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SAO ~冷厳なる槍使い~

作者:禍原
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SAO編
序章  はじまりの街にて
  7.二人の決意

「……お前たちは、これから……どうするんだ? どう、したいんだ?」

 私の正面に座っているキリュウさんが、私たちを睨むように、それでいてどこか優しげな声で言いました。

 ――たぶん……たぶんだけど、この人は私たちを心配して言ってくれている。

 最初にキリュウさんに会ったとき、凄く冷たい瞳をしている人だなと思いました。
 元々人見知りな私だけど、その瞳が《怖い》という印象を強くしてしまったんだと思います。
 それでも、話を聞いているうちに、この人は自分のするべき事だけしか見ていないんだ、っていうのを感じました。

 怖いんじゃない、真っ直ぐなんだって思ったんです。
 何でそんなにも真っ直ぐでいられるのか、こんな状況になっても自分を保っていられるのか。
 《それ》が知りたくて、初めて会った男の人に――しかも第一印象で怖いと思ってしまった人に対して、私らしくもなくつい訊いてしまいました。

 ――怖くないんですか、と。

 でも、キリュウさんの答えは想像していたもののどれでもなくて――私は、少しだけ残念でした。
 《それ》があれば私も、奈緒を守れるくらいに強くなれるんじゃないか。そう、思ってしまっていたから。

 その後、キリュウさんと別れたあとに奈緒――ネリーは、私とチマに言いました。モンスターを倒してみないかって。
 たぶん、キリュウさんの言葉に触発されたんだと思います。
 私は勿論反対しました。本当に死ぬかなんて解りません。でも、死ぬかもしれないという可能性はあるんですから。
 チマも最初は反対していました。
 だけど、街の周りだったら弱いモンスターしか出ない、三人で戦えば怖くない、そう言うネリーに結局は説得されてしまいました。
 私は、流石に今日はもう暗いから止めようと言ったけど、興奮する奈緒を止めることなんて出来ないということは、もう何年も前から解っていたことでした。

 そして、すでに辺りが真っ暗になった街の外に私たちは出ました。
 マニュアルをちゃんと読んでなかったネリーとチマに装備の仕方を教えて、私も自分のアイテムストレージに入っている《スモールソード》を装備しました。
 いきなり右手に現れた剣に、三人ともビックリしつつも、初めて触る剣にネリーとチマは興奮していました。

 でも私は、二人みたいにはしゃぐことは出来ませんでした。
 この、私の持っている剣が誰かを――大切な人を傷つけてしまうヴィジョンを想像してしまったから。
 そして、そのヴィジョンは――私のせいでという意味で――現実になってしまうところでした。

 チマが、視界に赤色のカーソルを見つけたというので、私たちはそれが視認出来る位置に移動しました。
 数メートル移動して、暗闇の中で私が最初に見たのは尻尾。不規則に揺れる尻尾でした。
 近づいてもこちらを向かないそのモンスターに、ネリーとチマは「先手必勝~!」と言って剣を叩き付けようとしました。
 大きく剣を振りかぶった二人は、慣れてないせいか思うようには扱えなかったらしく、結局そのモンスターに攻撃が当たったのはネリーだけ。
 でも、それがいけませんでした。
 街を囲う城壁の上から漏れる松明の明かりに照らされて見えた、こちらに振り返るそのモンスターの顔。
 不気味、でした。
 荒く生々しい息遣いをしながらこちらに向かって走ってくるそのモンスターに、私は悲鳴を上げることも出来ずにその場に佇むだけでした。

 ――頑張って動かなきゃ。せめて足手纏いにはならないようにしなきゃ。
 
 そう思って行動しようとしましたが、恐怖で足が縺れて倒れてしまい、そのまま動けなくなってしまいました。
 そんな私を守ろうと、ネリーやチマがモンスターを引きつけようとしてくれていました。
 その光景は、私の昔からのコンプレックスを刺激しました。
 気の弱い私をずっと守ってくれてきた奈緒。そんな奈緒に対して劣等感を持ってしまった私。
 奈緒に対する感謝の気持ち、奈緒に対する負い目。
 この二つの気持ちを抱えたまま私たちは成長し、その二つは消えるどころか大きくなる一方。
 そして、それが極まったのが奈緒のHP――命を表す横線がモンスターの攻撃で削れたときでした。

 ――なんで私は座ってるんだろう。
 ――なんで私は動かないんだろう。
 ――なんで私は、奈緒に守ってもらってばっかりなんだろう。
 ――なんで私は……奈緒を守れないんだろう。

 その後、運良くキリュウさんに助けてもらった私たちでしたが、助かった安堵に顔を緩めつつも、私の心の中ではその問いが続いていました。






『お前たちは、どうしたいんだ?』

 キリュウさんの問いを聞いた私の頭の中には、今まで想っていたことから一つの言葉が現れていました。

「…………く、なり……いです……」
「え? レイア?」
「へ? 何て言ったッスか?」
「…………」

 いきなり小さい声で呟いた私に驚く二人。でも、キリュウさんはしっかりと私の目を見て私の《答え》を待っているようでした。
 だから私は、キリュウさんの瞳を見ながら、出来るだけ大きな声で、自分の意思を――自分の《決意》を、言いました。

「……強く、なりたい……です。……私はっ、強く……なりたいんですっ!」

 ――強くなりたい。奈緒を守れるくらい。一方的に奈緒に守ってもらわなくてもいいくらいに……。

 それが、私の今《したいこと》。もう、守られるばかりは嫌だったから。
 私の言葉にびっくりしたのか、口をぽかんと開けている二人。
 それはそうだと思う。自分でもこんなことを言うなんて、つい数時間前までは思ってもみなかったから。
 私は、言った後もキリュウさんの瞳から目を離しませんでした。

 ――まだ、言わなくてはいけないことがある。

 そう思ったから。






「……そうか」

 キリュウさんが、何かを考えるように目を瞑って呟きました。
 そして再びその瞳を開いたとき、今度は私だけに向かって言ってきました。

「……それで、どうするんだ?」
「え?」
「強くなりたい、という意思は解った。……それでお前は――どうやって強くなろうと思っているんだ?」
「……っ」

 一応、予想していた問いでした。でも、キリュウさんの真剣な瞳を見ながら聞いたら、つい怖気づいて 逃げ出してしまいそうになりました。
 こんな私が、強くなりたいと思ったこと自体、間違いだったんじゃないかって。間違いだって言われるんじゃないかって……。
 でも、ここで逃げたらいつまでも変わらない。変われないんです!
 なけなしの勇気を振り絞るために、私は膝の上の両手をぎゅっと握り締めました。
 そのとき――。

「――え……?」

 いつの間にか近くに来ていたネリーとチマが、私の手に自分の手を重ねてきました。
 それで驚いた私は、二人の顔を交互に見ました。
 二人は無言で私に笑いかけ、重ねた手に軽く力を入れました。

『頑張って』

 二人の笑顔とその手の暖かさから、その言葉が聞こえてきた気がしました。

 ――結局……助けられてるな。

 そう思いつつも、私の口は笑ってました。
 私は固く握り締めた手をほどき、今度は二人の手を握りしめて――キリュウさんに向けて、言いました。

「お願いします! 私に……私たちにっ、教えてくれませんか? 戦い方を……強くなる方法をっ……教えてくださいっ、お願いします!」

 頭は下げませんでした。
 その代わり、自分の想いが伝わるように、目を逸らさずに言いました。

「お願いしますっ!」
「お願いしますッス!」

 私の両隣で、私の言葉に続くように頭を下げるネリーとチマ。
 私は、震える心を二人の手を握り締めることで耐え、キリュウさんの言葉を待ちました。




  ◆




 ――意外……だったな。

 それが、俺の思った感想だった。
 その言葉を言ってくるかもしれないとは思っていた。
 だが実際に言ったの気の弱そうに見えるこの娘だったとは……。いや、寧ろだからこそ言ったのかもしれないのか。
 先ほどはこの三人のそれぞれの役割は確定しているように思ったが、それを由と思っていない者もいるということか。
 その考えは一旦置いておいて、俺はレイアの言った「強くなる方法を教えてください」という発言について考える。
 俺は最初、俺よりもこの三人の助けになるのに相応しい者がいるだろうと思い、三人を拒絶した。
 しかし、この三人は他の者に助けを求めるどころか、自分たちだけで戦おうとして窮地に陥った。
 それを見つけた俺は、最初に拒絶したにも関わらずに助けた。
 そして、己の行動の矛盾を嫌った俺は、三人に一つの問いをすることで最初からやり直そうとした。

 ――お前たちは、これからどうしたいのか?

 ここで三人が戦うことを諦める、もしくはまた自分たちだけで頑張ると言えば、俺は今夜にでも三人の目の前から消えるつもりだった。
 しかしレイアが、この子たち言ったのは――戦うことは諦めない。だけど自分たちだけでは無理だと解ったから、俺に戦い方を教えて欲しい。ということだった。
 言葉だけを見れば、なんとも都合の良い言い方だろう。
 自分たちの面倒を見てくれと言っているようなものなのだから。
 だが――レイアの、ルネリーの、そしてチマの顔を見ながら聞けば、そんな思いは一切しなかった。

 それに、俺はもう決めていた。

 もし、もしもこの三人がもう一度俺に助けを求めたのだとしたら――今度は受け入れようと。
 俺は人と話すのが苦手なだけで、別に人自体が苦手なわけではない。
 助けを求められれば、頼られているようで素直に嬉しいし、ちゃんと助けたいとも思う。
 最初に断ったのは、あくまで自分よりも相応しい者がいるだろうと思ったからだ。

 だけど、もう迷わない。
 三人には、俺がゲームを初めてとしている事はすでに言った。SAOの知識は全てマニュアルから得ているんだということも。
 それでも、この三人は俺に頼んできた。
 俺は、その期待に応えたいと――強く思った。

「…………解った。俺で良ければ……戦い方を教えよう」

 その言葉を言うとき、俺は何故か三人の顔をまともに見れず、目を瞑りながら言ってしまった。
 しかし、目を瞑っていても、三人の驚いた様子と、その後の嬉しがっている様子は――しっかりと、俺に届いていた。
 
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