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最不人気使いの最強戦士

作者:神話巡り
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最不人気使いの最強戦士

 《瞑想》スキル。精神集中(っぽい)ポーズをとることによって、HP回復スピードや、状態異常(バッドステータス)回復スピード、筋力値や敏捷値を微弱ながら上昇させる、いわば《ハズレ》スキルである。SAOに数多の数存在する《エクストラスキル》の中で最不人気と言ってもいいだろう。加えて、スキルを発動させるときに取る『精神集中(っぽい)ポーズ』が微妙にダサくて格好悪いことが、不人気に拍車をかけている。むしろ死ぬほどダサかった方がまだ救いようがあったほどだ。

 アインクラッドではスキル重視の本当にマイナーなプレイヤーしか、このスキルをとってはいないだろう。仮にもアインクラッド第六層で受けられる面倒なクエストをクリアすることで手に入る、れっきとした《エクストラスキル》だというのに……。

 そんなわけで、《瞑想》スキルをとっているプレイヤーはアインクラッドにはほとんどいない。攻略組を始めとするトップクラスプレイヤーとなればなおさらだ。そもそも、ボス戦などの戦場で『微妙なかっこ悪さの精神集中(っぽい)ポーズ』をとっている余裕などない。外見上のかっこ悪さを無視しても、とても実戦向きのスキルとは言えないのだ。

 だが――――いや、だからこそ、誰もこのスキルの真の意味に気付かない。この《瞑想》スキルこそ、アインクラッドで最強のスキルだという事に。


 これは、最不人気のスキルをただの趣味で使いまくっていたら、いつの間にかSAO最強になっちゃったりとかしていた、一人のプレイヤーの物語。


 
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 SAOがまだβテスト時代であった頃。アインクラッド第六層で、初めての《エクストラスキル》が発見された。《エクストラスキル》とは、隠しクエストや特殊な条件などをクリアすることで手に入る、いわば《隠しスキル》とでも言うべきものだった。現在のSAOでは第二層の隠しクエストクリアで習得できる《体術》、《曲刀》すきるを一定量習得したのちに、しつこく使い続けていると出現する《カタナ》、そして習得者が一人しかいないと言われる《ユニークスキル》が一角、《神聖剣》などが主な《エクストラスキル》として知られている。

 βテスト時代、アインクラッド第六層は、古代インドやペルシャの文明を彷彿とさせる、某国民的RPGのスライムのような形の建造物の並ぶ階層だった。この階層の奥地で発見されたNPCが、SAOβでプレイヤー達が最初に発見した《エクストラスキル獲得クエスト》を発行するNPCだった。彼がプレイヤーに伝授してくれるスキルの名は《瞑想》。習得条件は、クエストを受けたのち、二時間ばかりその場で座禅(っぽいポーズ)を取り続けること。少なくない数のプレイヤーが、このクエストをクリアし、スキルを取得した。

 そして、自分の費やした二時間が、このスキル自体が、あまりにも無駄であったことを痛感した。

 《瞑想》スキルは、見れば見るほど微妙なスキルだった。精神集中(っぽい)ポーズが微妙にダサいことに加え、効果が微妙。本来ならばポーションや結晶(クリスタル)などのアイテムを使わなければ不可能なHPの回復を行うことや、ポーション類でHPを回復した時に回復スピード(SAOではHPの回復に時間がかかる)や、回復量のブースト、さらには攻撃時のクリティカル率上昇から、様々なスキルの効果ブースト……一見すれば便利なように見えるが、実はこれらの度合いが非常に小さく、多少上位のアイテムを使えば補えたり、我慢できる度合だったりする。わざわざ貴重なスキルスロットを消費するまでもない。加えて、これらのポーズや効果は、厄介なことに「異常にダサい」わけでも、「全く使えない」わけでもない。性能がただひたすら『微妙』。むしろ『最悪』だったほうがまだ救いようがあった、と言われるほどの『微妙』さ。デザイナー兼開発者である茅場晶彦がお遊びで投入したスキルだとしか思えなかった。

 多くのプレイヤーがこのスキルを瞬く間に捨て、新たに自分に合ったスキルを取得した。しかし、世の中には例外という者が存在する。そして、この《瞑想》スキル使いもその例にもれなかった。

 俺は一体どうしたことか、この《瞑想》スキルがいたく気に入ってしまい、SAOβ終了時まで使い続けた。鬼のように硬いアインクラッド第二層の岩を破壊し、《体術》スキル獲得クエストもクリアした。俺はいわば《気功術》とでもいうべき戦闘方法をSAOβテストの間貫き通したのだ。ちなみにSAOβ時代に、アインクラッド第二層の体術マスターたる髭のNPCを発見できたのは、俺とあと一人、SAO最高の情報屋、《鼠》のアルゴだけだ。あのクエストに挑戦した時、顔に消えない墨で髭模様を描かれて散々な思いをしたのを覚えている。俺は筋力値にもステータスを振っていたので、なんとか二日から三日で岩を破壊することができたが、敏捷値極振りのアルゴは岩が破壊できず、結局クエストクリアを諦めて髭師匠の住むテーブルマウンテンを下山した。あの模様が消えなかったせいで、《鼠》というあだ名がつけられたのを知る者は少ない。

 三か月のβテスト期間が終わり、11月に開始したSAO正式サービス。開発者茅場晶彦の手によって恐怖のデスゲームへと改変された、今のアインクラッドでもそれは例外ではない。俺はきちんと第二層にて《体術》を、第六層にて《瞑想》スキルを取得した。ちなみに第二層の体術マスターの所にあった岩、正式サービスでは破壊不能(イモータル)オブジェクト一歩手前あたりまで硬度が強化されており、以前は六時間余りのプレイを三日続けて破壊したこの岩が、二十四時間中十八時間ぶっ通しで殴り続けても割るのに三日かかったという面倒な話。

 このSAOでは、素手で戦うよりも武器を持って戦う方が圧倒的に有利だ。《体術》は素手での攻撃力を向上させ、素手攻撃専用のソードスキルを出現させるスキルではあるが、それでもソードスキル無しの武器攻撃の方が威力が高いのは否めない。《体術》がほかのスキルよりも過小評価されるゆえんの一つだ。

 ソードスキルについても説明せねばなるまい。《ソードスキル》とは、その名の通り《剣技》――――この世界、《ソードアート・オンライン》を象徴すべきシステムだ。この世界は《剣技の世界(ソードアート・オンライン)》の名が示す通り、《魔法》が存在しない。代わりに、いわば必殺技的な物として無限に近い数設定されているのが、この《ソードスキル》。通常攻撃の二倍はあろうかといえるほどの速度や威力を誇る技を駆使して闘うのが、この世界の定石だ。

 もちろん徒手空拳の俺も例にはもれずソードスキルをきちんと使ってはいる。しかし、《体術》のソードスキルはいささか頼りない。あくまで《体術》は補助スキルだ。そのため、ソードスキルの威力が低い。もともと《体術》のソードスキルは、《ソードスキルの連続》という事象をなすためだけにあるようなものなのだ。ソードスキルの弱点として、使用後に1~3秒ほどの長い使用後硬直時間(スキルディレイ)が課せられるという事がある。しかしこれは、違うスキルのソードスキルを繰り出すと打ち消すことができるという事が実証されている。しかしこの世界に置いて、『片手に武器を握った状態で、もう片方の手で武器を使う』ことは不可能だ。なぜなら、《二刀流》を試みた瞬間にシステムがイレギュラー装備状態と見なし、ソードスキルの使用を禁止してしまうからだ。必然的にコンボ用のスキルは、武器を使用しなくていいスキル……《体術》に限られてくることになる。そのため、その一点に関しては《体術》スキルは非常に優秀であり、《体術》スキルをもしものための護身用的な位置で取得するプレイヤーも少なくない。だが、それに比例するかのように、《体術》スキルをメイン攻撃に使用するプレイヤーは、それこそ数えるほどしかいないだろう。

 そして俺は、そんな数えきれるプレイヤーの一人であった。《瞑想》スキルと言い、《体術》メインといい、俺はどうもこういった不遇スキルを気に入る傾向にあるらしい。俺のスキルスロットには《エクストラスキル》に分類されるスキルがわんさか詰まっているし、戦法もほかのプレイヤーとは一線を画す。それでも俺がSAOの最前線で戦う《攻略組》であることができるのは、ひとえに《瞑想》スキルの『隠された力』のおかげに他ならない。

 あくまでこれは俺の脳内ナレーションであって、誰かが見聞きしているとは思えないのだが、もしそんなことができる奴がいたのならば疑問に思っているはずだ。「《瞑想》スキルの隠された力とは何か?」と。そんな奇妙な能力を持った物好きな人に答えよう。

 引き続き、俺の回想録(?)を見ればわかる、と。



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 俺が初めて《瞑想》スキルの『隠された真の力』と出会ったのは、SAO攻略開始から八カ月ほどたったころ。最前線はアインクラッド第二十七層、その時俺が活動していたアインクラッド第十二層でのことだった。この層は隠しダンジョンと呼ばれる未踏破層が非常に多く、エクストラスキル獲得クエストが隠しダンジョンの奥で受けられる例もいくつかあったため、俺は新たなエクストラスキルを求めて隠しダンジョンの一つに入った。隠しダンジョンの多くは、上位の階層がクリアされると解放される形式を取っており、その奥に待つモンスターたちは、開放時の最前線モンスターと同じくらいの強さを持っている。つまり、その階層のモンスターとはけた違いに強いのだ。

 当時の俺のレベルは42。攻略組の中でも比較的高い方だった。出現するモンスターたちは大体レベル20から30程度。余裕で倒すことができた。蛇型やトカゲなどの爬虫類を模したモンスターたちは、ソードスキルも使わないため、対応するのは楽だった。さらにそのダンジョンは、どうやら俺が最初に発見したらしく、宝箱や採掘アイテムなどは全てそのまま残っていた。俺はそのダンジョンを踏破しただけで大量のアイテムや(コル)を入手することができた。

 レアアイテムも大分手に入ったし、そろそろ帰ろうか……という時になって、俺はダンジョンの奥地へ続くとみられる扉を発見した。何らかのトラップの場合もあるが、危険なときは転移結晶で脱出すればよいと――当時はまだ《結晶無効化空間》の存在が知られていなかった――考え、その扉を開いたのだ。

 中で待っていたのは、レアアイテムでも、大量の額のコルでも、何かのトラップでもなかった。そこで待っていたのは、このダンジョンのボス。二つの頭を持ったドラゴンだった。双頭のドラゴンは凄まじい攻撃力・防御力・HP総量、挙句の果てには超遠距離かつ広範囲のブレス攻撃まで放ってきた。当時のSAOでは文句なしに最強クラスのモンスターだっただろう。さらに、部屋に入った途端に後ろの扉が閉まり、開かなくなってしまったのだ。ボスの強さと、その機能に関しては《最悪》のトラップであっただろう。

 《カドゥケイス・ジ・アンフィスバエナ》という名前のそのドラゴンの猛攻で、俺は何度も死にかけた。恐らくもとは複数パーティーで戦う用のモンスター、つまり戦闘適正規模は中隊規模(レイドパーティー)推奨だったわけだ。その実力は、まさにフロアボスクラス。そこいらのダンジョンのボスなどとはけた違いに強かった。

 加えて、俺は基本的に武器などを持たない徒手空拳戦法をとっている。円月輪と呼ばれる、《投剣》《体術》複合武器が、数少ない攻撃用武器だった。相手が攻撃を放つ瞬間にヒットすると、ディレイ率の増加する特殊効果を持ったこの武器で、俺は奴とうまく立ち回った、のだが……。

 戦闘開始から一時間余りが経過したその時、それは起こった。俺の集中力がついに途切れ、ボスの攻撃が盛大にクリティカルヒットしたのだ。ポーションは長きにわたる戦いですでに使い切っており、もしもの時のためにと用意しておいた《回復結晶(ヒールクリスタル)》――当時はまだ恐ろしく高価で、最前線でしか買えなかった。そのため、俺が所持していたのはこの時たったの二つだった――に頼ることとなった。

 しかし。

 あろうことか、絶対回復をもたらすはずの《回復結晶》は、俺のHPをびたいちも回復しなかった。否、そもそも効果を発揮しなかったのだ。俺が初めて遭遇した、《結晶無効化空間》だった。《結晶無効化空間》は、その名の通り《転移結晶(テレポートクリスタル)》や《回復結晶(ヒールクリスタル)》、《解毒結晶》などを始めとする、十数種類存在する結晶アイテムの効果全てを無効にする空間のことだ。当時はまだ最前線ですら発見されておらず――実際には迷宮区などには存在していたらしいのだが、大抵が隠し宝箱などの周りに、強制的にモンスターハウスを呼び出す《アラームトラップ》と共に設置されたトラップであり、引っかかったプレイヤーほぼ全員が死亡しているなどのことから、その存在は明るみになっていなかった――、俺にとっても初めて遭遇するトラップだった。

 動揺した隙を突かれて、再び攻撃がヒット。今度はクリティカルヒットでは無かったとはいえ、元々の攻撃力が桁違いである《カドゥケイス・ジ・アンフィスバエナ》の攻撃は、たった二撃で俺のHPを真っ赤に変えた。

 回復ポーションは尽きた。回復結晶は使えない。絶体絶命の状態で、俺がふと思い出したのは、《瞑想》スキルの存在だった。《瞑想》スキルの中に、一度発動させた後は精神集中(っぽい)ポーズをとらなくても、一定時間継続的にHPを回復させる機能があったことを思い出したのだ。当然回復量・回復速度は限りなく『微妙』であったが、その時の俺はわらにもすがる思いでそのスキルを起動させた。

 そしてその時、俺は《瞑想》スキルの能力項目に、見慣れない能力があることに気が付いた。

 名は、《第一チャクラ解放》。能力説明も何もなく、ただ名前だけがそこにあった。HPが徐々に回復していく中、俺はそのスキルを起動させてみた。本来ならばSAOで、手に入れたばかりの力を使うのはあまりほめられたことではない。だが、この時の俺は猫の手も借りたいような信条だったため、多少でも助けになりそうなものは何でも使った。

 
 結論から言えば、この《第一チャクラ解放》の力は信じられないほど強かった。

 まず、攻撃威力がバカにならないほど増加した。いままで体術スキルで与えられていた相手へのダメージ率が、二倍に近い量増加。スキル発動後は、目を見張るスピードで《カドゥケイス・ジ・アンフィスバエナ》のHPは減っていき、それから三十分とせずにほとんど、否、全くと言っていいほど減っていなかった奴のHPは完全に消滅した。

 次に、加算された経験値の量。ボスを倒した時のLAボーナスと合わせた経験値で、あっという間に俺のレベルが上がった。信じられない増加量。俺のレベルはその戦闘だけで50になった。さらに、獲得コルもちょっと想像を絶する数値加算された。最初、これは全てボスのLAボーナスなのかと思っていたが、帰り道に倒した雑魚モンスターから手に入ったコルや経験値の量が、先ほどとは比べ物にならない量であったことから、これが《第一チャクラ解放》による効果であることが分かった。

 それと関連して、レアアイテムのドロップ率も増加した。さらには《瞑想》を含む俺の取得している全スキルの熟練度加算スピードが目に見えて増加し出した。加えて、HPや状態異常の回復などが、ヘンなポーズを取らなくても可能になった。

 《第一チャクラ》が解放された後、定期的にほかの《チャクラ》も解放され始めた。アインクラッド第三十二層で解放された《第二チャクラ》は、さらなる経験値増加・熟練度スピード増加をもたらし、《第三チャクラ》がアインクラッド第四十六層で解放されてからは、自分の思い描くような、イメージ通りの戦い方を行うことができるようになった。簡単に言えば、自分が望んだとおりに戦況が運んでいくのである。

 現在俺が解放できるのは、第五十層で解放可能になった《第四チャクラ》まで。このチャクラは、HP回復スピードを飛躍的に、否、もはや《一瞬》の域まで増加させた。回復結晶いらずである。

 これらの効果は、基本的に常に解放されており、何らかの精神集中(っぽい)ポーズは不要であることも分かった。だが、その変なポーズを追加で取ることによって、一定時間限定ではあるが、効果を増大させる機能があることが分かった。さらに、《瞑想》スキルを取得しているほかの物好きプレイヤー達には、この効果が出現していないらしい、という事が判明している。

 現在の最前線は六十一層。非常に美しい主街区とその周辺の海を越えたフィールドには、蟲や軟体動物系モンスターしか出現しないために、つけられたあだ名が《むしむしランド》。今日も俺は、新たな《チャクラ解放》を目指して《瞑想》スキルを鍛えている。もし俺がβ時代にこのスキルを取っていなかったら、俺はこんな力を手に入れていなかっただろう。人の人生とは、何とも複雑に入り組んでいるモノだなぁ、と年寄り臭いことを考えつつ、攻略に励むとするか。





 なお、この後解放された《第五チャクラ》はテレパシー的なことを、《第六チャクラ》は後に聞いた言葉によると《心意》と呼ばれるものを使用可能にした。《第七チャクラ》を開放したその時、俺は《人間(プレイヤー)》という枷を超えた存在へと変貌するのだが、その話はまた今度、別の機会に。 
 

 
後書き
 《瞑想》スキルが最強のユニークスキルへの懸け橋だとか、隠しダンジョンとかそのほかもろもろの設定は全て自分のオリジナルとなっております。当然原作にはありません(笑)《瞑想》スキルはもっと脚光を浴びてもいいと思うんだ。 
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