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路地裏の魔法少年

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プロローグその1:デバイスは小包で届けられました

 
前書き
気まぐれ不定期更新、稚拙な文章、グダグダ展開、その他色々注意です 

 

 「君達は一体何者なんだ!?」

 俺達の前でそうのたまったのは黄色っぽい色をした胴の長いケダモノだった。
 曰くフェレットというイタチ科の動物らしいが、そんな事はどうだっていい。
 問題なのはそいつが流暢な日本語で話してきやがる所にある。

 「は?」
 「んん?」

 俺と友人は二人してなにが起こっているのか分からなくなっていた。
 だってそうだろう、動物は本来喋らない。
 フィクションならばいざ知らず、リアルな世界で動物に喋られたら誰だって思考が停止する筈だ。
 頭がお花畑でも無い限り。

 「なぁ、コイツいま喋った?」
 夢かと思った俺はとりあえず隣に居る友人に確認してみる事にする。

 「・・・あぁ多分、もの凄く流暢に」
 暫しの間を置いて友人は答えた。
 何だ良かった、おかしいのは俺だけじゃ無いみたいだ…。

 「イタチって喋ったっけ?」
 「知らん、でも化かすって聞くぞ?」
 「確かに昔話とかで聞くよな」
 「あスマン、イタチじゃなくてカワウソだった」
 「似てるから良いんじゃね?」

 「僕はイタチじゃない!!」
 俺と友人が顔を合わせて交互にそう言っていると、イタチという言葉に何故か反応した『黄色いイタチっぽい動物』が突然キレ出した。
 アレだ、猫型ロボットをタヌキ呼ばわりした時の反応みたいだな、と俺は思った。
 「コホン……僕の事は今はどうでも良いんだ、それよりも君達が一体何者なのか教えてくれないかな?」

 いや、俺達よりもアンタの方が色々とおかしいからね、喋るイタチっぽい動物なんてシートン先生もムツゴロウさんもビックリだよ?

 という突っ込みは心の中に留めておいて、俺達はとりあえず自己紹介を含めて事の顛末を『イエローなイタチっぽいアニマル』に説明する事にした。



 ~回想始め


 海鳴市立第2小学校に通う一般的な日本男児である俺、名前『日野槍一(ひの・そういち)』は、解体業者に努める『泰三(たいぞう)』を親父に持ち、聖祥大学の大学院で考古学を研究し、現在地球上のどっかに居る15歳も離れた『剣一(けんいち)』を兄に持つ小学3年生の9歳児である。

 そんな俺にある日、地球のどっかで穴を掘ってる兄貴こと日野剣一から小包が届けられた。
 伝票が見た事も無い文字で書かれている。
 この文字どの文字気になる文字見た事も無い文字ですから見た事も無いヤツが住んでるんでしょう……。

 ――で。

 幅20、高さ10の奥行15センチくらいの箱は軽く振ってみるとカラカラ音が鳴っており、俺はすぐさまこれは食い物とかじゃ無く、いつもの『兄貴の心遣い』である事が直感で分かった。

 『兄貴の心遣い』というのは、変な物を発掘しては教授達の目を盗み、お土産として俺に送りつけるというもので、色々と突っ込みどころ満載の兄貴にして、最も迷惑な行為であった。
 実際兄貴のおかげで、ただでさえクソ狭い俺と親父が暮らす家(築50年、木造モルタル2階建てボロアパート)が得体の知れないグッズに埋め尽くされ、魔窟と化している。

 今回もどうせそんな部屋を圧迫する例のブツだろうなと、俺はそう思って小包を開けると、どうやら今回ばかりは天が俺に味方してくれたようで箱の中には親の仇のようにミッチリ詰め込まれた緩衝材に埋もれて二つのキーホルダーみたいな物が入っていた。

 一つは、交差する馬上槍と盾が象られたエンブレムのようなキーホルダーで、くすんだ鉄の色がなかなか良い味を出している。
 もう一つは、弓に無数の矢が掛けられているエンブレムで、こっちの方も中々渋い濃緑色で鈍く光っていた。
 兄貴にしては割ともまともなお土産に、その時俺は少し驚いていた。
 子供の土産にしてはド地味だが、今まで送ってきた物に碌な物が無いのはいつもの事でありそのギャップが凄まじい。

 ちなみに、送ってきた物で最も碌でも無かったのは、インカ帝国の隣にあったとされるチャッカ公国の貴族が使っていたタン壺(兄貴の手紙より抜粋)である。
 俺がそういうのを知らんのもあるが、それにしたってどうだろう、全く価値が見いだせない。


 まぁ、それはおいといて。


 小包の中にはキーホルダーと一緒に一枚の絵ハガキが入っていた。
 多分現地の写真だと思うんだけれど、アホっぽくピースサインをしている24歳のバックに月っぽいのが2個あるように見えるのは多分気のせいだろう。
 そんなネタ写真ぽい絵ハガキの裏にはミミズが這ったような下ッ手くそな字で短くこう書かれていた。

 ――槍一へ。
 前と『けー坊』にこれをやるから、絶対に無くすなよ。

 もしヤバい事があったらこれを使えば何とかなる
 ……と、思うよ。


 全く意味が分からない。
 つーか、良い歳こいて俺より字が下ッ手くそなのってどうなんだと俺は思った。
 まぁ、日本よりも海外に居る時間の方が長いから日本語忘れてんのかも知れないが…。
 でも、最後の「……と、思うよ」ってのがイラっとすんな畜生。

 兎も角、俺の他に『けー坊』にも渡せというのが少し気になる。

 『けー坊』というのは、俺の幼馴染にして唯一無二の友人である『五十鈴啓太(いすず・けいた)』の愛称で、親父と兄貴は啓太の事をこう呼んでいる。
 その度に啓太はズリ落ちた黒縁の眼鏡をブリッジの所で持ち上げて「その呼び方、何とかなりませんかね」と抗議を示すのであるが、他人の子供をイジるのが大好きなあの二人がそんな事を聞くつもりなど毛頭無いので半ば諦めているのが現状である。

 啓太のそんな受難の日々に関する話は置いといて、何故兄貴は啓太にもこれを渡せと書いたのかは不明であるが、そうなった以上渡さない訳にはいかない訳で、暇だった俺はそのままお土産を渡しに啓太の家まで向かう事にした。


 でもって、だいたい5分後。


 俺は啓太の住む家の前にチャリを停めると、鍵をかけてインターホンのスイッチを押した。
 啓太の住む家は、瓦屋根のザ・和風な造りでもうすぐ築100年を迎えるそうだ。
 前に地方の新聞で啓太の家の事が紹介された時は盛大に歯磨き粉を吹き出した記憶がある。
 どうでも良い話だが。

 「あーい」
 スイッチを押した俺が暫く待っていると、インターホン越しに聞こえたのは啓太の声だった。

 「啓太か?オレオレ、俺だ」
 「……どちらさん?」
 「槍一」
 「合言葉を言え」
 「マジで?」
 「マジで、合言葉…………見る?」
 「増すカラス」
 「・・・よし、入れ」
 ブツっとマイクの音が切れると門のロックが解除され、俺は屋敷の中へ入れるようになった。
 ちなみに合言葉なんてものは最初から存在していない事に感づいている方も居るだろう。
 基本的に全部ノリでやっただけの話である。

 「ヘイ、らっしゃい」
 寿司屋の板長のようにそう言って玄関に現れたのは俺の友人である啓太である。
 ザ・日本人のコイツは、烏のように真っ黒な短髪にプラスチックフレームの黒縁眼鏡をかけた少々冷徹なインテリ系に見える反面、中身は俺以上のアホである。
 まぁ、勉強の成績は学年トップで『聖祥大付属小学校』の連中とタメを張るどころか余裕でブッチ切る部分は確かにインテリなんだろうが、いかんせんコイツの思考回路もある意味いろんなものを余裕でブッチ切っており、勉強よりもしょうもない事に情熱を注ぐ変人なのだ。
 具体的に例を上げるなら、コイツは教室で皆が飲まなかった牛乳パックをかき集め、後に『五十鈴君大リバース事件』と語られるようになった牛乳早飲み対決を実施した張本人であったり、鼻の孔二つにピアニカのホースを差し込んで其々二つのパートを演奏しようとし、酸欠で倒れたり、国語の授業で詩を書けと言われ、アン○ニオ猪木が朗読した「道」を丸パクリし、それに気づかなかった担任をベタ褒めさせたりと碌な事をしない。
 なのに勉強だけは学年どころか海鳴市、下手をすれば県のトップなんだから、世界はこうじゃなかった事ばっかりだ。

 「今日は何にするんだい?」
 「適当に握ってくれ」
 板長モードの啓太に俺がそう答えると、ヤツはいきなり俺の顔面に手を伸ばしてきた。
 開いた五指がミシミシと音を立て俺の顔に食い込んでいる。
 所謂アイアンクローというヤツだ。
 「誰が俺の顔を握れっつった?」
 「適当にっつたじゃん」
 嗚呼今日も今日でコイツはいつもの通りだ。

 ムカついた俺はとりあえずコイツにパロスペシャルを喰らわしてやる事にした。
 無論ウォー○マンスマイルで、ベアクローで無かっただけありがたいと思え。


 でもって、更にだいたい5分後。


 「粗茶ですが」
 そう言って大人しくなった啓太が午後ティーを入れたグラスを持って来た。
 茶には変わらんがどうなんだだろうと思いながらも、喉が渇いていた俺は受け取った午後ティーを一気に流し込む。
 あれからなし崩し的に行われたレスリング勝負によってボロボロになった身体に流れ込む冷たいレモンティーが心地よい。
 「あ゛~~生き返る」
 と親父くさい事をぬかしながらグラスをテーブルに置く啓太。
 疲れてる所悪いが、8割方おまえのせいだかんな。

 そうこうして、ようやく俺は件の兄貴土産を啓太に渡す事が出来るようになった。
 毎度の事ではあるが、コイツと一緒にいると本来すべき事を忘却の彼方へとスっ飛ばしてしまう事が多いから怖い。

 「兄貴から土産が届いてよぉ」
 「うぇ、剣さんから?」
 俺がそう切り出すと、啓太は露骨に嫌そうな顔をする。
 気持ちは分かるが、実弟の前でその反応はやめれや…。
 「あぁ兄貴から、でも今回は割とまともな物だ」
 「まぁじでぇ?ナンカヤナ族のコテカとかだったら泣くぞ俺」
 即興で変な民族をでっち上げる辺り、なかなかやるなと俺は思った。
 あと、コテカが何なのか分からない御方はこの小説の閲覧に使われている端末で別途ご検索下さい。
 「大丈夫だ、マジでまともなモンだから、つーかまとも過ぎてキモいって思うくらいだ」
 訝しむ啓太を説得しつつ、俺はコイツに『弓と無数の矢を模った濃緑色のキーホルダー』を渡した。

 それを受け取った啓太は、まずそれをまじまじと眺めてから俺にこう言った。

 「おい、お前の兄ちゃん大丈夫なのか?落盤事故で頭打ったりとかしたんじゃ無いか、大丈夫かマジ、明日大雪とか槍とかで無く地球に直径100キロの隕石が降るとか嫌だかんな?」
 「あー、俺それもそう思ったが、とりあえず表に出ろ貴様」


 第2ラウンドのゴングが鳴った。


 と、いう訳で俺達はその日、兄貴から送られた『兄貴にしては』まとも過ぎるお土産のキーホルダーを其々手に入れたのだが、それがまさか『あんな事』になるとは。
 人生何があるか分からんと言うが、それにしたってこりゃ有り得んわ……。


 それから更に数日後。
 放課後、余りにも暇過ぎた俺達はランドセルを各々の家にぶん投げると、そのままチャリを漕いで公園まで向かおうとしていた。

 特に目的がある訳じゃ無いが、家でゲームをするのも何だか飽きたし「たまには外で遊んでもいいんじゃね?」的なノリでとりあえず。
 まぁ、公園に行ってする事無けりゃ、近くの模型屋でも寄ればいいやと思っていたし、とりあえず家に居るよりかは幾分かマシだろうと俺達は行く当ても無く適当にチャリを転がしていた訳である。


 でだ。

 そんな感じで適当の権化と化していた俺達の前に、突然何かが降って来た訳である。

 降って来た、というか跳んできたと言った方が正しいだろうか。
 ソイツは熊よりもデッカイ、体長3メートル以上はある真っ黒い犬っぽい何かだった。
 分かりやすく言うと、もの○け姫に出て来る山犬(CV三輪さんの方)を墨汁の入ったプールにぶっ込んだみたいな感じ。
 便宜上以降その黒い犬っぽい何かを『ブラック・モロ』と呼ぶ事にする。

 ブラック・モロはその見た感じ凶暴そうな外観をしていたが、見たまんまだった。
 ポカンとなってる俺達を睨んでグルルと呻っていたと思ったら、突然俺達に襲い掛かって来た。

 貴重な少年時代を怠惰に過ごそうとしていた俺達に対する天罰だったとしたら、そりゃ余りにもエグいなぁと思った。
 これに襲われたら冗談抜きに、死ぬって。

 「「ぎゃああああああ!!!」」

 と俺達は叫んで一目散に逃げ出す。
 それ以外に何が有る?3メートルの巨大犬に喧嘩売れってか?馬鹿言っちゃいかんよあーた!

 「何だアレ何だアレ何だアレ!!!???」
 俺は壊れたCDラジカセみたいに同じ言葉を繰り返しながら目一杯チャリを漕いだ。
 「知らん知らん知らん、知らんけどヤバいヤバいヤバい!!!」
 啓太も同じようにチャリを漕ぐ、つーか速えぇなおい、俺置いてかれそうなんだけど。

 そうして、俺達はブラック・モロからの逃走劇を始めた訳なのだが、この時俺達は辺りの様子が変わっている事に気がつかなかった。

 平日の昼間の住宅街。
 人の往来が少ないとは言え、ここはそれなりに人や車が往来する所である。
 だが、この時は買い物に出かける主婦や、道路で遊ぶ連中の姿も見えなきゃ、宅配業者の車や暇そうな兄ちゃんが弄繰り回したマイカーをブンブン言わせて走り回る光景も一切無い。
 まるで俺達だけが切り取られた世界の上にポツーンと取り残されたかのように、街の中は不気味なまでの静寂に包まれていたのである。

 それに気がついた時には既に俺達の足がヤバい状態で、太腿に乳酸ってやつが溜まってパンパンになっていた頃だった。
 時間にしておよそ10分くらい。
 網の目のように広がる住宅街の路地を東西南北ただひたすら逃げ回り、もはやここが何処なのかも分からない状態であった。
 というか、どこに逃げりゃ良いのか分からなかったと言った方が正しいだろう。

 「なして誰も居ないの!?」
 俺は涙目になりながら助けに来てくれるであろう大人達の姿を必死こいて探した。
 「だれかあぁぁぁー!誰か助けて下さいッ!!」
 大声を上げて助けを求める啓太、その台詞映画で聞いた事があるぁ、確か平井さんが主題歌の…。
 足とか精神とかがそろそろ限界に近付いていた俺は、そんな事を考えてこの現実から逃げでしてやろうかと思った。
 だって、こんな現実の方が現実じゃないじゃんか……。
 やたらデカいブラック・モロもそうだし、人が誰も居ないのもそうだし、おまけに袋小路にぶち当たるとか、どんだけ神様俺達の事嫌いなんですか!?

 完全に詰んだわこれ。

 俺達は周りを覆う冷たいブロック塀に阻まれ絶望した。
 後ろを振り向けば、ブラック・モロがのそりのそりと此方に近付く姿。
 そう言えば、N○Kのドキュメントで見た事あるけど犬とか狼とかってめちゃんこスタミナがあって20キロとか平気で走るそうだ。
 そんだけ獲物を走らせて、疲れさせて、逃げ場の無い所に追い込んでから止めを刺すとか、頭いいし何気にドSなんですね……。

 「「あわ・・・あわわわわわわわ」」

 マナーモードと化した俺と啓太は身を寄せ合ってガクブルと震えた。
 情けないとか言わんでくれよ、死が間近に迫っているのに余裕な奴は余程鈍い奴なのか、若しくは漫画の主人公みたいな奴だけだ。
 俺達は自慢じゃ無いが何処にでもいるごく普通の男の子だ、エスパーでもサイボーグでも超能力者でも、ましてや魔法使いでもない。
 あ、エスパーと超能力者って一緒か…。

 兎も角俺達は、普通だけが取り得の、特技も何にもない一般ピーポォの小学3年の男子なんです、食っても旨く無いんです、って言うか食ったら多分腹壊すってマジで!

 と、俺が心の中でそう懇願した所で目の前の異常な現実が変わるわけも無く、ブラック・モロはそのデッカイ口をガバーっと開いて涎を垂らしていらっしゃった。
 正に大チンピ、MAJIでKUWAれる5秒前、本当、誰でも良いからここに来て助けて…………。

 ブラック・モロは身体をバネのように縮めると、アホみたいにぶっとい足で地面を蹴ってビョンと飛び跳ねた。
 当然俺達に向かって。

 「「アッーーーーー!!!!」」

 スローモーションで再生されるみたいに、でっかくなっていくブラック・モロの姿。
 このシーンにサッチモの『この素晴らしき世界』とか再生させたら中々絵になる……訳ないな。

 襲い掛かるブラック・モロ、不条理で異常な現実。
 恐怖と絶望を前に俺達は目を瞑った。


 俺達は終わった。
 と、思ったその時だった……。


 ≪プゥロテクショォォオオン!!≫

 どこからともなくネットりとした癖のあるオッサンの声がしたかと思ったら、目の前にゲームや漫画で見たような銀色の魔法陣みたいな何かが出てきてブラック・モロを弾き飛ばした。

 「ーーーーぁぁぁあああ!!?」
 叫んでいた俺は、逆再生させたみたいに「あ」の抑揚を変化させて驚いた。
 ブラック・モロも充分異常だったが、魔法陣の方がもっと異常な出来事である事は9歳にもなりゃ嫌でも理解できる。
 実体を持つ「馬鹿でかい犬」と実体の無い「魔法」とを天秤にかけりゃどちらが常識的にあり得んかは一目瞭然だ。

 ≪大丈夫かぁ、ジャリどもぉ≫
 呆気にとられる俺達耳元に届くオッサンの声再び。

 俺達はその声の在り処を「何処だ何処だ」と首をキョロキョロさせて捜すが見当たらない。
 それもその筈、そのオッサンは俺のポッケの中に入っていたんだ。
 つっても小っさいオッサンが入って居た訳では無いのだが……。

 ≪ここだジャリども、おめーさん達のポッケの中だ≫
 物凄く癖のある声にまさかと思った俺達はポケットの中に手を突っ込んで弄ると、そこの出てきたのは例の『兄貴の土産』だった。
 キーホルダーだから文字通り家やチャリの鍵を取り付けてポッケの中に入れていたんだが、まさかソイツが喋るとは誰も思わんよな……。

 だがそのキーホルダー、正確には俺の持っている『馬上槍と盾をあしらった銀色のエンブレム』を目の前に持ち上げるとソイツは先ほどと全く同じ声でもって、俺達にこう言った。

 ≪まったくおめーさん達もついて無いなぁ、だけど安心しろ、私が目覚めたからにはもう安心だぜぶるぁあああ!!!!≫

 そんな若本っぽいヴォイスに、なんだか知らんがすっげー濃い奴だなぁと俺は思った。
 
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