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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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ア・ク・マ❤・・・・来たりてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

10月20日 pm21:58
ミッドチルダ中央・湾岸地区海上・艦船アースラ内・・・・

ここはアースラのC-3B廊下の一画。たった数分前、この場ではそれは虚しい惨劇が起きていた。それは回避できたかもしれない。しかし、それは回避できなかった。

「シャルちゃん・・・」

現在C―3B廊下の床、壁、天井は赤く染まっている。それは多量の血液が撒かれたような赤だった。その赤に染まる床に、1人の人間が仰向けに倒れ伏している。力無く手足を投げだして、うつ伏せで倒れているのはシャルロッテ。女性特有のしなやかなライン、胸の大きな2つ膨らみ、綺麗なアクアブルーだった髪も赤に染まり、まるで死体のような状態だ。そしてその彼女の表情は苦悶の色で染まっていた。

「はぁ~・・・」

そんな彼女の側にはいくつかの大小様々な人影がある。その人影のリーダー格と思われる人物が大きく溜息を吐いた。その表情は疲労に満ちていた。彼の名前はルシリオン。倒れ伏すシャルロッテの義理の弟だ。そして彼こそがシャルロッテを現状の有様にした張本人。姉シャルロッテを倒すために、弟である彼は情け容赦なく撃破した。全てが終わった後、彼は呆れ果てた表情でこう語る。

「君は知っているか? 激しく酔った人間には3タイプあるということを・・・」

彼はそう前置きし・・・

「理性が残っているのにも関わらず周囲を散々巻き込む奴」

親指を立て・・・

「理性が飛んで、とことん暴走する奴」

人差し指を立て・・・

「そして意識が飛んで眠りに落ちる奴。こいつが周囲にとって一番助かる奴だ」

中指を立てた。激しく酔い、そして暴走した果てに倒されたシャルロッテを見ながら、その場に居る人影全員は盛大に溜息を吐いた。何故こうなったかと言うと、それは数時間前に遡る。

†††Sideシャルロッテ†††

「え? 食事会?」

「そや。入院組のみんなも帰ってきたことやし、そろそろやろうと思ってたんや」

私たちは今、昼食を食べ終えて雑談しているところだ。そんな中、隣に座るなのはと、その向かいに座るはやてがそんな会話をしているのを耳にした。

「でもいいの? そんなことしてて・・・」

「うん。リンディさんやクロノ君からも許可貰っとるよ。奇跡の部隊機動六課。その隊員たちへのちょっとしたプレゼントやって」

「そう言えばそんな風に言われてるんだっけ、機動六課。スカリエッティの逮捕、ミッドを壊滅の危機に晒したゆりかごの本格起動の阻止。その部隊を指揮した若き部隊長、八神はやて。結構耳にするよ。いろんなところから良い評価もらってるじゃん」

私もその会話に参加する。長年に亘って逮捕できなかったスカリエッティを逮捕した機動六課の評判はすごい。奇跡の部隊なんて言われるほどに、だ。その指揮官であるはやても同様だ。

「んー、なんやそこまで持ち上げられんのも複雑やけどなぁ。それに、ゆりかごに関してはシャルちゃんとルシル君のおかげでもあるし。スカリエッティを逮捕したんはフェイトちゃんやシャッハにロッサのおかげ。実際、私は何もしてへんことになる。少し肩身が狭いっていうか・・・」

頭を掻きながら言葉通りに複雑な表情を浮かべるはやて。

「そんなことはないと思うけど・・・」

「ああ。相応な評価だと私は思うぞ、はやて。はやて自身はこの部隊の設立し、そして指揮官としての評価もあるからな。堂々と胸を張れるような功績を上げているのは確かだ」

フェイトの隣に座って、向かいに座るヴィヴィオの頬に付いたケチャップを拭っているルシルがそう称賛した。それは私も同感。はやては十分功績を叩き出しているって思うよ。

「そうだよ、はやて」

「私もそう思うよ、はやてちゃん」

「フェイトちゃん、なのはちゃん。うん、おおきにな」

「それはそうとはやて。さっきの食事会についての話だが。もうすぐ六課の隊舎が直るのだから、そこでその食事会をすればいいんじゃないか?」

話題を元に戻したルシルがはやてにそう訊ねる。ルシルの言う通り、襲撃されて壊された隊舎もあと数日で直るところまでいっている。

「確かになぁ。そやけどな、みんなも知っとると思うんやけど、アースラは私らが降りたらそのまま廃艦の工程一直線や」

「「「「あ」」」」

私、なのは、フェイト、ルシルの間抜けな声がダブる。そうだ。このアースラは廃艦作業に移される直前に、仮の本部として流用したんだ。隊舎が直れば、アースラはお役御免となって・・・。

「廃艦作業に移される前に、長年お世話になったこのアースラで最後の楽しいパーティでも・・・って思うたんよ」

はやてが寂しそうに話す。それを聞いた私たちも気持ちが少し沈む。アースラ。思えば私やルシルもすごくお世話になった大切な存在だ。

「そう、だね。うん! 私はそれに賛成だよ!」

「はやて、私も賛成!」

「そうだな。今までたくさん世話になったアースラだ。最後は派手に楽しんで、良い思い出を残すも良いだろう」

「よし! 何でも言って、はやて! 私とルシルも全力で料理とか手伝うから!」

もちろん、ルシルと私も大賛成。何かやることがあれば何だってやろう。私だってルシルに鍛えられたから料理はそれなりに出来る。

「ありがとうな、みんな!」

そしてヴィヴィオは終始オムライスを頬張っていた。

・―・―・―・―・

「――それでは、かんぱーい!」

[かんぱーい!]

機動六課の部隊長はやてが音頭をとり、ここに集まった隊員たちがコップを一斉に掲げ応えた。楽しい時間となる食事会が始まった。思い思いにバイキング形式のテーブルに置かれている豪華な料理を食べ始める隊員たち。食事に集中する者。雑談に花咲かせる者など様々だ。それは平和な時間が過ぎていく。

「うわっ、これ美味しい! ギン姉もティアも食べてみてよ!」

「どれどれ・・・あ、美味しい!」

「本当! すごく美味しい!」

山盛りの取り皿を片手に料理を口に運ぶのはスバルとその姉ギンガ。スバルとギンガに比べれば少ないながらも、それなりに料理の乗った取り皿を持つティアナ。3人はスバルに勧められた料理を口にして感嘆の声を上げる。

「あ、それはルシルさんが作った料理ですよ!」

「久しぶりにルシルさんの手料理を食べました♪」

スバルとティアナとギンガの元へと歩いて来たのはエリオとキャロの2人。エリオもスバルやギンガに負けないほどの大食らいだ。それを証明するかのように、エリオの持つ取り皿の上には様々な料理が多量に乗っている。

「へ~。噂には聞いてたけど、ルシルさんって本当に料理が上手なんだ」

「うん。噂以上だね」

「あとでレシピを教えてもらおうかなぁ」

どこか表情に陰があるが、それでも満足そうに笑みを浮かべる3人。

「実は美味しいだけじゃないんです。ルシルさんの料理って食べる人への、特に女の人への配慮がたくさんあるんですよ。たとえばスバルさん達が今食べた料理、ノルウェーサーモンのハーブ焼きって言うんですが、美肌効果があって、しかも髪にも良いらしいんです」

エリオがルシルの作った料理について3人にそう教えると、「え・・・!」それを聞いたスバル、ティアナ、ギンガの目の色が変わる。しかもその3人だけでなく、周囲に居た女性隊員たちの目の色も変わった。

「フェイトさんやシャルさんも、小さな頃からルシルさんの料理を食べてるって聞きました。だからあんなに美人なんだと思います♪」

キャロのその言葉が決定打となった。女性隊員たちは楽しい雑談よりもルシリオンの料理を最優先として動き出す。その時ルシリオンの料理を食べていた男性隊員たちは後にこう語った。

――女って超怖ぇ――

美容は女性にとって永遠の課題。ということだった。
ところ変わって別のグループ。

「あ、おい! それあたしが食おうとしてたやつ!」

「だったら自分の取り皿に取っておけばいいだろう」

ヴィータがシグナムへと詰め寄る。自分が食べようとしていたミートパイをシグナムに取られたからだ。

「ケッ、そんでまた栄養全部胸に行くわけか。どこまでデカくすりゃあいいんだよ」

「なっ!」

顔を赤くしながら絶句するシグナム。しかしシグナムは感情に任せて怒鳴ることはせず、大人の対応を・・・

「フッ、ただでさえいろいろと“小さい”のだから、たくさん食べて大きくなりたいということか。それはすまないことをしたな。ほら、ヴィータ。もっと食べて大きくなるといい」

しなかった。明らかにヴィータを馬鹿にしたような棘のある言葉で反撃した。

「あ゛?」

別のミートパイへと手を伸ばしていたヴィータの動きが止まる。ドスの効いた声を出しながら首だけを動かし、シグナムへと細くした目を向ける。互いの視線がぶつかり合い、激しい火花が散る。まさに一触即発の状況だ。

「もう。止めなさい2人とも! 大人げない!」

そこに現れたのはシャマルとザフィーラ。シャマルの一喝によって、シグナムとヴィータから怒気が消える。

「シグナム、守護騎士(われら)が将のお前がそのようでどうする。それにヴィータ。お前もお前だ。些細なことで目くじらを立ててどうする」

「「・・・」」

普段は寡黙なザフィーラからここまで言われてしまい、口を閉ざしてしまうシグナムとヴィータ。そんな中、「お、これ美味そうっすね」ヴィータとシグナムの横からヴァイスが登場。ミートパイをいくつか取り皿に乗せていく。

「あ、テメ、ヴァイス! 何あたしのミートパイ取ってんだ!」

「ええ!?」

あまりに身勝手なヴィータの言葉に驚愕するヴァイス。それを見ていたシャマルが、ヴァイスに助け船を出す。

「いいのよヴァイス君。うちのヴィータの我儘は無視しても♪」

「うわっ、離せよ、シャマル!」

後ろから脇下に手を入れられ持ち上げられるヴィータ。

「ふぅ・・・。ヴィータ。自分のものだと主張するならまずは取り皿に乗せろ。そうでないとさっきと同様、お前の主張は余りにも身勝手だぞ」

シャマルから解放されたヴィータは、シグナムにそう窘められ不満いっぱいの表情を浮かべている。

「そうよ。ほら、セインテスト君のお手製卵焼き。いくつか取ってきたから♪」

「チッ、しゃあねぇな。アイツのならいいか」

シャマルの取り皿から卵焼きを取り、もぎゅもぎゅ食べるヴィータ。その隙にヴァイスを逃がすシグナムとシャマルだった。

「つうかさ、何でセインテストが料理作ってんだ? どっちかっつうと今回はアイツは作るよか食べる方だろ」

ヴィータが並べられている料理を見ながらそう口にした。

「好きだから」「好きだからだろう」

それを聞いたシャマルとシグナムは即答だった。

「やっぱアイツ、生まれてくる性別間違ってんじゃねぇか」

いくら女顔で料理が出来るとはいえ、それはあんまりな発言だった。しかしシャマルとシグナムはそれに頷くことで賛同した。

「へっくしゅっ」

ここから少し離れたグループの中からクシャミが聞こえた。

「セインテスト。あの者には同情を禁じ得んな」

ザフィーラがルシリオンへと視線を送りながら呟いた。
さらに変わって別グループ

「よっ、ユーノ。ちゃんと楽しんでる?」

シャルロッテとルシリオンがスーツ姿のユーノへと声をかける。彼ユーノもまた、このアースラと関わりの深い人物。そのため、はやて達から今日の食事会へ招待されていた。

「うん、ちゃんと楽しんでるよ。さっきまでなのは達と話していたしね。それにしてもルシル。君がミッドに戻ってきてからもう半年になるのに、顔を合わせるのもこうして話すのも今日が初めてなんだよ?」

「ん? そうだったか。・・・ああ、そうだな。久しぶり、ユーノ。元気そうで何よりだ」

「うん。まぁルシルやシャルが元気だってことが判って何よりだよ」

ルシリオンとユーノが握手を交わす。かつては共に無限書庫で働いていた同僚であり、それ以前から貴重な男友達という関係だ。2年ぶりの再会にしては簡単なものだが、それが2人にはちょうどよかった。

「あ、そうだ。2人は騎士カリムの預言について知りたいんだよね。あれから時間を見つけては解読していたから、それなりに読めるようになったよ。その代わり、これが完全な解釈と決まったわけじゃないから注意だよ。なにせ使われている言語体制がバラバラだからね。しかも時代も違うし」

「「っ!」」

シャルロッテとルシリオンの表情が緊張へと変わる。

「どうする。一応頭に入ってるから聞いてみる?」

「・・・」

「・・・ああ、頼む」

シャルロッテが俯いているのを横目に、ルシリオンが先を促す。ユーノはシャルロッテの様子が少しおかしいと思ったが、「うん。聴かせて、ユーノ」顔を上げたシャルロッテの表情は、何か決意したものになっていたこともあり、ユーノはもう何も言えなくなって、解読した預言を静かに口にした。

「コホン。じゃあ。――其に仕えし使徒と相見えん。慟哭の涙、歓喜の絶唱、憤怒の叫びの音が乱れ流れるその終の果て、狂いたる―――現し世は真なる破滅へと進まん」

「「・・・」」

「其に仕えし、の前と、狂いたる、と、現し世は、の間がまだ解読できてないんだ。無限書庫をフルに使ってもなかなか出てこなくてさ」

ユーノが少々不満顔でそう呟く。彼の城とも言える無限書庫の資料を漁っても、解読できない文があるというのが、彼にとっては不満らしい。

「いや、ありがとう、ユーノ。そこまで調べられるとは、さすがスクライア先生」

「ちょ、やめてよ! 友達にそう呼ばれるの結構恥ずかしいんだよ!」

「ホント、ユーノって有名になったよねぇ。ま、10年前から薄々そうなるんじゃないかなぁって思ってたけどさ」

「そう言うシャルやルシルも結構有名人だったじゃないか。本局に2人のファンクラブあったの、2人は知らないだろ? それに局を辞めても、今でも根強い人気があるんだよ2人にはさ」

それから3人は、シャルロッテとルシリオンが作った料理を突きながら、空白の2年間の話で盛り上がった。たとえそれが楽しいだけの話ではなくとも・・・。

・―・―・―・―・

食事会も無事に終わりを告げた。片付けも食事会中に何度か挟んで行っていたために早く終わった。隊員たちは居住区画へと戻って行き、ここ第一レクリエーションルームに残っているのは、六課の隊長陣を始めとした前線メンバーだけ。

「ねぇねぇ、みんなもどう?」

そう訊きつつもシャルロッテは返事を待たずに、トレイに乗せたいくつものコップをなのは達に渡していく。見た目はそれは綺麗な黄金の飲み物。それはまるで蜂蜜のようなものだった。まずは先にコップを受け取ったフォワードとギンガが「ありがとうございます!」と、コップに口をつけ飲み始める。5人はソレを飲み干すと、満面の笑みで「おいしい!」と称賛した。

「でしょ! これってルシルのいろんなお気に入りがある蔵の中にあったものなんだ♪」

そう言いながらシャルロッテも勢いよく飲み始める。ルシリオンのお気に入りのある“蔵”。あらゆる世界に召喚され、そこで彼が興味を持った物などの複製物が保管されている“英知の書庫アルヴィト”の別区画。シャルロッテの持つトレイやコップ、今回使われた食材なども全てそこから調達した物だ。なのは達も「いただきます!」飲み始め、次々においしいとの好評価の声が上がる。

「おかわりはまだあるよー!」

シャルロッテもソレを飲みながら、新たなボトルをどこからともなく取り出し、自身のコップに注いでいく。その黄金の飲み物は全員から好評価を得た。

「それにしても美味いな。セインテストのお気に入りと言うのも頷ける。ところでフライハイト。これは何という飲み物なんだ?」

「ん? あーこれ? スットゥングの蜜酒って言うの♪」

「「「・・・え゛」」」

シャルロッテの言葉を聞いたなのはたち隊長陣が硬直する。ゆっくりと口からコップを離し、彼女へと視線を移す。それと同時に、先に蜜酒(それ)を口にしていたスバル達の顔が一瞬にして真っ赤になり、へたり込み始めた。

「目・・・目が回るぅ~・・・」

「なんか・・・ホワホワな気分~・・・」

「うわ~・・・なんかすごいです・・・」

「みなさんがたくさんいます・・・」

「あははははは・・・」

「お、おい! 大丈夫かよ、お前ら!」

その5人を皮切りに、なのは達もまたへたり込んでいく。彼女たちも相当量の“スットゥングの蜜酒”を飲んだ。普通飲めば酒と判るだろ?というのは今回通用しない。シャルロッテがみんなに飲ませたのは、ルシリオンのお気に入りの中でも高ランクの神酒。酒特有の味があまりしないという物だったのだ。

「あー、アカン・・・。これはアカン・・・」

「リインもです~・・・ヒック」

「はやて!? リイン!?」

「主はやて!」

「ちょっ、はやてちゃんもリインも顔が真っ赤よ!」

頭をフラフラさせながら呟くはやてとリインフォースⅡ。そんな2人を見たヴィータやシャマル、ザフィーラが詰め寄る。なのはとフェイトも似たような感じだ。頭をフラフラさせながら、微笑を浮かべている。唯一の救いは、この場にヴィヴィオが居ないことだろう。ヴィヴィオはたくさん食べたことで眠くなり、すでになのはとフェイトの部屋に移されている。

「おーい、はやて。そろそろおわ――って何があった!?」

「うわっ、何があったのこれ!?」

「おい、なんだこの状況!?」

食器類の片付けなどを行っていたルシリオンや、手洗いに行っていたユーノとヴァイスが戻ってきた。そしてこの第一レクリエーションルームの状況を見て唖然とする。

「セインテスト! 実はフラ――のわっ?」

「ルシル~♪」

ルシリオンに事のあらましを説明しようとしたシグナムがフェイトのタックルを受け吹っ飛び、妨害された。シグナムを半ば突き飛ばすようにして、ルシリオンの元へと走り寄ってきたフェイト。顔はほんのり赤く、紅い瞳も濡れている。

「どうしたフェイト? ん・・・酒臭い・・・?」

近くに来たフェイトから漂う微かな酒の匂いに、ルシリオンが戸惑う。

「べ、別に私はルシルの事なんて好きでも何でもないんだから!」

そうは言いつつもルシリオンの袖をしっかり掴むフェイト。絶対にフェイトが口にしないようなセリフを聞き、ルシリオンはハッキリと理解した。フェイトから香るルシリオンのみが知る、とある酒の匂い。それで理解した。フェイトは酒に酔っているのだと。

「シグナム」

「あ、ああ。ほとんどの者が酔っていると思う・・・」

「た、大変じゃないか! 早く酔い覚ましの水を・・・!」

ユーノが慌てて水を取りに行こうとすると・・・

「ユ、ー、ノ、君♪」

「え? な、なのは!? ちょっ・・!」

フェイトと同様に頬を赤くして瞳を潤ませているなのは。いつもと全然違う彼女を見て動揺するユーノへと彼女は笑顔で迫っていき・・・

「えい!」

「ぎゃああああああ!!」

ユーノに目潰しを繰り出した。両目を押さえてのたうち回るユーノ。

「あははははははは!」

そんな無様な姿をさらすユーノを見て笑い声を上げるなのは。ひとしきり笑ったなのはが未だにコップに残っている“スットゥングの蜜酒”を再び飲もうとするところを・・・

「だ、ダメだよ、なのは。それ以上は・・・」

「やぁだぁ~、まだ飲むのぉ~」

ボロボロ涙を流しながらユーノがなのはの手を止める。これ以上飲んでさらに酔うと手をつけられないと判断したからだ。そこから2人のコップの争奪戦が始まった。

「なのははユーノに任せるしかないな。ならば私は・・・」

頭痛を抑えるかのように額に手を当てているルシリオンは2人のやり取りを見て、なのはのことをユーノに一任(投げたとも言う)。そして彼は他の酔っているメンバーの対応をしようと動き出す。

「おにいちゃ~ん!(泣)」

床に座り込んで、床を右手でパシパシ叩くティアナがわんわん泣き始めた。

「ごめんねスバル。理由がどうであれ妹をボコボコに傷つけるなんて(泣)」

「あたしもごめんね。ギン姉を思いっ切り殴って(泣)」

ヒシッと抱き合って姉妹愛劇場を始めるナカジマ姉妹。

「ちょっ、はやて! くすぐったいよ!」

「ヴィータの成長度合いを調べるわぁ♪」

ヴィータの上半身をこれでもかと言うくらいに触り続けるはやて。必死にもがいて抵抗しようとするヴィータだが、はやての力が想像以上に強かった所為か抜け出せない。

「はやては八神家に任そう。とばっちりを食らってはまずい」

彼は恐怖しながら、セクハラ祭り実施中の八神家から視線を逸らす。

「「zzz…」」

この騒がしさの中、エリオとキャロは寄り添って眠っていた。大変微笑ましい光景だが、それが酔っての事だと思うと悲しくなってくる。

「あははははははは!!」

そんな中で聞こえてきたのは、この騒ぎの元凶の笑い声。

「やっぱりお前か、シャルロッテェーーーッ!」

テーブルの上にドカッと座り込み、ボトルに直接口を付け“スットゥングの蜜酒”をガブガブ飲んでいるシャルロッテがそこに居た。その顔はそれはもう真っ赤。完全に酔っていると思われる。

「ちょっ、フェイト。手を離してくれ・・・!」

ルシリオンの腰に腕を回し、ガッチリと掴まっているフェイト。ルシリオンが離れるように頼むが、全然力を緩めようとしない。

「す、好きでくっ付いてるわけじゃないんだから・・・勘違いしないでよね」

「痛だだだだだだだ!」

緩めるどころかさらに強くなるフェイトの腕。腰の辺りからミシミシという音がするのをルシリオンは耳にした。

(ま、まずい・・・このままでは・・・折られる!)

「ヴァイス・・・手伝ってぇ痛だだだだ・・・!」

「おう」

ヴァイスがフェイトを引き剥がす。

「ルシルゥ~~、放してぇ~~~、やぁ~~~(泣)」

両腕を彷徨わせながら泣き始めるフェイト。それを見てルシリオンは心を痛めるが、その前にやるべきことがある。そう決意を胸に秘め、シャルロッテへと近寄っていく。

「あれ~どうしたろぉ~? ルシルがたくあんだぁ!」

「この酔っぱらいが。それに私はたくあんじゃないっ。というか、お前が手にしているのは私の大事な“スットゥングの蜜酒”じゃないか! どおりで覚えのある香りだと思ったよ!」

「え~。よっぱらっれなんていらいよぉ」

「呂律が回ってないだろうが! その上そんな顔を赤くして、説得力無いわ!」

ルシリオンが怒鳴り散らして、シャルロッテの持っていたボトルを奪い取る。

「や~!」

「や~、じゃない!」

シャルロッテがボトルを奪い返そうと足掻く中、ルシリオンは彼女の額に手を当てて動きを制する。それでも諦めないシャルロッテはニヤリと邪な笑みを浮かべる。

「ろっても気持いんらから・・・じゃまするらぁぁぁぁ!!」

――暴走シャルロッテvs抑止ルシリオン――

――Fight!!――

「上等だ! 力づくでも眠ら――」

ガスガスドカッグチャメキメキボキッゲシゲシドスドスボコボコメシッズドンズドンヒューンドガンゴスッゴスッザシュザシュメキャプチゴキグサ

一方的かつ圧倒的な暴力の渦がルシリオンを襲う。

「に、人間技じゃねぇな・・・」

ドガッドガッガスガスポッキンボグボグボグッドカッメキャドスッドスッゴキゴキズガン

「あははは! シャルすごーい! コンボ数が半端じゃな~い!」

壁に追いつめられたルシリオンへとさらなる暴力が襲いかかる。

ドゴンドゴンズガンドカンボグッボグッドスッドスッグチャザシュメシッメキッガスガスッ

「ある種ハメに近い。つうか完全にハメられてんな。使った瞬間に友達失くしそうな容赦なさだ・・・!」

「悪魔だ・・・」

「わぁ♪ まるで魔王さまみたいですぅ♪」

「いやいや、あれはそんな生易しいもんやないな・・・」

「にゃはははは、ああいうのはぁ鬼神っていうんだよぉ・・・」

――シャルロッテは“酔いの鬼神”の称号を手に入れた――

キュピーンドガッドガッガスッドヒューーーン・・・・ドガン!

――Charlotte Win!!――

「どうら! わたしのつよさをおもひしっらか!」

ハイテンションで勝鬨を上げるシャルロッテ。それに反してルシルオンは動かない。それはまるで死人のようだ。

「きゃあああああ! セインテスト君!!」

「ルシル!? うわっ、どうしよう! 結構まずいよこれ!」

放送コードに引っかかるような勢いでボッコボコにされたルシリオンを見たシャマルが悲鳴を上げる。ユーノもシャマルに続いて倒れ伏しているルシリオンを見て混乱する。それほどまでにルシリオンの外見はまずかった。

「ひでぇ、まるでボロぞうきんだ・・・」

「いや、ボロぞうきんの方がまだマシだ・・・」

ヴィータとシグナムもボッコボコにされたルシリオンを見てドン引きだ。

「ク、クラールヴィント! お願い!」

≪Ja≫

「ぼ、僕も手伝います!」

必死に治癒魔法を施すシャマルとユーノ。そのおかげでルシリオンは短時間で復活した。

†††Sideルシリオン†††

「「「「「「・・・・」」」」」」

「「zzz…」」

フープバインドで拘束されたなのはたち酔っぱらい組と、未だに眠り続けるエリオとキャロ。さっきまで暴走していたなのは達はすでに酔っぱらっていた、という過去形となった。散々暴走したなのは達をユーノ達と協力して、何とか拘束して酔いを醒ましてやった。醒めてみれば、ほとんど記憶が飛んでいるという本人たちには都合のいい状況だった。いや、あのような恥ずかしいことは忘れた方が良いだろう。私としても忘れたい。

「あとは逃げたシャルだけだな・・・」

私はシャルにボコられ死の淵を彷徨っていたが、ユーノとシャマルのおかげで助かった。2人には感謝しても感謝しきれない恩が出来たな。そんな中でシャルは、まとも組と酔っぱらい組とのバトル中に逃亡したらしい。

「さすが不死身の男。あんだけボコられてももう復活って・・・お前も人間じゃねぇな」

「ほっとけ」

ヴィータが失礼な事を言ってくれるが真実に近い分、完全否定は出来ない。っていうか実際本当に死にそうだった。そこのところは人間だ。

「なあルシル君。私らが酔って迷惑かけたんは判った。記憶はないけど・・・。でもそろそろ解放してくれんかなぁ、なんて・・・」

はやてが元酔っぱらいの代表としてそう言ってきた。バインドを掛けられた全員が頷く。

「そうだな。元はと言えばシャルが原因で、君たちは巻き込まれただけだ」

私はシグナム達へと視線を向けて、解放することの同意を得る。全員から同意を得て、ユーノ達はバインドを解いた。するとみんなが一斉に「いろいろとご迷惑をお掛けしました」頭を下げて謝ってきた。そこは笑って許すのが友人だ。

「さて残る問題は、酔ったまま逃亡したシャルだ。さらに馬鹿をしないように早々に捕える必要がある」

「そうだな。フライハイトの酒癖はとんでもない」

「全くだ。・・・よし、手分けして探そう。シグナム、ヴィータ、ヴァイス、手を貸してくれるか」

「ああ」

「しゃあねぇな。お前の手料理で手を打ってやるよ」

「ま、乗りかかった船だ。いいぜ」

決まりだ。私とシグナムとヴィータ、ついでにヴァイスがいれば何とかなるだろう。

「待ってルシル君!」

レクリエーションルームを後にしようとしてところで、なのはが止めてきた。

「私も手伝うよ」

なのはを始めとして全員が手伝うと言ってきた。私は人数が多い方がいいと判断し、なのは達もシャル捜索班に入れた。手分けして探し始めた私をリーダーとするA班。メンバーはヴァイスとはやてとリインの計四人。

『こちらB班。第一区画にシャルちゃんの姿はなかったよ』

「了解。引き続き捜索を頼む」

『うん、判った』

B班のリーダー、なのはからの報告。メンバー構成はスターズとユーノとなっている。

『こちらC班。ルシル、第四区画にシャルの姿無し』

「了解。それじゃあ引き続き頼む」

『うん、判った』

C班のリーダー、フェイトからの報告。メンバーはシグナムとギンガだ。エリオとキャロは、シャマルとザフィーラによって部屋へと運ばれた。そして他の隊員たちには各部屋で待機してもらっている。今のシャルは正しく野に放たれた猛獣だ。いや、もう珍獣で良い。そんな珍獣に対抗できる隊員はまずいないと判断したからだ。

「それにしてもシャルちゃんには困ったもんやなぁ」

「まったくです」

私とヴァイスの後ろを歩くはやてとリインが愚痴る。そんな中、「わがてにたずさえしはたしかなるげんそう」と、少しアクセントがおかしいが、間違いなく私の呪文(スペル)が聞こえてきた。声の主はもちろんシャルだ。そしてパチン、と指を鳴らす音がした。それを合図として、ほんの一瞬視界を潰す光が生まれた。

「きゃははははははは!!」

廊下の角から現れたシャルが、私たちに指を差しながら大笑いする。その様子が妙でお互いを見合わすことで、「っ!」何故笑っているのか判った。ヴァイスの下半身のある一点がモザイク処理されて、はやてがポリゴン、リインがドット絵のカクカクになっていた。

(プッ、ダメだ。笑ったらはやて達が可哀想だ・・・!)

はやて達から視線を逸らして、事の元凶であるシャルへと移す。そこには軽く呼吸困難に陥るほどに腹を抱えて大爆笑のシャル。

「バイバーイ!! きゃははははは!!」

シャルは散々笑った後、走り去っていった。

「なあ、ルシル君。私らが酔ってた時って、もしかしてあんなんやった・・・?」

「もしそうなら、リイン達は生きていけないです」

ポリゴンはやてとドットリインが私から視線を逸らしつつ、ものすごいヘコんでいる。後ろの背景にずーんと擬音が見えるくらいだ。

「つうか何で下半身だけモザイクなんだよ!? これじゃあ変態犯罪者と間違われちまうじゃねぇか!!」

ヴァイスもヴァイスでかなり哀れだ。3人がそれはもう酷い外見になっている。

「そういえば私の外見はどうなっているんだ?」

今まで3人の外見のみ気にしていたが、私自身どうなっているかまだ知らない。知るために身体を見回すと、「・・・マジか」私の身体がない。というか見えない。

「お前はお前で生首だしよぉ・・・」

ヴァイスの言うとおり、今の私は首から下が消えていた。はやて達が視線を逸らすのも頷ける。アースラの廊下は基本的に薄暗い。そんな状況で生首ってのは怖い。

「まずは各班に報告だな。なのは、フェイト。第六区画にてシャルを発見。だが逃げられた。行先はおそらく第三。なのは、そっちに向かったと思う」

『ん、了解!』

「私たちA班も追跡する。フェイト、君たちも第三に向かってくれ」

『了解!』

通信を切ったところで、3人から今の姿を見られたくない、と反対の声が上がる。

「我が手に携えしは確かなる幻想・・・!」

シャルが使ったのは、本来私の複製術式だ。なら、私でも解除できると思い試した。だが、ダメだった。以前の強制着替えと同じだ。諦めて今の格好のままで捜索再開となった。それからなのは達と合流した。しかし私たちの格好の所為で散々驚かせてしまった。
私とヴァイスだけがなのはに殴られるわ、ヴィータに蹴られるわ、ティアナに撃ち殺されそうになるわで大変だった。そこを何とかユーノに救われた。今日はとことんユーノに助けられる日のようだ。ちなみにスバルは出会い頭での私たちとの邂逅だったため、立ったまま気絶した。本当にすまないことをした。

「イヤァァァァーーーーッ!!」

合流してシャルの軌跡を辿っていると、フェイトの悲鳴が聞こえた。きっとシャルが何かしらやったのだろう。

「フェイト!」

「フェイトちゃ・・・プッ」

「ルシル!? なのはにみんなも! いやぁぁぁぁ! 見ないでぇぇーーーッ!」

急いで駆け付けた私たちが目にしたのは、綺麗だった金のストレートヘアが「ア、アフロ」になったフェイトの姿だった。私の背後に居る連中が笑いを必死に抑えているのが判る。だが笑いのレベルとしては、はやてとリインのポリゴンとドットの方がはるかに上だと私は思った。
ここで、スバルに続きフェイトがリタイアとなった。そしてはやてとリインもここでリタイアとなった。さすがにこれ以上あの姿で走り回りたくないのだろう。実際に私も、もうこの生首の姿でうろつきたくない。いくら隊員たちが各自の部屋で待機となっていようと、もしこの生首状態を見られたら大変なことになるのは間違いないだろう。

「それにしても今日はとことん人間離れだなセインテスト。今日はそういう日なんか?」

「知るか。しかし精神的に参る日だって言うのは絶対だがな」

ヴィータが心底哀れみながらそう訊いたきた。だからそう返す。今日という日は間違いなく最悪なものだと。

「シグナムさんとギンガも変なことになってなきゃいいけど・・・」

今、シグナムとギンガが先行してシャルを追っている。そのため私たちも急いでシグナムを追いかけている最中だ。

「それにしてもヴァイス陸曹は、いろいろとまずい格好ですよね。ですのであまり近付かないでください」

「なんだよそりゃあ! 好きでこんな恥ずい格好してんじゃねぇってぇの!」

ティアナがヴァイスの下半身のモザイク処理から視線を逸らしながら、ヴァイスから距離を取る。ヴァイスもまた今日は最悪な1日になったことだろう。今のヴァイスには同情の念しか浮かばない。うちの馬鹿義姉が本当にご迷惑をお掛けしております。

「そこに直れ、フライハイト!」

第三区画C-3B廊下の先、そこからシグナムの怒りを含んだ声が響いた。まずい。今のシグナムはかなり本気だ。下手したらこの付近が吹っ飛ぶかもしれない。

「シグナム! シャ――っ!」

絶句。

「あはははははははは! なんだよシグナム、その格好!」

ヴィータは廊下を転げ回り、呼吸困難に陥るほど笑う。

「シグナム姐さん、可愛いっす」

ヴァイスは親指を立てて、シグナムのそれを目に焼き付けるかのように凝視。

「お、お前たち! み、見るなああああーーーーーッ!」

シグナムが“レヴァンティン”を振り上げてこちらへと走ってきた。

「お、落ち着いてシグナムさん!」

なのはが必死に宥めようとする。ポニーテールだった髪がツインテールとなり、局の制服がどこぞの女学校よろしくなセーラー服となっていた。首まで真っ赤になって軽く半泣きなシグナムは、どこをどう見ても女の子だった。

「きゃははははははは! シグナムだって女の子なんだから、似合う似合う!」

ボトルを両手に現れたシャル。あれから何度も“スットゥングの蜜酒”を飲んでしまっているようだ。

「ギ、ギンガさん!? 大丈夫ですか、ギンガさん!」

薄暗くて判らなかったが、私たちの側にギンガが倒れていた。ギンガもギンガで何かの魔法少女アニメに出てきそうな奇抜なフリルやレースの付いた格好をしていた。顔を見てみると目を回している。何かで頭を打ち付けて気を失ったようだ。

「おお! 現れたなぁ、悪の幹部ルシリオン~♪」

「どっちが悪だ。もう手加減はなしだ。我が手に携えしは確かなる幻想」

私が携えたものを見て、全員が目を点にする。

「あの、ルシル君。ソレって・・・?」

「ん? ああ、コレか。これはな――」

私は“これ”を手に入れた時のことを思い出す。そう、あれは召喚事故によって全く関係のない世界へと召喚された時だった。

・―・―・回想だっ・―・―・

そこは辺り一面ジャングル。文明というものは感じられない。しかしジャングルを探索中、上空から飛行機のエンジン音が聞こえた。人の居る世界だと知り安堵した。そう、その飛行機を見るまでは・・・。

「そ、そんな馬鹿な・・・!」

その飛行機は、タルに翼とコックピットと尾翼を付けただけのものだった。乗っているのはネクタイをつけたゴリラ?と帽子を被ったチンパンジー?だ。気の所為だと思い、目を擦りつつもう一度見る。だがどう見てもタルに類人猿が乗っていた。

「ゴリラ運搬の飛行機って、タルに翼を付けただけって・・・ウソだろ・・・」

信じられない光景を目にしたが、私はもう深く考えないようにして再度探索を開始した。探索の結果。ジャングルの中は至るところにバナナとタル、そして二足歩行の生物。

(一体なんなんだここは?)

すると近くから爆発音が聞こえたので何事かと思い、音のしたところへと向かった。そうしたらゴリラとチンパンジーがタルに入ったと思いきや、爆発音と共に何処かへと飛んでいった。

「す、すごい! どうなっているんだアレ!?」

今の状況を忘れ、私は好奇心の塊となってタルへと向かい、そして入る。

「うおおおおおおおおおお!!」

私は今、空を飛んでいる。仕組みはよく判らなかったが、これほどの面白い物をどうにかして手に入れたいものだと思い、さらに奥へと進んだ。そうして私は未だに手付かずのタルを発見、拝借した。するとどこぞから爆音と共に飛んで来たゴリラとチンパンジーが、私が拝借したタルのあった軌道を辿り、谷底へ落ちていった。

「・・・すまん」

どこからか判らないが、風船の割れるような音がした。何だったんだろうか。今度は暗い洞窟、鉱山跡と思われる場所を探索中。しばらくすると奥の方から明かりが来る。よく見ると、さっき谷底へと落ちていったはずのゴリラとチンパンジーがトロッコに乗って、こちらに向かって来ていた。私はそれから逃れる為に全力で走った。しかしもうダメだ。ここでは派手な魔術が制限されている以上、あれをやるしかない、と覚悟を決める。

「こうなれば・・・犯罪だが仕方ない」

私はレール上に石を設置。モニターの前に居るみんな、真似はいかんぞ。トロッコはその石に乗り上げ、明後日の方向へと吹っ飛び、暗い谷底へと再度落ちていった。吹っ飛んだ瞬間、ゴリラとチンパンジーがウッキウッキと叫んでいたが生憎と私はゴリラ語が解らないので、あえて無視した。するとまたどこからか風船の割れた音がした。
洞窟を出ると、そこには王冠を被ったデカイ二足歩行のワニ?と、それが付き従えている妙な生物の軍勢が立ちはだかった。ワニが何か言っている様だが、生憎と私はワニ語が解らないので、力ずくでお引取り願った。正直そこから先は覚えていない。

・―・―・回想終了だっ・―・―・

「――これは、タルバズーカだ」

あのとき拝借した物を改造したタルバズーカ。弾丸は何でもオーケーと言うのがこれの強みだ。

「そんなんでアイツを止められんのかよ?」

「まあ見ていろ」

照準をシャルにセット。弾丸はシャルがこの世で最も苦手とするトマト。明らかに食物に対しての冒涜だが、この際勿体ないとかは横に置いておく。いくら消費するオリジナルが1つとはいえ、だ。このタルバズーカにはある仕掛けがある。側面に書かれた“当たり。もう一回”。その概念が含まれた文字のおかげで、弾丸として入れられたトマトがタル内で無限増殖する。

「さあ、イタズラの時間は終わりだ。受け取れ!!」

マシンガンよろしくな勢いでトマトが斉射される。それを必死に回避しようとしたシャルだが、酔っぱらった人間がそんな器用なマネが出来るわけもなく、面白いほど命中していった。そしてシャルが倒れ気を失ったと同時に、シャルに掛けられた術式が解除されていく。

こうして、アースラに降り立った“酔いの鬼神”は撃破された。この後、この騒動は“酔いの鬼神事件”として語られなかったり語られたり・・・?
 
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