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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第70話 竜鬼


 それは、攻略組の討伐隊と笑う棺桶との戦いの話。
 討伐隊は、笑う棺桶の被害があまりにも甚大であり、もはや見逃せない程までに来ていたのだ。それは、前線の攻略以上のものになってしまっていた。無事に皆で帰ろうとしているのに、喜々として 共に帰る者たちを手にかけてる彼らを放っておく事など、誰が出来るものだろうか。

 結論は、目には目を。力では力をだった。実力で勝る筈の討伐隊。

 それは当然だ。

 未踏覇の最前線をねぐらにしているプレイヤー達は皆が相応の力を持っているのだ。

 だから、彼らは綿密に作戦を練って、一網打尽にする計画だった。全員を監獄エリアへと押し込める為に。だが、何処から情報が漏れていたのか、討伐隊は裏の裏を書かれてしまったのだ。


 そこから先の戦い。
 いや、血みどろの殺し合い……とも言えるだろう。先に死者を出したのは能力に劣る笑う棺桶のメンバーじゃなく、討伐隊だったからだ。

 笑う棺桶のメンバーの殺人へ忌避感は有無だった。狂騒状態となったラフコフのメンバーはどれだけHPゲージを削っても降参しないと悟ったとき。……討伐隊の皆は激しく動揺したのだ。
 それも仕方が無い事だった。

《人を殺す》

 殺した事があるか、否か。戦場での心理。それは、一度でも手に染めれば 二回目は積極的になれるのだ。新米の兵士の心理だ。
 討伐隊のメンバーは、PKなどした事無い。だからこのような状態になってしまった。そして、勿論そんな状況になりえる事。それは以前からずっと話し合っていた事だった。

 ラフコフとの戦闘時、そこでは敵のHP全損もやむなしと決した筈だった。

 しかし、ゲージを真っ赤に染めた相手に実際にトドメの1撃を不利おそる事になると覚悟していた者は、誰1人といていなかった。それは、キリトは勿論、リュウキも同様だった。
 極度の緊張感から、自分の剣を捨ててしゃがみ込んでしまうものすらいた。

 そして……、そんな中で、討伐組の1名が殺された。仲間を庇う形で。

 《HN シデン》と言う若いプレイヤーだった。

 リュウキの目の前で、その姿は、……魂が硝子片となったって飛び散った。……討伐組。攻略組はこの世界において戦友も同じ存在。それが目の前で失われた。特にシデンは、自分のことを好奇な目で見たり、妬みや嫉妬したりはしないプレイヤーだった。
 何度も攻略に関して話し合い、BOSS戦では、共に戦ってきた戦友の1人。

 それは、リュウキが心を許せる数少ない……プレイヤーでもあった。

 それを目の当たりにしたリュウキは、ドス黒い感情をむき出し、目を見開き一瞬で極長剣でシデンを殺した男を薙いだ。
 男の身体に赤いラインが出来るとそのまま砕け散っていった……。リュウキはそれを確認すると、辺りを視渡す。中には馬乗りになり、討伐組に剣を突き刺すものもいた。
 HPをどんどん奪って逝く。

 それを視たリュウキは、最短で、素早く、正確に そして、何より無情に、扇状に極長剣をスライドさせた。

 そして、そのたった一撃がラフコフのプレイヤー3人の命を奪った。鮮やかな硝子片となって、周囲に飛び散る。その時の、あの感触は今でもリュウキの手に残っている。

――……この手で人を殺めてしまったという事実と共に。

 だが、リュウキは考えなかった。一瞬で4人ものメンバーを失った笑う棺桶のメンバーはこのときは流石に動揺を隠せなかった。

 リュウキはその瞬間を逃さない。

『……お前らの相手はこの俺だ。お前らに《牢獄》なんて生温い。全員纏めて《地獄》に送ってやる』

 この時、リュウキの眼が変わっていた。それは赤い瞳。血の様に赤く……表情は正に鬼と呼べるものだった。そう、鬼が生まれた瞬間だった。

 その後は討伐組はリュウキに触発されたのか、彼に続くような形になった。

 そして、討伐組の内、シデンを含めた4人。
 笑う棺桶は10人のプレイヤーが消滅した。

 合計で14人もの命がこの場で消え去った。……内、リュウキがプレイヤーを消滅させたのは6人。死亡者の半数以上はリュウキが仕留めたものだった。あの姿を見て、さすがの笑う棺桶のメンバーも動揺を隠せず、総崩れになりかかっていたのだ。元々は奇襲で、討伐隊を血祭りにあげる予定だったはずだが、1人の男に全てを潰された。
 それを見た頭は早々に逃げの一手を打って出たのだ。何人かは、死なずに牢獄へと送られたが、その中にはPoHは勿論、幹部クラスの者達はいなかった。


 ……この後。

 リュウキは、暫くその場に立ち尽くしていた。自らの手で消滅した命。いや、他のメンバーもそう。敵味方問わず。彼らは現実では恐らくもう既に脳を焼かれ真の意味で目を覚まさなくなってしまっただろう。
 ……誰かの命を奪ったという逃れられない事実、現実。いくら相手が、残虐なプレイヤー、何度も快楽で人を殺めているような人間だったとは言え……。それはリュウキの心に深く傷を与えていた。

 リュウキは、その場を動かなかった。……動けなかったのだ。
 そして、暫くして ゆっくりと天を仰いでいた。そして、無表情のままに、涙を流していた。

 VR世界だと言うのに、考えて出た涙じゃない。細かな感情を読み取ったのだと思えるが、それでも……
まるで 現実世界での、本物の涙のようだった。

 心が壊れかねない状況。それを救ったのは仲間たちだった。

 リュウキはその後、討伐隊の皆に、そしてキリトに支えられながら場を後にした。彼がみんなを救ったも同然だから。もっとこちらが殺られてもおかしくない状況で、死傷者を抑えれたんだと皆思っていたから。




~第19層・十字の丘~


 リュウキはゆっくりとした動作で、起き上がると極長剣の柄に手をかけた。まだ、3人からは距離は離れているが、リュウキなら即座に間合いを詰めるだろう。

「……さてと、どうする?」

 キリトは同様に剣を構えつつ一歩前へでた。

「……オレ達2人を相手にしてみるか?久しぶりに、黒と白の剣技、たんと堪能できるかもしれないぜ?」

 キリトは3人を見ながら、にやりと笑った。

《リュウキとキリト》

 2人が合わさる剣技が如何なるものなのか。
 それは、アインクラッド上層部を根城にしているものなら、誰でも知っているといっても大袈裟ではない。

 何よりも《スピード》と《判断力》が、ずば抜けているコンビなのだ。

 反応速度のキリトに全てを視通すリュウキ。そう、リュウキの正確な言葉に、キリトが即座に反応する。……個々で相手にするより遥かに死角がなくなるのだ。

 そして リュウキもPoHに、他の2人にも視線を向けた。

「確か……お前達は死を与える事も、死が訪れる事も、全て恐れないんだろう? それに時を稼ぐくらいなら、オレ1人だけでも十分だしな、……そうさ、時間が立てば他の攻略組の連中もここに集まってくる。さて……こうなれば弱者は一体どちら側だろうな……? なぁ、PoH」

 リュウキは、そう言うと、薄ら笑う。
 反吐が出そうになる笑う棺桶のメンバーを見ていて、それだけでも胸糞悪いとは思っていたがそれでも、視線を外さずに睨みつけていた。

「てめーら調子に乗りやがって……」

 ジョニーが毒ダガー……武器を構えつつ、飛びかかろうとした時、PoHがそれを止めた。

「……確かに、キリトだけならまだしも、貴様が そして他にも蛆虫が集まるようじゃ、コチラに分が無いな」

 PoHはリュウキの目を見てそう言った。あの目は、《あの時》の目と同じだった。白銀の異名を持つそのリュウキの姿、だがその赤い眼をしたリュウキはその白銀の異名をも忘れさせるものだった。眼だけが赤いはずなのに、……そのリュウキの体を覆いつくすかのようなオーラを放っているかのような眼。

 ≪真紅の瞳≫

 この世界では存在しないエフェクトを発している眼。あれが普通じゃないのは≪あの時≫からわかっていた事だ。まるで、怒りが具現化されているかのような印象を受けた。

 いや、或いは。

「………Suck。鬼が……」

 PoHはリュウキのその姿を≪鬼≫と形容した。≪竜と鬼≫そう書いて竜鬼(リュウキ)なのかと思ったほどだ。

 PoHは武器をしまうと、撤退を促す。

 そして左手の指を鳴らすと、配下の2人が“ざざっ!”と数m退く。赤いエストックから解放されたヨルコとカインズがその場にふらふらと膝をついた。

 その後、2人を退かせたPoHは、リュウキ・キリトを一頻り見ると。

「……黒と白。貴様らは、貴様らだけは……いつか必ず地面に這わせてやる。あの時以上の苦しみを与えてやる。……貴様らの大事なお仲間の血の海にゴロゴロ無様に転げさせて、その白黒の2種に赤を追加してやるから期待しといてくれよ」

 悪意の塊の様な声を発する。リュウキは、それを軽く受け止めると。

「……オレに恨みがあるというのなら、直接、オレに来いよ……。来る勇気もない三下が生意気いってんじゃねえ……。所詮はお前は三流だPoH」

 負けずと劣らずの迫力を持ってPoHの言葉を跳ね返すが如くだった。

「……楽しみだ。貴様の顔をゆがめるのは……くっくっく……」

 そう一言だけ最後に言うと……。巨大な肉切り包丁をを指の上で器用に回すと腰のホルスターに収める。黒革のポンチョをばさりと翻し、悠然と丘を降りてゆく頭首に続く二人。
毒ダガー使いのジョニー・ブラックは、先ほど言っていた攻略組が気になるのか、やけに足早に立ち去って行き、赤眼のザザだけは、その場で振り返り2人の方をじっと見ていた。その髑髏マスクの下で妖しく光る両眼を二人に向け、囁く。

「格好つけが……。次はオレが馬でお前らを追い回してやる」
「なら、練習をしておくんだな。見た目ほど簡単じゃないぜ?」

 キリトはそう還した。

「確かにな……。オレも馬を交通の手段にはしたくない」

 それはリュウキも認める難易度のようだった様だ。ザザはそれを聞くと、舌打ちをしながらリュウキを睨みつける。

「ケッ、テメーはオレとキャラかぶってるんだよ。……その眼、いつか抉り取ってやる!」
「……楽しみにしてる。これる度胸があるのなら、な。……あの男(・・・)にも伝えておけ」

 ぎりっ、と歯を食いしばるザザ。それ以上は何も言わず、しゅうっ……っと低い呼吸音だけを残して、消え去っていったのだった。


 
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