| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

4th Episode:
~A・RI・GA・TO~
  これからの時間を大切に

†††Sideルシリオン†††

有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない。何なんだアレは? 本当に勝てるのか? 不可能不可能不可能不可能。私たち“界律の守護神テスタメント”が立つのは、中世ヨーロッパのような面影のある街並。しかしあれ程美しかった街が燃え、城が燃え、そして・・・国が燃え。民も燃えた。

「アレが・・・最強の絶対殲滅対象(アポリュオン)・・・!」

「うわぁ・・・。ボク達の“干渉”が全然通じてないよ?」

「上等じゃねぇか。手を貸せ、天秤っ、殺し屋っ!」

「エリザベッタお姉さま! ガブリエラお姉さま!」

側に来た9th、7th、2nd。そしてこの世界で出逢い、親しくなった王女マリア。マリアは今なお城に残る、彼女にとっての姉であり、私が守るべき存在であるエリザとリエラの名を叫ぶ。情けない。守ると誓っておきながらこの様だ。最強なんて言葉、無意味だ。
そんな私たちの見上げる先に、この街を、人を、そしてこの国を現在進行形で滅ぼしている人影がある。ソレは白い薄手のノースリープワンピースを身に纏い、銀のようでいて純白である綺麗な長髪はくるぶしまで伸び、虚空を見つめている瞳の色は深い桃色、背には12枚の白翼を持つ、10歳くらいの幼い少女。

「何が・・・何が天使(アンジェラス)だ・・・」

究極にして最強と言われる“アポリュオン”・ナンバーⅦ――天使の名を持つ、アンジェラス。ふざけるな。天使と名乗っておきながら、やることは悪魔の所業ではないか。私とて同じようなことを今までにも繰り返し行ってきている。だが、だがこれは違う。殺害する必要のない生命まで、理由も無く殺すのだけは・・・あってはならないっ。

「ルシリオン様・・・。お姉さま達は・・・!?」

「・・・っ」

この世界の“界律”に召喚された“テスタメント”は五柱だった。私、優斗、ティネウルヌス、ルフィスエル、アーク。だがアークはすでにアンジェラスによって消された。あまりに一方的に。戦闘開始からわずか数十秒で、私たちは実質的な敗北となった。

(ああ、これは夢だ。私の心が壊れ、アポリュオンのアーミッティムスとなってしまった時の・・・)

夢だと自覚する。そう、私が守護神となって、時間という概念に換算すれば約2千年目の契約。この時にはすでに私は壊れ始めていた。そして、この契約が決定打となる。

(リエラ・・・、本当にすまない・・・)

私が今なお生きていると知った“彼女(リエラ)”からの、好きです、という告白。“テスタメント”の正体を、そして私の真実を知り、それでも私のことを好きだと言ってくれたリエラに、私の心は癒されていた。私は契約を終えても残ることは出来る。世界に私が“生きている”という概念がある限り。だから、心のどこかでリエラと共に新たな人生を、などと思っていた時にこれだ。

「ルシリオン様っ。お姉様たちを助けてくださいっ!」

(マリア・・・)

そして今、私の外套にしがみ付いているのは、後に5th・テスタメントとなるマリア。綺麗だった金糸のような髪は煤で汚れ、アメジストの瞳も泣き続けている所為で赤い。

『優斗、マリアを安全なところへと頼む。それと、城へ戻って生存者の確認を。ここは私たちで何とかする』

不可能だ。“テスタメント”五柱が束で“干渉”を撃ち込んでも無傷だったのだから。とはいえ、最悪マリアだけでも生かす。それくらいはしなければ私は・・・クズだ。

『・・・了解です』

優斗にリンクでそう告げ、マリアを干渉能力で避難させ、彼自身も位相転移で城へと向かった。それを確認し、「第一級神罰執行権限・・・解凍!」首のチョーカーに付いている白の南京錠に手をかけ、解錠する。契約執行中にはまず必要のない魔力を解放。ランクは当然EX。ありとあらゆる制限を外し、魔術師“神器王”となる私を見ながらそう思う。

「消えろ、アンジェラス・・・!」

守護神の“干渉”と、魔術師の“神秘”を合一しての一撃をお見舞いする。

(だが結果は散々だったな)

私は能力を完全解放した“グングニル”を手にし、“第四聖典”と合成する。形状は“グングニル”のまま。しかし宿す“力”は言いようのないほどのものとなった。上下に付いた1mはあるクリスタルの穂が強く銀の閃光を発する。

「食らえ!」

右手をアンジェラスの居る上空へと翳し、前方に7つの魔法陣を顕現させる。風嵐のアースガルド、氷雪のニブルヘイム、炎熱のムスペルヘイム、閃光のアールヴヘイム、闇黒のスヴァルトアールヴヘイム、雷撃のニダヴェリールの紋章だ。それを立てて並べて展開しているため、それは連なる魔法陣による一種の砲塔だ。そしてその魔法陣と術式に“干渉”を上乗せさせる。

「真技・・・!」

“聖典グングニル”を構える。

神断(グロリアス)――」

その場で反時計回りに一回転する。投擲する際、遠心力でさらに勢いをつけるために。遠心力に乗って勢いのついた“聖典グングニル”を魔法陣の砲塔へと投げ放つ。まずは手前のニダヴェリールの魔法陣に穂先が当たり、陣が収縮し、“聖典グングニル”へと吸収される。その現象が続く。そして最後にアースガルドの陣を吸収・・・通過。

福音(エヴァンジェル)!!」

“聖典グングニル”が銀の閃光となって一気に加速され射出。目指すは怨敵アンジェラス。それに気付くアンジェラスだが、何もアクションを起こさない。

「・・・クス♪」

アンジェラスは、背の翼から1枚の羽根を手に取り、迫る“聖典グングニル”へと向けた。そして衝突。それによって起こる衝撃波が一瞬で街を消滅させていく。こちらは“干渉”によって現実と切り離されているために影響はない。だからこそ見えた。“聖典グングニル”が粉々に砕け散るのを。

「クス♪・・・バイバイ、お兄ちゃん達」

その後は一方的な殺戮だった。数分とせずに界律の守護神(わたしたち)は全滅した。守るべき国は滅び、守護神となってから初めて愛したリエラは死んだ。唯一の救いはエリザとマリア、少数とはいえ避難できていた民が生き残ってくれたことだ。
だがそれを知るのは、このとき召喚されていた私の分身体が“アポリュオン”に堕ち、亡失アーミッティムスとなり、そして“神意の玉座”に在る本体の私もまた心が壊れ、完全に塞ぎこんだ時だ。全てが嫌になった。殺し殺され、守り守れず、それが延々と続くと思うと・・・。

その後、私はしばらく壊れていた。命を奪うことにも何も覚えず、ただ淡々と事を為す。まぁ、そこは“神意の玉座”の意志が気を遣ったのか殺すための契約ではなく、守るための契約が増えた。次第に癒されていく心。随分と簡単な作りをしている、と思った。

――ルシリオン様。お久しぶりです――

――マリア・・・!?――

それからどれだけ経っただろう、マリアが5th・テスタメントとして玉座に現れた。目を疑った。何故この子がここに居るのか、と。訊けば彼女は私と同様、生きている間に守護神となったとのことだ。目的は私のサポートだと。呆れた。守護神となる術を手にし、そして私なんかのために、このような地獄に来てしまった。ゆえに彼女は“愚者と賢者は紙一重”なんて二つ名を持つことになってしまった。

それからは亡失アーミッティムスとなった私の分身体を捜し続け、なんとか斃すことに成功した。だが、それで終わったわけじゃない。私はもう幸せを望まないようにした。だから契約終了後に、その契約先世界に残ろうという考えは捨てた。
それが当たり前だから。本来、その世界に在ってはならない異物は残るべきではない。友情も、愛情も、悲しみも、苦しみも、私なんかが持ってはいけないんだ。私は、自分の幸せなどを願っていい存在ではないのだから。


―――(ココロ)は砕けた信念で満ちている

信じた未来の果てに辿り着いたのは破滅へ続く道

永遠の中をただ独り  たった一度の幸福も許せず

死に逃げることさえも許せない

怨まれるのは当然の罪で、憎まれるのもまた当然の罰

故に理解されようとは思わない、それが唯一の償いなのだから

奪い去った幾多の命の十字架を背負い彷徨い続ける

彼の者はきっと壊れ果てた(ココロ)で生きていた―――


とある正義の味方の在り方を表した言葉に、私の在り方を重ねて生み出した呪文(スペル)

意識が覚醒していくのが判る。どうやら睡眠から覚めるようだ。嫌な記憶(ユメ)だ。何故こんな古いものを見たのか。決まっている。ベルゼブブの“力”だった“結界”。アレこそ天使アンジェラスの持つ“力”の1つだからだ。目を開け、涙に濡れていた目を袖で擦り拭う。

「・・・はぁ」

天井を見るに、ここはアースラ内であるのは間違いない。どこの部屋かは知らないが、誰かがここまで運んでくれたんだろう。上半身を起こし背伸びをする。それと同時に布団が捲れ、そして見た。

「・・・う・・・ん・・・」

「・・・・・・????」

両目を擦る。ちょっと待て。状況が解らない。どうしてフェイトがここに居る? 何で一緒のベッドで寝ている? 理解不能理解不能理解不能理解不能。え? 本当に理解出来ないんだが・・・。

(何故だ? フェイトがここで寝るのを誰も止めなかったのか・・・?)

普通は止めるはずだ。いくら付き合いが長いとはいえ、これはまずいだろう。前にもヴィヴィオにお願いされたが、あの時は寝ずに離脱した。だからセーフ。そして今回だが、フェイトと私の間で間違いが起こることは絶対にないと言い切れるが、これはアウトだ。当人たちがセーフだろうが周囲が黙っていないはずだ。

「・・・ん・・・すぅ・・・」

寝返りをうつフェイト。さぁ、どうしようか。
1、起こす。それはそれで気まずいことになりそうだ。
2、起きるまで放置。これがベストのようで、どこか違うような・・・。
3、誰かを呼んで、フェイト自身の部屋へと連れていく。自殺行為だ。

頭を抱えながら考える。朝の寝起き直後からこんなことに頭をフル回転する羽目になろうとは・・・。そのままフェイトが起きないように静かにベッドから離脱。選択したのは2だ。時計を見る。9月20日の午前6時半前。ということは、あの事件終了の翌日だ。

(その割に体調は万全だな)

地上に降りてすぐに眠ってしまったから、身体の回復は終えているようだ。ある程度室内を見渡し、「は・・・?何故か存在しているもう1つのベッド。確かにこの部屋は大きいから2人部屋というのも頷ける。だが、ベッドが丸々もう1つあるというのはおかしな話だ。普通は2段ベッドになるはずだからな。

「ん?」

隣にあるそのベッドの布団が膨れ上がっている。誰かが寝ている証拠。ベッドと布団の合間から2つの光。ゆっくりとしゃがみ込み、布団を捲る。そこに寝ていたのは・・・

「やっほー、ルシル。どう? お姫様(フェイト)の添い寝の感想は?」

デフォルメされた犬がプリントされているパジャマを着た、腹が立つくらいにニコニコ笑みを浮かべる馬鹿(シャル)だった。

「君がフェイトをここに連れて来たのか、ん?」

半眼で睨む私を見て、シャルは手をヒラヒラと振った。否定でもするのかと思えば、「うん♪」肯定だった。じゃあ何だ、さっきの手の動きは? そういうのは否定の時にするものだ。

「まさかフェイトを勝手に連れて来て寝かしたのか?」

もしそうなら、この後の私がどうなるかそう難しい話じゃない。私へ向けられる視線が六課内――いや、さらに拡大した範囲で冷めるかもしれない。

「しーっ、あんまり大きな声出すと・・・」

シャルが布団を僅かに持ち上げて中を見せてきた。視界に入るのは静かに寝息を起てている可愛らしい寝顔なエリオとキャロ。

「あー、シャル。いくら2人が可愛いからと言って、寝込みを襲っ――ぅぐ・・・!」

シャルから繰り出されたのは懐かしきアイアンクロー。必死に声を出さないように努める。頭蓋骨がミシミシと音を立てている気がする。折角起きたばかりなのに、別の意味でまた眠りに落ちてしまいそうだ。

「そんなわけないでしょ」

シャルがそう言ってベッドから降りると同時に右手を私の顔から離す。いかん。手が離れたというのに、まだ鷲掴みされているような感覚が残り、少し痛い。

「ルシルの看病をしてたフェイトが眠っちゃったから、そのままルシルのベッドで寝かせたの。それとも何? フェイトを椅子に座らせたままで寝かせておけってわけ? だったらぶっ飛ばす」

「誰もそんなことを言ってないだろうが。というか看病? 何故私に看病が必要なんだ?」

フェイトが私のベッドで寝ていた理由は解った。そして置いてある洗面器とタオルの理由もだ。熱のある私の額に乗せるためのものだな。それにしても、どうしてフェイトを寝かせるベッドを私のにして、シャルが達が寝ていたベッドじゃないのか。
それに、どうしてもう1つベッドがあるのか?などなど。ツッコミどころ満載だが、シャルの事だ。その方が面白いからと返ってくるに違いない。ならもう訊くまい。返すのも面倒だ。それはともかく、私に看病の必要性があったかどうかだが・・・。

(それは聞いておかないとな)

ただの熱なら、何もせずとも勝手に収まるのだから。自己治癒力には自信がある。寝ている3人を起こさないために部屋を出る。ここで話して、フェイト達を起こすわけにはいかないからな。それからシャルが着替えるからということで10分かかった。待つのはもう慣れた。

「お・ま・た・せ❤」

白のシャツと水色のワンピースへと着替えて、軽く化粧をしたシャルが出てきた。化粧道具が何故この部屋にあるのかという疑問は捨てる。いや、捨てずに考えるべきだった。ああ、私としたことが(泣)
で、ここから近い第3レクリエーションルームを目指し、歩きながら小声で話す。

「私もよく知らないけど、ルシルが地上に降りた途端に気を失って倒れたって話。それはもうすごい高熱だって。私が起きた時、フェイトが泣きついて来たくらいだし」

「そこまで酷かったのか、私は?」

気を失った、か。意識的には眠ってしまったという感覚だったが。むぅ、何か無茶をしただろうか? 高熱というのはあまりない副作用だ。だから考えてみる。高熱という副作用が出るようなマネをしたか。

(判らないな・・・)

結論はそれだ。考えてみても判らないものは判らない。ならそういうものだ、と納得するしかない。現状、体に異常はないしな。

「フェイトが起きたらちゃんとお礼を言わないとダメだよ」

「それくらい判っている。昨日の私は助けられてばかりだな」

「そこには私ももちろん入っているんでしょ?」

「「・・・・」」

廊下に流れる静寂。腕をうしろで組み、スキップしているシャルから静かな威圧感。

「・・・髪切ったのか・・・?」

「・・・・」

「うぉぉおおああぁぁぁああああ・・・!」

本日二度目のアイアンクロー。どこを間違ってしまったのか解らない。咄嗟にシャルの髪が短くなったのに気付いて、口にしてこの有様だ。

「まあ、そこに気付いたことで許す」

「許すって問題じゃないよな、今の状況は・・・」

あまりの痛みで泣きそうだ。だから両手を挙げて降参のポーズ。それを見たシャルは私の顔を鷲掴んでいる手を放し、満足そうな笑みを浮かべてシャルが離れていく。その笑みの正体をもう少し早く気付いていれば・・・。

「ねぇルシル、これからどうする?」

シャルが振り返って、後ろ向きで歩きながら訊いてきた。

「これから・・・か。まずはそうだな。住める家を探さないといけないだろう」

“機動六課”の試用期間は残り半年。それまでに本契約が終わるという確証もない。それと“ペッカートゥム”との戦いが終わった時点で六課との協力関係も終止符だ。このまま残って居座るのもまずいだろう。だから別の住居が必要になってくる。
地球に戻る、という選択肢もあるが、それはそれで移動が面倒だ。それに、ここミッドチルダがこの次元世界の主軸となっている。ならここを起点として行動していくのが好ましいと思う。だからミッドのどこかに簡単な住居でも見つけられればいいんだが。

「お、私とルシルの2人暮らし?」

「はぁ、どうしようかなぁ・・・?」

これからを考えた上での独り言である呟き。だというのに・・・

「待てや、コラ」

「何故だぁぁあああああ・・・!」

本日三度目のアイアンクロー。しかも今回は幻の左。超痛い。何故だ? 何故、今の私は頭蓋骨が握り潰されようとしている?

「こんな美少女との2人暮らしって聞いて、どうしようかなぁ?ってのはどういう了見だ。あ?」

「意味が解らなあ痛たたたたたた・・・!」

美少女って歳でもなければ、今では義姉弟ということになっているはず。言っていることがメチャクチャだ、この女。あ~今度こそ駄目だ。・・・お~は~な畑ぇ~のぉ~~~・・・♪

「フライハイト、セインテスト」

「ハッ!」

意識がアッチ側へ旅立つ前に現実へと引き戻される。背後から聞こえてきた声の主は「あ、シグナム。おはよう」シグナムだった。

「ああ。あはよう、フライハイト。それに・・・その様子だと、もう大丈夫なようだな、セインテスト」

シグナムに挨拶をするためにシャルのアイアンクローから逃れる。そして私がシグナムへと振り返ると、「・・・・」シグナムが微妙に複雑そうな表情になった。

(ん? なんだ・・・?)

だがすぐにシグナムはいつもの凛とした表情に戻ったことで、大して気にはせずに挨拶を返す。

「おはよう、シグナム。見ての通りもう大丈夫だ」

シグナムは何故か私から逸らし、一度シャルを見てから「そ、そうか・・・」そう返した。シグナムは一度咳払いをし、改めて私を見る。

「セインテスト、話がある。少し付き合ってくれ」

「あ、ああ。第3レクリエーションルームへ向かう途中だったから、そこでいいか?」

「ああ」

そう言ってシグナムが歩き出し、私たちもそれに続く。

†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††

ルシルはまだ気付いてない。そろそろ気付くだろうけど、もう少し様子を見ていよう。シグナムからルシルに話があるらしいから、私たちが行こうとしていた第3レクリエーションルームへと向かって歩き出す。
さ~て、どうやってルシルに告げようかなぁ、レヴィヤタンのこと。たぶんルシルは、“ペッカートゥム”はもう1体残らず斃したと思ってるはず。そこにレヴィヤタンを連れて来たらどんな反応を見せるだろう?

(少し楽しみだけど、でもどっちかと言うと怖いなぁ)

顔を合わした瞬間バトルってのも有り得る。というかそうなるよね、やっぱり。そこをどう止めて、どう説得するか・・・。

「そう言えばお前たちはこれからどうするつもりだ?」

前を歩くシグナムが振り向かずにそう訊いてきた。私はルシルと一度顔を見合わせる。

「えっと、今のところ決まってるのは家探しかな~。いつまでもここに残るのも悪いしね。だから早いうちに決めて出ていこうかと・・・」

「・・・そうか。それにしても家探しか。・・・フッ、苦労するぞ。シャマルも我々の住む家探しに苦労していたしな。なんとかカローラの紹介で家は見つかったが」

シグナムが意地悪そうな笑みを浮かべて私たちを見る。そういえばそうだった。あの頃のシャマルはかなり気の毒だった。でもシグナムの言うとおり、セレス・カローラっていう私たち共通の友人のおかげで、良い物件が見つかったから良かったんだけどね。そう言えばセレスは元気かなぁ。こっちに戻ってきてからというもの逢ってないや。

「なんや気になる話をしとるなぁ」

「「はやて」」「主はやて」

近くの部屋の扉が開いて、そこから出て来たのははやてだ。その姿はシグナムと同じ制服姿。こんな朝からもう仕事を始めちゃってんのかなぁ・・・?

「さっきの出てくっていうんはホンマなんか?・・・って!」

両手を腰に当てたはやてがジト目で私を見て、次にルシルを見て絶句。ルシルのそれを見て一瞬で理解したみたいだ。それが私の仕業だって。

「えっとぉ・・・あ、レクリエーションルームに行くんやろ?」

私たちが返事をする前にはやては「私も行くな~」そう言って前を歩きだした。私たちは顔を見合してそれに続く。少し歩いて、第3レクリエーションルームに入り、近くのイスに座る。人は居ない。ここに居るのは私たちの4人だけだ。ルシルとシグナムは水を取りに行った。起きたばかりで喉が渇いているからね。

「で、さっきの続きやけど・・・」

水の入ったコップをそれぞれの前に置いて、ルシルとシグナムもイスに座る。シグナムの話は後になりそうだ。シグナムもそれでいいのか黙っている。

「ああ。ペッカートゥムを全員斃した以上、私たちの協力関係も終わってしまった。それなら局員でもなく隊員でもない私とシャルがここに留まるわけにもいかないからな」

ルシルの話を聞いたはやてとシグナムが私を見てくる。まだレヴィヤタンのことは話していないのか?という視線で。首を縦に振って私は応えた。ルシルは水を飲んでいた所為で気付いていないみたい。

「でもそうすぐに住める家なんて見つからんよ? それまではどうするん? 海鳴市の家に戻るんか? フェイトちゃんの話やとミッドに残るって話やけど・・・?」

はやてからの立て続けに繰り出される質問の嵐。ルシルは若干引きながらも笑みを浮かべて答えようと口を開く。

(ルシルってフェイトにそんなことを言ってたんだ・・・)

「見つかるまではどこか安いホテルでも借りるよ。な、シャル?」

でもミッドに残る発言には感情云々はないんだろうな~、きっと。どうせミッドがこの次元世界の主軸だからなんだとかの理由だと思う。

「・・・う、うん。そうだね」

突然話を振られたから少し詰まったけど、そう答える。本当はもう少し居たいけど、やっぱり局員じゃないんなら留まるのはやめた方がいい。それに、これ以上留まると、もう離れられなくなっちゃうよ、みんなの元から。

「それはもう決定、っていうか確定なんか・・・?」

水を喉に流し込んでからはやてがそう訊いてくる。なんだろう。はやての様子が少し・・・変?

「確定ってわけじゃ・・・」

「ないよね・・・」

ルシルと顔を見合してそう答える。さっき少し話してそうしようと決めただけで、絶対そうしようって言うほどじゃない。

「・・・シャルちゃん、ルシル君。機動六課の試験運用期間の期限まであと半年。シャルちゃんとルシル君のその半年の時間、私たち――機動六課にくれへんかな?」

はやてからの申し出。それはつまり、「私たちに残ってほしい?」ということだ。

「うん、そや。スバル、ティアナ、エリオ、キャロ・・・フォワード陣。シャルちゃんとルシル君はあの子たちに良い影響を与えると思ってる。これまで通りなのはちゃんやヴィータと一緒に教導を・・・って、思ってるんやけど・・・」

「んー、そう言ってくれるのは正直嬉しいけど・・・いいの?」

「ええよ――ってゆうか、私がお願いしてるんやし、シャルちゃんが気にするんは変や」

はやてが苦笑しながら右手を差し出してくる。

「・・・えっと・・・ルシル」

契約中行動の決定権は3rdの私じゃなくて4thのルシルが持つことになってる。まあ、そこに不満はないから別にいいけど。こういう場合はちょっと面倒だな~とか思ってる。

「むぅ・・・そうだな・・・。はやて」

「ん?」

「私とシャルは常にここに留まることはおそらく出来ない」

「それは・・・あれやね、2年前に管理局を辞めた理由の・・・」

「そうだ。そんな私たちに残ってほしいなんて・・・」

「それでもや」

はやての笑みも差し出された右手も戻らない。見ればシグナムは、はやての手を取れって視線を無言で私たちに向けてくる。

「・・・ま、その時はシャルを置いていくからいいか。はやて、これからもよろしく頼む。そしてシグナムも」

ルシルが何やらすごいことを言いつつはやてと握手を交わして、今度はシグナムにも右手を差し出した。シグナムがそれを見て、よく見ないと判らない程度の微笑を浮かべて、「ああ、よろしく頼む」ってルシルの手を取った。すると今度は私に向けて、はやてとシグナムが右手を差し出してきた。

「これからもよろしくね、はやて、シグナム♪」

「うん!」

「ああ」

だから私も順に手を取って握手。よかった。まだみんなと一緒にいられるんだ。

(感謝だよルシル)

隣に座るルシルに視線を移す。でもルシルは何か考え事をしているみたい。

「それじゃあクロノ君たちには私が話を通しとくなぁ♪」

そう言ってはやてがレクリエーションルームから出ていった。残された私たちはコップに残った水を飲み干して、本来の話を始める。

「・・・で、シグナム。私に話とは?」

ルシルは向かいに座るシグナムに訊ねる。はやてと会う前はその話をするためにここに来たんだしね。

「ああ。・・・騎士ゼスト・グランガイツのことだ」

その名前が出て、この場の雰囲気が重くなるのが判った。ルシルが「ゼストさんが・・・なんだ?」呟くようにシグナムに訊いた。

「・・・・騎士ゼストは亡くなった。いや、私が・・・斬った」

「「っ!!」」

シグナムが少し溜めて、そして告白した。斬った。つまりは殺した、と。

「・・・シグナム。ゼストさんの最期はどうだった? 騎士としての、ゼストさんの納得のいく終わりを迎えられただろうか?」

テーブルに両肘をついて、組んだ手の甲の上に顎を乗せたルシル。シグナムも腕を組んで、ルシルの目をしっかりと見ながら・・・

「私には決められることではないが、そう思いたい。騎士ゼストは、戦いの中でその命の幕を引くことを選んだ。そしてその相手が私だった。私は彼に応えることが出来たのかは判らないが・・・」

そう自身なさげにルシルに答えた。

「・・・シグナムのような素晴らしい騎士と戦い、そして逝けたのなら満足だっただろう」

「だといいのだがな・・・。これがお前に伝えておきたかったことだ。・・・それでは私もこれで失礼する」

そう言ってシグナムが立ち上がって、「ありがとう、セインテスト」って礼をぽつりと漏らしてレクリエーションルームから出ていった。会話が無くなって静まり返るレクリエーションルームに残ったのは私とルシルの2人。

「・・・本当にいいの、ルシル。ここに残っても・・・?」

「いいんじゃないか? もうしばらくは楽しもう。この時間を」

「そっか。うん、そうだね。そんじゃ、まずは・・・」

レヴィヤタンのところに行かないとだねぇ・・・ハァ・・・。

『ル~シ~ル~・・・ど~こ~?』

「「ひっ・・・!」」

この後に起きるかもしれないルシルとレヴィヤタンの本気バトルに気を重くしていると、幽鬼のようなフェイトが映っているモニターが私たちの目前に現れた。

『どこに居るのぉ~~~~~?』

今のフェイト、アリサの家で観た映画に出てくる貞○のようだ。寝ぼけていると思いたい。思わせて。思おう。うん、決定。このあと、ルシルはフェイトに捕まった。次に会った時にはゲッソリしてた。散々お説教をくらったらしい。ご愁傷さまぁ♪

追記。私がルシルにしたイタズラ、お化粧。綺麗にお化粧したルシルの目撃者続出。男女関係なく赤面する。そしてそれがバレた私も散々ルシルにお説教をくらった。そのときのルシルはそれは綺麗な鬼でした・・・まる(泣)
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧