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パンデミック

作者:マチェテ
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第五十話「過去編・封鎖完了」

 
前書き
五十話まできて、いまだに過去編が終わらない………
しかも、忙しい季節と重なって投稿が遅れる………
本当にすみません…… 

 
【日本支部内・装甲車両整備フロア】


ヴェールマンとブランクは、地下6階全域を封鎖するために整備フロアまで来ていた。
格納シェルターには突然変異種が複数いたが、整備フロアにはまだ一体もいない。

「…………警戒を解くな。どこから来るか分からんからな」

「……………分かっています」

ヴェールマンの言葉に返事を返すものの、ブランクの意識は別のところにあった。


「………………………フィリップのことか?」

少しの沈黙の後、ヴェールマンがブランクに聞いた。
ブランクは自身の考えを見抜かれ驚いた表情を見せたが、すぐに元の無表情に戻った。しかし、視線を下に
落とし、ヴェールマンの表情を見ようとしない。

「………誰かを失うことは常に覚悟しているつもりでした。たとえ、親友であっても…………でも、いざそんな
状況に直面すると………」

「動揺するのは無理もない。誰がいつ死ぬかは、誰にも分からない」


「司令は……何故動揺を隠せるんですか? どうしたら、司令のような強い精神を………」


ブランクの純粋な疑問だった。
ヴェールマンは仲間の死に動揺するどころか、そこから適格な指示を下す。

周りの兵士達は、「度重なる戦いで、仲間の死に慣れてしまったのでは?」と言っていた。
しかし、ブランクにはそうは見えなかった。ヴェールマンがそんな人間とは思えなかったのだ。



「動揺を隠せる? いいや、隠せてはいないさ。それに私の精神はそんなに強くない」


意外な返答だった。
ヴェールマンは仲間の死を間近で見ても、動揺する様子など微塵も見せなかった。
ブランクは完全に意表を突かれ、再び驚いた表情を浮かべていた。

「正直言うとな………私は仲間を失うのが何よりも怖い……つい最近まで親しくしていた仲間が……
目の前で殺され………その仲間が喰い殺そうとしてきたり……そんな哀しみはもう沢山だ……しかしな。
私が司令である以上、動揺し全てを放棄するわけにはいかない。立ち止まる暇など私にはない。
私の動揺を部下に伝染させるわけにはいかない。だから私は心を隠してきた」

「………………………」


知らなかった。
ヴェールマンが何を思い、どんな気持ちで戦場に赴き、指揮を執り続けてきたか。
恐怖が全く無いわけではない。仲間を失うのは辛いだけ。

ブランクにもヴェールマンと似た考え方があった。
だからこそ、ヴェールマンの気持ちが痛いほどに理解できた。


「……自分のことを長々と話すのは、自分でも珍しいな」

「いえ、司令の本音を……初めて聞けた気がします」

















しばらく歩くと、整備フロアの端までたどり着いた。
壁には、3つの制御盤が取り付けられていた。

「あれだ、あの制御盤だ」

制御盤をよく見ると、一番下にガラスに覆われた赤いボタンがあった。
ボタンの下に、日本語で「フロア封鎖」と表記されている。
ボタンの横には、1~9までの数字が正方形に並んでいる。

「パスワードが必要か………」

ヴェールマンはボタンを覆うガラスをコンコンと指で軽く叩く。
当然、簡単に破られないよう、強化ガラスでできていた。
おそらく、銃弾を撃ち込んでも壊れないだろう。

「パスワードは必要ありません」

ヴェールマンがブランクの方を向くと………右の拳を構えるブランクがいた。
まさか、と思った時にはもう遅かった。
ブランクは拳を強化ガラスに勢いよく叩きつけた。
銃弾をも防ぐ強化ガラスは、適合者の拳によって粉々に砕けた。

「適合者の腕力は便利だな」

「こういう時はそう思います。司令の人選は正しかったですね」

「ハハッ、そうだな」



ブランクが赤いボタンを押した。
すると、フロア全体に警報が発令された。


『装甲車両整備・格納フロアで、封鎖信号を確認しました。300秒後に地下6階全域を封鎖します。
地下6階にいる職員は、速やかに地上に退避してください。繰り返します。装甲車両整備・格納…………』


周囲にうるさいほどのブザーが鳴り響き、壁から大きな機械音が聞こえてきた。

「よし、これで地下6階は封鎖できた」

「これで、感染拡大は防げそうですね」

「いや…………念のため、地下3階も封鎖しよう。二重の壁があった方がいいかもしれない」

「了解」


2人は非常階段を見つけ、一気に駆け上がった。

その3分後、地下6階の壁はスライドし、全域が封鎖された。
ブランクが投げ、黒煙を上げていた装甲車両は炎上し、その後爆発を起こした。
装甲車両から出た炎は、格納フロア内のガソリンや別の装甲車両に次々と引火し、爆発は一気に広がった。
この爆発で、突然変異種は全て焼死、または爆死し、コープスウイルスが活性化した。

しかし、コープスウイルスが外に漏れ出すことはなかった。 
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