| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

優雅な謀略

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第六章

「あれはほんのご挨拶です」
「黒貂の毛皮ですか」
「どうぞお収め下さい」
「あれだけの見事な毛皮は見たことがありません」
「ですからほんのご挨拶です」
 その黒貂の毛皮もだというのだ。
「お収め下さい」
「見返りはなしというのですね」
「そう思って頂ければ」
 カウニッツは思わせぶりな笑みで夫人に答えた。
「何よりです」
「そうですか」
「そして貴国の太子ですが」
「婚姻ですか」
「実は我が国の末の皇女様もまだ決まっていないので」
 それでだというのだ。
「どうしようかと思っています」
「左様ですか」
「詳しいお話をしたいのですが宜しいでしょうか」
「わかりました」
 夫人は黒貂の毛皮を見た、そのうえで微笑んで述べた。
「では詳しく」
「それでは」
 こう話してだった、そのうえで。
 カウニッツは夫人とも話を進めた、そしてフランスの廷臣達の周りを動き回り彼等にも振舞った、そうした結果。
 フランスとも同盟を結べた、こうしてオーストリアの対プロイセン包囲網は完成した。そのことを女帝に述べると。
 女帝は満足している笑みでこうカウニッツに述べた、その述べた言葉はというと。
「侯爵、ご苦労様でした」
「はい」
「これでプロイセンと対することが出来ますね」
「後は戦争になるだけです」
 そして勝つだけだというのだ。
「今度こそは勝てます」
「そうですね」
 女帝も満足している微笑みでカウニッツに応える。
「それでは」
「ただ」
 ここで重臣の一人、場に同席している者が言って来た。
「賄賂に結構使いましたな」
「何、大したものではありません」
「賄賂もですか」
「戦をすることに比べれば」
 カウニッツが賄賂に使った額もだというのだ。
「大したものではありません」
「しかも勝てる状況にする為には」
「はい、どうということはありません」
 賄賂に使う額はだというのだ。
「別に」
「そうですか、では」
「賄賂はです」
 それはというと。
「外交に、謀略に必要ですが」
「その使う額はですね」
「戦争をすることに比べれば実に安いものです」
 そして勝つことを考えればというのだ。
「例え宝石やワイン、毛皮をばら撒いてもです」
「その通りですね、黒貂の毛皮も」
 女帝はポンバドゥール夫人に渡したその毛皮のことも話した。
「フランスをこちらに引き込むことを考えますと」
「実に安いものです」
 高価と言っていいそれもだというのだ。
「戦争はこれどころではありませんし」
「そうですね」
「そしてです」
 それに加えてだった。
「勝てる状況にする為には」
「必要な投資ですね」
「それも安い」
 勝利、政治的なそれを手にする為にはというのだ。
「プロイセンを囲む為には」
「その通りです。侯爵はよくやってくれました」
 女帝は優雅な微笑みでカウニッツに述べた。
「それではです」
「はい、いよいよですね」
「プロイセンとの戦争の準備を」
 そしてだった。
「シュレージェンを取り戻しましょう」
「是非共」
 こうして全ての用意を整えたオーストリアはプロイセンとの戦争の準備に入った、そこまで多くの賄賂を使ったがそれは勝利の為には些細なものだった。
 プロイセンは苦境を察して自ら兵を動かしたが苦戦した、四方から次々に攻められその命はまさに風前の灯火だった。
 そのプロイセンを見てだ、女帝はウィーンにおいて微笑んでカウニッツに言った。
「よい状況ですね」
「はい、全ての手筈を整えたかいがあります」
「この状況を作り出す為には」
「賄賂に使う額なぞ」
「大したものではありませんね」
「その通りです」
 カウニッツも満足している顔で微笑む、そして女帝にこう言った。
「プロイセンは奇跡でも起こらない限り」
「このままですね」
「はい、倒れます」
 そうなるというのだ。
「我等の勝利は揺るぎません」
「ではこのままですね」
「攻めていくべきです」
 カウニッツは女帝に進言した、戦争は順調だった。事前の外交と謀略がオーストリアをそうさせていたことは歴史の裏に書かれている。


優雅な謀略   完


                          2013・10・21 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧