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不殺の侍と聖杯戦争

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本戦
一回戦~残り128人
  一日目

 
前書き
1話一日って感じでやります。 

 
空が焼けている。

家が熔けている。

人は潰れている。

路は途絶えている。

これが戦いの源泉。これが再起の原風景。

ここで『私』は、ただ一人生き延びた。

思い出すな/忘れるな。
忘却は至上の救いであり、最悪の罪である。
忘れるな。

地獄から『私』は生まれた。

これは忌まわしい夢。
何処かであった、何処にでもあった、

そして此処(げんじつ)に起きた、幼年期の記憶である。

多くの血が流れ、響き渡る怨嗟の声を聞いた。

命は消える。思いのほかあっさりと。肉親も友人も、名前を知らない隣人も他愛なく。銃を持った兵士も、生き延びようとする家族も、

最後まで醜く逞しくあがき、臨終の間際、おだやかな面もちで呼吸を止めた。


―――それが、どうしても承伏できなかった。何故、という疑問が消えなかった。


紛争と天災の違いはあれ、なぜこのような悲劇が起きるのか。なぜ誰をも救う事が出来ないのか。

いや、そもそも―――
なぜ世界は、この地獄を許すのか。


……穏やかな雨が降る。カタチあるもの、生あるものは、ひとりを残して消え去った。

無力感と絶望の中、意識は薄れていく
胸にあるのは疑問と怒りと―――

雨を頬に感じながら、瞼を閉じる。多くの人間の、人生の、時間の痕跡が、跡形もなく消え去った。

その犠牲を見て、死の淵でなお頭をあげた。
認めない、と。

もし、もしもう一度
まだ命を与えられるのなら
今度は、今度こそは、決して―――

だが二度はない。
雨はほどなくして、焼けた大地を清めていった。

忘れるな。

地獄から『私』は生まれた。

その意味を―――

どうか、忘れないでくれ。







…………目が覚めた。どうやら、夢を見ていたようだ。何か、欠けた夢を。


どうやらここは、学校の保健室。いつの間にか倒れ、運ばれてきたらしい。

それでは、サーヴァント、令呪、あれらのことも夢だったのだろうか。

いや、この保健室はすでに見慣れた日常のそれではない。似てはいるが、どこか異質で………。


「やっと起きたでござるか。心配したでござるよ。それにしても、大事に至らなくてよかったでござる。」



ベッドの横に、突然に人影が現れた。忘れようもない、強烈な印象を残したその姿―――

頬に十字傷のある短身痩躯の侍。………もっとも、外見での判断など意味がないのかもしれない。何しろ相手は人間ではないのだし。


「聖杯戦争の本戦前に目覚められたのもよかったでござるな。それより、聖杯戦争のことは分かっているのでござろう?」


聖杯戦争?あのときも聞いた言葉だが、いったいどういう事なのだろうか。


「なるほど、お主は聖杯戦争のことを知らないのでござるな。それならば拙者のわかる範囲を説明しよう。お主も、聖杯は知っておろう?あらゆる願いをかなえるという、あの聖杯でござる。」


どうやら西欧の伝承に出てくるあの聖杯らしい。


「しかしこの聖杯が本物かどうかはわからぬ。しかし、本物かどうか、などは関係なく、願いをかなえるもの、それが聖杯でござる。かつて、聖杯をめぐる争いが魔術師(メイガス)たちによって行われていた。それが聖杯戦争でござる。この戦いはそれを模したものなのでござるよ。そしてこの聖杯戦争の仕組みは単純でござる。選ばれしマスターはサーヴァントと共に戦場へ赴き、一騎打ちで雌雄を決する。敗れたものは令呪を失い、命を落とすのでござる。」


思わず左手に目をやる。そこには紋章にも似た奇妙な模様が三つ、刻まれている。あの時の痛みは、今はもうない。



「そして最後の一人が聖杯を手にする、というルール、というのが拙者の知る限りでござる。」


納得はできなかったが、理解はした。自分がこの聖杯戦争とやらに参加してしまっているということも。


「次に、サーヴァントのことは知っているでござるか?」


知らない、と言うと


「では拙者が説明するでござる。サーヴァントとはこの聖杯戦争でマスターを勝たせるために呼ばれた過去の英霊のことでござる。生前に名を遺した英雄はのちの世まで信仰される、神仏的存在―――英霊になるのでござる。その存在を聖杯の力で再現したのがサーヴァントなのでござるよ。サーヴァントはマスターを守り、導く存在でござる。聖杯戦争のルールに従い、サーヴァントは七つのクラスに分けられるのでござる。
セイバー。
ランサー。
アーチャー。
ライダー。
キャスター。
バーサーカー。
アサシン。
という七つに定められるのでござる。このクラスには英霊の用途の一本化という役割があるのでござる。英霊のすべてを搭載するのは聖杯の容量以上のことでござる。だから、クラスに応じた力だけを形にするのでござる。つまりクラス名はそのまま相手の特性にもなっている、ということでござる。その中でも最良なのがセイバー(剣使い)のクラスでござる。拙者のクラスはセイバー。しかし洋名は苦手なので、拙者のことは『剣心』と呼んでほしいでござる。」


セイバー………もとい剣心は英霊だというのならば、いったいどの英雄なのだろうか。


「拙者の真名でござるか。………その名はあまり好きではないので、出来れば聞かないでほしいでござる。しかし、拙者はお主の願いをかなえるために呼ばれたサーヴァント。お主のために、この剣を取ろう。」


そういうと、サーヴァントは姿を消した。しかし、まだ自分の近くに存在していることはわかる。


用のないときは姿を消しているのだろう。敵にみられて、正体を悟られないためかもしれない。まあ、英霊を見たことある、なんて奴がいるわけもないので外見で正体はばれないと思うが。





と、保健室のドアがあき、少し紫がかった髪をした少女が入ってきた。彼女のことは知っている。保健委員の間桐桜だ。

「あ、岸波さん
目が覚めたんですか?よかったです。
体のほうは異常ありませんからもうベッドから出ても大丈夫ですよ。それと、セラフに入られたときに預からせていただいた記憶(メモリー)は返却させていただきましたので、ご安心を。聖杯を求める魔術師は門をくぐる時に記憶を消され、一生徒として日常を送ります。そんな仮初の日常から自我を呼び起こし、自分を取り戻した者のみがマスターとして本戦に参加する―――
以上が予選のルールでした。貴方も名前と過去を取り戻しましたので、確認をしておいてくださいね。」


……名前と、記憶を取り戻す……?
それはおかしい。確かに名前ははっきりと口にできる。
しかし、記憶がまったく思い出せない。学園にいた頃は、みな普通の生徒だったと思い込まされていた、というのはわかった。しかし自分は、いまだ以前の記憶が思い出せない―――!


「え、記憶の返却に不備がある、ですか……?それは私には何とも。間桐桜(わたし)は運営用に作られたAIですので。」

抗議の声はあっさりと無視された。どうも、彼女は与えられた役割をこなすだけの仮想人格のようだ。


「あ、それからこれ、渡しておきますね。」

渡されたそれは、何かの携帯端末らしい。とりあえず連絡用の物みたいだが、別の用途もあるかもしれない。


「本戦の参加者は表示されるメッセージに注意するように、との事です。それと、言峰神父には会いましたか?本戦は厳しい戦いが続きますが、頑張ってくださいね。」



とりあえずは情報収集をすることにした。



屋上へ行くと、一人の少女がいた。壁や床やらをぺたぺたと触って何やら呟いている。あれは……直接の面識はないが、遠坂凛だろう。容姿端麗、成績優秀な学園のアイドル。噂でも聞いている。友人である間桐慎二からも随分と愚痴を吹き込まれた。ただ、そうした評判などは、あの平和な学校にいたころのもの。今は修正する必要がある。彼女の瞳に宿る強い意志の光は、偶像(アイドル)などという淡いイメージの存在ではありえない。彼女の纏う空気はここが戦場であることを如実に示している。実感はないがここにいるすべての人間は殺すか、殺されるかの関係なのだ。と、彼女がこちらに気付く。


「……あれ?ちょっと、そこのあなた。そう、あなたよ。……そういえば、キャラの方は、まだチェックしてなかったわよね。うん、ちょうどいいわ。ちょっとそこ動かないでね。」


不意に彼女の指先が頬に触れる。それは、彼女がまだ少女であることをはっきりと伝えてくる。


「へえ。温かいんだ。生意気にも。……あれ?おかしいわね、顔が赤くなってるような気がするけど……。」

少女の顔が間近に迫る。その距離に、心臓がどきりと鳴る。
無遠慮に肩やお腹を触る仕草は先ほどの眼差しの主と同一人物かを疑うほどに幼い。拒むこともできず、ただ呆然とその白い指先を眺めていた。


「………なるほどね。思ったより作りがいいなんて、感触までリアルだし。人間以上、褒めるべきかも。………ちょっと、なに笑ってんのよ。NPCだってデータを調べておいた方が、今後何かの役に……」


彼女は顔をしかめ、誰もいない後方を振り返った。おそらくは彼女のサーヴァントがそこにいるのだろう。


「……え?彼もマスター?ウソ……だ、だってマスターならもっと…………ちょ、ちょっと待って、それじゃ、今調査で体をべたべた触ってた私って一体―――」


つい先ほどの行動をおもいだしたのか、顔を真っ赤にしてしまった。こちらもあらためて顔が熱くなる。


「くっ、なんて恥ずかしい……。うるさい、私だって失敗ぐらいするって―の!痴女とか言うなっ!」


後半のセリフは彼女のサーヴァントが茶々でも入れたのだろう。


「職業病みたいなものよ。これだけキャラの作り(モデル)が精密な仮想世界もないんだから、調べなくて何がハッカーだっての。大体、そっちも紛らわしいんじゃない?マスターなのにそこらのモブと同程度の影の薄さってどうなのよ。今だってぼんやりした顔して。まさかまだ予選の学生気分で、記憶が戻ってないとか言うんじゃないでしょうね?」


……返答に困る。彼女は冗談で言ったのだろうが、それは紛れもない事実だったのだから。当事者の自分も途方に暮れてしまうほどの。


「え……ウソ。本当に記憶が戻ってないの?それ、かなりまずいわよ。聖杯戦争のシステム上、ここから出られるのは、最後まで勝ち残ったマスターのみ。途中退出は許されていないわ。記憶が戻ってなくても、今までの戦闘経験(バトルログ)がなくても、ホームに戻ることはできないわよ?……あ。でも別に関係ないか。聖杯戦争の勝者は一人きり。あなたは結局、どこかで脱落するんだから。」


彼女の心配そうな声が、急に醒めた。目の前にいるのは、聖杯を奪い合う敵。その事実を思い出したかのように。―――いや、目の前の一人だけではない。この聖杯戦争に来ているものはすべてが敵なのだ。


「彼女のいう言は至極まっとうでござる。戦う意味を持たぬことは命の取り合いにおいては致命的でござるからな。」


自分は、敵に挑発され、サーヴァントに諭されても黙っていることしかできなかった。
勝ち残れない、と。その宣言は誰より自分自身が感じていることだからだ。


「ま、ご愁傷様とだけ言っておくわ。今回のおぺは、破壊専門のクラッキングじゃなく、侵入、共有のためのハッキングだったし。一時的にセラフが防壁を落としたといっても、あっちの事情はわたしたちには知れないしね。あなた、本戦に来る時に魂のはしっこでもぶつけたんじゃない?ロストしたのか、リード不能になってるだけか、後で調べてみたら?ま、どっちにしても、あなたは戦う姿勢が取れてないようだけど。覇気というか緊張感というか……全体的に現実感がないのよ。記憶のあるなし、関係なくね。まだ夢でも見てる気分なら改めなさい。そんな足腰定まらない状態で勝てるほど、甘い戦いじゃないわよ。」


自分は記憶喪失……ということだろうか。自分は何者で、どんな経歴を持っていたのか。いや、そもそもなぜ聖杯戦争なんてものに参加したのか。今確かなことは自分はサーヴァントを従えた魔術師(マスター)という事だけだった。


教室に戻る。すると周りは対戦相手がどうのこうのという会話をしていた。まずはそのことについて近くの女子生徒に聞いてみた。


「対戦相手が決まると、いよいよ本戦って感じね。……え、まだ対戦者決まってないの?管理者の言峰神父を探してみたらどう?ほかにもいろいろと教えてくれるだろうし。」


まずはその言峰神父を探すことにした。


彼は一階の廊下にいた。話しかけることにする。


「本戦出場おめでとう。これより君は、正式に聖杯戦争の参加者となる。私は言峰。この聖杯戦争の監督役のNPCだ。君たち魔術師には、この先のアリーナという戦場で戦ってもらう。この戦いはトーナメント形式で行われる。一回戦から七回戦まで勝ち進み、最後に残ったマスターに聖杯が与えられる。つまり、128人のマスターたちが毎週殺し合いを続け、最後の一人となったマスターが聖杯を手にする。シンプルで、どんな愚鈍な頭でも理解可能なシステムだ。戦いは、一回戦毎に七日間。各マスターたちには一日目から六日目までに、相手と戦う準備をする猶予期間(モラトリアム)が与えられる。君はこれから、六日間の猶予期間(モラトリアム)で、相手を殺す算段をすればいい。そして最終日の七日目に相手マスターと戦い、勝者は次の戦いへ、敗者にはご退場いただく、という具合だ。何か聞きたいことがあれば答えよう。ルールを聞く権利は等しく与えられているからな。」


とりあえず、一番気になったのは猶予期間、というものについてだ。


「敵も同様に、君を殺す算段を立てている。猶予期間は等しく与えられている。準備の手段などはわたしに聞くな。好きにすればいい。」


ならば、先ほど渡された端末。これについて聞くとしよう。


「その端末は、聖杯システムからのシステムメッセージを受けるものだ。メッセージは注意深く見ておくといいだろう。」


大体は理解した。では対戦者のことを聞こう。


「何?対戦者が決まっていないだと?ふむ………少々待ちたまえ。―――どうやらシステムにエラーがあったようだ。君の対戦相手については明日までに手配しよう。そして、最後にもう一つ。本戦では、マスター一人一人に個室が与えられる。これを受け取りたまえ。」


そう言って何かのコードを渡される。


「個室の入り口は2-Bだ。この認証コードを端末に入力(インストール)してかざしてみるといい。………さて、これ以上長話をしていても仕方がない。アリーナの扉を開けておいた。今日のところは、アリーナの空気に慣れておきたまえ。アリーナの入り口は一階奥の扉だ。では、健闘を祈る。」


さて、まずは個室の確認をしよう。
2-Bに移動し、端末をかざす。すると呪言のような、機械音のような奇妙な音がし、扉が開いた。


そこで、剣心はどこから持ってきたのか四畳半ほどの畳と座布団を用意し、そこに座った。


「お主もどうでござるか?」


………お邪魔します。


「拙者と話をするときはここに来るとしよう。主よ。」


とりあえず、個室ができたことで安堵する。
さあ、アリーナへ行こう。


扉の前で、剣心が話しかけてきた。


「主よ。アリーナに入ってしまえば、日が高いうちにここに戻ってはこれぬ。やるべきことはすべてこなしてからアリーナへと向かうのだぞ。」


わかった。さあ、行こう。


アリーナの一階層へと入る。


「このアリーナでは自由に戦闘をすることができるでござる。セラフの敵性プログラム(エネミー)がいるが、まあ問題はないでござるよ。では、実戦訓練をするでござる。」


この日はアリーナの半分ほどを探索し、帰還することにする。………それにしても、圧倒的な実力で敵を倒していく剣心。………いったいどの英霊なのだろうか、とても気になった。


夜になり、自室へと戻る。すると剣心が話しておきたいことがある、と言ってきた。


「これはおぬしも知っておくべきこと。先ほどの訓練で分かったのでござるが、拙者は本来の力が出せていないでござる。マスターが未熟ゆえ霊格が再現しきれぬのであろう。しかし、本来の実力すべてを出さずとも、本当に強力な敵でないならば問題はないでござるよ。共に戦えば、そのうちに本来の実力が戻ることもあるでござるよ。明日からも訓練を怠らぬようにすれば、の話ではあるでござるが。」


まだまだ先は長い。とりあえず休もう。 
 

 
後書き
とりあえず、一日目完成です。
 
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