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少年少女の戦極時代Ⅱ

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ヘルヘイム編
  第5話 これっきりなの?



 その日のステージ帰り。咲が通りかかった歩道の路地から、重い物が落ちた音がした。ちょうど人が二人ほど落ちたような。咲はその音に引かれて路地を覗き込んだ。

「紘汰くん! 戒斗くん!?」

 咲はちょうど立ち上がった紘汰たちに駆け寄った。

「どうしたの、こんなとこで。あ! ケガしてるじゃない。それにそのベルト……まさか、変身して戦ったの? だれと?」
「――お前には関係ない」
「カンケーある! あたしだってアーマードライダーだし、ヘルヘイムにも入ったもん」
「そうそう。そのSuper Girlだって立派な関係者だぜ」

 紘汰でも戒斗でもない声。見上げる。DJサガラがビルの外付け階段に立っていた。

「何の用だ」
「何の用だ、はないだろう。お前たちを助けにきたのに」

 助けに来た。つまり、助けられるべき状況にあったということで。
 咲はむすっと紘汰と戒斗を見上げた。戒斗はぷいとよそを向いた。紘汰は困った顔をしてから、屈んで咲と目線を合わせた。

「実はさっきまで、ヘルヘイムの森に行ってたんだ。森からユグドラシルの研究所に行こうとして」
「二人だけ、で?」
「なかなかどうして健闘したが、ユグドラシルのこの新兵器に」

 サガラがぽーんと何かを投げた。慌てた紘汰がキャッチする。赤と緑(クリスマスカラー)の、大ぶりな何かの機械が紘汰の両手の平に収まっていた。

「やられて追い返されちまったわけだ」
「――どうしてあたしにも声かけてくれなかったの」

 咲は抑えた声で紘汰と戒斗を問い質した。腹の底と眼球の裏でぐるぐると熱いものが渦巻いている心地がする。サガラの言う通り、咲とて関係者なのに。

「お前がいても足手まといだった」
「戒斗っ」
「二人より3人のほうがぜったいアブなくなかったと思うんだけど」
「俺は思わない。数が多ければいいってもんじゃない」

 咲は苛々し始める。
 何故この男はいつもこうなのか。ワンマンで俺様で人の心配などちっとも気にしない態度――気に障る。
 戒斗たちが危地に飛び込んだと知って、咲はこんなにも不安にさせられたのに。

「何でそんな言い方しかしてくれないのよっ。あたしは二人のこと……っ」

 口にする寸で、咲ははっとする。
 咲は紘汰をトモダチだと思っている。戒斗にも紘汰と近い感情を持っている。だが、彼らが咲をそう見なしているかと問われればどうか。

 紘汰たちからすれば咲はコドモで、か弱い存在。
 戒斗の言うように足手まといでしかないのではないか。
 紘汰は人が好いから咲を拒絶しきれないだけではないか。

「咲ちゃん?」
「――わかった」

 咲は踵を返した。

「もうジャマしない。あなたたちのスキにしたらいいよ」

 本当に足手まといになって紘汰や戒斗が傷つくよりはずっといい。だから室井咲は彼らから離れよう。それが、一方的な思いでも、トモダチである彼らにしてあげられること。

「今までアリガト。あたしみたいなガキの相手してくれて。これからもがんばって。あたし、ずっと応援してるから」
「咲ちゃん、待ってくれ! 咲ちゃん!!」

 紘汰が何かを言う前に、咲は駆け出した。慰めなど聞きたくなかった。



 路地裏を出てから、数歩行ってはふり返るのをくり返した。

 追いかけてほしいのかほしくないのか自分でもよく分からなかった。ただ、もしも追いかけて来たなら同情からで、追いかけて来ないなら本当に足手まといと思われているのだろうとは、子供の頭でも分かった。
 だから、どちらであろうが咲は彼らとはこれっきりだ。

(人と人のお別れって、こんなにあっけないんだ。知らなかった)

 じわ、と滲む視界。咲は慌てて袖で目元を乱暴にこすり、泣くな、と己に言い聞かせた。 
 

 
後書き
 はいいきなり擦れ違い。いきなり決別。オトナとコドモの壁。
 戒斗さんがもうちょいソフトに言えばよかったのですが、そこでハードに行くのが戒斗ですよね。戦い&強さ至上主義の戒斗が「戦うな」なんて言うとこ想像つきませんし(^_^;) 
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