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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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破滅運び来たる災厄 ~Apollyon~

本局にある次元航行艦の停泊するドッグ前の廊下を歩く1人の男性。彼の名はクロノ・ハラオウン。本局次元航行部隊に所属し、XV級艦船クラウディアの艦長にして執務官でもある。

「やぁ、お疲れ様、クロノ君」

「ヴェロッサ。ああ、君もお疲れ様」

そのクロノに話しかけたのはヴェロッサ・アコース。本局の査察部に所属する査察官であり、クロノとは旧知の仲。そんなヴェロッサの隣にはもう1人、青年が立っていた。

「ユーノも一緒か。2人ももう上がりか?」

「うん。そういうクロノも?」

「ああ」

ヴェロッサに続いてクロノと話すのはユーノ。ユーノ・スクライア。無限書庫の司書長を務め、ミッドチルダの考古学士会の学士であり、かつてはなのは達と共に戦ったこともある戦友であり幼馴染だ。

「そうだ、ユーノ。明日は確かシャルとルシルの誕生日だったな。何か用意したか?」

他愛もない会話をしていると、その内容が彼らの親友であるシャルロッテとルシリオンの誕生日のものになった。

「うん。ルシルには珍しい本をね。ルシルほどの本の虫なら喜んでもらえると思うよ。シャルにはまぁいろいろと、かな」

苦笑いを浮かべてクロノに答えたユーノ。2人の会話を聞いていたヴェロッサが驚いたように目を円くして、「あれぇ? 僕は初耳だよ。どうして教えてくれなかったのかなぁ?」と2人を問い詰めた。

「そうだったか? ・・・あー、そういえば言っていなかったな」

ヴェロッサに問い詰められたクロノは大して考えもせずにそう返した。

「ひどいな~。彼らにお世話になった身として、僕もお祝いしたいよ」

「なら今からでも贈るプレゼントを買ってきたらどうだ?」

「今から? 今開いている店じゃまともな物は買えないよ。女性にはそれなりの物を贈らないと。男として恥ずかしいからね」

「「あのシャルにそれなりの物??」」

「こらこら」

ヴェロッサの言葉に同時にそう返すクロノとユーノに呆れていたヴェロッサが「おや? あの娘、一般人かな・・・?」と小首を傾げた。そこには管理局員の制服ではなく私服を着た黒の少女がいた。ここは私服で居られる区画ではない。ゆえに浮いていた。

「局員の家族かな? もしかすると迷子かもしれないね」

そう言ってヴェロッサがその少女へと近づいていくが、「見た目が十代後半くらいで迷子って・・・」クロノとユーノは少女のことがおかしいと思いながらも、ヴェロッサに続こうとした。

「「っ!!?」」

その少女から放たれている圧倒的すぎる威圧感を向けられ、クロノとユーノは硬直せざるを得なかった。脂汗を掻き、呼吸は乱れ始め、軽く目眩すら起こしていた。しかし、ヴェロッサには向けられていないのか、彼はそのまま少女へと近づいて声を掛けた。

「どうかしたのかな、お嬢さん?」

「クスクスクス。人を捜しているの」

「そうなのかい? だったら名前を教えてくれるかい?」

「クスクス。リンディ、クロノ、ユーノって3人を」

「え・・・?」

ヴェロッサの質問に答えた少女。その少女の視線はすでにヴェロッサの背後で倒れそうになりつつ、それでも必死に意識を保とうとしているクロノとユーノに向けられていた。ふと、少女の視線に倣ってヴェロッサは背後へ振り向き、ようやく友の異常に気付いた。

「クロノ!? スクライア先生!?」

ヴェロッサはすぐさま2人に駆け寄り様子を診る。だが原因が判らないため医務官を呼ぼうとしたのだがが、「クスクスクスクス」少女の笑い声を聞き、そのままヴェロッサは意識を手放し倒れた。続いてクロノとユーノ。彼らもまたついに膝が折れ、その場に倒れ伏した。

「ルシリオンと関わっていながら、あまり強くはないのね」

倒れ伏している3人を見下ろしている黒の少女。その少女が今まで通ってきたであろう廊下には、何十人という管理局員が倒れていた。

†††Sideはやて†††

リンディさんは今、確かにシャルちゃんとルシル君を殺せって。

「えーっと、リンディさん。そうゆう冗談は嫌いなんですけど・・・」

相手がリンディさんであっても、そんな悪質な冗談は許せへん。そやから少し不機嫌そう(実際不機嫌やけどな)にそう返した。

『うふふ』

「リンディさん・・・?」

『これは冗談じゃないのよ、はやてさん。シャルロッテさんとルシリオン君を、本当に殺す気で襲撃してほしいの』

今度こそ絶対に聞き間違いやなかった。

「な、なんでですか!? シャルさんとルシルさんが何をしたっていうですか!?」

「リイン・・・?」

リインが大声で怒鳴った。そんなリインは今まで見たこともないほどに怒ってる。そのまま私とリンディさんの映るモニターの間で割って入って・・・

「いくら六課の後見人のリンディさんの命令でも、それは絶対に聞けないです! そうですよね!? はやてちゃん! シャルさんとルシルさんを撃墜なんてしないですよねっ!?」

そう力強く断って、そして私にも同意を求めてきた。

「リイン・・・。うん、そうやね。リインの言う通りや。リンディ総務統括官。機動六課部隊長・八神はやて、以下機動六課はその御命令には従えません」

親友を殺す任務。どんな理由であっても聞くわけにはいかん。シャルちゃんとルシル君は、なのはちゃんやフェイトちゃん達と同じ、私ら八神家の大事な命の恩人。そしてとても大切なかけがいのない親友。その2人を撃墜するやなんて、たとえ管理局をクビになることやとしても聞くわけにはいかん。

『それは困るわ、はやて』

『ああ。君たち機動六課には、シャルとルシルと戦ってもらわなければ』

「っ! カリム!? クロノ君!? な、なんで・・・!?」

「っ!?」

さらに2つのモニターが追加。追加されたモニターに映るんはカリムとクロノ君。2人ともリンディさんと同じ六課の後見人や。

『機動六課部隊長・八神はやて。改めて命令します。時空管理局理事官カリム・グラシア』

『時空管理局次元航行部隊提督クロノ・ハラオウン』

『時空管理局総務統括官リンディ・ハラオウン。そして、武装隊栄誉元帥ラルゴ・キール。法務顧問相談役レオーネ・フィルス。本局統幕議長ミゼット・クローベル、他将校8名の連名による命令です。シャルロッテ・フライハイトとルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイトの2名を――』

『『『撃墜、殺害しなさい』』』

(な、なんやそれ・・・? そんな大事にまでして、どういうつもりなんや・・・?)

そこまでしてシャルちゃんとルシル君を殺せってなんでなん。これが本当なら管理局の上層部すらも、2人の殺害命令に同意したってことや。

「なんで・・・なんで、シャルちゃんとルシル君を・・・?」

声が震えるんが判る。ううん、それだけやのうて体も震えとる。

「はやてちゃん・・・」

リインがそっと私の手に、その小さな手を重ねてきた。

『クスクス。ねえ? 部下は大人しく上官の言うことを聞くべきじゃないの?』

「「っ!?」」

いきなりカリムの後ろに現れたんは女の子。スバルとかティアナくらいの歳。桃色がかった長髪に翠の瞳。そして白いソックス以外が全部黒い服の女の子。

「な、なんや・・・あんた・・・?」

聞くまでもなく解る。カリムの側に居るアレは人間やない。そうや。この感じ、“ペッカートゥム”のベルゼブブと同じ・・・。違う。全然違う。そんな生易しいもんやない。ベルゼブブ以上の怪物・・・。モニター越し、そしてすごく離れている距離やとゆうのに、ここまでハッキリ感じる威圧感。

「あんたの・・・仕業なんか? リンディさん達がおかしいんわ・・・?」

『クスクス。ねぇカリム。あなたの能力預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)を見せて』

『はい。我らがご主人様の御言葉のままに』

「カリム!? カリムに触るな!!」

椅子に座るカリムの肩に手を置く怪物に怒鳴る。たったそれだけでも心が折れそうや。

『クスクス。ありがとう、カリム。そしてよく聴いてね、八神はやて。コホン。では。旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。使者たちは踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けとし、数多の海を守る法の船は砕け落ちる』

「はやてちゃん、これって・・・」

「ジェイル・スカリエッティ事件の預言・・・」

私たち“機動六課”設立の理由。そして半年前に、みんなが全力を尽くして解決した大事件や。

『クスクス。そ。で、これの続きがあるのは知ってるんだよね? うん。ここから先が、たった今から起きる事。だからちゃんと聞いていてね』

「「っ!?」」

『その果てに大罪を標とし、遥かに高き破滅の座より、現し世の終極の鐘鳴らす者現れん。
彼の者が下せし定めには如何なるものとて逆らえず。
かくして現し世に滅びが為の使徒が満ち足りん。
その滅びが()断つたるは、遥かに貴き至高の座より舞い降りたる者。
十字架を背負いて、其に仕えし使徒と相見えん。
しかして慟哭の涙、歓喜の絶唱、憤怒の叫びが乱れ流れるその終の果て。
狂いたる真の黒き者によりて、現し世は真に終極へと進まん』

流れるような声で預言を読み切った。ユーノ君たちが頑張って解読してくれてたけど、結局最後まで解読できんかった預言の後半。それをまるで知ってて当然と言うように・・・。

『現し世。つまり人間の住まうこの次元世界の滅びが詠まれてるの。で、その滅びの一役を担っているのがこの私』

「なっ!?」

『クスクス。私こそが預言に詠まれてる、世界を滅ぼす終極の鐘の音。名をテルミナス。意味はそのまま終極。とある目的のために、この次元世界を犠牲にさせてもらうね♪』

普通なら、あんな見た目が十代後半の女の子に、次元世界丸ごと滅ぼされるなんてこと笑い話になる冗談。そやけど、カリムの側に居るアレは人間やない。なら出来ると考えても行き過ぎた警戒やないはず。

『クスクス。さてと。ルシリオンがそろそろ到着するみたい。というわけで、はやて。あなた達にはちゃんと踊ってもらうから』

「絶対に聞か・・・っ!」

アカン。預言の一文。“彼の者が下せし定めには如何なるものとて逆らえず”。もしそれが私の予想通りなら、きっと他人を操ることが出来る力ということや。そやからカリム達は・・・。

(いや・・・)

『クスクス。大丈夫。怖くないから』

(いやや・・・)

テルミナスの視線から逃れなアカン。早く早く。そうやないと私はカリム達みたく、意思を乗っ取られて大好きなシャルちゃんとルシル君をこの手で・・・。

『クスクス。動かすのは私だから、あなた達は見てるだけでいいの♪』

「いやや!」

そう叫んだことで金縛りのようなものが解けた。急いで部隊長室から飛び出そうとするんやけど・・・

「リイン! シャルちゃん達に連絡を――なっ!?」

「クスクス。残念でした♪ 」

「はやてちゃん!!」

扉の前に、さっきまでカリムの居る教会に居ったはずのテルミナスが立っとった。

「リイン! 私が時間を稼ぐ! なのはちゃん達にすぐ逃げるように言って!」

“夜天の書とシュベルトクロイツ”を起動。相手にならんのは始めから解ってる。私じゃ絶対に勝てへん。それでも、絶対に貫きたい意地が私にある。

「はやてちゃん、でも・・・!」

「早く!」

テルミナスに向けて“シュベルトクロイツ”を全力で振る。コイツがベルゼブブの以上の怪物なら、私たちの魔法は効かんゆうことや。

「(そやったら力づくの物理攻撃で退かすだけや!)・・・えっ?」

「クスクスクス。ただの幻相手に物理攻撃なんて無意味なの。残念でした。本体(わたし)はこの世界には居ないの。だってまだその刻じゃないから」

“シュベルトクロイツ”がすり抜けた。そのまま勢い余って無様に転倒。最悪や・・・こんなん。

「クスクス。でも、幻といえこの終極(わたし)に攻撃の意思を見せて実行したのには純粋に驚いたの」

「「っ!?」」

また、いつの間にかの移動。今度は倒れたままの私と視線を合わせるようにしゃがみ込んで笑みを浮かべとる。不愉快な笑み。視線を合わしとるのに、明らかな見下しが感じ取れる。

『はやて。今一度命令します。ルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイト』

『シャルロッテ・フライハイトの両名を』

『襲撃。そして撃破、殺害しなさい』

「クスクス。というわけで、ちょっとの間だけ、その体の命令権借りるね」

「はやてちゃん!」

「づっ!?」

急に意識が落ち始めた。

(いや・・・シャルちゃん、ルシル君・・・助けて・・たすけ――)て・・・」

†††Sideはやて⇒フェイト†††

「はやてとリイン、遅いなぁ・・・」

「主はこの隊の長だ。そしてリインもまた補佐を務めている。その仕事量は計りしれんものだろう。多少の遅れも仕方のないことだ」

朝早くから準備をしていたおかげでほとんど終わった。あとははやてが作る料理だけなんだけど、そのはやてがなかなか来ない。

「そうだよなぁ」

私たちも昨日の内にかなりの量を片付けたけど、やっぱりまだ終わってない。でも、それでもルシルとシャルの誕生日をお祝いしたい。だからパーティー後に仕事が待っていると判ってても苦じゃない。

「じゃあ私がはやてちゃんの代わりに――」

「ダメに決まってんだろ」

「えええぇぇっ!?」

シャマル先生とヴィータのやり取りにもちょっと飽きてきた。ただ待っているのも退屈だから、みんなでルシルとシャルに贈るプレゼントを何にしたか話をしていると、「ごめんな、みんな。お待たせや!」はやてと、「お待たせですー!」リインがやって来た。

「お疲れさま、はやてちゃん。リインも」

「おおきになぁ」

「ありがとですー」

「遅かったね、はやて。やっぱり仕事が・・・?」

「ん? リンディさん達とな、ちょっと話しとったら遅くなってしもた」

「母さんと? もしかして何かあった?」

はやては母さんと話していたみたい。それに“たち”ってことは、きっとクロノも一緒だったのかもしれない。

「んー、そうやなぁ・・・。ちょうどみんな揃てるし、話とこか。えっとな、こんな時にごめんやけど、少し仕事の話させてもらうな」

そう言ってはやては近くにあった1つのイスに腰掛けた。仕事の話ということで、みんなも黙って近くのイスに座りだして、私もイスに座って話を聴くことにした。

(それにしても、解散まで日もあまりないのに仕事ってなんだろう?)

よく見てみると、なのはやシグナム達も少し疑問を浮かべた表情をしてる。考えてることは私と同じなのかもしれない。

「ついさっき、この機動六課の後見人であるリンディ・ハラオウン総務統括官。それに次元航行部隊のクロノ・ハラオウン提督。そして聖王教会の騎士で、管理局理事官のカリム・グラシア中将から、ある任務の話を受けた」

やっぱりクロノもだ。それに騎士カリムまで。3人が同時に会して持ち出してくるような任務って、結構大事なのかもしれない。

「その任務は、武装隊栄誉元帥ラルゴ・キール。法務顧問相談役レオーネ・フィルス。本局統幕議長ミゼット・クローベル、本局支局の他将校8名の連名によるものでな」

はやてから告げられた事はとんでもないことだった。伝説の三提督の名前が出たことで、重い緊張感が一気にこの場を支配した。それに将校8人。名前は言われなかったけど、8人となると異常事態だ。

「あ、ごめんな。そんな緊張せんでもええよ。すごい有名人の連名による任務やけど、やることはそんな難しい事やない。リイン」

「はいです。まずは機動六課設立の理由なんですが、一応、機密事項でしたのでみなさんにお話し出来ませんでした」

はやてからリインに任務の説明役が変わった。リインがまず最初に話しのは“機動六課”設立の真実。
それを知るのは私たち隊長陣と協力者であるルシルとシャルだけ。
リインから部隊のみんなに語られる、騎士カリムの予知能力の事。スカリエッティ事件が、事が起きる前にすでに予知されていた事。そして管理システムの崩壊を阻止するために、この“機動六課”が設立された事。その真実を知った隊員たちはみんな息を飲んで、ただ黙って聞いていた。

「――そして、私たち機動六課は無事に任務を遂行した、ということです」

“機動六課”の真実を語り終えて、リインが大きく深呼吸。私たちも改めて聞いて、やっぱりすごい部隊だって再認識した。

「おおきになリイン。でな、ここからが本題というわけや」

またはやてに説明役が移るみたい。

「はやて。もしかしてそれって・・・」

予言の事から始まって本題へと行く話。それなら今でも解読できてないはずの、残りの予言のことかもしれない。ルシルとシャルが一番気にしていた残りの部分。私は、たぶんなのは達も予言を阻止したから、残りの部分は起こらないと思ってた。

「うん。フェイトちゃんの考えとる通りかな。その解読できた予言の続きこそが、機動六課の最後の任務というわけや」

やっぱり。残りの解読できていなかった部分の事が起こるかもしれないんだ。

「その新しく解読できた部分の予言を、また阻止するのが任務なんですね」

「ちゃうよエリオ。機動六課の最後の仕事は、予言の阻止やなくて成就なんや」

「「「「「「「え・・・?」」」」」」」

(阻止じゃなくて成就させることが任務・・・?)

「んじゃ本題な。任務の内容はシャルちゃんとルシル君の撃墜。つまり私たちは、あの2人の殺害を前提とした任務に就くことになった」

「・・・え?」

今、はやては何て言ったの。誰が誰を殺すって・・・。あれ、おかしいな。私の耳がすごく変なことを聞いたような気がする。

「え? あの・・・八神部隊長? 今何て言いました・・・? その、よく分からないんですけど・・・」

「聞き間違いだと思うんですけど、今、シャルさんとルシルさんを撃墜って・・・?」

スバルとティアナが聞き返したことで、みんなが集まっている食堂がざわつき始めた。そう、はやては確かに言った。ルシルとシャルを撃墜、つまり殺すって。

「そうやけど、何かある・・・?」

何もおかしなところはないって感じのはやて。嘘でも冗談でもない。はやては本気でルシルとシャルを殺す任務をするつもりだ。

「なに・・・言ってるの・・・? はやてちゃん、何言ってるの!?」

「はやて! なんであたしらがセインテストとフライハイトを殺すんだよ!?」

「どういうことなのか説明してはやてちゃん!」

「騎士カリムやクロノ提督たちは何を考えている!? あの2人を殺害する理由など全くないはずだ!」

一気に騒然。それでもはやてとリインは落ち着き払ってる。おかしい。絶対に今のはやてとリインはおかしい。

「八神部隊長! この任務はおかしすぎます! もう一度確認してください!」

「「「八神部隊長!」」」

なのはも。シグナムも。ヴィータも。シャマル先生も。スバルにティアナ。エリオとキャロ。みんな信じられない任務の内容に混乱している。私もそう。信じたくない。どうして大切なシャルを、大好きなルシルを殺さないといけないのか分からない。

「クスクスクス」

「「「「「「っ!?」」」」」」

騒然としているのに、ハッキリと聞こえた笑い声。そして次の瞬間、隊員のほとんどが一斉に倒れた。

†††Sideフェイト⇒なのは†††

この感じ。私は知ってる。半年前にも肌で感じた圧倒的な威圧感。“ペッカートゥム”と呼ばれた人の形をした人ではないモノ。その内の1体ベルゼブブと呼ばれた、とんでもない男の人。その感じに似て・・・違う、似てるなんてものじゃない。いま私たちの目の前に居る少女の方が圧倒的に上だ。

「クスクス。あなた達も上官に逆らうんだ。はやてと同じというわけ。組織に身を置くなら、多少の不条理な事くらい目を瞑らないとやっていけないんじゃないの?」

(はやてちゃんと同じ・・・?ということは、はやてちゃんもこの任務に逆らったってこと・・・?)

「テメェ・・・はぁはぁ・・・ペッカートゥムって・・・はぁはぁ・・・奴か!?」

「っく・・・ペッカートゥムだと? 生き残りはレヴィヤタンだけではなかったのか・・・!?」

≪≪Anfang≫≫

ヴィータちゃんとシグナムさんがデバイスを起動。でも立っているのもやっとだっていうのが判る。それほどまでに放たれる威圧感が強大すぎる。

「クスクス。へぇ、私の威圧感に耐えるだけじゃなくて、そこまで・・・。クスクス。さっきのはやてと同じ。この娘も私の威圧感に逆らって攻撃してきたの」

「「「「っ!!」」」」

「はやてちゃんとリインちゃんに何をしたの!?」

「我らが主と家族に手を出した罪、決して軽いものではないぞ!」

はやてちゃんとリインがおかしくなったのはこの娘の所為で間違いない。きっとリンディさん達も、この娘に・・・。

「レイジングハート!」

≪All right. Barrier Jacket standing up≫

もしそうなら、シャルちゃんとルシル君の命を狙ってるのは、はやてちゃんを操ってるこの娘だ。

「バルディッシュ!」

≪Barrier Jacket, Impulse Form. Set up≫

意識が落ちそう。心が折れそう。怖い。とてつもなく怖い。だけど、負けられない。負けちゃいけない。負けたら、シャルちゃんとルシル君の身が危うくなる。

「クスクス。大罪(ペッカートゥム)を知るなら理解できるでしょ? 私に傷一つ付けられないって」

判ってる。本能が警鐘を鳴らし続けてる。勝てない。勝てるわけがない。そもそも戦いにすらならない。目の前に居るのは、私たち人間がどうこう出来ない超存在。

「だからって退けるかよ! アイゼン!」

「レヴァンティン!」

≪≪Explosion≫≫

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

≪≪Load cartridge≫≫

フェイトちゃん達と同時に仕掛ける。

「クスクスクスクス。少し遊んであげる」

その娘の余裕の笑みは、すごく不愉快だった。

†††Sideなのは⇒レヴィヤタン†††

「・・っ!?(この感じ・・・まさか終極(テルミナス)様が・・・!?)」

紋様をすべて破壊して随分経つから、もう諦めたと思っていたのに。!

「レヴィ・・・顔が青いよ? 何かあった?」

「どうしたんだよ、レヴィ?」

「どうかしたっスか、レヴィお嬢様?」

ルーテシアとアギトとウェンディがわたしの顔を覗いてきた。本当に心配してくれているのが判る。辺りを見れば他の姉妹たちも、わたしを心配そうに見てくれている。

「う、ううん。なんでも・・・ない。みんなもありがとう。わたしは大丈夫だから・・・」

落としたペンを取って、一日の出来事を書くには早いけど、それでも日記帳を開いて新しく書き込む。

――4月12日 曇りのち雷雨

そう。やっぱりあなたは諦めずに動くのですね、“主”。
でも、好きにはさせない。この世界は必ず守ってみせる。
この今日と言う運命の日を、ルシリオンとシャルロッテは必ず乗り越える。
それは絶対。だから、諦めて消えてください、終極(テルミナス)様――

「どこ行くの、レヴィ?」

日記帳を閉じて、終極(テルミナス)様、ううん、テルミナスを感じ取れるところが見える場所まで移動。

「少し気になることがあるんだ」

この感じは確かにテルミナス。だけど弱い。それにこのミッドチルダの“界律”が動いていない。

(素通りさせた・・・?)

違う。紋様は破壊した。界律干渉はもう起きていない。それなのに、あの序列2位のテルミナスが来ても“界律”が動いていない。いくら存在概念を弱くしたり、“ペッカートゥム”のように分裂したとしても誤魔化すことはまず出来ない。2位のテルミナスなら尚更の事。

「嫌な予感がする・・・」

みんなの居る解放区を出て、廊下を早足で移動して、窓から周囲の様子を窺う。鉄格子がすごく邪魔だけど。

「・・・もしかして、本体じゃない・・・?」

終極の概念存在でありながらこの弱さ。仮定として一番しっくりくるのは、本体じゃなくて幻などの小細工が来たという事。

「聞いてた計画と少し違う・・・。一体なにを――ぅあっ!?」

海上隔離施設が大きく揺れた。わたしはその突然のことに対処できなくて転倒してしまった。

(この振動・・・攻撃!?)

不自然な揺れ。自然災害で言う地震とは違う。明らかに建物のどこかを攻撃されて破壊されたときの振動だ。

「ルーテシア!」

一番に頭に浮かんだのは、わたしの大好きなルーテシアの顔。ルーテシアに何かあればわたしはもう存在する意味がなくなる。

「はぁはぁ・・・ルーテシア! はぁはぁはぁ・・・!」

急いで解放区に向かって走る。

「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・!」

こんなとき、“嫉妬の力”があればって思わずにはいられない。この小さな体の性能なんて高が知れてる。少し走ったくらいでもういっぱいいっぱいだ。

「ルーテシ――なっ!?」

さっきまでわたしが居た解放区。必死に走ってたどり着いた時、そこは破壊されてボロボロになっていた。そしてその破壊行為を行った犯人“たち”も、倒れ伏した姉妹たちも居た。

「はぁはぁはぁ、お前たち・・・・何者だ!?」

数は六6人。男4人に女2人で構成されている。6対1。だけど問題はそこじゃない。肩まである髪も細められた瞳も着ているドレスのような服までもが深緑の女。その女が手にしているのは「アギト!」ぐったりとした、ボロボロにされたアギトだ。

「っこんのぉぉぉぉーーーーッ!!」

全力で走る。ここに来るまでにすごく体力を使ったけど、それがどうした。目の前でボロボロにされた友達がいる。そんな事をしたこいつらに、「あああああああ!!」一発でもいいから叩きこむ。けど深緑の女もそれ以外も動こうともしない。わたしがただの子供で、何も出来ないと思っている証拠。

「――あうっ!?」

走り始めてすぐ何かに蹴躓いてしまって転倒。瓦礫の陰で見えなかったけど、わたしが蹴躓いたのは・・

「ルーテシア!」

うつ伏せで倒れていたルーテシアの右足。

「ルーテシア!? ルーテシア! ルーテシア!」

「・・・・ん゛・・・う・・・ん・・・」

良かった。生きてる。

「先代の許されざる嫉妬(レヴィヤタン)が無様この上ない」

「っ! 先代・・・!? まさか・・・お前たちは・・・!」

深緑の女がそう静かに言った。わたしの事を先代の“嫉妬”と。

「わたくしが、あなたに代わる許されざる嫉妬(レヴィヤタン)よ、愚かな裏切り者」

こいつらが新しい代の“大罪(ペッカートゥム)”? 有り得ない。こんなに早く次代が揃うなんて。最低でも時間的概念で百年は必要なはずなのに・・・一体どうなってるの?

「あぁ、久しぶりですね許されざる嫉妬(レヴィヤタン)。あぁ、先代の、をつけるべきですか」

神父のような服を着込んだ、すでに存在しえないはずのソレはそこにいた。

「なんで・・・? なんでいるの!? ベルゼブブ!!」

破壊された解放区の中央。倒れ伏した姉妹たちの合間。そこに、シャルロッテに斃されたと聞いていた暴食ベルゼブブが新たに姿を現した。
 
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