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SAO ~キリトさん、えっちぃコトを考える~

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第一話

 
前書き
 このお話には、ちょいキャラ扱いにオリキャラが登場いたします。主人公は原作主人公であるキリトさんであり、オリキャラはその背景など知らなくても楽しめるように作っているつもりです。では、ちょっとしたバカ話、楽しんでいただければ幸いです。 

 
 神に誓って言う。俺には、やましい思いなんてひとかけらもなかった。
 ただただ、彼女からの純粋な願いに応えたかっただけなのだ。


 ―――鋼鉄の城、アインクラッド。

 完全なる3Dのバーチャルワールドを再現した『ナーヴギア』により生み出された、剣と戦いの仮想世界、『ソードアート・オンライン』。世界最高のVRMMOとなるはずだったそのゲームは、二つの機能の付加によって世界最悪のゲームとなった。

 ログアウト不可という、束縛と。
 HP全損が現実の死に繋がるという、呪いによって。

 これは、そんな異世界で起こった、とある一場面の話である。
 その話を一言で表すと、こうなる。

 ―――たとえデスゲームだって、年中真面目でいられるわけじゃない。







 ―――ねえ、「空中でのソードスキルの使い方」、教えてよ。

 彼女は、唐突にそう申し出てきた。

 いつも通りの意志の強そうな瞳と、固く結ばれた唇。ストレートの栗色の髪は腰まですとんと落ちていて癖というものが全くない。顔のほうも、アインクラッドでも五本の指に入ると言われるのがすんなり納得できる、正真正銘の美少女―――アスナだ。

 「いや、いきなり何を……」
 「キリト君が一番うまいって聞いたわ。だから、教えて」

 唐突に呼び出された先で、俺はやっぱり唐突に申し出を受けていた。

 空中でのソードスキル。それはこの層を攻略するうえで不可欠になる……なるであろう技であり、『プレイヤースキル』……つまりは、「ゲームシステム的なステータスではなく、それぞれのプレイヤーの努力によって身に着けられる」スキルだ。

 このアインクラッドでは戦闘に置いて、敵を倒すためには攻撃の威力を格段に上昇させる技、『ソードスキル』が重要なポジションを占める。そしてその『ソードスキル』は欠点として「発動したらその剣閃はシステムに規定された道筋を辿る」というものがある。結果、独特な形状をしたり移動手段をしたりする……つまりは這い寄ってくるナメクジやトカゲ、あるいは飛んでいる鳥や昆虫に対しては、当てるのが困難なのだ。

 今現在俺たちが滞在している階層は、特にその傾向が顕著だ。鳥、羽トカゲ、果てはドラゴンと飛行するモンスターのオンパレード。これを突破するには前述の「空中でのソードスキル」などのプレイヤースキルが大きな助けになるだろう。

 「まったく、キリト君はいったいどこでそういった情報を……この階層がこんなに飛行型モンスターがいるって知ってれば、……というか、空中でもソードスキルって……前もって教えてくれればいいのに……」
 「いや、情報っていうか、その……」

 アスナが拗ねたように口をすぼめる。
 どうもこの層に達する前に教えなかったことを責めているらしい。

 しかし、それはどうにも買いかぶりすぎだ。俺はこの「空戦階層」がこの層だと知っていたわけではなく、ただ単に「いつかはこんな階層が来るだろう」と考えてこっそり練習していただけであり、アスナの言うところの「空中でのソードスキル」なる技もその過程で偶然見つけたものだ。それを「ねえねえ、ちょっと面白い技見つけたんだけど!」と気軽に美人剣士に話し出せるほど、俺にコミュニケーション力はない。

 ……だが、まあ。アスナの申し出も、悪いことではない。
 俺としてもこの技術を一人で独占するつもりなどないし、むしろ積極的に広めたい。

 それならば。

 「ほら、私に伝えれば私からほかの『攻略組』のメンバーに伝えられるしさ。キリト君は皆にそういうの教えたりするの苦手でしょ?」
 「……まあ、これでも『悪のビーター』だし、いい顔はされないだろうな……」
 「ならその嫌で面倒な役回りは私が引き受けるから、ね?」

 最後に両手を合わせて、「お願い!」のポーズをとるアスナ。男というのはどうしても美人の頼みに弱いモノであり、そもそも「教えてもいいかな、いや教えたほうがいいな」くらいの感覚であった俺にその申し出を断る理由はなかった。

 「やった、ありがとう! じゃあ、さっそくお願いね!」

 だから、この罠にはまってしまったのだ。
 無邪気な美少女フェンサーの、無自覚な魅惑の罠。


 ―――『パンチラ』という、不可避の落とし穴に。







 アスナとの二人きりの特訓は、実に一時間にも及んだ。

 「二人きりの特訓」などと言えばひどく如何わしい響きを感じさせるが、俺は今までアスナとの特訓にそんなことを思ったことは無い。アスナはほとんど無駄口を叩かずに一心不乱に練習に取り組むし、俺のほうも真剣に教わる彼女をそんな眼差しで見ることはなかった。

 だが、その考えは、この日砕け散った。
 いや、その、なんというか、無理だった。

 「やっっ!!!」

 裂帛の気合とともに、ひらりと飛び上がるアスナ。

 『攻略組』でもトップクラスのレベルを持つ上に、彼女は数値的にも『敏捷』重視型。レベルで勝る俺よりも切れ味鋭く宙に身を躍らせ、そのまま右手に持った細身の片手剣……レイピアを引き絞る。薄緑の輝きが一気に爆発し、そのまま真直ぐに突き出される。

 貫かれる、大型犬ほどもあろうかという巨鳥の顔面。

 「……」

 だが、俺はそんなものを見てはいない。
 今のアスナの服装は、いつもの戦闘服……つまりは、ミニスカートだ。

 つまりは、そういうことだ。

 「どう、キリト君! クリティカルポイントに一発!」
 「ああ、すごいな」
 「うん、今の感覚忘れないうちにもう一回ね! さ、Mob引っ張ってきて!」
 「ああ分かった、ちょっと待っててくれ」

 興奮した様子のアスナ。そんなアスナとは違う意味での興奮を悟られないように、俺はそそくさとMobのポップ点へと向かう。アスナのほうは、はっきり言ってそれに気づいている様子が全くないのが、俺の罪悪感を加速させる。

 (……もう、限界だ……)

 この新手の拷問が、かれこれ一時間。

 身のこなしを指導する以上、目線を逸らすわけにもいかない。
 無論、それを教えるためと割り切る精神力など、俺にありはしない。

 俺の精神力はもう、完膚なきまでに叩き崩され、ピンク色にハレーションがかかって輝きまくっていた。そんな状態で、もうこのSAOでの時間で鍛えられた条件反射だけでMobを惹きつけ、そのままアスナの下へと駆ける。

 跳躍する彼女。
 振り抜かれるレイピア。

 眩く翻るスカートと、その下の魅惑の純白の逆三角。

 彼女の笑顔とエフェクトの布地が、脳裏で交互にフラッシュバックした。






 「はあ…………」

 深い、本当に深いため息をついた。

 長く、厳しい戦いだった。
 もはや最後のほうには自分の意識も朦朧としていた。

 ただ、アスナが何かに気づいたような様子がなかったことだけが救いだったろう。
 よかった、一応彼女の前ではいつもの自分でいられたのだ。

 それだけで完全にやりきった気分だった。

 「ああ……白、だったな……」

 たとえ俺の網膜、脳裏、いや魂にもそのエフェクトが焼き付いていようとも。

 これはおそらくもう、数日は消えない。それは仕方ない。俺は多大なる犠牲と引き換えにレディーの幻想を守りきり、貴重(自称)な技術である空中ソードスキルを伝道したのだ。この犠牲として、俺が数日の攻略サボりを行ったとしても、誰が俺を責められるだろうか。

 いや、責められまい。

 「逆三角、だったな……前はホットパンツだったのに……」

 完全にピンク色の思考に染まった思考で、ぼんやりと考える。

 「ああ……なんであんな布地一枚にこんなになるんだろうな……男って……」

 危ない思考丸出しの状態で、町はずれの安全エリアの公園で大の字に寝そべったまま、熱に浮かされたようにつぶやく。誰かに聞かれようものなら『悪のビーター』の代名詞たる『黒の剣士』の名前が『ピンクの剣士』に変えられかねない。だが、そんなモノも気にならないほどのやりきった感に俺はあふれていた。

 そう、このやりきった感で、俺は油断していた。
 油断していたのだ。

 「おーう、キリト、探したぜ」
 「あぁ? なんだよ、人が気持ちよく寝てる時に……」
 「お? なんだなんかいい事でもあったのかよ」

 ついつい話しかけてきた男に、べらべらと迂闊なことを喋ってしまったのだ。







 「はっはっは! そりゃあ、幸運だったな!」
 「馬鹿言え、災難に決まってるだろうが。二時間だぞ二時間!」

 話しかけてきた男は、心の底から愉快げに笑った。

 男の印象を一言で言うなら、『不健康』だろう。俺より頭一つは高いだろう身長に加えて、手足が不自然なほどに長い。ぼさぼさの黒髪の下にのぞく黒目は眠たげな細めで、顔色も日本人離れしているほど色白。寝転がってるのを話しかけるほどに仲がいいのは、コイツ……『シド』が、俺と同じβテスト経験組だからだ。

 「まったく、言いふらすんじゃねえぞ」
 「わあってるさ、俺は『対人情報』は売ってねえよ、アルゴと違ってな」

 そしてもう一つ。この男、このSAOでも有数の『情報屋』だ。

 かの有名な情報屋、対人情報やシステムの抜け穴、アイテム相場や狩場効率までありとあらゆる情報を売り捌く『鼠のアルゴ』ほどではないが、この男は自分の専門分野……クエスト関係の情報ではアルゴに勝るとも劣らない情報の精度と速度を誇る。

 だが、この男から俺の……まあ、なんだ、『ピンクの剣士』的な情報は洩れない。
 この男もアルゴと同じく、それなりの『流儀』を持っている。

 まあ、そうでなければ俺達βテスターは孤立してしまうのだから。

 「っつーことは、キリトは向こう数日暇なわけだ」
 「ああ、休む。休ませてくれ。今アスナの顔なんか見たらどうなるか俺にも分からん」
 「……おう。それならおあつらえ向きだな」

 そんなことを考えていたせいで、俺は気づくのが遅れてしまった。
 胡散臭さ前回の隣の男が、素晴らしく嫌な笑顔を浮かべていることに。

 そうだった。

 「ちょおっと頼みたい仕事があるんだなぁ、『ピンクの剣士』君」

 ……言いふらしはしないが、コイツもそれなりな性格をしていやがった。
 ここまでのSAO生活で重々知っていたのに、また俺はあっさりとはめられてしまった。

 それほどに、俺の思考が乱されていたのだろう。
 例の魅惑の下半身装備によって。


 ……まあ、この時はまさか、思いもしなかった。
 これよりまだまだ深い煩悩地獄の底なし沼に、俺が片足突っ込んでいるということに。







 訪れたのは、最前線からは随分と下層に存在する、夜しか開かないとあるダンジョン。

 ……かつて高レベル高経験値の吸血鬼が多数生息したために経験値稼ぎ(レベリング)目当ての『攻略組』で賑わった場所だったが、ゲームのバランス調整システムであるカーディナルによってMobのポップと得られる経験値が修正されてからは訪れる人は激減……というか、ゼロになった。……なった、のだが。

 ―――そこに、依頼人がいるからよ。今回はちょっと、急ぎの用事でな。

 シド……あの胡散臭い情報屋はそう言った。

 ―――まあ、今のお前にはちょうどいいんじゃないか。

 そう続けられたのが、なんともいやな予感しかしないのだが。
 ついでに言うのであれば、その予感を裏付けるものが、ちらほらと。

 「なんで人がいるんだよ……」

 このダンジョン……『闇夜の紅館』は、お世辞にも主街区から近いとは……というか、思いっきり交通の便最悪だ。どこでどう道を間違えたってこんなところには来やしない。つまりは、「明確な目的なしには来るはずのない」場所なのだ。

 嫌な予感はますます強まる。

 「警戒心、バリバリだしよ……」

 すれ違うプレイヤー達が、ことごとく周囲を厳重に警戒しているのだ。幸いにもプレイヤー達のレベルが大したことが無いのだろう、俺の『隠蔽』スキルが抜かれることはなかったが、それでも見ていて気分がいいものではない。


 そして、待つこと半刻ほど。

 シドに指定された時刻、午前二時。「一分一秒も狂いなく頼む。特にフライングは厳禁だ」という助言に従い、俺はその毒々しいというか妖艶な雰囲気(まあ、今の俺なら何を見たってそんな風に思えてしまうのだろう)の扉をノックする。

 「……」

 返事はおろか、何か物音らしきものすら聞こえない。……だが、それが「OK」のことなのだと俺は前もって聞いていた。……思えばこの時、「万が一中から声やあわてたような音が聞こえるなら入るな。お前自身のために」というセリフ、あれもおかしいと思うべきだった。

 がちゃり、とドアノブを回し。
 ぎぎぎ、と古典的な音を立ててドアが開く。

 「っと、久しぶりだな……邪魔するぜ……」

 もうどれくらいぶりになるのか分からないその『狩り場』に、一歩足を踏み入れて。

 「っっっ!!?」

 唐突に体を襲った浮遊感に、俺は顔を顰めた。


 
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