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乱世の確率事象改変

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彼と並び立つモノ

 眩しい早朝の日差しは背を照らし、黒馬に跨る彼の影を長く大きく伸ばし行く。
 目を細め、遥か遠くを真っ直ぐに見やる彼の表情は凛々しく、隣で別の馬に跨る少女はその横顔を見つめて、頬を朱に淡く染め上げた。
 自分の事を見てくれないのは分かっている。これから自分達が作り出す地獄をただ淡々と頭の中で積み上げ、己が行いを責めながら進む人だという事も知っている。
 ほんの少し、彼女は甘えたい気分に取りつかれて、馬を寄せて近付いてみた。
 身体を寄せて、四日に一度の夜のように顔をその暖かな胸に埋められたら……幼子のように素直に甘えられたなら、そんな些細な欲望を抱いて。けれども彼女はただ見つめるだけであった。
 気付いていながらも男は無言、何も言わず、聞かず、遠くを見つめ続けるだけ。
 一陣の強い風が吹き、真黒い外套がはためく様は翼を広げた黒い鳥のように見えた。

――私が近づいたから吹いた風であればいいのに、彼に翼を与えられるのが私であれば……もっと優しい何処かへと連れて行ってあげられるのに。

 直ぐにふるふると頭を振るって彼女は個人の想いを頭から追い払う。
 誰かに与えられた結果で満足するような男では無いのだと。望んだままに全てを奪ってから与える事を望む人、だから彼女は何も出来ない。ほんの少し、違う道に羽根を落として、選択肢に気付かせてあげられるだけ。
 選ぶのは彼であり、進むのもまた彼。
 黒き麒麟は大地を駆り、対を為す鳳凰は空から道を示す。
 四霊の幻獣の名を冠する二人は、思惑も心情も交わる事は無く、されども同じ先を見つめ続ける。

「御大将、陣の設営完了しました。張飛隊への伝令も滞りなく」

 筋骨隆々の見た目の通りに、野太い声で告げた副長の言葉に対してそのまま顎を引いて頷き、彼は目を細めて振り向く――途中で心配そうに見つめる雛里の気持ちに気付いて表情を綻ばせた。
 大丈夫、そう言い聞かせるように。
 お前にはホント敵わないな、と雛里はいつもの言葉が耳に響いた気がして、胸の内がじわりと温かくなった。
 すぐにキリと表情を引き締めた秋斗は、いつもの飄々とした声では無く、厳しい冷たさを宿す声を紡ぐ。

「ご苦労。副長と雛里に後陣は任せる。敵先遣部隊の第一波は俺が連れて行く徐晃隊の四倍強、城で煮詰めていた予定よりも多いが……雛里のくれた策で大丈夫だろう。雛里の下す命には全て従え副長。じゃあ……行って来るよ」

 最後に、ほんの少しだけいつもの優しい笑顔を雛里に向け、彼女が微笑み返したのを見てから彼は馬を進め、徐晃隊の待つ場所へと向かっていく。
 その背は広いのにどこか小さくて、雛里の胸はきゅうと締め上げられる。
 途端に悲痛な面持ちに変わった雛里を見て、副長は何も言わずに見送る彼女に対して感嘆の念が湧いた。

――戦に向かって行く自分が慕う男を笑顔で送り出し、その背を見ても引き止めず、心配で心が張り裂けそうでも勝利を疑わずに待てるのかよ……もう幼女軍師様なんて呼べねぇわな。

 副長は二人を長く見てきた。雛里が自身の主に向けている視線が熱の籠ったモノであることも知っている。まあ、徐晃隊の全てが知っている事実ではあるが。
 それは一人の少女が甘く抱く恋心なのだと思っていた。憧憬の念を多大に含むモノなのだと勘違いしていた。
 しかし今の雛里の姿は、少女では無く一人の大人の女の在り方。もはやこれは恋では無いのだと副長は理解した。

「鳳統様、我らは手足。御大将の命令はあなたに従え。大陸一の名軍師と黒麒麟の手足が組んだらどうなるかを敵に見せつけてやりましょうや」

 副長は間違わない。
 今、黒麒麟が求めているのは並び立つ鳳凰であるのだと。
 だから大人として、そして部下としても、彼女の背を押す。女として待つ姿は見せた、ならば次は並び立つ軍師の姿を見せてやれ、と。
 ゆっくりと副長を見上げる雛里の翡翠の瞳には煌々と冷たい輝きが燃え始める。それは軍師の冷徹な光。人の命を駒として扱う覚悟を秘めた本物の軍師だけが持てるモノ。

「ありがとうございます。では行きましょう。あの人の願いの為に、全てを操り、地獄を作りましょうか」

 ゾクリと肌が泡立ち、副長は彼女の放つ冷たい声音に圧されるも、一つ大きく息を吸って気合を入れ直し、御意の声と共に目礼を返した。
 雛里は腰に据えてあった黒い羽扇を取り出して柄をきゅっと握り締め、戦場を俯瞰し全てを読み切る鳳凰となる為に動き始めた。





 平然と並ぶ白銀の鎧の群れは横並びに広がり、対面に並ぶは四分の一程度の新緑の部隊。
 一つ、その中央にて黒に身を染めたモノがゆっくりと、だが力強く進んで行く。大きな体躯の、鞣した皮の鎧さえも黒で塗りつぶされた馬に跨る男。対面する敵兵達はその威風堂々たる姿を見てゴクリと生唾を呑み込む。
 対して、白銀の群れからは一人の少女が進んで行くが、その少女の瞳には自軍が圧倒的な数であるにも関わらず少しばかりの怯えが見て取れた。
 その少女は袁術軍の将の一人。その武は兵と比べれば比肩されるモノはいない。しかし目の前にいる男の噂、以前の連合時の呂布との戦いを見れば自身とは比べものにならないのだと理解しているが故に……多少の怯えの念を振り払えずにいる。
 上司たる紀霊くらいでしか相対する事など出来ないだろう。だからこそ、数という兵法の基本、もしくは搦め手を以って全てを抑えるしかないのだ。幸い、張飛の隊は物資補給の為に城に戻ったとの報告を事前に聞いていた。黒麒麟一人ならば四倍の兵力には対抗出来ないだろう、と考えているが、それでも純粋に実力が上のモノに対しての怯えは出てしまう。
 近づくに連れ、嫌な汗がじわりと少女の手を湿らせていく。軍服のスカートの裾で拭ってから馬を止めると……男の瞳に射抜かれた。
 穏やかな瞳であった。これから戦を行うとは思えない程に。思わず、無意識の内にほっと息をついてしまう程に。

「何故、俺達が治める地に足を運ぶのか」

 問いかける様は堅苦しいモノでありながら日常会話を行っているような声音で、気軽さは彼女の心にまで染み渡る。少女はそのせいで油断した心のまま、

「大陸は疲弊の極みにある。それを救おうと動く事になんの問題があるのか。一人の強大なる王が治めてこそ大陸は救われる。それを為す事が出来るのは袁術様である。従うならば良し、従わぬなら……踏み越えてその地を貰い受けるまでよ」

 最も分かり易い侵略の理論を口にした。
 誰もが自身の掲げる王が全てであると信じている。それに逆らうのならば切り捨てられて当然。
 戦で最も分かり易いその理論を聞いて、秋斗はただ穏やかな瞳でその少女を見つめたまま、

「そうか……夕はやはり抑え切れなかったという事か。どちらも腐っていて、どちらも救いようが無い。対立したのは己が欲からだけ。勿体ないなぁ……夕も、そして明も」

 一人の少女だけでは対抗出来なかったのだろう、と納得する。彼女の情報は入っていた。田豊は幽州に攻め入る戦には参加せず、と。
 独り言を小さく呟いた彼は表情を緩め、しばしの沈黙の後、目を細めながら自身を睨みつける少女を一瞥し、

「クク、なら侵略を開始すると……そう言うんだな?」

 楽しそうな声を紡ぐ事によってその少女を静かに凍りつかせる。

――どうしてこの男は四倍の兵力なのに怖気づかないの? どうしてこんなにも楽しそうなの?

 携えた笑みは優しく穏やかで、まるで平穏な治世の中にいるかのよう。戦場こそが自身の平穏であるかのようなその空気に、彼女は呑まれた。

「お前達は攻めてきた、俺達は守りたい、それだけで十分だ。勝った方が正しい、それが戦だ。言い訳も、相手の心も、大義名分も、何もかもをゴミのように投げ捨てて力付くで従わせる。それでいいんだな?」

 にやりと口を歪めたと同時に、秋斗は長すぎる剣を天に向けて翳す。まだ年若い袁術軍の少女は次に何をしてくるのかと身構えるが、秋斗の表情はバカにしたような見下すモノに変わり、剣先を向けると同時に冷たい言葉が流れ出す。

「袁家に従うモノ、最後まで刃を向けるのならば一兵たりとも生かしてやらん。俺に従うのならば、お前達の望む平穏を与えてやる。怯えたのなら従え、恐怖したのなら従え。なんの事は無い、俺に従えば死なずに済むぞ」

 それは異常な言葉。圧倒的に少数の軍を率いるモノが言う言葉では無い。
 故に袁術軍の兵達は錯覚する。虚勢を張っている、奴らの方が怯えているから空元気、こちらこそが強者であり、喰らう側だと。そうやって心のほんの些細な所に慢心が生まれ出ずる。
 対して、年若い将は男に見下された事で頭に血が上り始めた。この寡兵の軍にさえ勝てるわけが無い、お前は無能だと言われているのだから当然と言える。
 将である少女も敵兵も気付かない。彼がわざと自身から溢れ出そうな覇の気を抑えて言葉を紡いでいる事に。挑発の基本は抑え付けるでは無く引きずり込むという事を彼はシ水関で袁家の将から学んでいたという事に。

「傲慢に過ぎるな黒麒麟! 如何に貴様個人が強かろうと、兵法の基礎も分からぬお前では我らに勝てん! 成り上がりの将風情が調子にのるなよ! 戦というモノを思い知らせてやる! 全軍、掛かれっ!」

 戦端は突如として開かれた。己が力に過信したモノからの挑発は袁術軍にとって戦を始めるのには十分な理由となった。
 相手が激昂する様を見て、敵が雄叫びを上げながら動き出し始める中で、秋斗は緩く片手を上げて後ろに構える徐晃隊に簡略的な指示を出す。
 徐晃隊はその手を見て最前列以外が少しだけ後退しながら腰を落とし、列の隙間を開け始める。
 敵が突撃してくる最中、まだ敵とぶつかるには遠いというのに、彼は手を振り下ろし、心底つまらないとも取れる声音で短く一言呟いた。

「槍を降らせ」

 瞬間、ある程度感覚を開けた徐晃隊前方の列から順繰りに投擲される数多の槍。その槍は兵達が普通に使うモノよりも短く、容易に敵兵まで届き得た。
 矢ならば防げるように対策はしてあっても、袁術軍にとってそんなモノの対応は初めてであり、弓兵がいないとの報告を聞いていた全軍、中でも槍の雨を浴びせ掛けられた中央敵兵は混乱に呑み込まれる。大きなエモノの飛来は本能的な恐怖に繋がり、迷いを生んだ。練兵を積み上げてきた精兵たる徐晃隊の投槍は正確にして強力であり、ある程度敵の数を減らす事、そして中央部隊だけ突撃の脚を止める事に成功する。
 打ち降りた槍は軽装であれば穿ち抜き、例え盾を頭上に構えようとも突撃の最中であるが故に当たった重みによってたたらを踏む。木盾に於いては突き刺さった槍が邪魔をして隊列が乱れる。
 事前準備で為していたモノは様々、その一つが投槍。本来、捨て奸をするのに必要なモノは鉄砲や弓であったが、鉄砲などこの時代にあるはずも無く、秋斗は弓の事がからっきし分からない為、徐晃隊の主力が歩兵な為に槍を投げさせる事を選んでいた。敵に再利用される事など目に見えているのだが、槍を投げるのには技術も要し、使い慣れている長さとは違い、違和感は戦場で決定的な命取りとなる為に直ぐには扱えない。奇策の類、しかし初手にそれを行う事にこそ意味がある。

「さあ、貫け徐晃隊! 敵中央を食い破れ! いつも通りだ、俺について来い!」

 投槍の被害が全くない敵兵右左翼は困惑しながらも突撃してきているというのに、包囲されるのも気にせず、槍を投げた前半分の徐晃隊は腰の剣を引き抜いて、投げていない後列は槍を持ったまま、愛馬である月光と共に駆ける彼を先頭として敵の中央に突っ込んで行く。
 武器を投げる等と異常な事を行った兵を見て唯でさえ浮足立っている状態で、そこに来る圧倒的な武力によって袁術軍中央は乱れる他なく、戦場には紅の華が次々と咲き誇った。
 先頭を貫いていく彼が剣を振る度に鮮血が舞い、殺そうと武器を振るっても悉くが弾かれ、一方的な攻撃を受ける事によって近くの兵から恐怖に引きずり込まれていく。
 自分からこの大多数の兵の中央に、しかも将自ら突貫してくる等と……そのような命を顧みない異常な行動に敵の誰しもが瞬時に怯えを植え付けられた。
 初戦、しかも別働隊が来る事が分かっているはず、さらには味方もまだまだいるはずなのに命を投げ捨てるかのような行動をされて……敵将たる少女の心は乱れに乱れた。
 迷いは兵に伝播する。そして恐怖の心を助長していく。常人の思考を持つ少女は立て直す為に何をしようとするか。

「ぜ、全包囲では無く、半包囲を行え! 決して抜かれるな!」

 守勢による持久戦術を取るのは必然。数が多いのならばじっくりと時間を掛けながら統率を確立し直せばいいだけ。混乱の渦に呑まれ切る前にそれを行った事は評価出来る。しかし……徐晃隊に対しては間違い。
 突如、敵の包囲が変わり始めると同時に徐晃隊後方から笛の音が鳴り響く。木霊するように長く多くなっていくそれは各小隊長が鳴らしていた。
 一つ一つ音色の違うその音は、小隊毎への指示の証。
 シ水関で見せた参列突撃戦術が袁術軍の両翼を広げるように襲い始めた。
 乱戦であれば数が多い方が有利なのは確実だろう。だが、統率された兵列によって面としてぶつかり合うのならば、練度と連携の勝る方が有利なのは言うまでも無い。
 秋斗の命令は中央を食い破れ。ならば彼ら徐晃隊はそれに従って独自で対応を行う。秋斗はそれが出来る隊に仕上げてきた。
 徐晃隊は死を恐れる事は無い。彼の為に、彼の作り出す世界の為にと信じる心は力となり、隣で戦友が倒れようとも、自身に刃を向けられようとも命令を遂行する事だけが彼らの全てとなる。
 もはや黒麒麟の独壇場となった戦場で、一人の年若い将は寡兵に真正面から圧されているという事実を受けて、限定され始めた思考の中で愚かにも一つの指示を出してしまった。

「鶴翼陣に切り替えろ! 敵を引き込んでやればいい! 圧倒的な兵数で挟撃すればよいのだ! まずは兵の数を減らせ!」

 言葉と同時に彼女自身も右翼に動き始める。ばらばらと恐怖のままに動く軍は被害を増やしながらも徐々に下がっていくが、

「全軍、退却」

 ある程度の戦闘、やっと陣容が整おうかという時分に、彼の口から短い命令が為されて長く、大きな笛の音がいくつも鳴り響き、徐晃隊の全てが迅速に踵を返して走り始めた。負傷兵であろうと全てが、である。ただ、死にかけの徐晃隊員だけは敵兵の最中に突っ込んで行く。
 突然の後退、否、退却を始めた軍に敵兵達は呆気にとられた。そしてその隙を見逃す程、秋斗は甘いわけが無く、返り血に身を濡らしたまま段違いな武力から近づけない敵兵達を見やり、月光の馬首を巡らせながら敵将である少女を見据えて最後の楔を袁術軍に打ちこむ。

「怯えが透けて見えるな。もう一度言ってやろう。怯えたなら従え、恐怖したなら従え、そうすれば命は助けてやろう。そうさな、臆病者で無いのなら追ってくるがいい。まあ所詮、力押ししか出来ない愚か者であるのに変わりはないが」

 敵兵達の心には既に慢心の文字は無く、恐怖心と警戒心が植え付けられている。未だ圧倒的な兵力を有するが為に臆病者や愚か者では無いと怒りに葛藤する心もあるが、何をしてくるか分からないという警戒、そして格上と相対しているという恐怖が綯い交ぜになり追撃に対しても迷いが生まれる。
 少女は戦前のモノも今の言葉も挑発であるという事に漸く気付き、己が失態と敵の強大さに歯軋りをして悔しがるだけで何も指示する事が出来なかった。にやりとバカにした笑いを浮かべて去っていく彼の背を見送る事しか出来なかった。
 結果、その部隊は追撃をせず、別の策を行う事を決めるしか無かった。
 たった二刻程の戦闘であったが、徐晃隊はその力を敵兵に見せつける事に成功し、思考の限定という成果を得た。
 そしてこの盤上は一人の天才軍略家の作り出した展開の一端でしか無いという事を敵は知るはずもない。





 追撃も無く、陣に着いた秋斗を出迎えたのは雛里と副長。
 副長はすぐさま徐晃隊の兵の残存数確認と次の行動の指示に動いて行った。対して雛里は……力強い瞳で秋斗を見上げて口を開く。

「こちらは万事問題ありません。敵の状態はどうですか?」
「心理的な楔は十分打ちこめた。雛里の読み通りに行くだろう。あと、やっぱり捨て駒の将みたいだ。兵を率いる力が副長にも満たないし対応も粗雑、挑発にも乗りやすいから誰かの副官としても不十分。あれはいらんな」
「そうですか……有力な将なら捕えて使おうと思ったのですが秋斗さんのお眼鏡に敵わないのでしたら予定通りに」

 淡々と会話をする二人は将と軍師……では無く王と軍師のよう。王が欲するは人材。先の世の平穏を作り出せる為の刃となり得る程のモノこそ王にとっては必要である。
 秋斗の報告を聞いた雛里は残念そうに首を可愛らしく傾げた。徐晃隊の対応力にある程度即時対応をやり返せる程の将ならば一角の人物となれたのに、と。
 求めるレベルが高すぎるが、彼らは曹操と相対しなければならないと考えている為にそのくらいの将でなければ足手まといでしか無い。
 せめてもの最低ラインと決めているのが曹操の元に居る楽進や于禁である。
 楽進ならば、正道を突き進んで途中で陣容変化もせずに力で抑え込みに来て、無理やり退却してもある程度の追撃を行うくらいはしただろう。
 于禁ならば、徐晃隊までとは行かずともそれに近い形の対応力で戦線を維持し、じわりじわりと兵の数を減らしに来ていただろう。
 しかしどのような将が来ても搦め手で引きずり込む準備は出来ているので追って来ようと来なかろうと問題は無かった。その証拠に――

「それと……事前に伏兵として置いた徐晃隊は既に下がらせておきました」

 雛里の元に副長という徐晃隊の重要な人物を残していたのだから。
 釣り野伏せという戦術がある。それは寡兵で以って相手に突撃、後に引き込んでの三面包囲。将棋で言う受け、つまり逆撃を最も得意とする雛里と相性が抜群な策。少数で多数を打ち破る為に使われた、日本の勇猛な戦国武将一家が好んで用いた難易度の高い策。
 元からここに来た徐晃隊の最大兵数は隠しておいたのだ。敵に与える情報の操作すらも抜かりなく行って。
 雛里の恐ろしい所は……釣り野伏せ戦術を秋斗から聞いたわけでは無く自分で考え付き、徐晃隊の実力から最も効率的に行えるようにアレンジし、膨大な兵数の戦でも行えるように確立させている事……でもあるのだが、予定通りという事は、攻撃力が一級品だというのは間違いないというのに、雛里はこの釣り野伏せすらも副案として使うだけだと決めているその一点。
 戦の先を読み、全てに対応する力は昔からあった。そこに経験を積んで入り混じったモノは、戦場を思う様に捻じ曲げる能動的な軍師の思考。彼女はもう、戦場に於いては飛ぶことの出来ない雛に非ず。

「次の時機はいつがいいと思う?」
「挑発の成功、警戒と恐怖、鈴々ちゃんの不在、袁家の思考……敵将自体の武力も高くないのでしたら――」

 知性の宿った瞳でつらつらと雛里が次の予測を話して行く。全てを聞き終わると秋斗はポンと一つ彼女の帽子の上に手を置き、

「なら直ぐに行動に移るが……さすがは雛里だ。俺達の全てを操ってくれ。お前なら完璧に出来る」

 頼りにしているぞ、という正直な信頼の気持ちを笑みと共に向けた。

「し、秋斗しゃんと徐晃隊の皆さんがい、いてこしょでし……あわわぁ……」

 張りつめていた精神に放たれた無自覚男の奇襲は彼女の心を一人の少女へと引き戻し、噛みながら帽子を急いで下げて照れ隠しをする愛らしい少女の様子を見てか秋斗もいつもの自分を取り戻した。

「クク、ありがとう。そうさな、敵の第一波を予定通り処理出来たら、徐晃隊の皆と鈴々達に簡単な料理を振る舞おうか。何を作るかは雛里に任せていいか?」

 戦場で行うような提案では無かったが、そんな他愛ない話が何よりも彼女の心を休める。
 秋斗が言いたいのは、お互いに張りつめすぎてはいけない、という事。己が部隊のみ、さらには朱里や愛紗もいない戦場は初めてである為、二人はどこか気を張りすぎていたのだ。

「はいっ!」

 満面の笑顔で返事をする雛里も隠された意味に気付いている。

「じゃあそろそろ行こうか。俺達の作る戦場に」

 笑顔を向け合ってから二人は陣内を並んで歩いて行く。直接言い表す事は無くとも無意識の内にお互いを支え合う二人は、確かな絆で結ばれていた。





 夜の闇に蠢く影は黒い波に似ていた。
 昼間の戦闘は余りに短く、四倍の兵力を以ってしたのに被害が大きかったというのは別として、残った兵達の疲労度は僅かなモノ。敵将の挑発によっていきり立った心を誤魔化すには全く足りなく、不平不満はより大きなモノとなっていた。
 侵略する側の軍を率いる将は部下に舐められてはいけない。ましてや、臆病者とまで言われて何もせずにいるなど……万を越える先遣隊を率いるモノとしては相応しくない。
 侵略を行って攻める側だというのに亀のように自陣に留まっている事など出来はしなかった。
 だからこそ、警戒心をより強固に固めた袁術軍は奇襲を仕掛ける事を決めた。
 よもや挑発されたのに引いたその夜、戦を仕掛けるとは思うまい。そんな考えの元に。
 敵陣間近となり遠目でも分かる程に煌々と焚かれた篝火の光を見て、兵の誰しもが油断しているのではと嘲笑っていた。だが、警戒を強めていた将は嫌な予感が頭を過ぎる。

「全軍止まれ。まずは陣の様子をしっかりと調べるべきだ。三人が散開して三方向から調べてこい、見つかるなよ?」

 油断や慢心はもはや無い。奇襲を行うのならば圧倒的な優位で攻撃しなければ意味が無い。兵達からは不満げな視線を向けられるが、彼女にしたらそれよりも優先されるモノが二つあった。
 一つは心の内から発される大きな感情の奔流、あの憎らしい成り上がりの傲慢な将をより確実に殺したいという純粋な殺意。
 もう一つは外から齎された言葉、上司たる張勲に自分ならば黒麒麟を殺すか捕えられるだろうという期待を向けられていた。
 四倍の兵力で攻めたというのにこのままでは降格は確定。なんとしても成果を残さなければならないとの思考に陥り焦っていた。
 しばらくして、偵察に向かわせた兵から報告が行われる。

「敵陣からは炊事の煙があり、門が開かれたままで笑い声さえ聞こえます。確実に油断している事でしょう」

 ほっと一息。彼女の顔は安堵に染まった。
 如何な黒麒麟と言えども油断する事があるのだ、と。それが自身の油断であるとも気付かずに。

「よし! ではこれより敵陣に奇襲を掛ける! 全軍、声を抑えて突撃しろっ!」

 歓喜と狂気に顔を歪めた袁術軍の兵士達は次々と駆け出す。それは得物を見つけた賊の顔と同じであった。
 ついに陣に辿り着き、雪崩のように第二の部隊の半数程が陣に突入したその時……彼女達にとっては忌々しい笛の音が鳴り響いた。





 甲高い音が夜の静寂を次々と切り裂き、紅いショートヘアの小柄な少女の耳に心地よく響く。警邏を行っている時も、練兵の時も、彼女はこの音を聞くのが好きだった。鳥の鳴き声のようなその音は、燕の名で呼ばれる自分だけが分かるような、特別な何かを伝えてくれているように感じていたから。
 満足そうに頷いた少女ははち切れんばかりの笑顔を携えて、

「にゃはは、雛里の言った通りになったのだ! 皆ぁ! 鈴々達もやっと暴れていいのだ!」

 元気のいい声を響き渡らせ、それを聞いて次々に周りから歓声が上がり、地に伏せていたモノ達が立ち上がる。この時を待っていた、と言わんばかりに。

「さあ、我ら張飛隊の恐ろしさを見せてやるのだ! 突撃、粉砕、勝利なのだぁー!」

 燕人は真っ先に先頭を走り出す。遠くの陣内に向けて。
 走る事幾分、黒い波となりて押し寄せるその軍勢は、不愉快な音が鳴った事によって動揺している敵軍の真横へとぶつかった。
 先頭を突き進んでいた燕人の跳躍からの蛇矛による一振りは力強く、指示が間に合わずにおろおろと慌てながら立ち竦む敵兵三人を一度に容易く吹き飛ばす。
 さらにそのままもう一振り行われ、逆側に吹き飛ばされた兵によって盛大な間が出来る。
 煌々と焚かれた篝火はその小さな体躯を橙色に照らしだし、不敵な笑みを携えた少女がそれを行ったのだという事実に袁術軍の兵士達は恐怖に落ちた。

「耳の穴をかっぽじってよーっく聞くのだ! 我が名は張翼徳! 劉玄徳が一の家臣! 燕人とは鈴々の事なのだ! この跳躍に逃げ場無し、逃げられるモノなら逃げてみるのだぁー!」

 大きな名乗りは狩る側であったはずの敵兵を狩られる側であると瞬時に意識させ、恐慌状態に陥った彼らは右へ左へとすぐさま逃げ始める。
 奇襲を掛けたつもりが奇襲に遭う等、誰が予想出来ようか。しかもここにはいないはずの将が来たという事はどういう事か……彼らはすぐに理解してしまった。
 もはや彼らは烏合の衆。例え兵数で勝っていようとも練度の高い二つの部隊に食い切られる生贄でしかない。
 勢いをそのままに突撃を行う張飛隊は凄まじいの一言で言い表せるだろう。逃げ惑う敵兵も、向かい来るモノも、全てを貫き、突き抜けていくのだから。
 陣の外が最悪の事態となっている中、劉備軍の陣の中で袁術軍の将は一人蒼褪めた顔で固まっていた。指示を出す事も出来ず、戦う事も出来ずに。彼女の心は絶望の淵に立っていた。

――何故、私の思考が読まれた。油断していたのではなかったのか? 張飛はここにはいないはず。何故、ここにいるのだ。それに……黒麒麟はどこにいる?

 彼女は先頭の部隊と共に陣の内部に踏み込んでいたが、そこに徐晃の兵は少数しかいなかった。それもほんの数十人だけ。全ての兵がにやにやと不敵に笑い、助けを呼ぶことも敵襲だと叫ぶ事もせずに彼女達を嘲っていた。殺そうと追ってもばらばらと逃げるだけで戦わず、笛の音が鳴り響いて漸くこれが罠だと気付けた。
 膨大な情報を瞬時に叩きつけられた彼女は混乱の渦に呑まれてしまっている。もはや指揮官としての意味が無く、外に向かったとしても全てを治めきる事など出来はしない。
 昼間の戦端、男の言った二つの言葉が頭を掠める。

 従えば平穏を与えてやる。
 臆病者。

 逃げ出したくなる心と抗いたい心、さらには従えば助かるかもしれないという愚かな考えが浮かび、彼女の心に大きな迷いが生まれ、縛られた思考は判断の全てを鈍らせる。
 罠だと気付いた時点で直ぐに逃げれば良かったのだ。それなのに彼女は陣内に残ってしまった。
 決めかねて時間を浪費する中、陣内の天幕からは次々と火の手が上がり始めた。徐晃隊の数十名がばらばらと逃げるだけだったのは自陣に火をつける為だったのだと彼女も漸く理解した。
 燃える炎は次々と柵へと広がっていき逃げ場を塞いでしまう。敵指揮官と兵の分断、ここまで周到に用意されていた罠。
 空城計のアレンジ。それが雛里の選んだ策であった。ただし、敵を退却させるモノでは無く壊滅する為のモノ。警戒して硬直していたとしても、引き返して行ったとしても張飛隊の出現によって心理的にも物理的にも奇襲を掛けられるという二段構え。ここまで全ては鳳凰が盤上に描いた展開でしか無い。
 混乱の渦中で恐怖に塗れる袁術軍の兵達は劉備軍の陣に火の手が上がったのを見てさらに迷い、戸惑う。何が起こっているのか、どうすればよいのか……迷う内、最後に残るのは自分達は死にたくないという純粋な想い。
 彼らの内には一つの言葉が甦っていく。戦端で自分達に向かって放たれたその言葉は脳内で甘く響きだす。
 赤く燃える炎が昼間のように明るく照らし出すそこに、多くの足音と共に来るのは全てを切り捨てんとする黒き麒麟の部隊。
 陣の後方から迂回して来ていた徐晃隊の本隊は思考の迷路に嵌り続ける袁術軍の横っ面を易々と貫いた。



 †


 初戦の結果は大勝、全てが思う通りに進んだと言える。
 朝日がまだ眩しい時間帯、私は少し離れた所に建てた簡易の陣にて今回の戦の事を考えていた。私の描いた通りに戦が進んだ事、そして……私達が作り出した地獄の事を。
 烏合の衆と化した敵達は制圧するに容易く、彼が戦端にて楔を打ち込んだ事によって二千弱もの捕虜……否、新規の劉備軍を獲得した。
 彼が率いる徐晃隊と共に戦場で指示を行う中、敵将について陣内にて徐晃隊員が打ち倒したとの報告があった。
 捕えて逃がしても良かったが、人とは成長するモノだから失敗を生かす機会を与えてやらないというのが彼の思惑。仮に、敵将が噛ませの役目では無かった場合も、これほど容易に壊滅させられたとして袁術軍の思考を焦りに縛る事が出来るのも理由の一つ。
 自軍に引き込んだとしても実力を伸ばす時間が足りないので将の投降は却下。挑発に乗るという事は自尊心が高いという事であり、兵に落としてやり直させるとしても内部で揉める事は目に見えている。以前まで率いていた将を亡き者にしてしまえば投降してきた兵の掌握も行い易い。
 戦場の彼は冷たい。いや、敵に対して残酷なだけ。
 捕虜にしても、初めから投降してくる全てを助けるつもりなど毛頭無かったのだ。

「鎧を脱ぎ捨て、袁家を捨てる事が出来ない自身の嘗ての仲間を殺したモノだけに投降する事を認めてやる。俺に従うというのなら結果で示してみせろ」

 徐晃隊で敵軍を貫いた先、鈴々ちゃんの部隊に一つの指示を出してから、武器を降ろした敵兵達に彼はそう告げた。
 たったそれだけの言葉で阿鼻叫喚の地獄がそこに顕現する事となった。武器を捨てたとしても従ったとは認めないという彼の言葉を聞き違わなかった副長さんは、戸惑い怯える一人を無作為に切り捨てた。そうすると直ぐに、元袁術軍の兵士達は鎧を脱ぎ捨てて戦場へと駆けて行く。
 嘗ての仲間を殺させる。言い方は酷いモノだろう。だが、兵士として軍に組み込んで強化する事が出来るという点では間違いなく効率が良かった。
 己が軍の被害も減らす事が出来て、敵兵の混乱も助長し、心の基準線を無理やり越えさせる。生き残ったモノだけを心から服従した同志として認める事が出来る。
 彼が作り上げたのは徐晃隊の基礎である絶対服従の精神。これを以ってして今回従ったモノ達は全て彼の配下となり、既にいる徐晃隊によって懐柔されていく事は想像に難くない。
 狂信は伝播していく。男性にして圧倒的な力を持つ将という異常な存在と、彼のこれまでの行いと、後に見せる本質によって。冷酷な戦場の黒麒麟では無く、平穏を望む優しい人である事を知ってしまうと……兵の皆は憧れてしまう。自分もそのようになりたい、想いを繋ぎたいと願ってしまう。
 今回の敵は見てしまった。四倍の兵にも臆することなく真正面から突撃するその姿を。
 噂で耳に挟んでしまっている。どれほど傷だらけになろうとも人を助ける為に動く人だと。
 もはや彼らの心は彼の齎す黒一色に染まっていくだろう。
 なんて綺麗で残酷で見事な人心掌握。軍師としての私の心は、敵兵を組み込む案は彼が思いついた事だという事実に少し嫉妬してしまっている。

――でも大丈夫。私も次からはそれを使いこなして見せますから。

 思考に潜る中、楽しそうに笑う鈴々ちゃんの幼い声と普段の飄々とした彼の優しい声が天幕の外に聞こえた。
 敵陣への夜襲返しに向かっていたがもう帰ってきたのか。そこまで大きな戦闘は行われないだろうと踏んでいたけど、残りの兵は逃げてしまったんだろう。

「ただいまなのだ! 雛里の策のおかげで大勝利なのだ!」
「ただいま。そうだな、さすがは雛里だ。お疲れ様」

 さっと天幕を開けて入ってきた二人は既に普段の様子に戻っていて、私の事を褒めてくれる。

――二人と兵隊さん達が居たからこそ出来た事なのに。

 口から零れそうになった言葉は事前に止められる。自信を持て、と言っているような彼の優しい瞳によって。

「あ、ありがとう……ございましゅ」

 頬が熱いので顔が赤くなっている事だろう。でも、どうにか帽子を下げないで前に立つ二人を見上げた。
 そんな私の頭を秋斗さんが優しく撫でてくれて、嬉しくて胸がじんわりと暖かくなった。すると鈴々ちゃんが少し不服そうに彼を見つめ始めた。

「むぅ……お兄ちゃん、鈴々も!」

 普段通りの鈴々ちゃんの姿を見てか秋斗さんから苦笑が漏れ、すぐにもう片方の手でその頭を撫で始めた。
 彼女は彼に甘えたいだけ。素直で純粋無垢、子供のような彼女はまだ彼に恋心というモノを持っていない。兄のように、父のように慕っているだけ。
 きっと鈴々ちゃんはよっぽどの事が無い限り私のような恋心を抱かない。そんな気がする。長い時間を掛けて勉強して、恋心というモノを知っていくしかないだろう。大人に見られたいからという理由で恋の真似事をしても、鈍感な彼から理由を問い詰められて諭されるだけだろう。
 ただ……彼女みたいに素直に甘えられたら、なんて羨望の心を持ってしまう。
 撫でられて嬉しそうに目を細める鈴々ちゃんから目線を外し、じーっと彼を見つめていると目が合った。直ぐに気まずそうに目線を逸らしてきて、

「さて、敵陣に残されていた兵糧も奪ったし敵軍は引き上げた。これだけこっぴどくしてやったんだからしばらくは攻めてこないだろう。後方の本陣に引いて月と詠も安心させてやろうか」

 簡単に先程の報告を行った。緩くなりそうな雰囲気をしっかりと引き締めてくれる所が愛紗さんみたいだな、なんて思ってしまった。

「そうですね……鈴々ちゃん、張飛隊の皆さんはまだ行軍出来る?」
「んー……あいつらは元気だからなぁ……城まで戻っても大丈夫なのだ」

 にゃははと可愛らしく歯を見せながらの返答を聞き、思考が纏まる。さすがに城までは無理だと思う、とは言わないでおいた。

「では直ぐにでも行動しましょう。帰るまでが戦、という事で」

 きっと彼は夜通しの戦だったが気を抜くのはしっかりと整えてから、という事を言いたかったんだろう。私が言うと、その証拠に嬉しそうな笑顔を向けてくれる。

「クク、雛里には敵わないなぁ。じゃあ鈴々、兵の纏めに向かおうか。雛里、また後でな」
「応なのだ!」

 いつも通りの言葉をくれて、手を小さく振る私に背を向けて、彼は鈴々ちゃんと二人で天幕を出て行く。

「よーっし、鈴々の方が速く纏められたらお兄ちゃんの昼のおかずは全部頂くのだぁ!」
「ちょ、待て鈴々! さすがにこんだけ眠いのに腹まで減ったら動けねぇよ!」

 楽しそうな二人の声が遠くなった所で私の心は安堵に包まれた。
 彼が無事に、優しい彼のままで生きて帰って来てくれた。それだけでこんなにも嬉しくて、安心してしまう。
 そして一つ、また覚悟を高めて行く。

 徐晃隊と彼は同じ存在。
 彼自身が王として立てば問題は無くても、きっと本当の主と思える誰かを認めたのなら、自分の命を使い捨ててでも平穏を作り出すだろう。
 誰でも命を賭けているのは当たり前、しかし彼はその線が非常に近い所にあり、簡単に踏み越えて捨ててしまえる。
 だから……そんな状況に陥らせないようにするのが軍師である私の役目。
 全てを読み切り、彼を助けよう。全てを操り、彼を支えよう。
 私は彼と並び立つ鳳凰になるんだ。

「絶対に守り抜いてみせます。あなたが平穏に生きていけるように……」

 ぽつりと、自身の覚悟を静寂の空間に染み込ませる。そして続きの願いは自身の胸の内に。

――願わくば、軍師と将では無く……違う意味でも並び立てますように

 
 

 
後書き
読んで頂きありがとうございます。

雛里ちゃん無双。
三人称での戦描写は初めてなのでおっかなびっくりです。
戦記モノと違い、恋姫っぽい戦を描けていたら幸いです。
来いよ袁術軍、槍なんか捨ててかかって来い!って感じで。

やんちゃで可愛い妹分な鈴々ちゃんも書けてよかったです。

初戦は大勝利。先遣隊大破。
次はそれを聞いた袁術軍側も書きたいですね。

ではまた 
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