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Transmigration Yuto

作者:レギオン
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陽だまりのダークナイト
  知らない天井

 目を覚ますと、知らない天井だった。
 何処か知らない部屋で、ベッドに横になっているようだ。
 いや、正直そんなことはどうでもいいのだ。少し混乱しているが、一応予想していたことではある。
 僕は研究所で毒ガスを撒かれ、同志達の助けもあり一人であそこを脱出した。
 あの森の中を彷徨い、紅髪の少女と出会った。
 そして、前世の記憶を思い出した。
 記憶は思い出したが、どうやらその記憶は今の僕の精神に大きな影響を与えたらしい。
 どう変わったかは上手く説明できないが、はっきりと自分が変わった、と言う確証がある。
 僕が元々特別だったのは、これが理由なのだろうか?
 だが、そんなことは今の僕にとってどうでもいいことだ。
 前世の僕は、極普通の日本人の男だった。記憶から推測するに、大学生になる直前に命を落とした高校生のようだ。
 大分虫食い状態になっているが、前世の記憶は僕の糧となってくれるだろう。
 特に、ライトノベル作家を目指していた、と言う記憶と彼の想像力が糧となってくるだろう。
 僕の持つ神器(セイクリッド・ギア)は創造系神器(セイクリッド・ギア)と言う珍しい神器(セイクリッド・ギア)の一種である、魔剣創造(ソード・バース)だ。創造系神器(セイクリッド・ギア)は想像力、イメージがとても重要なのだ。
 だからこそ、この力は前世の記憶と相性がいい。
 不意に部屋のドアが開かれ、そこから洗面器を持った小柄な少女が入ってきた。
 ……頭部には猫のような耳が生えている。魔物、いや獣人の一種だろうか?前世の記憶から猫又と言う妖怪であると言う説も浮かび上がる。
 「…………ッ!」
 僕が起きていることに気付いた少女は洗面器を持ったまま、急いで部屋を出て行った。
 「あらあら、起きたの?そう、それはよかった。リアスを呼んでこなければ」
 違う誰かの声が開け放たれた扉の向こうから聞こえてくる。
 僕はベッドを抜け出し、部屋の扉からそっと外を窺う。
 ……広い室内、リビングだ。テーブルなどの一般的な家具が配置されている。
 視界が黒髪の少女と先程の獣耳な少女を捉えた。
 黒髪の少女がリビングを後にしたところで僕は姿を現す。僕の気配に気付いた獣耳の少女が全身を強張らせて物陰に隠れた。
 「………………」
 無言で僕をじっと見ている。
 少し待つと、黒髪の少女が紅髪の少女を連れてきた。
 どちらの少女も僕と歳はそう変わらないだろう。十三か、十四か。
 紅髪の少女が現れるや、獣耳の少女がその背後に隠れた。随分と懐いているように思える。
 紅髪の少女は微笑みながら言った。
 「この子をいじめないであげてね。人見知りが激しいのよ。小猫と言うの、よろしくね。もう一人の黒髪の子は朱乃よ」
 紅髪の少女が獣耳の少女の頭を撫でると、小猫と言う少女は嬉しそうにしていた。
 僕は彼女たちが身に纏う異質なオーラを感じ取り、彼女たちが人間ではないことを把握する。
 このオーラは研究所の実験でも感じたことがある。悪魔だ。
 僕は手に、一振りの魔剣を作り出す。
 使用者がイメージした魔剣を創造できる神器(セイクリッド・ギア)魔剣創造(ソード・バース)の力。
 想像した魔剣はオリジナルの魔剣には強度も切れ味も及ばないが、それでも異形を殺傷するだけの力は既に持っている。
 作り出した魔剣の切っ先を紅髪の少女に向け、僕は問うた。
 「ここはどこだ。何故、僕はこんなところにいる。お前たちは、誰だ」
 僕の行動に紅髪の少女は苦笑した。僕の態度に怒ることすらしなかった。
 「ここは日本よ。わかる?極東の島国。世界でも有数の平和なところよ。あなたが日本人に近い顔立ちをしていたから、ここに連れてきたの。ここは日本での私の仮住まいよ」
 日本?わからない。何故ヨーロッパの森の中で倒れた僕が日本にいる?
 日本と言えば僕の前世の生まれ育った国だが、何か関係があるのだろうか?
 紅髪の少女と黒髪の少女はお互いに頷き合うと、背中から蝙蝠を思わせる黒い翼を出現させた。
 悪魔の翼だ。
 紅髪の少女は悪魔らしくない優しげな表情で述べた。
 「私はリアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主よ。そしてあなたも―――」
 リアスと名乗った少女が指先を僕の背後に向ける。
 すると、自身の背中から何かが飛び出す感覚を得た。首を向けると、そこには漆黒の翼が生えていた。
 「あなたはね、一度死んだの。だから、私が悪魔として転生させたのよ」
 ……呆然として、彼女の言葉をしっかりと理解できたのは、それから数分後のことだった。



 ―○●○―



 「…………………………」
 「……私は何もしないわよ」
 部屋で対峙する僕とリアス・グレモリー。あれから僕は強い警戒心を抱いて彼女達とこの部屋で過ごした。
 ここは日本のとある町にあるマンションらしい。
 さすがに目が覚めた時のようにリアス・グレモリーに刃を向けるようなことはしないが、それでも強い警戒心を持ち距離を作って接していた。
 当然のことだ。僕はあの研究所で悪魔は信徒の敵だと教え込まれたのだから。いくら研究者達に、神に裏切られたからと言って、一度教え込まれたものはそう簡単に拭えるものじゃない。
 彼女は僕に親しげに優しく接してくれた。だが、僕は教会によって教え込まれた知識と前世の記憶の悪魔に対するイメージによって疑心を強めて行った。
 悪魔は人間を惑わし、転生させると教えられた。悪魔は契約を行い、願いを叶えることで人間の魂を奪うと記憶にあった。
 だからこそ、僕は彼女が裏に黒いものを抱えて僕に接してきていると考えた。
 何を考えているのかはわからないが、僕があの研究所の被験者であると言う情報を持っているのは確実だろう。何を考えているのかは知らないが、その教会か研究所の情報が欲しいのかもしれない。
 リアス・グレモリーは諦めたかのようにトレイに載せた食事をテーブルに置いて部屋を去っていく。
 一緒に食事を取りたがっているらしい。眷属にした下僕と一緒にご飯が食べたいなど、よくわからない悪魔だ。資料があればソロモン七十二柱の悪魔について調べるところだが、生憎そんなものは一切なかった。
 しかし、ありがたいことに前世の僕はファンタジーが好きで、神話や小説に詳しい人種だった。
 ソロモン七十二柱の悪魔、序列五十六位のグレモリー。階級は公爵。ラクダに乗った美しい女性の姿をとる悪魔。
 ソロモン七十二柱の悪魔のほとんどは男性か性別不詳で、外見が女性であるのはヴェパールを含めほんの少ししかいない。
 七十二柱の悪魔の中でただ一人、間違いなく女性だと明言されている悪魔。
 巨大なラクダに乗り、腰の近くに冠を付けた美女の姿で現れる。
 魔術師に召喚されたグレモリーは、相手の年齢に関係なく、召喚者が求める女性から愛されるようにすることができる、とある。
 愛の悪魔、グレモリー。
 先程の紅髪の少女は確かに美しいが、紛れもなく少女である。美女と称されるのはおかしい。
 悪魔は自分の外見年齢を好きに変えることができると聞いたことがある。その能力によって少女の姿をとっているのだろうか?何故?僕の警戒心を和らげるため?やはりわからない。
 テーブルに置かれた食事を食べながら色々と考える。
 毒や薬を盛られている可能性もないわけではないのでそこそこ警戒しながら口を付ける。
 そして、悪魔の少女達に心を開かずに生活を初めて、遂に一ヶ月が過ぎた。




 
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