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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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低速の世界


現在、ワース樹海ではグレイとリオン、ティアの3人が六魔将軍(オラシオンセイス)の1人であるレーサーと対峙している。
魔導二輪を用いたルール無用のレースになったり渾身の魔法を放つも避けられたりと何とも言えない実力差が露わになっていく中、リオンが『奴の弱点を見つけた』と言い出した。

「ん?」

レーサーが訝しげに前に立つ3人を見る。
リオンはごにょごにょと耳打ちを続け、グレイとティアは耳を傾ける。

「何だと!?」
「はぁっ!?」
「そういう事だ」

耳打ちされた内容に目を見開いて驚愕する2人にリオンは薄く微笑み―――

「お前達は必要ない!」
『!』

左腕を肘で曲げたまま上げた。
その瞬間、2人の足元から氷が噴き出し、どんどん高さを伸ばしていく。

「!」
「リオン様!」

まさかの行動に敵のレーサーだけでなく、味方のシェリーも驚愕を隠せない。
確かにこの3人の仲は連合軍の中でも目立って悪い・・・というより、妖精メンバー2人がリオンと仲が悪いのだが、ここまでとは。
というより、戦闘中に突如仲間割れするとは。

「リオン!てめ・・・」
「ちょっと・・・!」

突然の事に対処しきれない2人はどんどん氷と共に昇っていき、最終的には樹海の木々を遥かに超える高さの氷の柱が2本現れた。
その1番上にはグレイとティアが入っている。

「そこで見ていろ」

目線1つ上げず、リオンは言い放つ。

「仲間割れだと?」
「勘違いしないでほしいな、こいつ等とは仲間ではない。たまたま同じ師の下にいた・・・そしてたまたま幼馴染だった、それだけだ」

口角が上がる。
上から「幼馴染なんて私は絶対認めないわ!絶対にね!」と喚く声がするが、無視された。

「しかしリオン様・・・」
「つべこべ言うなっ!今回の手柄は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)が頂く。行くぞシェリー」
「は・・・はいっ!」

相手の強さを知って尚の行動としては、態々自分の不利にするだけだ。
シェリーが木の影から姿を現すが、リオンに言われ戸惑いながらも頷く。

「やれやれ」

レーサーが溜息をついた。

「そういう思い上がりが勝機を逃すのだ!まあ・・・元々テメェ等に勝機なんぞねぇがなっ!」

距離は一瞬にして詰められる。
それを見たシェリーは構えた。

木人形(ウッドドール)!」

刹那、背後の木が動く。
目に鼻に口がついた木がシェリーが手を動かすと同時に動き、レーサーへと攻撃する。

「遅いわ!」
「あッ!」

しかし、レーサーのスピードには遠く及ばない。
木の間を抜けてシェリーに攻撃を決め、シェリーは自分の操る木に背中を打ちつけた。
バコォ、と音を立てて木が折れる。

「こっちだ!」

すると、リオンが駆け出した。
樹海の奥へと向かっていく。

「遅い遅い!」

それを持ち前のスピードでレーサーは追いかけていく。
それを見たリオンは造形魔法の構えを取った。

「貴様の弱点はその攻撃力の無さ。どんなにスピードがあろうが決め手に欠ける」

そして構えから両腕を胸の前でクロスさせるような体勢になる。

「アイスメイク、針鼠(ヘッジホッグ)!」
「何!?」

その背中に氷で造られた針のように尖ったモノが纏われる。
思わずレーサーは動きを止めた。

「どうした?自慢のスピードでここまで来てみろ」

挑発の言葉を口にしながら更に走る。
相手に対して自分は常に背中を向けている。そのガラ空きの背中に攻撃されればダメージを喰らう。
ならばと氷の針を纏った。
これなら後ろからレーサーのスピードで来ても、串刺しとまではいかないがダメージを負う。

「・・・甘いなァ」

―――――――ハズだった。

「!」

弾丸のようなスピードでレーサーが飛び出して来た。
その勢いは止まらないまま、リオンに突っ込んで行ってその腹に拳を決める。

「ぐはァ!」

パキィンと音を立て、氷の針が砕け散る。

「格下相手に最初から本気でやると思ったか?」

リオンはそのまま地面を転がる。
が、すぐに小さく地を蹴って立ち上がり走り出した。

「どこへ行く気だ!」
「ぐはっ!」

その後ろ姿をレーサーは追い、その背中に蹴りを決める。

「リオン様・・・」

先ほど攻撃を喰らい倒れるシェリーが小さく呟いた。
蹴りを喰らったリオンは1度地面に倒れるも、やはりすぐに起きあがって走り出す。
それをレーサーは追いかける。

「おいおい、最初の威勢はどうしたァ」
「がっ!ぎいっ!」

追撃を続けるレーサーの攻撃は止まらない。
左拳が決まり、避ける間もなく右拳が炸裂する。

「ど・・・どこまで行くんですの・・・!?」

そう呟くシェリーの目には遠くで一方的に殴られ攻撃を受けながらも先へと進んでいくリオンの姿が映っていた。

「くっ!あ!」

見えないほどの速さで攻撃が加えられる。

「ぐああああっ!」

そして目に見えないスピードの攻撃がリオンの腕や腹に切り傷を作り、そこから血が噴き出した。
力尽きたリオンは近くの木の根っこに首から上辺りを打ちつける。

「がは!」

その口から血が飛び――――

「!」

気づけばレーサーが目の前にいた。
リオンに乗っているような状態で、その喉元にナイフを突きつけている。

「テメェはオレに決め手に欠けると言ったな。だがそんなものは小型のナイフが1本あればいい。オレのスピードがあれば、テメェが何かの魔法を使うより先にその喉をかっ切れる」

ナイフの切っ先とリオンの喉の距離は短い。
今誰かがレーサーを背後から押せばぐさりと突き刺さるだろう。

「若ぇうちは増長するのも悪くねぇが相手がよくなかった。オレは六魔将軍(オラシオンセイス)だ」

目に血が入るのか、リオンは右眼を閉じて息を切らす。

「六つの魔、六つの祈り(オラシオン)。決して崩れねぇ六つの柱だ。その柱を揺らす者には、死あるのみ」

ぐい、とナイフが近づく。
その距離はもうゼロに近い。

「やは・・・り・・・」

――――――しかし、リオンの表情から笑みは消えない。

「?」
「遠くの鳥が物凄い速さで飛んでいるのを見て・・・貴様の魔法の正体が・・・わかった気がした」
「!?」

リオンの言葉にレーサーが反応する。
レーサーが自分を追いかける、それは全て『計算のうち』。

「貴様の魔法は自分自身の速度を上げる魔法じゃない。相手の・・・いや、正確には一定範囲内の体感速度を下げる魔法」

レーサーの頬を冷や汗が流れる。
追い打ちをかけるかのように、リオンは口角を上げたまま言い放つ。

「つまりはオレが遅くされていただけ。そしてこの魔法が一定範囲にしか効果がない以上、その範囲外から貴様を見た時」

その瞬間―――――――



「貴様のスピードは奪われる」



――――――氷が割れる音が響いた。
遠く、樹海の木々を超える大きさの氷の柱の1番上。
そこに―――――氷の弓矢を構えたグレイと、水の大砲を構えたティアはいた。

「な・・・こ、この為に奴等からオレを遠ざけて・・・」
「なるほど。よーく見えるぜ」
「見えすぎて怖いくらいにね」

一定範囲内の体感速度を下げる魔法。
その外からなら、レーサーは速く動いているように見えない。
だから、狙える。

「しかしあれほどの距離!当たるハズがない!」

距離はある。
だからレーサーは当たらないと言い張った。

「当てる」

が、リオンはそれをハッキリと否定する。
かつて戦った事のある奴だからだろうか・・・解るのだろう。

「何かを成し得ようと・・・」

遠くで氷の弓の弦が引かれる。
水の大砲の口に青い光が集まる。

「強い想いを持っている時の妖精の尻尾(フェアリーテイル)は・・・」

レーサーの表情が驚愕に染まっていく。
そして――――――



「最強なんだ」



リオンが言い放った、瞬間。


「スーパーフリーズ―――――――アロー!!!!」
「アクエリアス――――――キャノン!!!!」


氷の矢と、水の砲撃が同時に放たれる。

(オレの祈り・・・それは・・・誰よりも速く・・・)

幼き頃から祈ってきた、たった1つの祈り。
迫り来る攻撃を前に、レーサーはそれを思い出し――――

「ぐあぁぁああああああああああっ!」

そこに氷と水の攻撃が炸裂し、レーサーは大きく吹き飛ばされ・・・そのまま倒れたのだった。










「やったな、リオン」
「こんなのがまだ5人もいるのか・・・」
「こりゃ連合軍が早々に全滅する訳だわ」
「もォ・・・本当に仲間割れしたかと思いましたわ」

グレイとティア、倒れていたシェリーはリオンの下に集っていた。
魔力の使い過ぎからかグレイは時折よろける。

「さすがオレの兄弟子だ」
「・・・ま、今だけは幼馴染だと認めてやってもいいわ」
「フン」

グレイとリオンは笑みを浮かべながら小さく溜息をつき、ティアは視線を逸らして耳に髪をかける。

「立てるか」
「バカにするな」
「ほら、さっさとなさい」

こうして何とか六魔将軍(オラシオンセイス)の1人、レーサーを倒す事に成功した―――

「まだだーーーーーーーー!」

――――――と、終われない。
倒したはずのレーサーが、全身傷だらけで口から血を吐きながら起き上がったのだ。

六魔将軍(オラシオンセイス)の名にかけて!ただの敗北は許されねぇ!」

狂ったように叫びながら、レーサーは上着のジッパーを開ける。
そこには、掌に乗りそうな大きさの四角い容器が沢山装備されていた。

「爆弾の魔水晶(ラクリマ)!?まさか・・・」

シェリーが目を見開く。
レーサーが向かう先にいるのは―――――――

「しまっ・・・」

魔力の消費のせいでガクッと倒れ込みかけた、グレイ。

「危ないっ!」
「ティア!?」

叫ぶように一言言い放ち、ティアは一瞬グレイとレーサーを交互に目で追うと、グレイの前に立ち塞がった。

「一人一殺!」

割れたサングラスのフレームから覗く見開かれた目が真っ直ぐにグレイの前に立つティアを見つめ、その表情が狂ったような笑みへと変わる。
ティアが覚悟を決めた、その時―――――――――



ドン、と。



何かを突き飛ばすような音がした。



「!」

ティアの青い目が見開かれる。






レーサーは、後ろへと押し飛ばされていった。





ルーのように誰かが風を操った訳ではない。





誰かがレーサーを押したのだ。







―――――――リオンが、押し飛ばしたのだ。







「リオン!」
「リオン様!」

その行動を見たグレイとシェリーの驚愕の声が響く。

「・・・リオン?」

レーサーを押す際に後ろに引かれたのか。
ふわりと小さく足を浮かせすぐさま地につけたティアは、呆然とその名を呟いた。






崖から落ちていく中、リオンは呟く。
薄く笑みを浮かべて。

「全く、世話のかかる幼馴染と(おと)――――――――」











ドゴォォォォォオオオオオオン!!!!












その瞬間、爆発音が響いた。











「くっ」

六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点。
そこでは、ブレインが何やら苦痛で額に手をやり、呟いた。

「レーサーが・・・死んだ・・・六魔の一角が崩れたというのか・・・」

そう呟くのブレインの顔の模様。
それが1本、フッと消える。

「おお・・・私は敵を侮っていた・・・」

ガン、とブレインが近くの台を叩く。
音を立て、杯と乗っていた骸骨が落ちた。

「こいつを起こすハメになるとは・・・ミッドナイト!」

未だに眠るミッドナイト。
しかし、ブレインの声でその眠りは覚める。
ぱち、とミッドナイトの目が開かれた。

「奴等を1人残らず消せ!」

ブレインの叫びに似た命令に、ミッドナイトは立ち上がり、口を開いた。

「はい、父上」












爆発音が響いていた。
下は煙で見えない。それでもあの魔水晶(ラクリマ)は凄まじい威力だった。

「リオーーーーーーーーーン!」

目に涙を浮かべたグレイが叫ぶ。

「・・・ぁ」

ティアの表情がゆっくりと恐怖に染まっていく。
あのスパイラルが再び脳裏に流れ、そして―――――――

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

ティアの絶叫が、樹海に響き渡った。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
実は・・・私、漫画のこの話で泣いた。
マジですよ。私アイスメイク好きだしリオンもグレイも好きなんです。特にリオン。
で、だからこの話はその2人の共闘で楽しく読んでて。
そしたら・・・うわーん!
生きてるって解ってても、やっぱ1度は泣く。とりあえず泣く。

そしてティアは死に対して絶叫する、と。
うん、リオンじゃなくても絶叫したねこの人は。

感想・批評、お待ちしてます。 
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