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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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番外中編
  蒼空のキセキ

 
前書き
 SAO編の、とある一場面……EP4と5の間くらいかな、を描いた番外の中編となります。
 彼女の謎に包まれた脳内をとくとご覧あれ。 

 

 美しい青空。
 薄ガラス一枚隔てただけのそれは手を伸ばせば届きそうだった。

 どこまでも澄んでいて、どこまでも広がって。
 どこにでもつながって、どこへでも行ける。

 そんなことを感じさせる、輝くように眩しい空と、それに浮かぶ……

 「―――さん。窓の外に、何か見えるのですか?」

 見惚れていたせいで、まったく呼びかけに気が付かなかった。

 「牡丹さん。……すみません、聞いてなくって」
 「いえ、構いません。随分と楽しそうでしたので、僭越ながらお声をかけさせて頂きました」
 「あ……笑って、ましたか……? 私……」
 「ええ。宜しければ、理由を聞いても?」

 なぜかは分からないけどいつも私の病室を訪れて、とってもよくしてくれる和服の女性……牡丹さんが言った。その恭しい、けれども親しみを感じられる声が、私の心の中に眠る夢を、思い起こさせる。心地よく、きらきらした、そんな夢。

 そう、それは……

 「……はい。……あの雲、階段みたいで、ずっと上まで登れそう、って」

 くっきりと魂に刻まれた、空色の少女の姿を映す夢。





 「っやっ!!!」

 肺の中の空気全部ぶちまけるくらいの気合を込めて、両手の剣を振り下ろす。きらきらと陽光を反射する両刃の大剣は、その重さを生かして大柄な相手をナナメに両断する。直立歩行するクマに革製のヨロイを着せたような、ダークくま吉くんとでも言うべき相手は、実にモンスターらしい悲鳴をあげて仰け反る。残りHPはおよそ3割……もらった! 

 「もらったあっ!」

 思考をそのまま声に出して、振り下ろした剣を脇に構える。
 夕方に相応しい炎のような赤色を纏っていた大剣は、一転して青い光を放ち始める。

 両手剣単発ソードスキル、『ラインディア』。

 「悪のくまさんめっ! その首もらったあっ!!!」
 「グルアアァッ!!!」
 「おい馬鹿っ!」

 後ろから聞こえた声と、びっくりベアくんの叫びはほとんど同時だった。

 しまった。思ったより大剣の強攻撃の威力が足りんかった。
 私の予想より短い硬直を終えたクマ太郎は、スキルを放つ前の隙に両手を大きく振り上げる。

 (……あ、やばっ……)

 タラリ、と汗がこぼれる。
 あの構えは、どう見ても両手での二連撃。対するこっちはソードスキルとはいえ、単発。

 2引く1は、1なのである。

 「うにょえええ!!?」

 しかし止めるわけにはいかない。止めれば2引く1が1なのと同じように、2引くゼロが2になるだけである。さっきのばっちり決まった掛け声とは正反対の、自分でもよく分からない声を上げたまま私の腕が、システムアシストに従って振り抜かれる。

 相手の爪と、私の大剣のぶつかり合う衝撃。
 そして訪れる、体を襲う衝撃に備えて、

 「ぱーたれがっ!」

 真横からの衝撃が、私の体を横っ飛びに吹き飛ばした。





 「油断いち。ソラ、てめーの剣は?」
 「はいっ! 二か月前にクエストで獲得したやつっ!」

 ソラ、と私を呼ぶ彼は、ひどく眉根にしわがよっていた。もー、イケメンがだいなしだ。眠たげな眼をもうちょっとぱっちりさせて、ぼさぼさの黒髪をきちっとして、不健康丸出しな顔色をお化粧かなんかでごまかして、顔のパーツを少しばっかし修正したらなかなかイケメンだと思えるのだが、彼はなかなかにそれをさせてくれない。

 「強化は?」
 「あんまりしてないっ! シドが素材とってきてくれて以来だよっ!」

 彼の名は、シド。私の所属する……というか、リーダーを務めるギルド、『冒険合奏団(クエスト・シンフォニア)』のメンバー。ちなみに私の中では諜報部隊のトップであり、特別作戦顧問であり、特攻部隊副隊長だ。あ、特攻隊長は私ね。

 そんなことを考えていると、彼の額の青筋がぴくっと動いた。

 「足りるわけねーだろうが! 最前線から二層しかちがわねーんだぞ! 二か月前の装備がそのままで使えるか!? そもそも今日は両手槍つかうって言ってたろーが!」
 「いやいや、あの剣もなかなかの業物だったじゃんっ? いけるかなーっ、いけるんじゃないかなーっ、て思ったらっ!」
 「思ったら?」
 「試してみたくなっちゃってっ! てへっ……あ、いったぁっ!」

 ぺしり、と頭をはたかれた。

 《圏内保護コード》の発動しない絶妙な強さでの一発は、それでもそれなりにはイタイ。まあイタイで済む程度であるが、それでもはたかれたボケ側としては痛がるのはツッコミに対する礼儀であり、万国共通の不文律なのでそれに従う。

 「うー……でも、私無傷だったしっ。一発くらい喰らっても平気だよっ? ブラックマさんの攻撃ならノックバックもないくらいだよっ?」
 「その油断がダメだっつってんだ」
 「シドが喰らうより全然ダメージ少ないよっ?」
 「っ、それは言うなっ!」

 ちょっとばかしの反撃を加えたら、思った以上の効果だった。あの時に彼が私に使ったのは、《体術》のソードスキルである《ムーンサルト・フライ》。相手を蹴って宙返りをするというなかなかにカッコイイスキルなのだが、《体術》に加えて《軽業》技能も必要であり、一朝一夕では身につけられるものではない。残念だ……ではなくて、あのスキルの利点は攻撃した相手から距離がとれる……すなわちカウンターを受けにくくする効果があり、応用すればあのときのように「最低限のダメージで味方を弾き飛ばしてピンチを救う」ということができる。

 ……のだが、あの場面でそれが必要だったのかは、疑問である。

 まず第一に、私ダメージ受けてる。
 次に、もしうまく着地できなきゃシドがダメージを(私よりはるかに大きい)受ける。

 もいっこ。

 「レミっちとファーたんの支援、ほっぽり出したよねっ?」
 「……まあ、そうだが……」

 お? これは勝てる感じか?
 のりのりで追撃を仕掛けてみる。

 「むむ? どうかな? シド。これはもしかしてっ、私のほうに勝利の女神の微笑む展開かなっ!? どうっ!? レミっち、ファーたん!」
 「いや、オイラはシドさんが正しいと思うッス。こっちにいたハチの群れは大概片付いてたし、オイラ一人でも十分抑えられたッス。あの後はレミさんのソードスキル二発で片付いたッスよ」
 「……どう、考えても、……ソラが心配」
 「にゅうおぉ!? こ、このタイミングで手のひら返しとなっ!?」
 「いや、別に元から味方してねーだろ、この場合」
 「むむむぅ、シメンソカとはこのことかっ!」

 ……追撃はミスだったようだ。
 むぅ。みんなギルマスに厳しいぞ。

 私の呼びかけに応えた二人もまた、ギルドの仲間だ。大柄で「~ッス!」という元気のいい声を上げる男の子が、ファー。小さくて無口系美少女のほうが、レミ。ちなみに私的には二人の階級は前線維持部隊キャプテンと広報火力支援部隊エースだ。

 レミ、ファー、シド、そして私、ソラ。
 この四人が、ギルド、《冒険合奏団》のメンバー。

 私の、心から愛する、仲間たち。

 「むーっ、みんながいじるよぉーっ、レミっちー」
 「……よーしよし、……シドは、過保護だからねー……」
 「そうだーっ、シドは過保護だーっ、子どもの成長を妨げるぞーっ」

 レミに抱きついて、オーバー気味に声をあげる。
 意外とノリのいいレミは、これにいつだって乗ってくれる。

 本当に、身内びいきは承知だけど、それでも最高のギルドだと思う。
 こんな他愛のない小芝居のやり取りさえ、愛おしいほどに。

 まあ、強いて言えば、あえて挙げるなら。

 「ま、小芝居は置いといて、だ。そろそろ両手剣も替え時だろうな。ちょうどいいクエストの順番待ちが空いてるのをアルゴに聞いた。層は……四十九層だ。一応今のレベルでも大丈夫なのは確認して……っていうか俺は一回行ったことあるクエだ」
 「あ、これは完全スルーなんスね」
 「えーっ、シドもそこは乗ってよーっ。「ばっ、なななな何言ってんだよっ! そ、そんな心配なんてしてねーし!」って言ってあわてるとこだよーっ!」
 「……まだまだ、ノリが、甘い……」

 この小芝居に、シドがあんまり乗ってくれないことくらいか。
 言い換えればこの気持ちに、シドがあんまり応えてくれないってことなのです。





 四十九層の辺境の村『スカイネスト』。

 その構造上おおよそが円形をしている各層では、その端が見えるほどの位置に村があるのは珍しい。この『スカイネスト』は、そんな珍しい村の一つであり、もちろんいくつものクエストで今なお中層フロアの面々で賑わう地だ。

 今回のクエスト、《大空の主》は、そんなクエストたちの中でも頭一つ抜きん出た難易度をもったクエストだ。ダンジョンのシステム上ワンパーティー……すなわち6人での攻略となるダンジョンだが、最後のボス戦に関しては出来るだけ少人数は望ましいと言う、少数精鋭の求められる場所。

 このクエスト、検討すればかなり《冒険合奏団》向きの案件だ。

 まず、敵は鳥の化け物だ。加えて今回はボスの性質上、仕留めるには遠距離攻撃が必須となる。その点に対して《冒険合奏団》には4人中2人がそれを持ち合わせて……しかも、例外的にそれなりの威力のある飛び道具を所持している。本来長引きがちなボス戦を、かなり短縮させられるだろう。

 次に、レベル。今回の敵はどちらかというと求められるパーティーの防御力……すなわち壁戦士の力量は比較的低めであり、逆にその飛行性能ゆえに攻撃は的確かつ強力なものが必要となるボスだ。《冒険合奏団》はメンバー間でレベル差のあるギルドであり、壁戦士であるファーのレベルは低めとなっている。だが、このクエストではそれはさほど問題とならないということだ。

 そして最後に、高レベルの二人がかなり軽装備であることも、求められる作戦にとても有用だ。


 そのことを素早く見抜いたシドはすぐさまアルゴに連絡を取り、このクエストを待っている『攻略組』の順を調べていた。今回はようやく順番待ちの列が途切れ、彼らにクエストが回ってきたということだ。

 ボス敵、《Elder Fly Vega》。
 ドロップ品は『旋風の大剣』なる、『攻略組』でも使われる名剣だった。


 ああ、一つ忘れていた。

 ソラという少女の用いる武器は非常に多彩だが、こと遠距離における最強手段は《投擲》に分類される武器の一つである『投擲槍(ピラム)』だ。スピードや持ち運びやすさ、そして使いきりにするにはもったいないほどの価格であるという点では難があるものの、一発の威力に関してはダガーナイフやピックとは比較にならない威力を発揮する。

 その『投擲槍』ために、とある一人の少女が泣きを見たことを、ここに記しておこう。

 
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