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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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OVA
~慟哭と隔絶の狂想曲~
  静穏 Silent Beat

音は消えた。



光は飛んだ。



ただ真正面から飛び込んだ《冥王》と《千手》が両の得物を叩きつけた。たったそれだけのシンプル極まりない動作(アクション)にも関わらず、周囲に撒き散らされた余波は甚大なものだった。

数瞬遅れ、爆風が発生した。

ゴバァッッ!!!という轟音とともに、二人を中心にドーム状の衝撃波が広がる。半径百五十メートルを超える爆風の嵐が、己の主の邪魔にならないように隙を窺っていた影達をまとめて薙ぎ払った。生えていた痩せっぽちの木々が千切れ、岩肌が丸ごと抉れ取られ、足元の地面がガラスのように砕け散る。

しかし、その衝撃波が広がりきった頃には、すでに二人の姿はそこにない。

彼らは夕闇を飛び越え、宵闇に染まりつつある空を飛んでいる。

ドッ!!という砲撃の発射音のような《足音》が、彼らの動作に遅れて青紫の闇に響く。二、三十メートル近い空中で、幾百回と刃が激突した。

ザッガガガギギギギャギャッギャギャギャッッッ!!!

飛び散る火花は、雷光のようだった。そして、続けざまに撒き散らされる第二波が、まるで打ち上げ花火のように球状へ広がっていくのを影達は見た。

悲鳴を上げる者がいた。

もはや戦闘に参加しようとする気は跡形もなく消え失せ、身を屈めてダメージを受け流そうとする者もいる。

しかし、発生する衝撃波の渦はそれらを平等に叩き伏せていった。

「………へェ」

そびえ立つロックマウンテンの一つに着地したレンは、悲鳴を上げて転がり回る事しかできない影達を僅かに見下ろす。

激突の寸前、部下達をほんの少しだけ下がらせたのは、おそらくこれが理由だ。

守りながら戦うのが苦なのではない。

協力しつつ戦うのが嫌なのではない。

ただ、自らの力で大切な部下を殺す愚を避けるための策だったのだ。

《冥界の覇王》は、別の岩肌にまるでクモか何かのように吸い付いている《老僧の千手》と呼ばれる老人を改めて睨みつける。

一見して、少年と老人は剣と剣を叩きつける圧倒的な肉弾戦を行っているだけに見えるかもしれないが、その本質はシステム的な力ではなく《心意》――――《インカーネイト・システム》にある。

そもそも、馬鹿正直にシステム的な力を頼ったところで、あれだけの破壊力を生み出すことはできない。ステータスだけの力では、破壊不能に設定されている地面や大型地形オブジェクトをブチ壊す事などできるはずもない。

彼らの真髄は人の身で圧倒的な破壊力を生み出すと同時に、無理な力や速度を出した結果に起こるであろうあらゆる弊害や副作用を事前に推測し、補助的にその部位を《心意》の力によって摘み取っていく周到さにこそある。

戦闘中は常に数百、数千も生み出され、なおかつその時の戦況によって一瞬一瞬で種類の変わっていく《弊害》を一つでも見逃せば、その直後に目の前にいる老人に叩き殺されるであろう。

《限界を超える》と口に出すのは簡単だが、ここまでやって初めて成し遂げられる技であり、そこまでやったとしてもやはり《ヒト》という一種族の限界というものは明確無慈悲に存在するのだ。単に強大な力を持っていれば強い、という話ではない。結局、莫大な力を振るう者には莫大な力を操るだけの技術や資質が不可欠なのだ。

《心意》の力を得ただけで、絶対的強者のポジションに建てるわけではない。元から強大な力や技術、それらを操作できるだけの力量を持つ者だからこそ、特殊でイレギュラーでアブノーマルな《心意》という力を上乗せする事で彼らは常人には想像もできない領域にまで足を踏み入れる。

そして同時に、その領域にまで脚を踏み入れる両者だからこそ、互いの《心意》について、常人では解からないことを汲み取っていく。

「………第一象限、《個を対象とする正の心意》。五色理論に基づく属性は土。イメージは『堅実な攻め』。そこに相反する水も加えることにより、柔軟さをプラスしているってわけか」

「かっかっか、見ただけでそこまで読み取るか。やはり君は、この世界にとって危険な代物じゃの」

「だったら落してみたら?危険分子♪」

ニィ、と横に引き裂かれるような笑みを皮切りに、両者の姿が掻き消える。

空中に、莫大な力と力が激突した事によるスパークが迸る。

生み出される余波は、存在する重力子をまとめて歪め、空間を軋ませる。

「ッ!ハンゾウッ!!」

「はっ!!」

ヴン、と。

翅が鳴るような奇怪な音とともに、老人の背後に新たな影が滲み出た。

先程のあの男だ。この局面で呼ばれるということは、幹部の中でも特にシゲクニに信用を得ていないとできない。脳内の要チェックリストにハンゾウと書き加えていると、何かが引っかかった。

そう、昔こんな名前をどこかで聞いたことのあるような。

既視感ならぬ、既聴感。

ソレに思い当たり、少年は老人を飛び越し、痩身の男に思わず叫んでいた。

「《無形(むぎょう)》――――!」

その言葉に、絶対に笑わないだろうと思うくらいに引き結ばれていた口許に、これ以上ないほどの野卑な嗤いが浮かんだのは、気のせいだったのだろうか。

グッ!と傍目にも分かりやすすぎるくらいに、一人の老人と一人の男の全身に力が行き渡る。

その段階になり、少年の理性はやっと自体を認識し、そして――――

絶叫した。

闇が、爆発した。










「あぁーあ、逸らしたと思ったのに。威力までは計算に入れてなかったよ」

ぶつくさと文句を垂れる少年は、地面に寝っ転がっていた。

辺りは完全に夜の帳が下り、底知れぬ闇が広がっている。そこかしこに生える発光するコケやキノコなどによって最低限の明度(ガンマ)は保たれているのだが、やっぱり夜は夜。暗いのには違いない。

そんな中、紅衣の少年は寝たままで右手を上げていた。その右手の手のひらはボロボロに焼け焦げ、ところどころ炭化していて、人差し指と中指は焼き切れていた。

心意攻撃のため、痛覚緩和(ペインアブゾーバ)は働いていない。そのため、純粋な痛みが彼の神経を苛んでいるはずなのだが、少年はそれでも平気そうに笑っていた。

少年の周囲には誰もいない。

どうやらあの心意攻撃は彼らにとっても割と最終兵器的な感じであったようで、それをレンが片手で逸らしたので引き際を察したようだった。さすがは《六王》の一角に連なる攻略ギルド。思わず拍手を送りたくなるような、一切の証拠も残さない鮮やかな撤退振りだった。

なので今、レンの周囲には誰もいない。夜闇の風が頬を撫でていき、聞こえなくなっていた虫達がオーケストラを奏で始める。

ああ、とレンは呟いた。

やっぱりこの世界は綺麗だ。

生と死

時間と空間

殺人者と一般人

本来、そこまで重なり合うことのないもの同士が、この巨大な城の中で幾つも邂逅し、そして開放されていく。ある者は悲しみに暮れ、ある者は戦友に背を任せ、またある者は…………狂気に身を委ねる。それらが重なり、超克し合い、最高に荘厳な《歌》を作り上げていく。

だからこそ、この世界は美しい。

少年はごっそり減ったHPを回復するために、腰に据えられているポーチを開けた。そこに常備してある回復ポーションを手に取り、それを煽る。微妙な味に顔を軽くしかめ、飲み終わったビンをそこらに適当に放った。遠くで、カシャアァンというポリゴンの破砕する音が響く。

ついでにポーチの中を手探りし、ぼんやりとした思考を胸中で呟いた。

―――状態異常回復ポーションのストックがもうなかったっけ。どこかで買わないとなぁ。

はぁ、とため息をつく。

どうも人目につく場所は苦手になりつつある傾向になっている気がする。

まぁ、それもこれも身から出た錆。あれだけ(レッド)を殺しまくっていれば、周りの人々が離れていくのは当たり前かもしれない。

人を殺した人は、その瞬間から《化け物》に変わる。人は、自分とは違うものとの間に本能的に《壁》を作ってしまう生物だ。どんなに愛した愛玩犬であっても、命を賭してまで助けたいという人は少数派であろう。

だからこそ、レンは人と馴れ合いたくない。

いや、人の方から馴れ合ってこない。伸ばした手を取ってくれる人など、誰もいないのだ。

「…………………………」

一瞬、脳裏に浮かんだ従姉の顔。

一番自分を引き止めた少女を思い出し、思わずレンはクスリと笑ってしまった。

『レン、ダメ!人を殺すのは、絶対にやっちゃいけないことなんだよ!』

思い出す、制止の声。

しかし、《冥王》としての自分はもう止まらない。

あと五十五人の命を刈り取るまで、その手を休めることはないのだ。

そして次に思い出したのは。

ヘラヘラ笑う、透き通るような青髪の女性の顔だった。

嘲笑でも、哄笑でも、狂笑でもない。

ただ普通の、温かな笑顔を浮かべていたあの女性の顔を。

なんであんなヤツのことを、と少年は思う。

しかし、人という生き物は”思わない”という事を念じれば念じるほど考え込んでしまう生物である。

ううむ、と唸る少年の思考は、しかし物理的な物事によって強制的に中断された。

――――ポーン――――

システム的なサウンドエフェクトが突如として聴覚いっぱいに響き渡り、レンは心臓が止まるかと思うほど驚いた。

視界中央に出現したのは、小さなお知らせ用ウインドウだ。どうやら、メールが届いた旨を伝えてくれたらしい。

指を伸ばし、それの表面をシングルクリックすると、メール画面が開かれる。

届いたメールは、インスタント・メールだった。送り主はアルゴ。

これはフレンド同士間で行えるフレンド・メールと違い、誰とでもメールのやり取りができる便利な代物ではあるが、文字数に制限があり、なおかつ送る対象と同じ層にいなければ送ることができないという欠点がある。そのため、今現在《鼠》のアルゴはこの第十一層のどこかにいるということがわかる。

あれから転移門を使って層を跨いだのに、自分の現在位置をキッチリおさえている辺り、さすがは一級の情報屋という事か。

その内容は――――

From:Alugo

Main:今から約三十分前、目撃情報があっタ。青髪の女がドラクラの連中に連れてかれたらしイ。詳しい話は省くが、奴らは情報屋連中を介してレン坊に伝言をしたンダ。

息を呑んで見つめる先で、メール画面は無常にこう記していた。

『本日午後十時ちょうどに、この女を殺害する。女の命が惜しくば、二十層のフィールドの外れ、《狼ヶ丘》に来い。お前の手によって死した殺人者(レッド)の恨みを晴らす』 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「なんでシゲさんと本格バトルしてんのさ」
なべさん「…………流れ?」
レン「雰囲気に呑まれるなよ!」
なべさん「んー、シゲさんって今までただの傍観者的な立場だったじゃん」
レン「出番も発言もなかったしね」
なべさん「それは言わなくてよろしい。んで、あの人の達位置は本来結構重要なんですよということをね?やっておきたくてね?」
レン「ずいぶん前に風魔忍軍は悪者じゃないYO☆とか言ってたのに……」
なべさん「そんなラッパー的口調ではなかったが、まあ言ったことは認めよう。しかしね、彼らは決して悪者ではありません。そう!言うなればレッドギルドをチンピラとしたら、彼らはマフィア!」
レン「同じじゃねぇか」
なべさん「あ、ちなみにイタリアね、イタリア。ロシアもいいけど」
レン「イタリア人に謝れ!」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued── 
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