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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第三十二話

「多分、この辺り・・・あ、あった」

 マリーが指す方には、確かに神殿があった。
 そして、それを囲むように沢山の魔術師の人たちがいる。まだ中学生くらいの人もいるなぁ・・・人手不足?

「なんか、人多いな・・・どっか行ってくれた方がいいんだけど・・・」
「そればっかりは仕方ないんじゃない?」
「うんうん、向こうも放置しておくわけにはいかないからね!」

 だとしても、危ないんだよなぁ。シヴァが出てくるかもしれないんだから。
 そんな事を考えながら近づいていったら、向こうが俺に気付いて、一列に並び・・・

「お初お目にかかります、王よ。このたびは我々のためにここまで来ていただき、光栄でございます」

 と、頭を下げてきた。
 この反応になれてきた自分がいるなぁ・・・

「えっと・・・うちの両親、失礼しませんでした?」
「滅相もありません。我々から神代隆哉へと連絡を取らせていただきました」
「ああ、そういう流れだったんだ・・・」

 珍しく力技じゃなかったことに、少し驚いた。
 最近は俺の名前を使うことも始めたんだよな・・・俺の悪名が勝手に広がらないといいけど。

「それじゃあ、始めさせていただきますが・・・どこかに離れていていただけませんか?シヴァが出てきたりしたら戦うつもりなんで、普通に危ないですから」
「そう言うわけにはまいりません。わざわざ王にご足労いただいたのですから、我々が仕事をしないわけにはいきませんから」
「もうぶっちゃけると邪魔なんですけど。まあ少しくらいは守ろうとしますけど、この人数守りきるのは無理ですし。普通に死にますよ?」
「その程度の覚悟は、とうにできております」

 この目は・・・本気だな。
 周りの人たちがどうなのかは分からないけど。

「そして、若くともやはりあなたも王なのですね。同年代の草薙護堂とは、また違ったベクトルですが」
「といいますと?」
「魔術に関わっていた身でありながら、神と戦うことを是とする。このような所業、王以外にできるものではありません」
「あー・・・もう慣れただけですよ。七柱も殺せば、戦うことへの躊躇いは消えましたね」

 一応、プロメテウスのことは隠しておく。
 大口真神の権能についても、まだ大々的には公表してないんだよな・・・内容について家族以外で知ってるのなんて、梅先輩くらいじゃないか?

「といっても、神との戦いはまだ苦戦することが多いですけどね。同属との戦いは、相性次第です」
「そうですか・・・では、我々は外で待機させていただきます。トリシューラの近くは結界に囲まれていますので」
「面倒くさそうだな・・・じゃ、行くか」

 俺は二人を連れて、神殿の奥へと進んで行く。と、確かに結界を見つけた。
 これは・・・俺はカンピオーネだからやろうと思えば無効化できそうだけど・・・

「なあ立夏。これをカンピオーネの体質任せに無効化するのって、どう思う?」
「う~ん・・・やめといたほうがいいんじゃない?」
「じゃあ、止めとくか・・・何か方法ってある?」

 俺が二人に聞くと、二人揃って首をかしげた。

「そうだねぇ・・・私がちゃんと解除しようと思えば出来そうではあるけど・・・何日かかるんだろう?」
「うん、立夏がやるのは時間がかかりすぎると思う。そこで、私から提案」

 マリーが挙手をしながらそう言ってくる。
 ふむ、マリーの提案か・・・少し不安ではあるけど、この際そこは気にしてもしょうがない。

「どんな案だ?」
「すっごく単純。武双お兄様の権能でこれを壊しちゃえばいい」
「力技だな、オイ!」

 それでいいなら苦労しねぇよ・・・

「でも、こんな結界をどうにかするなんて、カンピオーネの体質に頼るか、カンピオーネの権能に頼るかの二択じゃない?アテお姉様がいたら、他の手段もあるけど」
「確かに、狂乱の権能は便利だよな・・・結界を狂わせれば、それで終わりなんだから」

 あの権能は、本当にありえない。
 他の権能に使えばその権能を狂わせることが出来るから自分まで効果が現れないし、自分の攻撃をほんの少しだけ狂わせれば、威力を上げることも出来る。
 人間相手に使おうものなら、その人の自我が戻ることはない。
 あれ?普通に俺より強いんじゃないか?権能使えないし・・・他のカンピオーネとも結構相性いいし。

「なら、どっちにしようか・・・権能にするか」

 これが神の力で出来たものなら、体質で破ろうとするのは確かに危険だ。
 そこに反応して何か起こるかもしれないし、なにより面白みがない。ここ重要。

「まあ、何かあってもソウ兄の近くにいれば安全そうだし、いいんじゃない?」
「うん、ここにいれば何とかなりそう。一番安全だよね」
「同時に、世界的に危険な人でもあるけどね~」
「酷いな・・・・かなり傷つくぞ・・・」

 否定は出来ないけどさ・・・確かに危険だもん、俺。

「大丈夫だよ、ソウ兄!そんなソウ兄でも私達は大好きだから!」
「あ、もちろん、二つの意味でね?」
「・・・・・・」

 あの大口真神との戦いの後、立夏に告白された。
 そのため、はっきり言われるとそのことが含まれていることが分かるので・・・普通に気恥ずかしい。

「・・・もう始めるぞ?」
「「了解!」」

 これ以上はなすのは俺の精神問題上危ない。
 さっさと始めるとしよう。
 俺は言霊を唱えて杖と肩当を出現させ、聖句を唱える。

「我は神々の王にして全てを司るもの!万物の王(ゼウス)の名の下に、雷よ、貫け!」

 そして、少し強めに放った雷は結界に当たり・・・

「あれ?あんまり手ごたえなかった・・・?」
「もう少してこずるかと思ったんだけどな~」
「というか、トリシューラに吸い込まれてない?」

 そう、雷は結界をいともたやすく貫き、トリシューラに吸い込まれていくのだ。
 何で、雷がトリシューラに・・・シヴァって、雷関係あったかな・・・

「・・・ゼウスの天空神としての属性って、益をもたらすためだけじゃなくて、破壊するためにも使われてなかった?」
「「あ・・・」」

 そうだ。ゼウスは自然の力をそうして使っていた。
 だから、このゼウスの権能には、家身なりに鋼の属性が宿るだけではなく・・・破壊、という属性も宿ってるんだ。
 確かに、ゼウスの権能を解放すると、破壊以外もたらさないし・・・

「あ・・・トリシューラの中の呪力が脈打ってる・・・」
「絶対、いい傾向じゃないよね」
「二人とも、俺の後ろに」

 ゼウスの権能は無理矢理に押さえ込んだから、これ以上呪力を与えることはないけど・・・きっかけさえあれば、まつろわぬ神は簡単に光臨してくる。

 そして、トリシューラの周りが一度強く光り・・・光が収まると、そこには青黒い肌に三日月の髪飾り、首に蛇を巻いて裸に短い腰巻だけを纏った手の四本ある神がいた。
 間違いなく、シヴァだろう。バンガロールにある像そのままだし、トリシューラ握ってるし・・・あ、三つ目の目も開いた。

「ほう、破壊の力につられたが・・・キサマ、神殺しだな?」
「・・・ああ、それであってる。アンタはシヴァだな?」
「いかにも!()が名はシヴァ!この世に破壊をもたらす神である!」

 そう宣言するのと同時に、俺は反射的に雷で三人を囲む。
 そして、その選択は正しかったようだ。

「・・・神殿がなくなった、な」
「ふむ・・・見晴らしが良くなったな」

 周りを見回しても、さっきまでいた人たちが見つからない。
 シヴァから目を離せないから後ろは確認できないけど・・・

「では、武勇を決しようぞ神殺し!ここに来よ、ナインディンよ!」

 シヴァがそう言うと、白い牛が現れる。
 アレがナインディンか・・・

「ソウ兄、多分アレは従属神だと思う」
「ってことは、あれも神か・・・権能は増えないくらいだろうけど、警戒するに越したことはないな。二人は、少し離れてて」
「了解、武双お兄様。何かあったら、勝手に来るから」
「天啓があったら、すぐに教えるね!」

 そう言ってはなれて行く二人を、予想通りシヴァは見向きもしない。
 ナインディンは・・・少し反応してるな。それでも、シヴァが乗っているからなのか深くは気にしていない。

「さて・・・雷よ!」

 先制攻撃は取られてしまったので、こちらもさっさと攻撃することにする。
 そして、それは確かにシヴァの体を傷つけ・・・

()が身を傷つけしものに、破壊の恩恵をもたらせ!」

 次の瞬間には、杖と肩当が砕け散っていた。
 
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