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八条学園怪異譚

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第五十五話 百鬼夜行その十

「じゃあいいわね」
「はい、わかりました」
「離れないでいきます」
 二人もこう茉莉也に答える。
「それじゃあ今から」
「夜のピクニックですね」
「食べる?」
 茉莉也は巫女の上着から何かを出してきた、それは茶色い饅頭だった。それを一個ずつ出してきて二人に言うのだ。
「お饅頭よ」
「あっ、黒糖饅頭ですね」
「それ美味しいんですね」
「百鬼夜行は食べながら行くものよ」
 だからいいというのだ、食べながら歩いても。
「じゃあいいわね」
「有り難うございます」
 二人は茉莉也に礼を言ってからその饅頭を受け取った、そうして。
 その饅頭を食べながらだ、こう言うのだった。
「あっ、美味しいですね」
「このお饅頭いい味ですね」
「これ何処のお饅頭ですか?」
「随分美味しいですけれど」
「それね、大阪のなのよ」
 茉莉也は二人に答えた。
「大阪の此花のお店のお饅頭なの」
「此花、此花区ですか」
「そこのお店のですか」
「そうよ、神社に出入りしているおじさんのお兄さんのお店なの」
 そうした縁で貰ったものだというのだ。
「これが結構美味しくてね」
「それで私達にもですか」
「くれるんですか」
「そうよ、美味しいものは皆で食べるとさらに美味しいからね」
 茉莉也は二人が食べるのを見ながら話す。
「だからあんた達にもね」
「有り難うございます、それじゃあ」
「今度は私達もですね」
 恩には恩で、二人は茉莉也にこの考えから返した。
「お店に来た時はサービスしますね」
「パン一個上乗せしますね」
「トンカツ一枚多くしておきますから」
「楽しみにしておいて下さい」
「それじゃあお願いね、とにかくね」
 茉莉也もその黒糖饅頭を食べている、そのうえで二人にこうも話した。一行は夜の学園の中を練り歩いている。まさにパレードというよりはピクニックといった感じのどかな歩みである。
「この百鬼夜行だけれど」
「ただ学園の中を歩いているだけですよね」
「そのお外を」
 二人はそのピクニックの様なのどかな歩みの中で茉莉也に返した。
「これって」
「特に怖くないですし」
「むしろ楽しい感じですよ」
「皆で楽しくお喋りして食べてですから」
「そうよ、これが百鬼夜行よ」
 茉莉也は饅頭を食べ続けながら二人にこうも話した。
「少なくともうちの学園のはね」
「こうしてですか」
「仲良く歩いていくものなんですね」
「京都にあった話だと違うみたいだけれどね」
 ここで古都の名前が出る、歴史が古く長い間政治や宗教の主な舞台であっただけに妖怪や怨恨の話が多い街だ。
「怨霊とか邪なあやかしの百鬼夜行があって」
「あわわの辻ですか?」
 聖花は京都の話を聞いて茉莉也にこの辻の名前を出した。
「あそこですか?」
「そうそう、そこよ」
 まさにそこだとだ、茉莉也も答える。
「そこに出たのよ」
「確か藤原氏に恨みを持つ怨霊達が集まって」
「蘇我入鹿とか長屋王とかね」
 歴史上の人物の名前も出る。
「藤原氏との権力争いに敗れた人達の怨霊が大勢で練り歩いていたのよ」
「それが歴史書に出てたんですよね」
「鏡のあれね」
 大鏡等だ、水増大今で覚える。
「あれのどれか一つにその話があったわね」
「そうでしたね」
 聖花はここで鏡のどれに出ていたか思い出そうとするが思い出せなかった、茉莉也も同じで愛実に至ってはこう言う始末だった。
「鏡って?」
「だから大鏡とかよ」
「ああ、古典の授業の」
「そう、習ったわよね」
「ええ、今思い出したわ」
 こう聖花に返すのだった。
「そういえばあったわね」
「古典にはこうしたお話も多いのよ」
 茉莉也がここで愛実に話した。 
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