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八条学園怪異譚

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第五十六話 鼠の穴その一

                  第五十六話  鼠の穴
 愛実と聖花は百鬼夜行の後で動物園のマウスやモルモットのコーナーに向かった、そこはすぐ傍が兎のコーナーだった。
 その中に入ると小さな子供達が一杯いた、愛実はその子達を見て聖花に言った。
「やっぱり小さな動物って子供に人気があるのよね」
「そうね、ただね」
「うん、小さい子ってわかっていないことが多いから」
 だからだというのだ、見ればマウス達はケースや小屋の中に入れられていて子供達が触れない様になっている。
「触れない様になってるわね」
「それが一番怖いからね」
 だからだというのだ。
「ケースに囲ってね」
「それで守ってるのね」
「そうね、ただね」
「そうそう、鉄鼠さんよね」
「何処におられるのかしら」
 聖花は今自分達がいる場所を見回して愛実に言った。
「この中にいるっていうけれど」
「大きさは他の鼠さん達と一緒よね」
「そうなのよね」
 だからだというのだ。
「ちょっとわからないわよね」
「あの大きさだから目立ったのよね」
 一メートルを超える鼠なそそうはいない、げっ歯類という区分でもそうした鼠は中南米にいる位である。だからなのだ。
 二人は鉄鼠が何処にいるかわからなかった、だがここで。
 二人がいる前からだ、あの声がしてきた。
「来てくれたんだね」
「あっ、ひょっとして」
「そこにいるの?」
 二人はその自分達の前のケースを見た、そこには黒い小さなマウスがいた。
 そのマウスがだ、こう言って来たのだ。
「そうだよ、わしだよ」
「ああ、鉄鼠さんそこだったの」
「そこにいたのね」
「やっぱりわからなかったね」
「ええ、本当に普通の鼠の大きさだったから」
「だからね」
 わからなかったとだ、二人も答える。
「けれど喋ったらね」
「わかるわ」
「ただ、わしが喋ってるってことは気付かれない様にね」
 周りの子供達にというのだ。
「小声で話そうか」
「そうね、その方がいいわね」
 愛実は周囲を見回して言った。
「子供達が聞いたらびっくりするから」
「普通は鼠は喋らないからね」
 このことは鼠だけに限らない。
「だから気をつけてね」
「うん、そうね」
「それじゃあ」
 愛実だけでなく聖花も頷いてそうしてだった、二人はケースに顔を近付けてそうしてだった、三人で話したのだった。
 鉄鼠は自分のいるケースに顔を近付けてきた二人にだ、あらためて話した。
「じゃあいいかな」
「泉の場所よね」
「そこよね」
「うん、そこはここにあるから」
 今彼等がいる場所にというのだ。
「このコーナーの中にね」
「まさかと思うけれど鼠の穴とか?」
「そういう場所じゃないわよね」
「いや、人間も通れるよ」
 鼠だけでなく、というのだ。
「天井に行く場所だから」
「天井ね」
「そこに上がるところね」
「そう、あそこだよ」
 鉄鼠は顔を上に向けた、そしてコーナーの左上の隅を指し示して言った。 
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