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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
  第23話 ボクのかんがえたさいきょうのまほう

 
前書き
・Irregular World更新再開!なんという胸熱、ヒャッハー!。
・魔法の案をいろいろとご提案くださりありがとうございました。

 

 
 二つのチームは、新校舎内部で合流し、敵本陣の生徒会室を前に、ライザー・フェニックスの残った眷属と相対している。
 空から響いてくる爆音は、先ほど鳴りやんだ。


『ライザー・フェニックス様の「女王」1名、リタイア。リアス・グレモリー様の「女王」1名、リタイア』

「頼みの女王も落ちた――相討ちのようだがね。さて、こちらの勝利は、明らかだ。降参したらどうだい?」


 木場祐斗が、敵を挑発する。
 相手は、『兵士』2名、『騎士』1名、『僧侶』1名の残り4人。
 実力、人数ともに劣勢だと分かっている彼女たちは、一切の油断なく構えている。
 圧倒的優位にも関わらず、彼女たちと対峙している理由は――『王』たるライザー・フェニックスの動向がわからないためだ。
 先ほど、『女王』ユールベーナが落ちたにも関わらず、動揺が微塵もみられない。
 迂闊に仕掛ければ、逆撃を喰う可能性もある。
 こちらの優位は、揺らがないのだから、慎重に行くべきだ。


(――とでも、思っているのだろうね)

(マスター、サーチャーから反応がありました。ライザー・フェニックスがこちらの本陣に向かってきています)

(やはりそうきたか。原作にもあった展開だが、いまの状況では、『王』を狙って一発逆転するしか手がないからね)


 『女王』同士の空中戦が相討ちに終わったことで、リインフォースは、本陣に戻ってきている。
 兵藤一誠は、あまりに味方が圧倒的すぎて、「嬉しいけれど、修行した成果の見せ場がないのはなぁ」と、複雑そうな表情をしていた。
 リアス・グレモリーも、この結果は予想外らしい。
 ゲーム開始時の緊迫は薄れ、笑みを浮かべている――そのときだった。


 ズドンッ、ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ


 何かがぶち当たった音がすると、全てのガラスが飛び散った。
 入って来たのは、全身火だるまの男。
 予想外の展開に一瞬、呆気にとられる――知っていた2名を除いて。
 ボクは、リインフォースに目をやると、リアス・グレモリーたち三人を庇った。
 部室を炎が渦巻き、空気が乾いていく。


「マズイッ。屋上に急ぐぞ!!」

(部屋の中に居たら肺が焼けてしまう。悪ければ、酸欠になりかねん)

(騎士甲冑を展開している我々は、平気です。が、生身では辛いでしょう)





 ――――屋上に倒れる今代の赤龍帝『兵藤一誠』


 屋上に現れたライザー・フェニックスは、リアス・グレモリーに一騎打ちを申し込んだ。
 『王』が『王』を打ちとる。まさに起死回生の一手だろう――相手が了承すればだが。


(何を寝ぼけたことを)


 と、高をくくっていたら、彼女は、申し出を受けてしまい――原作でもそうだったような気がする――あわてて、詰め寄る。
 ライザー・フェニックスも、罠が成功した、とでもいうように嘲笑を浮かべている。
 しかし、彼女は、こっそりと理由を説明してくれた。


 不死性をもち、炎で広範囲を攻撃できるライザー・フェニックスとは、集団で戦うと却って損害が大きい――と、彼女は考えたらしい。
 たしかに、有効な攻略法がない以上は、精神的な消耗を狙って一対一で、長時間に渡り戦う戦法には、一定の理があるだろう。
 生徒会室前の残敵は始末してあり、木場祐斗と塔城子猫たちもこちらに向かいつつある。
 もちろん、『王』のリアス・グレモリーの順番は、最後にすると彼女は言っていた。
 

 ――総勢11名との一騎打ち


 この展開は、予想外だったらしく、ヤツは難色を示したものの――


『じゃあ、皆で袋叩きにしようか』


 ――というボクの一言で了承した。結果、先陣をきった兵藤一誠は敗れた。
 『禁手化』することで、いいところまで行ったが、三分ほどしかこの状態を維持できずに攻めきれなかった。不死性に加えて地力の差があったことも一因だろう。
 一騎討ち前の約束通り、兵藤一誠は、リタイアを宣言。
 ライザー・フェニックスは、『フェニックスの涙』を邪魔されずに服用した。


『部長……かっこ悪いところをみせてすみませんでした。俺は、もっともっと強くなって見せます。次こそは部長を守れるくらいにッ!!』


 去り際の彼の一言に、リアス・グレモリーは、心打たれたらしい。
 涙ながらに、彼の名前を呼んでいた。
 みているこっちが、むずがゆくなる様な寸劇だった。
 若干空気だったライザー・フェニックスに、思わず同情してしまうくらいに。


「次は、お前の番だな、小娘。もう一度、言ってやる。リタイアすれば、『いまここで』苦しい思いをしなくてすむぞ?」


 次は、ボクと一騎打ちすることになっている。
 消耗させた後の、止め役として期待されていたようだが、一蹴した。
 秘策なら用意してある。あとは、実践するのみ。


「どうせ、『あとで』酷い仕打ちを受けるのだろ?それに――焼き鳥に頭を下げるなんて、お断りだよ」


 焼き鳥の挑発に、挑発で返す。
 激昂するかと思ったが、相手は冷静さを保っている。
 これまでの一方的な戦いで、油断という文字は、吹き飛んだのだろう。


(油断を捨てたコイツは、思ったよりも手ごわいのかもな。三流悪役かと思っていたが)

「いくよ、シュベルトクロイツ」
『Jawohl.』

(だが、この勝負。ボクの勝ちだ)


 ――見せてやろう。この日のために構成したボクのオリジナル魔法、その名も、


「闇の魔法(マギア・エレベア)!!術式兵装『氷の女王』!」





 ライザー・フェニックスは目を疑った。
 リアス・グレモリーの一騎打ちを申し込むも、グレモリー側全員との一対一になってしまい、当てが外れた。
 状況は悪いが、要注意人物だった赤龍帝は下した。
 次の相手は、自分を愚弄した八神はやて――謎の神器『夜天の書』の持ち主である。
 彼女に関して知っていることは少ない。
 調べてはみたが、サーゼクス・ルシファー直々のとりなしにより、グレモリー家の客人となっていることくらいしかわからなかった。


 このレーティングゲームに見慣れない面々が参加してきたが、彼らは『夜天の書』に属するプログラムだといわれた。
 彼らの実力は、ライザーの眷属との戦いで思い知らされた。
 己の不死性には絶対の自信を持っているが、まともに戦えば苦戦は免れないだろう。
 主である八神はやても相応の実力者であるとみるべきだ。
 油断や慢心を捨て向き合った。その矢先だった――


「闇の魔法(マギア・エレベア)!!術式兵装『氷の女王』!」


 ――はやての一声とともに、周囲が凍りづけになる。
 旧校舎も含めたあたり一面が凍っていた。


「ふん、フェニックスの炎を恐れて氷を使うか。その程度の発想しかないとは、がっかりだよ」


 炎に対抗するなら水や氷を使えばいい。
 フェニックス家と敵対する者たちの多くが思ったことだ。
 そして、彼らは実戦ではなすすべもなく敗れていった。
 そもそも、フェニックスの炎はただの炎ではない。
 不死身の炎がただの炎であるはずがない。
 炎の正体は、魔力である。
 高純度の魔力が炎となって噴出しているのだ。
 ゆえに、単なる氷結魔法では、フェニックスの障害足りえない。


 隠し玉を持っていることを予想していたが、ずいぶんと安直な発想をしたものだ。と、内心あざ笑う。
 そんなライザーに対して――


「なあに、お楽しみはこれからだよ。この闇の魔法はね。上級以下の氷属性の魔法を無詠唱で好きなだけ使えるようになるのさ」


 ――不適な表情を浮かべて言い放つはやて。
 その物言いにいいようのない悪寒を感じたが、遅かった。


「エターナルコフィン」
「氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)」
「こおるせかい」
「ダイナストブレス」
「マヒャド」
「ブリザガ」
「アイスニードル」
「れいとうビーム」
「終わりなく白き九天」
「コンゲラティオー」
「ウリィテ・グラディウス」
「氷符『アイシクルフォール』」
「おわるせかい」


 雨あられと降り注ぐ氷結魔法。
 そのどれもが当たれば即死するほどの高位魔法である。
 何度も死と再生を繰り返しながら焦るライザー。
 リタイアの危険はなくとも、体力は無限ではない。
 このあとも一騎打ちが控えているのに消耗しすぎるわけにはいかない。
 攻撃しようにも間断なく魔法をくらってはどうしようもない。
 どれだけの時間が経ったのだろうか。
 実際は数分かもしれないが、体感としては何時間も過ぎたように感じる。


「どうした、その程度か?」


 あれだけ連射していた魔法が降り止むと、内心を押し隠しつつ余裕の態度をみせる。
 そんなライザーに対し、はやてはにべもなく応じる。


「ハハ、あはははははははっ!強がりもいいけど、そろそろボクも飽きた」


 その言葉にライザーは戦慄を感じた。
 攻撃を受けてから、なぜか魔力がどんどんと削られていった。
 いまは、ほとんど残っていない。
 次の攻撃はまずい、と本能がささやく。
 まずい、まずいと思考を繰り返すも、何ら対応策は浮かばない。


「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』


 一瞬でライザーの周囲の大気ごと氷結した。


「相手は死ぬ」





 ヒャッハー、汚物は氷結だー!!


 ノリノリで氷結魔法の乱打を浴びせる。
 闇の魔法?あぁ、あれはブラフだよ。
 「攻撃魔法を身体に取り込む」とかないわー。
 何度か試したけど、リアルに頭がパーンしたので、諦めた。
 じゃあなんで、闇の魔法(偽)を使ったのかって?
 それは、演出のためだ。
 上級魔法を無詠唱で連射できては、脅威に思われるだろう。
 だから、前提条件をつけたのだ。
 それが、闇の魔法(偽)。


 ちなみに、闇の魔法とは、ネギまに登場する魔法である。
 真祖の吸血鬼エヴァンジェリンがつくった魔法で、彼女が使うと、上級以下の氷結魔法が無詠唱で使い放題になるというチート魔法。
 傍らでは、リインフォースが、リアス・グレモリーたちに、闇の魔法(偽)について解説している。
 曰く、攻撃魔法をその身に取り込む狂気の魔法。
 曰く、一歩間違えれば、人外になる恐れがある。
 曰く、一日使えるのは1回。それも短時間のみ。
 他にもいろいろと嘘を吹き込む。
 いやー、闇の魔法っておそろしいわー(棒)


 心配そうにこちらをみているグレモリー眷属に少しだけ罪悪感がわかないでもない。
 おそらくこちらをモニターしているだろう悪魔のみなさんも、誤解してくれるはずだ。
 まあ、その気になれば広域殲滅魔法をマシンガンのように打ち込めるのだがね。
 これが知られたらまず間違いなく排除される。そんなのごめんだ。


 知識にある限りの氷結魔法を打ち込む。
 いろいろと技名を叫んではいるが、実はすべて同じ魔法だったりする。
 じゃあなんで技名を言うのかって?だってかっこいいじゃん、言わせるなよ恥ずかしい。
 これは単なる氷結魔法ではない。魔力吸収効果をつけてある。
 フェニックス家の復活の力が魔力によるものだというのは調べがついていた。
 あとは簡単。魔力をゼロにすれば復活しなくなる。
 とはいえ、いきなりゼロにしたら、やはり危険分子として敵視される可能性もある。
 だから、こうしてじわじわと追い詰めているのだ。


 うん、そろそろ頃合いかな?
 ライザー・フェニックスをみやると、魔力が枯渇寸前。
 あと一撃で倒せるところまできた。
 さあ、ボクの考えた最強の魔法で止めを刺してやろう。


「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』





 ボクの眼前には、氷漬けになったライザー・フェニックスがいる。
 絶えず高温の炎を身にまとうことが可能な、彼は、余裕の表情で技を受けきり――氷の彫像になった。
 不死性を持つフェニックス家の彼ならば、いままでと同じようにすぐにでも内側から炎を燃やしでてくるだろう――と誰もが思っていたはずだ。
 しかしながら、しばしの時間が経過しても、変化はなし。
 いまごろじわじわと魔力を吸収されているだろう。
 5分ほど経ってから、光に包まれて消えた。
 つまり、保有魔力がゼロになったといことだ。


『ライザー・フェニックス様、リタイアです。よって、リアス・グレモリー様の勝利となります』
 

 ざわめきと、驚きの声が聞こえた。勝利したはずの、リアス・グレモリーでさえ、どこか茫然としている。


「ねえ、はやて。あの最後に放った氷属性の魔法は、一体何なの?」

「ただの氷結魔法さ」

 
 納得のいかない顔をするリアス・グレモリー、企業秘密ってわけね、とつぶやく。
 正真正銘、最初から最後まで同じ魔法なのだが。
 レーティングゲームをきちんと見ていた上級悪魔ならば、すべて同じ魔法だと看過しているだろう。


「エターナルフォースブリザード……なんて恐ろしい魔法なの」

「人に向けて使うのは、初めてですが、これほどとは。マスターのオリジナル魔法は素晴らしいですね――名前があれですが」


 誤解をそのままに、リインフォースが合いの手を入れてくれる。
 前世の記憶を頼りに、思いつく限りの技名を叫んでボクは大満足である。
 中でも一番好きなのは、最後の魔法である。


『エターナルフォースブリザード――一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ』


 かっこいい技名とシンプルな効果。まさしく、最強の魔法だろう。
 ただ、技名を叫んだとき、リインフォースが毎回のように微妙な顔をする。
 なぜだ。納得できない。こんなに格好いいのに。





「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』


 はやてが大声で技名を叫ぶと、ライザー・フェニックスが氷漬けになる。
 これで止めですね、とリインフォースは考える。
 あの技名は勘弁してほしかったが。
 きっと自分は微妙な表情をしているだろう。


 ――八神はやてはネーミングセンスがない。


 リインフォースが昔戯れに聞いたことがある。
 「もし原作知識がなければ、自分にどのような名前を付けたのか」と。
 そのときの答えは、


『やみ子』


 だった。
 一瞬冗談かと思って主をみやるが、自信満々の顔をしていた。
 このときリインフォースは初めて原作知識に感謝した。
 今回は図らずも夜天の書の実力を披露する羽目になった。
 今後のことを考えると慎重に行動しなければ、と微妙な顔のまま心意気を新たにするリインフォースだった。 
 

 
後書き
・主人公はネーミングセンスがないです。そのために、最後の一手は、永遠力暴風雪で中二っぽさを演出(暗黒微笑)。
・いろいろと案を出してもらったものの、どれを採用しようか迷いに迷う――結果、全部採用すればいいじゃない!
 
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