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自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
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第八話

 ミッターマイヤー艦隊と後続の帝国艦隊との通信はルジアーナに攻撃を開始するで途絶えていた。後続の帝国艦隊とは、つまりグリルパルツァー・クナップシュタイン両艦隊である。各7,500隻づつ2路に別れ進軍している。彼らに与えられた情報は「ルジアーナとその僅かな駐留艦隊と交戦中」である。それ以降の通信は途絶えている。
 第二次ラグナロック作戦は帝国軍の勝利に終わる。帝国軍に所属するほぼすべての人間がそう考えていた。それは当たり前の判断だろう。
「自分達は敵の4倍以上の艦隊を保有し、フェザーン・イゼルローン両回廊を抑え、同盟領内の惑星ウルヴァシーに大規模な補給基地を持つ。それに比べて同盟軍はどうだ。戦艦と空母が欠けた艦隊に敗残兵と新兵の寄せ集めを押し込んでようやく軍を整えている始末ではないか。どこに我々が負ける要素があると言うのだ」
 そう豪語しているものもいた。ともかく帝国の兵士達は自分達が微塵も負けるなどと思っていない。

 帝国軍が勝つという認識は将官以上の階級を持つ者も同意見だった。グリルパルツァー大将・クナップシュタイン大将もその内である。
 ミッターマイヤー艦隊と通信が途絶したグリルパルツァー・クナップシュタイン両艦隊は通信を行っていた。
「ミッターマイヤー元帥との通信が切れたとはおそらく同盟軍の別働隊が何かしらの妨害を働いたからだ。クナップシュタインはどう思う?」
 先に通信を送ったのはグリルパルツァーの方だった。
「卿と同意見だ。予想以上に早く同盟軍は準備を整えていたらしい」
 この二人は帝国の時期双璧と歌われており、経験こそ少ないが20代そこらで大将の位を得ていることからも優秀であることが伺える。
「早急に本体がいるウルヴァシーへ通信を行ったほうがいいな」
 クナップシュタインがそう提案するとグリルパルツァーはそれを否定した。
「いや待て。まだ通信を送るな。実はな、一つ卿に提案があって通信を送ったのだ」
 クナップシュタインは訝しみながら先を促した。
「この戦役はわれわれの勝利で終わるだろう。そうしたら私達はどこで功績を立てるのだ?」
 クナップシュタインはグリルパルツァーの言わんとすることを理解した。
「しかしだな。我々が合流したところで勝てるのか?」
「同盟の艦隊はせいぜい2万5千隻がいいところだと卿も聞いたのだろう?先に交戦しているミッターマイヤー元帥の艦隊は2万隻、なかなか決着はつくまい。そこでわれわれの艦隊が合流すれば数の上で我々が有利になるはずだ」
 つまるところグリルパルツァーは数少ない功績を立てる機会をわざわざ他の提督に与えず自分とグリルパルツァーで山分けしようと言っているのだ。
 結局クナップシュタインはグリルパルツァーの提案を受けた。彼らは2路に別れルジアーナの同盟軍を挟み撃ちにする作戦を立て通信を切った。

 クナップシュタインの説得を終えたグリルパルツァーは満足げに通信を切った。
「艦隊速度最大までを上げろ」
「よろしいのですか?それでは先ほどの作戦より早くついてしまいますが…」
 クナップシュタインとグリルパルツァーの作戦を聞いていた参謀がそう質問した。
「かまわん、命令どおり艦隊速度をあげろ」
 グリルパルツァーとしてはミッターマイヤー艦隊への増援は自分だけでいいと思っていたのだ。それでも一応同僚への気遣いをしたつもりなのだ。それに自分より大きな功績を立てられたらそれはそれで嫌なものだ。

 この通信の後、急行したグリルパルツァー艦隊も6時間遅れで現れた艦隊も、既にミッターマイヤー艦隊を撃破した同盟軍により各個撃破され潰走することになる。
 グリルパルツァー・クナップシュタイン両艦隊を撃破した同盟軍は反転し今度は孤立したビッテンフェルト艦隊を撃破する。これは戦術的に特筆するものはない。あえて言うなら、補給も通信もままならないままで二倍以上の戦力に奇襲されては誰でも勝てるものではないということだ。




 自由惑星同盟政府は軍を編成し継続的な補給物資を整えた。そして彼らの仕事はそれで終わりではない。帝国で戦争を終わらせるのは皇帝でも同盟で戦争を終わらせられるのは軍ではなく政府なのだ。
「聞いての通りだがヤン提督は今のところ帝国軍に勝利している。さしたる被害なしでだ」
 同盟政府にはヤン艦隊がミッターマイヤー・リルパルツァー・クナップシュタインさらにビッテンフェルト艦隊を撃破したことを確認している。
「未だに帝国軍の規模は大きい。そしてそれに対するわが国の戦力は少ない。しかしそれを生かすためにわれわれにもっと出来ることがある」
 今同盟最高評議会で議題になっているのはある法律の制定についてだった。内容は大まかに言えば「敵対する勢力下にある政府はその効力を失う」と言う内容だ。何を意識しているのかは言うまでもない。第一次ラグナロック作戦はヤンがまさにラインハルトを倒しかけたところで政府が降伏したため、同盟の負けで終了した。そういうことが二度と起こらないように作られた法律だ。
 その法律には当然利点と欠点がある。利点としては同盟軍が政府を守ることを放棄することができ戦略上の選択肢が広がることである。
 欠点としては制度として悪用される可能性が高いこと。それと最悪の場合帝国軍がすべての有人惑星に攻撃を仕掛ける可能性があるということだ。
 結局この法律は細部を変更し3年限定で施行されることとなる。ただし同盟政府は同時にもう一つ宣言をした。「同盟政府は帝国に軍事的に対抗する手段を失った場合降伏を行う」と。 
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