どれも判らない。ただ、まずい気はする。ヒーラー。万が一の時は旅の鏡で配置換えを頼むよ』

『ヤヴォール、ランサー』

こうして私たち守護騎士ヴォルケンリッターは、私たち“闇の書”を狙うロストロギア収集家、ミスター・リンドヴルムの私兵と戦う事になった。

†††Sideシャマル⇒ヴィータ†††

あたしらを狙ってやって来たリンドヴルムの魔導師、それか騎士。はやてやあたしらの未来への路を妨害する壁。だったら「打ち壊すっきゃねぇよな。なぁ?」あたしと戦うことになる男を睨む。ソイツはニタァッと気味の悪ぃ笑みを浮かべて手に持ってる剣を振り上げながら「はじめまして、守護騎士。そして、さようならだ」そう言った。ゾワッと嫌な感じがしたから慌てて奴から距離を取る。

「蹂躙を開始しよう」

――来たれ(オロール)、参れ黎明(ヘオース)、訪れよ夜明け(ドーン)、共に闇を払おうぞ――

奴が剣を振り下ろした瞬間、奴の側の空間が縦に裂かれた。裂けた空間はどす黒く、そこから馬に跨った騎士――騎兵がわんさか飛び出して来た。騎兵全騎が持ってる武装は全部、円錐状の槍ランス。騎兵の標準装備だな。問題はどう見ても人間じゃねぇってことか。騎兵も馬も全身真っ黒で、まるで闇や影を粘土みてぇにして人と馬の形に造ったようなモンだ。

「だからと言って退かねぇけどな! アイゼン!」

――シュワルベフリーゲン――

創り出した物質弾に魔力を纏わせたフリーゲン4発を“アイゼン”で打ち放つ。先頭を駆けて来る4騎に着弾して、その4騎の頭を吹っ飛ばすことが出来た。そのまま崩れちまえば良かったんだけど、すぐ後ろの騎兵4騎に融合されて、また分裂して復活。
これでダメだっつうならカートリッジ2発を連続ロード。“アイゼン”のヘッドを一段階大きくしたギガントフォルムへ変形させる。続けて残りの1発をロード、シュワルベフリーゲンよりさらに大きい物質弾、「コメートフリーゲン!!」を打ち放つ。
フリーゲンの直撃を受けた先頭8騎どころかさらに後ろ、10騎くらいを粉砕して行った。あたしが持ってる遠距離攻撃で最高の威力を誇ってるんだ、それくらいは当然だ。でも・・・。

(あ、これはダメかもしんねぇ)

焼け石に水。どんだけ潰しても別の奴らに融合されてはまた分裂して復活してきやがる。ものすごい勢いで進軍して来る騎兵隊からさらに距離を取るために後退、そんで急上昇。騎兵隊をどうにか出来ねぇなら本体を、騎兵隊を召喚した奴をブッ倒す。給弾したカートリッジをすぐに1発ロード。今度は強襲形態ラケーテンフォルムへ変形させる。

「高みの見物してんじゃ――・・・」

≪Raketen――≫

ヘッドのブースターを点火、高速回転しながらリンドヴルムの私兵に向かって急速降下。その途中、あたしに向かって来ていた騎兵隊を回転の勢いで薙ぎ払ってく。取り囲まれる前に奴の元へ。そんでようやく騎兵隊の壁を突破して、奴を視界に収める。

「ねぇよ!!」

≪Hammer≫

手加減なしの一撃ラケーテン・ハンマーを奴に打ち込もうとしたけど騎兵とは別、長い盾を構えた防衛の騎士が立ち塞がってあたしの一撃を防いだ。伝わるべき衝撃は来なくて、代わりになんか泥濘を打ったような、ズブッと呑み込まれるような感触が伝わって来た。

「無駄だ、対人戦の騎士。ボスより賜りし我が魔剣、ロストロギア・夜明けの剣。コレは夜明けの軍団を召喚することが出来る、蹂躙の王の剣なのだ!」

「ハッ! おまえ馬鹿じゃねぇの? 自分の武器の秘密を目の前の敵にベラベラと喋ってさ! 何が嬉しいのかしんねぇけど、それでよく戦闘者をやってられんな!」

――フェアーテ――

“アイゼン”を盾の騎士から引き抜いてすぐ高速移動魔法で距離を取る。追撃して来る騎兵隊にハンマーフォルムに戻した“アイゼン”で打ち放つシュワルベフリーゲンを連続して着弾させている時、『バスター、大丈夫!?』シャマルから思念通話が来た。

『大丈夫は大丈夫、か? なんつうか負けはしねぇけど勝てもしねぇな。相性が悪い』

『じゃあランサーと変わって。彼も相性が悪いみたいなの』

『は? アイツに相性なんて可愛げあったかよ』

ルシルは近距離・中距離・遠距離・広域の攻撃・防御・補助、その全てを容易に熟すことが出来る、正しく弱点・欠点無しの騎士だ。それなのに相性が悪いってなんだよ。ルシルが劣勢に陥るような場面が想像つかない。そんな時。

『私の相手、対男性用ロストロギアを持って・・・うく、参ったな、コレ・・・キツ・・』

ルシルから苦悶に満ちた思念通話が来た。ホントにらしくねぇ。だからあたしはすぐに『シャマル、相手を変更だ!』配置換えするように言う。と、あたしの背後にシャマルの転移魔法・旅の鏡が展開されて、中に引っ張り込まれた。
視界が一瞬だけ暗転。開けた時にはそこはシャマルとザフィーラの待機してる結界の中心点。あたしはすでに転移されていたルシルに「そっちは任せな。こっちは頼む」って開いている左拳をアイツに向かって突き出す。

「・・・ああ、任された。そちらを頼んだぞ」

ルシルも空いてる右拳を突き出して、コツンと拳を突き合わせた。すぐにルシルが相手をしていた奴の元へ旅の鏡を通って向かう。転移は一瞬。すぐに目の前にルシルを苦戦させた相手、若い女と対峙する。

「最っっ悪! よりによって女で子供!」

あたしを視認した瞬間、その女は焦り出した。そういやルシルが言ってたっけ。対男性用のロストロギアだとか何とか。それにあの焦り様。どうやらロストロギアに頼った、対ルシル戦のみの戦法しかないと見た。
あたしはカートリッジを1発ロードして「アイゼン!」をラケーテンフォルムへまた変形させる。と、女は「あたしは他の奴らと違って自分の命第一だからね!」って言って逃げ出そうとした。背を向けて逃げる奴には攻撃しない。それは騎士のポリシー。
だけどお前さ・・・「人殺し、なんだろ」あたしが言える立場じゃないのは百も承知さ。コイツに比べりゃあたしの方が大悪党だ。でも今のあたしは、あたしら守護騎士は、八神家の騎士は・・・「悪党を狩るのが仕事なんだよ!」“アイゼン”のブースターを点火、高速飛行で逃げようとする女へ向かって突進する。

「っ!」

女はあたしに気付いて、首から提げてた小瓶を投げ捨てて来た。ソイツを左手の甲で払い捨てる。妙な魔力を感じたし、アレもロストロギアなんだろうな。何がルシルを苦しめたのかは知んねぇけど、あたしには効かねぇみたいだ。女は女の石像を振りかぶって叫んだ。

「あたしは男しか殺さないのよ! しかも女を食い物にするような! 外道な男を、下種な男を、屑な男を、鬼畜な男を!」

発狂したように目を見開いて石像を勢いよく振るってきた。コイツの独白からして、コイツが前に男に乱暴されたことは判った。そりゃ男を嫌うことになってもしゃあねぇよな。同情はするぜ。だが「殺っちまった以上はもう、引き返せねぇよ」“アイゼン”のブースターを点火。石像を武器にするってんだからコレもロストロギアなのは間違いない。ルシルからは出来るだけ壊すなって言われてっけど・・・。

「コイツを止めるためだ。許せ」

――ラケーテン・ハンマー――

石像をぶっ壊すための一撃を繰り出す。あたしと女の一撃が衝突。やっぱロストロギアなんかな、そこいらの魔導師の障壁より硬ぇ。けど、「あたしとグラーフアイゼンに壊せねぇモンはねぇ!」“アイゼン”が衝突している点から全体にヒビが入ってく。そんでついに石像を粉砕。狂気じゃなくて驚愕に目を見開いた女。あたしは振り切って本体の女に一撃をかますことも出来た“アイゼン”を止めて、ハンマーフォルムに戻した。

(らしくねぇな、ホント)

悪・即・打。それが今のあたしだ。でもこの女を潰すのは少し気が引けた。だから「テートリヒ・・・シュラァァァクッ!」ちょっと手加減した一撃をお見舞いしてやった。メキッて音が女の右腕から聞こえた。骨折くらいは勘弁しろよ、それだけのことはして来たんだ。女が眼下の池に突っ込んだのを見送って、完全に沈黙したのを確認した。それじゃあリンカーコアの回収といこうか。

†††Sideヴィータ⇒ルシリオン†††

ヴィータとの相性が悪いという男の武器は、影で構築された騎兵や防護兵を召喚する魔剣だった。確かに多数を同時に相手にする魔法の無いヴィータには辛いだろうな。

「私の相手ではないな」

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

闇には光。閃光系魔力で創りだした魔力槍マカティエル50基を一斉発射。迫り来る騎兵隊を蹂躙していく。蹂躙担当だと言った男が「これだからランサーの相手は・・・!」悔しげに呻いた。当然というか俺たちの戦い方くらいは調べがついているようだ。対人戦特化のヴィータに数で攻めたり、男である俺に対して呪い的な武装を持ってくるあたり。

(異性を魅了する魔女の香水キルケー・プロフーモ、男の攻撃と防御を全てキャンセルして女性を一方的な有利にする女神の石像ディアナズ・アミュレッティア・・・)

ベラベラと話してくれた神器と言っても過言じゃないほどの2つのロストロギアの効果。ロストロギア程度の効果なら魔術師としての神秘で跳ね除けることが出来るが、神器クラスとなるとやはり影響を受けてしまうのが今の俺だ。
一方的な不利の中でも俺はなんとか拮抗を保たせていたが、香水の効果はじわじわと俺の意思を侵食していった。好きでもない私兵の彼女に好意を持ち始めたのだ。ヴィータと配置換えしていなければ今頃俺は、好きだ、みたいな告白をしていたはずだ。

「彼女に比べればお前など雑魚も雑魚、眼中にすら入らない塵芥だ」

「くっそ、くそくそくそくそ! 大人しく殺されてればいいんだよ、狩られる側の獲物はぁぁーーーー!!」

「ぎゃあぎゃあうるさいんだよ。喚くなら牢に入ってからにしろ」

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

あまりに耳触りな男の声。早々に潰すために閃光系の砲撃バラキエルを発射。“夜明けの剣”を振るって新しい騎兵隊を召喚するが、そんなものなどアダメルの前には盾にすらならないと知れ。
ダメルは騎兵隊を薙ぎ払いながら直進を続け、男に直撃した。すぐさま俺は前進して爆煙に包まれた男へ向かう。
そして「リンカーコア、頂くぞ」視界の悪い中でも俺は男の正確な居場所を探し当て、砲撃の直撃で意識が落ちる寸前かふら付いている男の胸へと右手を突き入れ、リンカーコアを無理やり引き抜いて千切り取る。後は適当にバインドで拘束してどこかに放置しておけばいい。全てに片が付いたら管理局に引き渡すだけだ。

†††ルシリオン⇒シュリエルリート†††

「無駄だ、無駄だ!」

私の相手をしている男が楽しそうに笑みを作った。対して私は少々手古摺っていることに僅かな焦りを生んでいた。男が装備している4つの盾。それらが私の攻撃を悉く防いでしまうのだ。

「刃を以って血に染めよ」

――ブルーティガードルヒ――

――アリーの第一盾――

あの男の周囲に浮遊している楕円形の盾の1つの縁から赤い魔力の障壁が瞬時に生まれ、球体状障壁となって男を覆い包んだ。そして私の高速射撃の短剣はその障壁の前になんの効果を発揮することなく破壊された。

「響け!」

――ナイトメア――

間髪入れずに砲撃を放つ。

――アリーの第一の盾――

砲撃は再度展開された球体状障壁に弾かれ軌道を変化、明後日の方へと飛んで行ってしまった。これで射撃と砲撃の両方が防がれたことになる。次は最接近を試み、直接この手での打撃、シュヴァルツェ・ヴィルクングによる一撃だ。この魔法は打撃力強化と様々な効果破壊を付加するものなのだが・・・。

――アリーの第二の盾――

別の盾が動き、盾の縁より生まれた青い魔力が四角柱状の障壁となって男を覆い包む。効果破壊に障壁破壊を選択した一撃であるにも拘らず、私の拳打はその四角形状障壁を破壊することは叶わなかった。距離を取り、彼を守っている障壁が解除されたのを見計らい、「封縛! 咆えよ!」バインドを発動する。

――アリーの第三の盾――

3つ目の盾が動きを見せた。盾の縁より黄色い魔力が生まれ三角錐状の障壁と化す。封縛はその障壁に一度は掛かるがすぐに粉砕された。そう。このやり取りを3度繰り返したのだ、私は。

「往生際が悪いぞ、マスター! 管制者(マスター)と言うからには殺せないが、腕や足の1本や2本、折れようが引き千切ろうが死ななければいいんだぞ!」

殺せないからこその封殺。私にとっては脅威となるロストロギアだ、あの4つの盾は。射砲撃、魔力打撃・物理打撃、捕縛、それらを完璧に防がれる。どれだけ高速発生であっても、その速度を上回る速さで対処される。4つ目の盾の効果は未だ知らないが、どちらにしても何かを封じるものなのだろう。

「大人しく捕まれ! なぁに、闇の書の管制プログラムなんだ。悪いようにはされないさ。大事に、それは大事に飾ってもらえるとも!」

「ふっ。魔導書は飾って置かれる物ではない。使われてこその魔導書だ。見世物になり果てるつもりは毛頭ない・・・!」

――ハウリングスフィア――

「無駄なことを・・・!」

「それはどうか、試してみるといい!」

――ナイトメアハウル――

周囲に魔力スフィアを4基と展開し、多弾砲撃ナイトメアハウルを発射する。男の盾が動く。射砲撃を防ぐ赤い球体状障壁に多弾砲撃が着弾していく。私は再度ハウリングスフィアを3基と展開しつつ接近を試みる。その中で「封縛!」バインドを二重で発動する。当然動く黄色の三角錐状障壁。私はそのまま直進を続け、右拳にシュヴァルツェ・ヴィルクングを発動させる。続けてナイトメアハウルを発射準備に入る。

(射砲撃、打撃、捕縛。3つを同時に受ける時、その盾はどうなるのだろうな・・・!)

盾は三重で発動した。男を守る最初の盾は捕縛封じ、その上から射砲撃封じ、さらにその上に打撃封じ。彼の三重障壁の最初に到達したのは二重封縛だ。1つ目で相手を拘束し、2つ目が対象を捉えた瞬間、2つの封縛は反応を起こして爆破する。それは攻撃に転用できるだけの威力を持つ。
だから打撃封じの障壁が二重封縛の爆破で破壊され、次の射砲撃封じの障壁は私の拳打で破壊され、間髪入れずに放ったナイトメアハウルが最後の捕縛封じの障壁を破る、という結末に至った。

「っ!」

「これで・・・!」

≪Sammlung≫

「終わりだ!」

別の場所に待機させておいた“闇の書”を瞬時に召喚し、「ぐぅぅぅ!」男のリンカーコアを抜き出した。魔力を蒐集している間、彼は盾による攻撃を仕掛けようとしてきたが、蒐集速度を上げることで生まれたさらなる強烈な苦痛に彼は意識を手放し、同時に盾も活動を止めた。

「蒐集、完了」

“闇の書”を閉じ、私は男に封縛を仕掛け捕縛、地面に横たえさせた。

†††Sideシュリエルリート⇒シグナム†††

私が相手をすることになった男と何度目かの鍔迫り合い。この男の剣の腕は確かだ。確かなのだが、唯一気に入らない点がある。それは「いつまで鞘に収めておく気だ?」奴は鞘に収まったままの剣で戦っていることだ。手を抜かれている、と思っても仕方ないだろうこれは。

「この剣は、それはすごい価値のある剣でね。勿体ねぇよ、鞘から抜いて刃が穢れるのは」

「それを敗北の言い訳にしてほしくないものだな」

「するかよ。勝つのは俺だからな」

互いに同時に距離を置くことで鍔迫り合いを中断。腕はいいのに剣士としての心構えは二流。剣を大事にするのは結構だが、価値があるからと言ってその真価を発揮させないというのは愚かな話だ。今まで知り合ってきた剣士の中では下位も下位、最下位だ。最上位は騎士リサ。彼女との戦いは実に面白かった。戦い方も心構えも、全てが心地よい剣士だった。

(もう一度戦ってみたかったものだな・・・)

騎士リサと言えば、少し前に間違って蒐集してしまった、アリサ・バニングスという少女のことが思い返される。あの娘の剣技は騎士リサのものと酷似していたため、その懐かしさに心が躍ったものだ。出会いが違えば良かったのだがな。
そして、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト。騎士リサと同じミドルとファミリーネーム。バニングスと同じように主はやてのご友人として現れた。構えも、武装も、騎士リサと同じだった。受け継がれてきたのだな、彼女の戦い方と武装が。
だがまだ幼い所為か騎士リサに比べれば拙いところはある。が、それも成長して行けば解決するものだろう。成長したあの娘と剣を交えてみたいものだ。

「それに比べ、お前という男は・・・!」

≪Explosion≫

“レヴァンティン”のカートリッジを1発ロードし、刀身に火炎を纏わせる。それでも奴は鞘から剣を抜こうとはせず、構えを取るのみだ。そのやり方を貫くなら貫くといい。

「紫電・・・一閃!!」

奴の目の前へと移動し、火炎纏う“レヴァンティン”を振り下ろす。奴は黒い鞘に収められた剣を振るって迎撃。衝突する炎の斬撃と奴の鞘。鍔座り合いをすることなく、私は一度刃を引いて瞬時に連撃を繰り出す。男は私の連撃に危なげなくついて来ている。

(流石はロストロギア、か。硬いな)

デバイスすらも破壊できる一撃を欠けることなく防ぎきる鞘。攻撃力で攻めるのは止した方が良いかもしれんな。なら何で攻めるのか、だな・・・。ルシリオンなら物量だろう。防御など無駄と言えるほどの圧倒的物量による蹂躙・殲滅。
だが生憎と私はそのような魔法は持ち合わせていない。ならばどうするか。決まっている。速度で勝負する。機動力の速さではなく、防御も回避も間に合わぬような瞬撃だ。
男から距離を開け、“レヴァンティン”を具現した鞘へと納める。そしてカートリッジを1発ロード。居合の体勢を取る。すると男は「珍しい構えだな」と居合の構えを取っている私に奇異の目を向けて来た。

「良いものを見せてやろう」

――ヒルンダプス・カウダクトゥス――

ルシリオンとの模擬戦で編み出した短距離限定の高速移動魔法(命名はルシリオン)を発動、一瞬で男との距離を詰める。

「紫電・・・清霜!」

カートリッジのロードによって鞘内部に溜められた魔力の爆発力を利用した超高速の居合による一閃、紫電清霜を繰り出す。高速移動からの高速居合。この連続技で私はルシリオンに打ち勝つことが出来た。
男もそう。私の攻撃に完全に対応することが出来ず、「ぐお・・・!?」“レヴァンティン”の一閃の直撃を受けて吹き飛び数十mと何度もバウンドし、トラックを囲う壁に衝突してようやく止まった。
手応えは十分。これで立ち上がれば称賛を贈ろう。倒れ伏す男を眺めること数秒。奴は剣を杖代わりにして立ち上がった。

「~~~~~~!」

何かを叫んでいるようだが声に出ないようで口パクだ。男との距離もあることで読唇も出来ん。まぁ元より私に読唇術の心得はないのだが。“レヴァンティン”に給弾していると、奴はこちらに向かって駆け始めた。

「げほっ、ごふっ、はぁはぁはぁ・・怒らせたぜ、キレさせたぜ、プッツンさせたぜ! 死んだ、お前死んだぜ! 俺とこの聖剣・ディルンウィンで、お前は魂すら残さない程に燃え散るぜ!」

男はベラベラとロストロギアの正体を叫び始めた。鞘に収められた剣の銘は“ディルンウィン”。特性は強大な炎を生み出す、だろう。奴は鞘へと手を掛け、「プログラム風情が! この聖剣で散ることを光栄に思え!」と少々頭にくる台詞を吠え、黒い鞘から“ディルンウィン”を抜いた。
“ディルンウィン”は鞘だけでなく刃も黒かった。が、すぐさま心を魅了されるかのような美しい純白の閃光が発せられ、続いて爆発的な炎が生まれた。確かに魂まで燃やし尽くされそうだが・・・、それは起こった。

「ぎゃぁぁぁぁーーーーーっ!!?」

「なに・・・!?」

その炎が持ち主である男を燃やし始めたのだ。消火を手伝うより早く奴は塵ひとつとして残さずに燃やされて消え去ってしまった。トラックに突き刺さる“ディルンウィン”からは炎が消え、その黒い刀身を鈍く光らせる。
私は“レヴァンティン”を下ろし、“ディルンウィン”へと近づいて行きその柄を手にしようとしたところで「触るなセイバー!」ルシリオンの制止が頭上より振って来た。見れば方々(ほうぼう)からみなが集まって来ていた。

「セイバー、ソレに触るな。ディルンウィン。その銘の剣を知っている。ソレは選ばれた者以外が鞘から抜けばそうなる物なんだ」

ルシリオンが“ディルンウィン”の側に降り立ち、一度深呼吸をしてから柄を握った。だが燃やされることはなく、安堵の息を吐いているルシリオンは“ディルンウィン”を側に落ちている鞘へと納めた。

「ディルンウィン。持ち主が高貴な血統の人間なら問題はないが、それ以外ではああして燃やされてしまう、というわけだ」

「お前は大丈夫なんだな」

「私のオリジナルは王家の血筋であり一国を治めた王だったからな。私でも問題ないかは賭けだったが、ちゃんと認識してくれたようだ」

「賭けって。そんな危険なこと・・・!」

「一歩間違っていれば、お前も燃やされていたのかもしれんという事か!?」

「誰かが手に取って鞘に収めなければならなかった。なら、一番可能性のある私がやるべきだろ?」

我らの心配にそう返したルシリオンは、「あとは結界外の奴だな」話を切り上げ、明後日の方へと目をやった。私兵は全部で5人。うち4人は打ち倒すことが出来た。

「今はどのような状況なのだ?」

「集束砲に4ケタの魔力弾幕展開。結界内の私兵を潰して安心しきったところでシャマルが結界を解除した瞬間、一斉に放ってくる。ってところか」

「解決策は?」

「迎撃の準備が出来たら別の結界を展開し、ソイツも結界内に引き入れる。シャマルが結界を解除、と同時にソイツと集束砲、魔力弾幕に対処しつつ術者を潰す」

私の問いにルシリオンは即答。そしてそれはすぐさま行われた。ルシリオンは結界外の私兵も範囲に収まるように結界を展開。

――屈服させよ(コード)汝の恐怖(イロウエル)――

腕周り100mを超す程の銀の巨腕が一対、我らの側の空間から生えた。右腕は我らの盾に、そして左腕は私兵への攻撃用に使われる。

「それじゃあヒーラー。結界の解除を」

「ヤヴォール!」

ルシリオンの合図でシャマルは結界を解き、間髪入れずに放たれてきた集束砲と1000発以上の魔力弾雨がイロウエルへと着弾していく。しかしイロウエルが砕かれることはなく、我らを守りきった。私兵もまたイロウエルの剛拳の前に敗れ去った。私が相手にした私兵以外を集めてバインドで拘束。ロストロギアには封印処置を施した。あとは連中を管理局へと引き渡すだけ、となった時。

『素晴らしい! やはり強いな、守護騎士ヴォルケンリッター!』

リンドヴルムの首領、ミスター・リンドヴルムから通信が入った。私は「貴様、何故あの男にディルンウィンを与えた!」と怒声を上げるが、『惜しい気もするがそちらに渡ったロストロギアは好きにするといい』まるで聞こえていないとでも言うように奴は話を続けた。

「聞いてい――」

『守護騎士諸君。私はこれで諦めるつもりはない。今回の第一次収集戦には負けはしたが、さらなる強力なロストロギアを装備した、さらなる強者で以って君たち闇の書を収集するつもりだ。第二次収集戦でまた会おうではないか』

「セイバー。向こうからの一方通信だ、こちらの音声は届いていない」

ルシリオンが私の左肩に手を置いて制止してきた。どこまで勝手名ことをするつもりだ、ミスター。ふつふつと湧き上がる怒りに、私は強く拳を握りしめる。

『ボス。そろそろ時間だ』

モニターからミスターとは違う、若い男の声が漏れ聞けてきた。ミスターは『今は大事な通信中だ、下がっていなさい』とやんわり注意する。そんな中、「いっ・・!?」私の肩に置かれていたルシリオンの手に力が込められた。

「ランサー? 痛いのだが・・・」

目をルシリオンへとやる。顔は被り物の所為で見ることは叶わないが、それでもハッキリと感じ取れるルシリオンの異常。発せられるこの空気。私は知っている。オーディンの時にも感じた。そう、“エグリゴリ”と相対した時のものと同じ・・・。

「この声・・・、シュヴァリエル・・・!」

ルシリオンがポツリと漏らした。シュヴァリエル。それは“エグリゴリ”三強の内の1機の名だった。


 
 

 
後書き
サェン・バェ・ノー。
ええ、確かに八神家の騎士たちは頑張りました。しかし! メインヒロインのはやてが出て来ないぞ、今話! それでいいのか? 否! お泊り会をしているはやて達も入れようとしました。だが、入りきらなかった! すまん、はやて!
 
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