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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第二十四話

 
前書き
 忙しくなかった日々が懐かしい。 

 
「竜二さん!」
「いつ……の……間に……」

 何か呟いたと同時に倒れ込んだ竜二を助け起こそうと駆け寄るクロノ。

「はは……やった、やったぞ!あの男を、八神竜二を、俺が、俺が殺したんだ!やったぞ!フハハハハハ!」
「てんめェェ……テートリヒ・シュラァァアアアアクゥッ!」

 彼を刺した魔導士は狂ったように笑い出すが、その後すぐヴィータの怒りの一撃によって吹き飛ばされた。そんな中クロノとシャマルの二人が何度呼びかけても、竜二からの返答はない。砂に寝かせた状態でクロノが簡単な止血処理は施したが、心臓の真ん中を貫かれたので流血が止まらない。しかし、そんな二人にヴィータが待ったをかける。

「いいよ、血ィ止めたら少し休ませてやってくれ」
「ヴィータちゃん……」

 そう言ったヴィータは、自らのデバイスであるグラーフアイゼンを軽く振り回してみせた。そのまま背中に担ぐと、後ろにいるシャマルたちに背中越しで語りかける。

「元はといえば、アタシが任せろって言ったんだ。こうなる前にどうにかしなきゃいけなかったのに、結果こうなっちまった。だから……」

 そして、感情を魂の底から絞り出すように、しかし小さな声でつぶやく。

「……アタシが時間を稼いでくる。このままほっといたら後から後から突っ込んでくるのはサルでもわかるだろ。二人はアースラに連絡して、退却準備を整えておいてくれ」

 鉄槌の騎士ヴィータ、ここにあり。その小さな体からは想像もつかないような「戦闘者」としてのオーラがにじみ出ている。

「……わかった。竜二さんとアスカさんは私に任せて」
「アースラには僕から連絡しよう」
「ああ。頼むぜ」

 そう短く返すと、ヴィータはシグナムたちと同じ方向へ飛び出していった。その同じ頃に、アルフがフェイトを担いで連れてくる。そのままアルフがフェイトを降ろすと、二人とも竜二の姿に気がつく。

「竜二さん……だよね!?一体何が!?」
「ちょ、どうしたんだいその傷!?」
「落ち着いて聞いて頂戴……」
 
 とまどう二人にシャマルが説明すると、その表情が悔しさに歪んでいった。怒りと苛立ちのあまり地面に拳を突き刺したアルフ。フェイトの発した大丈夫なのかという問いに、シャマルは首を横に振りながら答えた。

「正直、わからないわ。ユニゾン中だったからもしかしたらアスカさんがなんとかしてくれるかも知れないけど、いかんせん貫かれた場所が悪い」
「ちきしょうっ……くそったれっ!」
「文句を言っても始まらないわ。やれることを……あら?」

 するといつの間にか、貫かれたはずの竜二の胸から出血が止まっていた。そして、そのまま竜二の体を白銀の光が包み込む。

「い、一体何が起こってんだ?」
「まさか……本当にアスカさんが……!?」

 アルフは立ち上がり、フェイトとシャマルは呆然と立ち尽くす。一体彼の身に何が起きているのか、それを知る術は今の彼女たちにはなかった。するとしばらくして現れたのはアスカ。竜二がまとっていたソードマスターモードでの参上である。

「アスカさん、竜二さんは大丈夫なんですか!?」
「ええ、手遅れになる前に『逆融合』に成功いたしました」
「逆融合……?」

 シャマルにはなんのことかわからなかったようだが、すぐそばにいたリインフォースには同じ融合機であるが故にハッとした顔をしていた。

「まさか、主を取り込んだというのですか、あなたは……?」

 逆融合とは本来のユニゾンの逆で、デバイスがメインとなってユニゾンすることを言う。本来今回のように術者が意識不明に陥った場合の緊急措置なのだが、これによって融合事故がおこる危険性がある。これこそが、時空管理局がユニゾンデバイスの研究開発をやめた理由にほかならないと言っても過言ではないだろう。

「ええ。ですが、それ以外にあの状態で取れる方法は、私には思いつきませんでした」
「……確かに。しかしそれでは主以上にあなたへの負担がかかるのでは?それに、主を治療するほどの魔力など今のあなたにあるのですか?」
「確かに、今の私にはこの状態を維持するだけで手一杯です。ですが忘れましたか?私は闇の書を打ち倒し、元の状態へと戻すためのバックアップのような存在なのです」 

 まるっきり話がわからないシャマルを無視してリインフォースが切り込んでいく。

「……まさかあなたにも、魔力蒐集機能があるというのですか?」
「その通りです。そしてここには、今だけですが蒐集できる魔力の残滓が大量に存在している」
「残滓からも収集できるなんて、一体どうやって?」

 リインフォースの知識では、例え蒐集能力があっても、問題はリンカーコアか、あるいは魔法攻撃がなければ蒐集はできないと確信している。しかしアスカは笑って済ませる。何もそんなことをせずとも、今だけ使える限定的な方法があると言ったのだ。

「ヒントというか答えは、なのはさんですよ」
「……はい?」

 そこを聞いてもリインフォースには全くわからない。もちろん隣のシャマルもさっぱり理解できていない。そんな二人を微笑みでいなすと、彼女は左手を高く掲げた。

「まぁ見てて下さい……収束開始。はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!」

 彼女にしては珍しく雄叫びをあげた。それと共に、彼女の左手に様々な色の魔力光が混ざって球を形作ると、見る間に大きくなっていく。

「な、こ、これは一体……!?」
「彼女、何をしようというの……?」

 圧迫するかと言わんばかりの威圧感が彼女たちを襲う。しかし、フェイトとアルフは察していた。なぜなら似たような光景をつい先ほど、そしてこの日以前にも見たことがあったからだ。

「まさかこれは……」
「ああ、多分アレの真似だよ。だけど、こんなところであんなにでかい魔力集めたって何に使うつもりなんだいあの女?」
「それはわからないけど……でもただじゃすまないよ」

 そんな彼女らを尻目に、ただひたすら大きくなっていく魔力球。様々な色が混ざってはいるのだが、アスカの魔力光に合わせてか白くなっていく。

「くぅっ……まだ、まだ行けます!もっと、もっと……」

 周囲から何かが重くのしかかってくるようにかかる圧力。その分アスカにかかる負担もどんどん重くなっていき、顔からも余裕が消えていく。しかし、それでも彼女は止めない。SSS+オーバーを制御しきる実力は伊達ではないということだろう。そして、もはや気球か何かかと思えるほどに巨大化させた時、彼女が動く。

「……蒐集、開始!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!」

 すると、その魔力は掲げた手から吸われていく。その衝撃が影響しているのか、彼女の周囲に吹き荒れる砂嵐はまるで、龍が天に昇るかのように見えたという。

「馬鹿な、あのサイズまで溜め込んだ魔力をまとめて自分に取り込もうというのか!?何か一つでも演算が狂えば、間違いなくオーバーロードするというのに……」

 リインフォースは驚愕した。常識で考えれば、魔力の残滓を集めて蒐集しようなどという発想は浮かばないし、浮かんだとしても実行には躊躇いがちになるというのが彼女の論理であった。そもそも魔力蒐集機能そのものを搭載しているデバイスがほぼほぼないがゆえに常識も何もないとも言えるが。

「なるほど、そうやって蒐集するんだ……」
「こりゃ、とんでもないデバイスを手に入れちまったようだね。竜二はさ」

 フェイトとアルフは、アスカの凄まじさに改めて舌を巻いていた。



 その頃、飛び出していったヴィータは、シグナム達と合流してその豪激を振るっていた。

「オラァァァァァアアアアアアッ!」
「クボォッ!?」
「ヴィータ、あまり突っ込むな!」
「いいからオメェらは早く下がれ!そもそもこいつらの相手は今回任務外だろ!」

 そう。そもそも今回の襲撃者である彼らと戦っているのは目的を達成するための妨害になったためであり、つまり自衛のために過ぎない。闇の書の闇を無力化し、元の機能へと戻しさえすればいいのだから、彼女たちはここでの優先順位を誤っていたとも言える。

「ッ……そうだな、わかった。殿は頼むぞ!」
「受けてやるって言ってんだ!さっさと行け!アイゼン、ラケーテンフォルム!」
「Jawohl.」

 ヴィータが叫ぶと、グラーフアイゼンの形態が変化した。ハンマーなのは変わらないが、 ハンマーヘッドの片方が何かの噴射口に、その反対側がスパイクになっている。

「死にてぇ奴だけ……かかってこい!」
「なめやがってこのガキ!消し炭にしてやらァ!」

 するとヴィータは右手でグラーフアイゼンを一旦構え直し、左腕を伸ばすと掌を天に向けた。そして人差し指から小指までの四本を二回しゃくる。『かかってこい』という挑発のサイン。

「ガキィ!」
「きたきた。アイゼン!カートリッジロード!」
「Jawohl.」

 それを見て激情した数名の男たちが、鼻息荒くデバイスをかざして彼女に突撃する。するとグラーフアイゼンのハンマーヘッドの中心からカートリッジが一発排出された。それと同時に後部噴射口からフィンが回るような音が聞こえる。

「アタシらをこんだけ振り回しやがって……ただですむとか思ってんじゃねぇだろうな!アァ?」
「このガキィ……これで痛ぇ目くらいやがれ!」

 挑発に乗った数名の魔導士がヴィータに魔力弾の雨をぶつける。しかし彼女は既に反撃の準備ができていた。

「行くぞアイゼン!ラケェェテン、ハンマァァァアアアア!」

 後部噴射口から魔力による擬似推進剤のようなものが噴射され、回転しながら直線上に突撃していった。その勢いは凄まじく、集まってくる弾幕などものともせず、群がる襲撃者たちを砂嵐と同じように巻き上げながら吹き飛ばしていく。

「くっ、ハァ、ハァ……ほらほらどうしたァ?アタシの首盗ろうって奴はいねぇのかオイ!?」

 全身から汗を吹き出しながらも、嗜虐的な笑みを浮かべて挑発する。今の彼女にあるのは騎士の誇りと、必ず守るという想い、そして戦闘における高揚感だった。まだ、彼女は止まらない。いや、止まれない。はやてのために、竜二のために、そして仲間達のためにも、ここで止まることは許されない。

「このガキィ……つけあがりやがって!」
「つけあがりもするってぇの。オメェらみんな弱ぇんだからよ」

 そう言いつつもグラーフアイゼンに魔力カートリッジを装填していくヴィータ。絶好の隙のはずなのに、誰も仕掛けに行かないのは、彼女の持つオーラによる威圧感か。

「さぁて、あまり時間もねぇからな。そっちが来ねぇならこっちから行くぜ」

 小さき騎士が今、襲撃者達に牙をむいた。



 しかしそんなことが起こっていることなど知ったことではないとばかりに、フレディとビスカイトは戦いを止めない。いや、もう自分達だけでは止められない。互いが互いに付けた火は燃え上がって炎となり、鎮火する人間がいないとなれば、その炎は互いを消し炭にするまで燃え上がるのみ。

「どうしたどうした、そんなもんかよプロトンの騎士様よォ!」

 音を超えた速度で繰り広げられる戦闘の衝撃からか、既に一帯からは砂粒一つ残らないほどに風が吹き乱れる。広大な岩の大地が顕になり、そこにまで衝撃が襲うのかひび割れていく。

「貴様こそ、先ほどに比べて足が止まって見えるぞ!」

 身を切る風、切り返しの衝撃、攻撃の反動。様々な要因が彼らの身を削る。それでも彼らはやめない。やめられない。もはやここは死地。どちらかが死ぬまで、互いが死ぬまで。

「そうかい、ならもちっと上げてくか!」

 さらにここでもう一段階スピードが上がり、六十分の一秒の世界へと突入する。一瞬の判断ミスが死を招く。考える時間はない。ただ自らの判断速度が生死を分かつ。

「フッ、それでこそ我が宿敵!」

 拳と剣に互いの全てを乗せ、二人の不死者はただ戦う。闘争本能に従い、殺戮衝動に身を任せ、ただ目の前の敵を殺すために。

「遅れんなよ!」
「誰に言っている!」

 ビスカイトは胸に風穴が空いており、フレディは袈裟斬りの跡が胸に残るも、この二人の舞踊は続く。もはや邪魔するものは何もない。ただただどちらかが死ぬまで、互の命を削り続ける。二人の表情は、嗜虐心に満ちた凶暴な笑顔だった。



 その同じ頃、ヴィータは息を切らせながらも、屍の山を築き上げていた。そして右手で引きずるように下ろしていたグラーフアイゼンを、一息とともに肩に担ぐと、その場でしゃがみこんでしまった。

「これで全員かどうかはわからねぇが……少なくとも止まったには止まったみてぇだな」
『ヴィータ、聞こえる!?』
『ああ、フェイトか。どうした?』

 すると、彼女にフェイトから念話が繋がれる。クロノ達が転送準備を進めているから、すぐに撤退して欲しい、とのことだった。了解の旨とデータを送ってもらう通知をして念話を切ると、仰向けに倒れ込んでしまう。相当に疲労が蓄積していたのだろうか、バリアジャケットこそ解除していないが完全に全身が弛緩しているように見える。

「あいつら、これを二人でしのいでたってのか。ハラオウンって奴は執務官だからともかく……まぁあの年で執務官ってのも充分おかしいモンだろうが……」

 そこで彼女の脳裏に浮かぶのは、直人だった。しかし、それは疑念という意味で。

「直人の野郎、一体何者なんだ?本当に魔法覚えて半年なのか?……信じらんねぇ。あいつの戦闘スタイルも見たことねぇし……」
「Meister.」
「ん?……ああ、データか。出してくれ」
「Jawol.」

 グラーフアイゼンから報告を受けたヴィータは立ち上がり、目の前にそれを立てて自分にもたれさせる。そして空中に画面を表示させ、位置データを確認した。 

「……OK、覚えた。行くか……って、なんだありゃぁ!?」

 しかし彼女は見てしまった。目的である座標地点の方角とは違う方向とはいえ、遠方で舞い上がった巨大な砂嵐を。危険はないかも知れないが、戦場でそういった油断は死を招くことをよく知っている。故に彼女の選択は一つしかなかった。

「見に行くしかねぇよな。何もなければ何もないで素通りできる」

 しかしそれは、ビスカイトとフレディが音速の中で戦っているために生じている衝撃波、俗に言われるソニックブームというもので巻き起こされたものであった。二人とも動きが不規則であるがために、常に砂が舞い上がっている中にいる。いや、彼らが中心となって砂を巻き上げているといえばいいだろうか。彼女がそこに到着した時には、シグナムが唖然として佇んでいた。

「おいシグナム!生きてっか?」
「……ヴィータか」

 完全に言葉を失っている。まぁ無理もない。ただでさえ速すぎる上に砂が邪魔をして目視はできないが、魔力を探れば中で何が起こっているのかはおのずとわかるのだから。

「ボサっとすんなと喝入れてやりたいところだが、まぁあれ見りゃ驚くのも無理はねぇよな。ベルカ以外にも、ここまで殴り合いに強い奴らがいたとは正直驚いたぜ」
「ああ。そしてさらに驚くべきは、あの二人は生物だということだ。人間はやめているだろうが」
「まぁ、あの速度についていこうと思ったら、並の肉体改造じゃ無理だからな。体は風に刻まれるし、内臓は衝撃でボロボロになっちまう」

 限りなく人間に近い姿をしているとはいえ、騎士達はプログラムである。極端な話をすれば、人間には物理的に不可能なことも彼女たちには可能だ。だが、少し人間をやめたくらいでは彼女たちは驚かない。驚いているのは、もはや人間だからどうとかいう次元を超えた光景を目にしたからだろう。さらに驚くべきは、この現象を引き起こしているのはたった二人だという事実だ。

「まぁ、こんなところでチンタラしてても仕方ねぇ。さっさと戻るぞ」
「……そうだな」



 球体化した魔力をすべて収集することに成功したアスカは、一瞬体をふらつかせてしまった。シャマルが焦ったような声を上げて近寄ろうとする。

「アスカさん!?」
「だ、大丈夫です……」

 しかし、アスカは無用と手を挙げた。事実そのまま持ちこたえ、一息つくと姿勢を整える。

「だ、大丈夫なんですか?」
「ええ、ちょっと立ちくらみがしただけです。おそらくあれほどの魔力を一度に扱ったから、負担が少し体に来た、といったところでしょうか」
「それならなおさら休めないと……でもこの辺りにそんな都合良く休める場所なんてありませんし……」
「いや、だからもう大丈夫ですよ……私もデバイスなんですから、それほどヤワじゃありませんし」

 慌てるシャマルに苦笑するアスカ。すると、遠くから魔力反応を感知したか、リインフォースがあさっての方向を向いてひとつつぶやく。

「あれは……将か?」

 アスカも感知したようで、その魔力反応を分析した結果を端的にはじき出す。シャマルも確認したらしく、ほっとため息をついて安心した様子。

「シグナムさんとヴィータちゃんですね」
「無事だったのね、あの二人……」

 ちなみに、この場に見えないクロノたちはアースラと確認しつつ帰還準備を整えている。もうあとしばらくで終わるだろうとのことで、フェイトが全員に念話で招集をかけたということだろう。彼女たちの姿はないが、そのことについて誰も心配している様子はない。念話の様子から襲撃されてるとは思えない上にクロノとアルフが近くにいるためだろう。そして、件の二人が慌てた様子で着地すると、ヴィータがシャマルに詰め寄った。

「おい、今の砂嵐はなんだ?新手の敵襲か?」
「あ、アスカさんよ。そんなに心配しなくても大丈夫だってば」

 そこで二人は同時にホッとしたようにため息をついた。

「ああ……なんだよびっくりさせやがって。ま、もし何かあったならここでのんびりしてるはずもないだろうし、心配いらなかったか」
「みんな、ちょっと聞いてもらっていいかな」

 ヴィータ達が事実確認をしていると、そこにクロノが現れた。そこにいる全員が彼のほうを向いたことを確認すると、彼は緊迫した表情で、しかし落ち着いて話し始める。

「アースラと転送陣がつながった。数人ずつ転送するから、できれば急いでくれ」
「まだ奴らが完全に沈んだとは考えにくいからな。現状の戦力じゃ撤退するのが吉だろう。なのは達は?」
「フェイト達と一緒に、既に転送した。ザフィーラさんは君達を待つと言ってたから、急いでこっちに来てくれ」
「了解した」

 そして、そこにいる全員がクロノに誘導されて転送陣からアースラへと入る。リインフォースは、未だ目覚めないはやての車椅子を沈痛な面持ちで押しながら。



 そんな状況など知らぬとばかりに、未だ続く二人の死闘。体に傷は負わせても、互いに決定的な一撃を与えることができないでいる。

「おい見ろよこれ……まさに世紀末だぜ」

 周囲を見渡せば、瓦礫と岩の大地が広がっている。とはいえその瓦礫の大半は、二人の生み出す衝撃波により生み出されたものだが。

「……どうやらこの世界は我等の死合いに適さなかったようだ。地は割れ、空は荒ぶり、災禍を重ねて壊れようとしている。世界の果てを見るのはこれで二度目だが、しかし、悪くない」
「そこまではいってねぇと思うがね」

 今は二人とも間合いを取り、にらみ合っている状態。

「旦那、旦那!」
「アァン?」
「提督閣下から帰還の指示が出てるぜ。そろそろ終わったみてぇだわ」
「そうかい。ならこっちを片したら向かうって言っとけ」
「ハッハッハ、それ要するに帰るつもりなしってことじゃねぇか!」
「帰らないとは言ってねぇだろ?」
「こいつ相手に帰れるのかねぇ全く」

 とはいいつつ、右の拳を下げて構えをとるフレディ。拳が光りだし、右足を下げる。

「ま、一応今回は仕事できてるわけだし、ここら辺がキリのつけ所か」
「ふ、また「それ」か。今度は叩き返して見せよう!」
「やってみなァ!」

 ビスカイトも剣を正眼に構えると、魔力をまとわせる。

「殴貫擊!」
「Schlachten Sie Impuls!」
「ブンナグゥゥゥゥウウウウウウウウルゥッ!」

 フレディとビスカイトは肉迫し、互の得物を叩きつけた。



 そんな中、竜二は夢の中にいた。彼が主導となって手がけた小さなライブイベントの会場に彼はいた。ただし、今は出演者としてではなく観客として。

「……俺がここを夢だと理解できてるのが不思議やな……ま、ついさっきまで派手に殴り合いしてたのがいきなりここにおったらなんかおかしいと疑うのが当然とはいえ」

 彼は今回参加するライブのTシャツを着ており、青のデニム、白のスニーカーというラフな姿。小物程度が入るであろう小さいショルダーバッグには、財布とこのライブのチケットが入っている。

「自分が出てたライブに、自分の分身みたいな奴が出てて、しかもそれを見に来るって、もう一体何考えてんのかわけわからんことになっとるやんけ……いや、それが答えか」

 何やら一人で納得しつつ、ライブハウスへと入っていった。受付でチケットを渡し、セットリストとコイン、それからいくつかのチラシを受け取る。

「何も考えずに遊べってことなんかな……」

 今回のイベントの趣旨は、新旧ジャンル問わず海外バンドのカバーをしようというもの。ただ参加するバンドを見る限り、そして発起人が発起人であるが故に、ただならぬものを感じる竜二であった。

「一番手は……いきなり大物やん。GUNS'N'ROSESのWelcome to the jungleか。んでからDeep PurpleのBurn。あいつらは……Iron MaidenのThe number of the beastってアホとしか言いようがないな。他にはBon Jovi、Rainbow、Europe、AC/DC、Brack Sabbath……流石に俺がやってた頃と比べたらセトリも変わるか。言うてまぁ定番ばっかりな気もするけど」

 定番と彼は流すが、そう呼ばれるほどのビッグネームばかりを選んでセットリストを作っているとも言える。周囲の観客を見ると、演奏されるバンドのTシャツを来ている人も散見されることから、そういった層も狙っているのだろう。

「一番はお客さんの満足、二番は自分たちの満足。売上はその後、か。ビジネスになると、そう生温いことも言ってられんねやけど……まぁ、そこを気にするのはまだ早いかな」

 開演までは時間がある。カバンからペットボトルを取り出し、水分を補給。既に人による熱気がすごく、トイレに行くにも大変だろう。

「……こんな世界わざわざ作って、お前は俺に何をさせたいんや?俺にはやらなあかんことがある。こんなところでのんびり夢見て寝てるわけにはいかんねん」

 本来なら何も考えることなどなく、焦れったいほどの思いを抱えて開演を待つ。だが今の彼は心ここにあらず。本来の自分がどうなっているのか、あれから周りはどうなったのか。決着はついたのか、それともまだ戦っているのか。何もわからないことから来る焦りを抱えたまま、ただ時間を無為に過ごすだけであった。そんな彼が発した問いに、答えるものは誰もいない。




 ほぼ全員がアースラに転移した。未だ戻ってこない人間を待つために残っているのはクロノと直人の二人だけだ。

「フレディさんはまだ戻らないのか……やれやれ……」
「何があったんや……まさか死にかけとか……」
「あの男に限ってそれだけはありえない。煮ても焼いても切り刻んでも、いつの間にか五体満足で自分の前に酒をかっくらいながら出てくるような男だ」

 すると、もう一人がいた。いや、現れたというべきか。壮年ながらも筋骨隆々とした逞しい男性で、そこにいるだけでその場に緊張をもたらすほどの迫力を放ちながらも、その存在すら声を出すまで、クロノにすら気づかせなかった。

「グレアム提督!なぜここに!?」
「アレが出ると聞いたら、流石にほったらかしてはいられなくてね」

 クロノが驚くのも無理はない。確かにフレディ直属の上司と言えるのは彼しかいないとはいえ、彼はこの作戦に関しては不参加だと聞いていたからだ。

「確かに闇の書に関しては君たちに一任した。その言葉に嘘はないし、実際この目で見せてもらった以上、信じたことが間違いではなかったと確信したよ。あの書に関しては本局であろうが私が黙らせる。だが……」

 クロノにそう言うと、グレアムはバリアジャケットを纏う。

「……アレに関しては別だ。今の君たちではどうあがいてもアレを止めるどころか、触れることすらかなわないだろうからな」
「……確かに」

 何も言わない直人。彼我の実力差を既に感じ取っているからか、動きたくとも動けない状態であった。そんな中で、グレアムの出撃は彼に安堵をもたらした。

「山口君だったかな。君は先に戻りたまえ。アレは私が抑え込んでくる」
「……わかりました。よろしくお願いします」

 大人しく転送陣から帰還する直人。

「クロノ、君も戻れ」
「しかし、そうなるとこの転送陣が維持できません」
「私なら大丈夫だ。他人の心配より、君を心配している母親を安心させてやりなさい」
「しかし……」
「『命令』だ、クロノ・ハラオウン執務官。今すぐアースラに帰還せよ」
「……わかりました。お体に気を付けて」

 渋々従ったクロノ。グレアム自身、本当ならこんな命令まで出したくはないが、それよりも彼自身がこれから飛び込む戦場は、今のクロノに見せてはならないという、年長者としての判断であった。

「さて、敵がどれだけアレを抑えてくれているのか……お手並み拝見といかせていただこうかな」

 そう呟く彼の表情は、どこか愉悦のようなものが感じられた。 
 

 
後書き
 とりあえず頑張って一万超えたよ…… 
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