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八条学園怪異譚

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第五十五話 百鬼夜行その十四

「あそこが空井戸ですね」
「そうよ、あの井戸がね」
 空井戸だとだ、茉莉也はそのまま答えた。
「泉かも知れない場所よ」
「じゃあ今から行って来ますね」
「中に入りますね」
「ただね。空井戸だからね」
 茉莉也は二人に今度は空井戸であること、そのこと自体のことを話した。
「そのままじゃ入られないわよ」
「そうでしたね、じゃあ」
「命綱をつけて」
「ええ、これね」
 茉莉也は早速登山に使うロープを出してきた。身体につけてそのうえで使うものだ。
「これを付けてね」
「空井戸の中にですね」
「行けばいいんですね」
「ええ、そうしてね」
 こう二人に話す。
「今からね」
「わかりました、それじゃあ」
「そのロープ使わせてもらいます」
 二人は茉莉也からそのロープを受け取って自分達の身体に付けた。そのうえで空井戸のところに行く。すると一つ目入道が二人に言って来た。
「わしがロープを持っておくぞ」
「何処かに引っ掛けようと思ってたけれど」
「一つ目入道さんが持ってくれてるの?」
「わしならその辺りの木に引っ掛けるよりずっと確かじゃろう」
 三メートルを超える巨体での言葉だ。服は僧侶の服である。
「そうじゃな」
「そうね、一つ目入道さんならね」
 茉莉也も一つ目入道の横で言う。
「力も強いしね」
「娘さん達なら十人でも大丈夫だ」
 持っていられるというのだ、そして。
 その胴体、人間のものとは比べものにならないまでにがっしりとしたそれにロープの一方を巻いてから二人にあらためて言った。
「こうすればな」
「これで大丈夫よ」
 茉莉也はまた二人に話す。
「さあ、空井戸の中に入って来てね」
「わかりました」
「ちょっと行ってきます」
「今日は飲むの?」
 茉莉也は二人に今度はこのことを尋ねてきた。
「どうするの?」
「お酒ですか」
「それですか」
「そう、どうするの?あんた達前は飲まなかったけれど」
「ううん、そうですね」
「そのことは」
「飲むのならね」
 それならとだ、茉莉也は寺の隅にどんどん置かれていく酒樽を指差して話した。
「一杯あるわよ」
「多いですね」
「今回も多いですね」
「そうでしょ、お酒もあるからね」
「飲むのならですか」
「あのお酒を」
「飲んでいいから」
 それこそ好きなだけだというのだ。
「私も飲むからね」
「さて、楽しみだな」
 一つ目入道も酒樽の山を見ながら楽しげに述べる。
「娘さん達が泉かどうか確かめに行って戻ってからな」
「盛大に飲みましょうね」
 茉莉也は一つ目入道の言葉にも笑顔で応える。 
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