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SAO ~冷厳なる槍使い~

作者:禍原
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SAO編
序章  はじまりの街にて
  Ex1.残された者

 
前書き
二木くん視点です。 

 
 ――うがあああ! マジでついてねえええ!

 何でこんなときに限って、滅多にしない呼び出しなんてしやがるんだあのセンコーめ!
 俺は、未だ白紙だった進路希望調査票に、適当に近くの高校の名前を三つ書いて家を飛び出そうとした。

「ちょっと健太! 制服に着替えてから行きなさい! 制服にっ!」

 あああ、もおおお、急いでいるんだっつーの!
 だが、言うこと聞かないとナーヴギア取り上げとか普通にするお袋なので、仕方なく俺は制服に着替えて家を出た。
 駅に走りながらケータイで電車の時刻表を確認する。

 ――げ!? 微妙に乗り換えの待ち時間が多い!

 だが電車以外、バスなどで行っては金が余分にかかる。
 中学生の数少ない小遣いで買った《SAO》で、自身の財布はかなり寂しいことになっている。
 仕方なく俺は、自分の最高速度――といっても100メートル22秒――で出来るだけ駅に急いだ。








「――失礼しますっ!」

 想定時間より二十分ほど遅れて、ようやく学校に着いた俺は、担任の吉田先生がいるだろう職員室に入った。
 職員室では、数人の先生が休日出勤をしていた。いや、ホントご苦労様ですね。
 俺はさっそく吉田先生に進路希望調査票を渡して、すぐに帰ろうとした。

 だがしかぁし――

「――まあ、ちょっと待て」

 加齢臭漂う三十路越えの中年男が帰ろうとする俺を止めた。
 あ、ウソです。ウソ! 華麗臭を纏ったダンディなオジ様でございますっ!
 そんなオジ様 (吉田先生)に、俺は一時間も拘束された。
 月曜日に使うプリントを一学年分各教室に持って行けと……クソッ、俺は肉体労働系じゃないんだっつの!

 そんなこんなで先生の手伝いが終わり、やっと開放されたころには、すでに午後三時半を回っていた。

 ――早く帰らないと!

 俺は、すでに息切れしている体に鞭打って、家路を急いだ。









 駅前に着いたとき、俺はふと違和感を感じた。

 ――ん、何だ?

 そう思って回りを見渡すと、駅前にいる人たちが足を止めて、ある一点を見つめていることに気付く。
 俺は、皆が見ている方を見た。
 それは駅前デパートの壁面にある大きなディスプレイだった。
 だが、問題はそのディスプレイに流れていた内容だった。
 ディスプレイの中では、数人の男女が話し合っていた。

『――それで、茅場晶彦氏はどうしてこのようなことをしたのでしょう?』
『分かりません。しかし、これは大変なことになりましたよ』
『未だ、VRMMORPG《ソードアート・オンライン》の仮想空間に捕らえられた約一万人の救出の目処は……立っていないそうです』

 ――は? 捕らえられた……?

 何を言っているんだ? この連中は。
 ソードアート・オンラインってのは、あの《ソードアート・オンライン》のことか? 
 今東雲(しののめ)がログインしてて、俺がこれからログインする……あの《SAO》なのか?

『茅場氏、いやすでに茅場容疑者ですね。彼の言う通り、親族友人の方が《SAO》にログインした者のナーヴギアを外したり、その電源を切って停止させてしまった件がすでに二百名に届こうとしているらしいです』
『……これを聴いている皆さんは、どうかくれぐれもお気を付け下さい。自分達で無理になんとかしようとは思わないで下さい』

 ――なんだ? 何を言っているんだ、こいつらは……。

『本当に気を付けて下さい。これは――』

 その部分だけ、俺にはすごくゆっくりに聞こえた。

『――現在、《SAO》にログインしている方の《いのち》に関わりますので――』

 俺は、自分で考えるよりも先に走っていた。

 ――いのち? 命ってなんだ? 命に関わるって……なんなんだよっ!?











「ゼハッ、ゼヒッ、ゼハッ……」

 ガンッ!という音を響かせながら俺は乱暴に玄関を開けて、そのまま走るように二階にある自分の部屋に向かった。
 そして、勢いよく部屋に飛び込む。

「しのの――」

 突如、俺の目の前が暗闇に覆われた。
 そして、俺は誰かに抱きしめられていることに気付く。

「な、お袋!? 何してんだ! いや、それより東雲がっ!?」

 お袋は俺を押さえつけるように抱きしめ、じっとしている。そして数秒後、お袋がゆっくりと口を開いた。

「落ち着きなさい。……あんた今、彼に何をしようとしたの?」
「な、何って……」

 そんなのは決まっている。東雲を早く《SAO》からログアウトさせて…………あ。

「あんたは今、どこまで彼の状況を知っているの?」

 お袋は俺を抱きしめたまま、優しい口調でそう言った。

 ――俺が、今知ってるのは……。

「か、茅場晶彦が何かをして、《SAO》にログインしてるヤツが、ログアウト出来ないって……。ナーヴギアを外したり、電源を切ったりすると……い、《いのち》に関わるって……」

 そうだ。俺が聞いたのはこれだけだ。しかしこれだけでも凄く嫌な予感がどんどん湧いてくる。
 その予感を肯定するようにお袋は言った。

「……そうね。お母さんもね、さっきTVで見て知ったの。その茅場晶彦って人の声が流れてたわ。今、東雲くんがかぶっているナーヴギアを外したり、電源を切ったりすると、ナーヴギアから発する高出力マイクロウェーブで、脳が焼ききられてしまうって」
「~~~~っ!?]

 その事実に、声にならない叫びを上げる俺。
 そんな俺にお袋は続ける。

「実際にそれをして……その、亡くなった方がいるらしいの。だから、私たちは冷静に、冷静に対処しなくてはいけないの。……東雲くんのためにも。……解るわね?」

 お袋は、俺の体を離して俺の目を見ながら言った。

「今からお母さんは、病院と東雲くんのご実家に連絡をしてくるわ。……いいわね。くれぐれも冷静に、ね」

 俺の両肩を軽く叩いて、お袋は俺の部屋を出て行った。
 俺は軽く放心しながら、東雲が寝ている布団に近寄った。
 流線型のナーヴギアを装着した友人は、普通に寝ているように見える。

 不意に、俺の右手が東雲の頭の方に動く。
 俺の脳裏に、外しても問題ないんじゃないか、という言葉が浮かんだ。

「――ッ」

 だが、俺は右手を押しとどめた。
 出来ない。出来るわけがない。

「……ぅ、うそ……だろ。……なんで、こんな……」

 俺は、嬉しかったんだ。
 自分がゲームが好きで、人付き合いが苦手だということで、オタクと呼ばれ、ずっと虐められてて……。
 あのとき、東雲と初めて視線が合ったとき。東雲は俺をいじめから助けてくれた。
 その後、俺が東雲に近づいたのは、いじめっ子たちの報復を恐れたからだ。
 驚異的な身体能力を持つ東雲のそばにいれば、あいつらが報復する可能性も少ないと、そんな打算があった。
 でも、実際話してみてると、東雲はその斬れる様な雰囲気とは違って、意外と世間知らずで、ちょっとしたことでも感心していて……つまり、俺は東雲と話すのが、楽しかったんだ。
 今までは、良かれと思ってしたこと、言ったことが全部裏目になって、ネトゲ仲間や学校のゲーム仲間ともすぐに疎遠になっていった。

 だけど、東雲だけは違った。
 ちゃんと俺の話を聞いてくれて、俺の愚痴も聴いてくれて、そして俺にも自分の愚痴を言ってくれた。
 正直、ここまでちゃんと話が続く奴は初めてだった。
 でもそんな東雲は、家が武術の道場をしているらしく、遊ぶ暇もないくらい稽古に明け暮れているという。
 俺は東雲にゲームの面白さを知って欲しかった。……いや違うな。俺が、一緒に遊べる相手が欲しかったんだ。
 ゲームは一人でも出来る。でも仲間でする楽しさを知ってしまったら、一人でするゲームは空しいことこの上ない。

 だから、俺はずっと東雲をゲームに誘ってきた。断られると知ってはいても。
 でもあの日、ついに東雲が一緒に遊べると言ってくれた。
 東雲のじーさんが亡くなったっていうのは悲しかったけど、でも俺は不謹慎だとは思ったが東雲とようやく一緒に遊べることの嬉しさのほうが勝っていた。それが申し訳なくもあったけど。
 東雲とSAOのことを話すのは楽しかった。あいつはゲームや機械のことは全然知らなかったから教えることがいっぱいあったけど、それすらも俺は頼られてる感じがして嬉しかった。

「……なのに……なのにっ……!」

 なんでだ。なんで俺はいつもこうなるんだ。俺が仲良くしようとした人は、みんな俺から離れていく。
 終いには、東雲も……。

「……俺が悪いのか! 俺がっ! 東雲を誘ったから! 俺が東雲に近づいたからこうなったっていうのかっ!?」

 つい、カッとなってすぐそばの本棚の淵に拳をぶつけてしまった。

「あ!?」

 本棚から落ちた漫画が、東雲の顔に当たりそうになった。俺は急いで東雲に覆いかぶさるようにして、背中で落ちてきた漫画を受ける。

「……うっ、うぅ、……っ」

 別に漫画が当たったから呻いたわけじゃない。

 惨めだった。泣くしか出来ない自分が、相当に惨めだった。

「っ……ゴメン。東雲……ゴメンよ……」

 零れた雫で東雲の顔のそばに染みを作りながら俺は、悔しさに震えることしか出来なかった。 
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