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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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02 「友達」

 5月も終わり6月を迎えた。ジュエルシード事件が終わって間もないというのに、ずいぶんと前に感じてしまうのは、学校生活に変化が起きたからかもしれない。高町は、現状で悩みの種と言ってもいい。
 まあ悩みだと思う一方で、自分を変えようと思ってる俺にとっては、話しかけてくれることは嬉しくもあるのだが。ただ、ひとりで読書をしたい気分の日もあるのも事実。高町が話しかけてくると、必然のようにバニングスや月村も会話に参加してくるため、読書できる雰囲気はなくなる。
 そういえば、高町が話しかけてくるようになってから月村が話しかけてくる回数も多くなった気がする。常に一緒にいるイメージだから、そのように思ってしまうのかもしれないが。

「……余計なことは考えないようにするか」

 目の前にはとある一軒家がある。この家の特徴を挙げるとすれば、バリアフリーの造りになっていることだろう。こう言えるのは今までに何度もここを訪れているからだ。
 インターホンを押してしばらくすると、元気な声と共にドアが開いた。中から現れたのは、車椅子に乗った茶髪の少女。
 少女の名前は八神はやて。柔らかな関西弁を使う俺が現状で唯一認めている友達だ。はやては俺の姿を見ると、にっこりと笑みを浮かべる。

「誰かと思ったらショウくんか。よう来てくれたなぁ」
「ああ……最近あんまり来れなくて悪い」
「確かに来てへんかったけど、何か用事があったんやろ。謝る必要はないよ」

 笑いながらそう言ってくれるはやてを見ると、申し訳なさが溢れてきた。はやては俺と同じように両親を亡くしている。亡くした時期もほぼ同じだろう。
 親戚が遺産の管理などはしてくれているらしいが、はやてはこの家にひとりで住んでいる。俺も似たような生活を送っているが、それでも家族との時間はある。学校にも行っていない彼女は、俺よりも格段に寂しい思いをしていることだろう。
 それなのに、彼女はにこりと笑う。明るい性格をしていることも理由だろうが、本当の気持ちを隠すときも笑うのだ。全てのことをひとりでやらなければならない環境が、他人に甘えてはいけないということに繋がったのだろう。

「ごめんな……」
「だから謝らんでええって。そんな謝られたら、寂しがりみたいやんか。わたし、ショウくんよりもお姉さんやで」
「数ヶ月先に生まれただけでお姉さんぶられてもなぁ」
「その差が大きいんよ。女の子は早熟やから……ここで立ち話もなんやし、中に行こうか」

 くるりと回って家のなかに入っていくはやて。あとについて中に入ると、「ごめんけど鍵掛けといて」という言葉がすかさず飛んできた。うちの叔母よりもしっかりしている彼女は、お姉さんというよりはお母さんのほうがしっくりくる気がする。
 リビングにあるソファーに座って話そうということになり、俺は持っていた荷物を置いてはやてに近づく。最初の頃は戸惑いもしたが、今でははやての移動に手を貸すのも慣れたものだ。

「ありがとう」
「これくらい別にいいさ」

 俺が返事を返すと、はやては自分の隣をポンポンと叩いた。隣に座ってということらしい。断る理由もないため、荷物を手に取って彼女の隣に座った。

「さっきから気になっとったんやけど、それ何?」

 分かっているのに聞いていそうだなと思いつつも、中身を取り出すことにした。
 まだ少し早いのだが、俺が持ってきた荷物ははやてへのプレゼントだ。ほら、と言って渡すと、すぐに彼女はそれを広げた。

「おっ、洋服やん。しかもフードにはたぬきさんの耳が付いとる。ショウくん、ええ趣味しとるなぁ」
「お姉さんぶった割には、子供っぽいので喜ぶんだな」
「わたし子供やもん」
「調子の良いやつ」
「そう褒めんといて」
「褒めてない……まったく」

 はやての言動には呆れるが、喜んでくれているようなので安心した。洋服を眺める彼女をよそに、俺はもうひとつのプレゼントを取り出す。

「あとこれ」
「開けてええ?」
「ああ」

 返事をすると、はやては綺麗に洋服をたたんで傍に置き、テーブルに置かれた白い箱を開けた。中身は俺が作ったはやて用の誕生日ケーキ。祝いの言葉ももちろん書いてあり、食べるのがはやてひとりなので小さめに作ってある。

「去年よりも上手くなっとる……何やろ、この妙な悔しさ。何ていうか、女の子として負けた感じ?」
「そんなの俺に聞くな。それにいいよ、食べないなら持って帰るから」
「あはは、冗談や。ちゃんと全部食べるから、いじわる言わんといて」
「別にいじわる……」

 途中で止まってしまったのは、はやてが抱きついてきたからだ。突然だったことや体格がほとんど変わらないこともあって押し倒されそうになったため、俺は反射的に倒れそうになる身体を腕で支えた。

「ありがとな……ほんまありがとう……」

 お礼を言う彼女の声は少し震えていた。抱き締めているのは、俺に顔を見られないようにするためのようだ。
 悲しくて泣いているわけじゃない相手に泣くなとは言えない。しばらくこのままでいようと思うが、何か言ってあげるべきなのではないかとも思う。こういうときは何を言えばいいのだろう……。

「……いつも今くらい素直になればいいのに」
「そんなん……できるわけないやろ。分かってるくせに……」
「分かってるけどさ……俺くらいには素直に何でも言ってくれてもいいんじゃないか? ふたりのときとかは、別に気持ちを隠す必要はないだろ?」
「そうやけど…………多分無理や。もう癖になっとるもん」
「それも……そうだな」

 長年の習慣を一気に変えることはできないものだ。いきなり実戦しろというのも無理な話か。ただ、だからといってそのままでいいというわけにもいかないだろう。

「でも、変える努力は必要だろ。本心を言わないといけないときってのは、この先必ずあるだろうから。俺からでもいいから練習しないと」
「それはそうやけど……ショウくん相手に練習する意味ってないやろ。わたしが隠したって、ショウくんは察してまうんやから」
「きちんと分かるわけじゃないさ……」

 俺が分かるのは、はやてと似たような痛みを感じたことがあるから。だけどこの先、俺や彼女は様々な出会いや経験をして変わっていく。
 今は親しい仲だけど、全く話さないようになることだってあるかもしれない。母さんと同じ道を歩むことを選んだのならこの世界にいることを選ぶだろうけど、父さんがやろうとしていたことを継いだならば、あちらの世界を拠点にしたほうがいいのだから。

「完璧に分かったら逆に怖いし、あんまり察しが良すぎるのはモテへんらしいよ」
「……話の方向性が変わってないか? というか、泣き止んだのなら離れてくれ。さすがに腕がきつくなってきた」
「別に泣いてないし、わたしはそんなに重くないやろ」

 少し膨れながら言うはやての目には赤みがあった。でも泣いていないと言っているのだから追求するような真似はしない。今日は彼女に喜んでもらうために来たのだから、機嫌を損ねるようなことをするつもりはない。

「だったらお前にもやってやろうか」
「そんなんされたら、わたし潰れてまうやん」
「お前と俺の体格は同じくらいなんだから、お前が重くないってなら俺も重くないはずだろ。それにさっき女の方が早熟だって言ってたよな? なら力もお前の方があるんじゃないか?」
「なあ、わたしをいじめて楽しい?」
「いや、いじめてるのはお前のほうだから」

 俺が言い終わるとはやての中で何かしらが満足したのか、彼女はあっさりと離れた。彼女のこういう部分は、関西方面で育った影響が出ているのだろうか……いや、深くは考えないでおこう。
 はやてはくるりと一度振り返り、綺麗にたたんでいた洋服を手に取った。それを開きながら、再度こちらを見る。

「なあなあ、話は変わるんやけどこれ似合うかな?」
「さあ?」
「あんな、即答はまだええとしてさあ? ってのはおかしいやろ。これ、ショウくんが持ってきたプレゼントやで。わたしに似合うと思って選んでくれたんやないの?」
「……似合うというよりはお前が好きそうだな、くらいしか思ってないな」
「何やろ……自分のこと考えてくれてるけどくれてない感じがして、あんま喜べん」
「そんなことより、ケーキ食べないなら冷蔵庫に入れておきたいんだが?」

 そんなことという言い方が気に入らなかったのか、はやてはほんの少し頬を膨らませながら「食べる」と返事を返してきた。
 俺は返事を返すと、フォークを取りに行く。どこに何があるか分かっており、のんびりとできるこの家は第2の家と呼べるかもしれない。フォークを1本取って戻ると、はやてがさっそく着てフードを被っていた。彼女の性格を考えた俺は、あえて何も言わないでフォークを差し出した。

「ここはツッコむところやで」
「いや、お前の立場だと感想を言えってのが正しいから」
「そうやな」

 にこりと笑みを浮かべてフォークを受け取り、ケーキを一口サイズに切って口に運ぶはやて。味わうように口を動かした後、彼女はフォークを置いてこちらに向いた。

「ショウくん」
「何だよ?」
「わたしのお嫁さんになってくれへん?」

 真顔でバカなことを言う彼女の額を、俺は無言のまま指で叩いた。
 俺は大して力は入れていなかったのだが、はやてはオーバーな痛がり方をする。そんな彼女に呆れながら、問いに対する返事を返すことにした。

「バカ、俺は男だ。嫁になれるわけないだろ」
「軽い冗談やんか。ショウくん、可愛い顔してるんに真面目過ぎんで」
「俺に対して可愛いって表現を使うのは大人かお前くらいだ。そもそも可愛い顔と真面目が何で結びつくんだよ。意味が分からん」
「そりゃ適当に言うとるし」

 はやては再びケーキを食べ始める。
 こいつを見てると、悩みなんかなさそうに見えるよな。だからほとんどの人間が明るい子としか思わないんだろうけど。同性の友達でも出来れば、こいつも色々と溜めずに話すことができるんだろうが……こいつと趣味の合いそうな人物に心当たりはある。
 だが……会わせていいものだろうか。あの子にはすでに親しい友達が2人いる。たまに図書館で見かけるため、常にあのふたりと一緒というわけではないだろうが……あの子がはやてと親しくなろうとすると、また彼女達の仲に亀裂が生じるのでは。

「……ん?」

 自分で思っている以上に考え込んでしまっていたのか、はやてに服を引っ張られた。顔を向けて返事を返そうとした矢先、口の中に何かを入れられた。
 突然のことで思考が止まったが、甘さと感じた瞬間に口の中に入れられたのがケーキだということを理解した。

「美味しいやろ?」
「まあ……って、俺が作ったのなんだから味は知ってる。それと、いきなりやるなよ。危ないだろ」
「ごめんな~。でもわたし、あんまりショウくんが難しい顔しとるの好かんねん」
「……悪かった」
「謝らんでええよ。わたしも悪いことしたしな……そういやわたしら、間接キスしたんやな」
「……そうだな」
「あはは、どうでもいいって感じの返事やな。まあこんなことで恥ずかしがったりする間柄でもないやろうけど。あっ、でもショウくんはもっと感情を表に出した方が可愛げあるよ」
「別に人から可愛いって思われなくていいよ」
「ほんま可愛げないな。ま、そういうショウくんがわたしは好きなんやけど」

 好きという言葉によって、胸の中に温かな感情が芽生えた。きっと俺は、嬉しく思っているのだろう。
 だからこそ思う。幸せそうにケーキを食べている彼女が俺は好きなんだと。そして、彼女の笑顔を守りたいと。


 
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