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P3二次

作者:チップ
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XIII

 夜、理事長と連絡は取れなかったが、俺達は上手く学校に忍び込めた。
 セキュリティも切られているし、警備員の巡回もない。
 美鶴の根回しのおかげだ。

「……気負うなよ裏瀬」
「別に気負ってるつもりはないさ」

 体育倉庫から突入するのは俺、公子、真田、伊織の四人だ。
 真田は自分の中で上手いこと折り合いをつけて、表面上は俺に対するわだかまりを消している。
 消えていないのは公子と伊織、そして今は美鶴と共に居る岳羽の三人。
 身から出た錆びだし弁解をするつもりはない。

「ッ! 影時間に入るぞ!!」

 刹那、空間が歪み意識が遠のく。
 ギリギリで踏ん張ってはみたが――――ほんの一瞬、意識が断絶される。
 目を開ければ近くに居たはずの真田と伊織が消え、俺と公子の二人だけになっていた。

「こ、ここは……それに、皆は?」

 戸惑いがちに俺を見る公子、二人きりと言うのは居心地が悪いらしい。

「さあな」
「…………あ、あの!」

 しばしの逡巡の後に公子が口を開くが、

『……無事……か?』

 ノイズ交じりの通信によって遮られてしまう。

「ああ。美鶴、状況は?」
『距離……が……く……の……サポートが……』

 通信が途切れる、どうにも美鶴の能力では届かない範囲に来てしまったらしい。
 風花はこんなところに長い時間居るのか。
 シャドウに襲われていたら――――いや、今はそんなことを考えない方がいい。

「行くぞ」
「う、うん……」

 無言のままこの階層を探索する。

"……れ? 此処に居るの?"

 その最中、俺は一つの声を聞く。
 隣に居る公子に視線を向けると、彼女も聞こえたらしく俺を見ていた。

「い、今女の子の声が聞こえなかった!?」
「聞こえた。これは風花だ」

 どうやらアイツは俺達を把握しているらしい。
 …………ああ、そうか、無事だったか。

「風花! 俺だ! お前今どこに居る!?」

 頼む、応えてくれ。
 後はお前を助け出せばそれで終わりなんだ。
 詫びを入れなきゃならないし、言いたいことが沢山ある。

"キー……くん? わ、私は上に居る! その階層から二つ上!!"

 今にも泣き出しそうな声で返答が来た。

「そうか。すぐにそっちへ行く――――待ってろ」

 通路の奥からやって来て俺の前に立ち塞がるシャドウ。
 生憎と今は遊んでいる暇はないのだ。

「消えろ――――カルキ」

 シャドウを薙ぎ払いながら駆ける。
 何か言いたげな公子だったが、後で幾らでも聞いてやるさ。
 今はただ、上へ行かねばならないのだ。

「あ……よ、よう。ハムっちも無事だったか」

 二階層目へ到達すると伊織と真田の姿があった。

「えーっと……あー……」
「今後はこんな入り方は無理だな」

 若干キョドってる伊織とマイペースな真田、悪いが二人の相手をしている暇はない。
 ここに……ここに居るはずなんだ。

「風花!」

 俺の呼びかけに応えるように伊織らの後ろにある通路から青白い顔の少女がやって来る。
 幾分体調が悪そうだが……

「キ――――きゃ!」

 気付けば俺は風花を抱きしめていた。
 キャラじゃないし柄じゃないのは分かっているが……
 こうして無事な姿を確認した途端、何かが込み上がって来たのだ。

「……すまん。待たせた」
「……ううん。ちゃんと来てくれた、嬉しいよ。声、聞こえてたんだね。ずっとずっとキーくんを呼んでたの」

 声……確かに聞こえたが、あれはここに入ってからのものだ。
 それよりも前から風花は俺に呼びかけてくれていたのか?

「そうか……悪い、全部俺の手抜かりだ」

 抱きしめた身体から伝わる温かな鼓動。
 風花は今、生きている。
 生きて俺の目の前に居る、それが素直に嬉しい。

「……キーくん、痛いよ」
「嫌か?」

 もう少し、もう少しだけこのままで居たいんだ。

「ずるいなぁ……」

 おずおずと俺の背に手を回す風花、感じる吐息が熱い。

「ん、んん! 盛り上がってるところすまんが……裏瀬、彼女が山岸風花なんだな?」

 ああ、そう言えば真田らも居たんだったか。
 わざとらしい咳払いで一気に俺のテンションがクールダウンする。

「そうだ。けど、今はとりあえず外に出るぞ。一刻も早くな」
「……分かった。お前の気持ちは痛いほどに分かるしな」
「つーわけだ。行くぞ風花」
「あの、ここどこなの? 私、学校に居た筈なのに……」

 俺の服の裾が引っ張られる。
 どうしてこう、コイツは小動物みたいな仕草が似合うのだろうか。

「説明すりゃ長くなる。ここはシャドウ――化け物が出るだろ? あれと会う前に帰るぞ」

 どうやって今の今まで無事だったか分からないが、シャドウのことは知っているだろう。
 何せ十日……いや、影時間の間だけだから――

「じゃあ、やっぱりここに何か居るの? 今のところ、何とか見つかってないけど……」
「は? 待て、一回も見つからずに?」
「う、うん……居場所が何となく分かるから……それを避けて……」

 真田の顔が驚きに変わるが、俺はそれを目で制す。
 詳しい話は後、ここで長話をする気はない。

「分かってる……美鶴、聞こえるか? チッ、通じんな」
「とりあえずターミナルを探すぞ。風花、体力は?」
「ちょっとだけ疲れて――――わわ!」

 風花の身体を抱え上げて歩き出す。
 過保護だとは思うが……俺が落ち着かないので勘弁してもらおう。

「あ、あの……は、恥ずかしいよ……」
「素直に甘えとけ。滅多にないぞ、俺がこんなことすんのは」

 直に素面に戻るだろう。
 今は熱に浮かされて動いているが……落ち着けば何時もの俺に戻る。
 優しさ、気遣いなんてものからは程遠い俺に。

「……ねえ、今までキーくんは何してたの? 家にもずっと戻ってなかったみたいだし」
「何時も通りさ。分かるだろ?」

 美鶴より以前に既知のことを話したのは風花のみだからそれだけ言えば分かるはずだ。

「そのために、その……この人達と?」
「ああ。それで家に戻ってなかったんだが――」

 見晴らしのいい通路にさしかかった時、俺はあることに気付く。

「? どうかしたの?」

 窓? から見える空に浮かぶは真円を描く太陰。
 今夜は満月だった――――風花のことで頭がいっぱいで、気付いていなかったらしい。

「……」
「どうした?」
「今夜は満月だ。俺の仮説が正しければ……」

 巨大シャドウが顕われた際の共通点について洗い出したことがある。
 一見バラバラに見えたが一つだけ共通点があった。
 それを次の満月の日に確かめようと思っていたのだが……まったく、情けない。

「仮説?」
「四月に顕われた巨大シャドウ、五月に顕われた巨大シャドウ――――どちらも満月の日だったんだよ」

 今日が六月八日、モノレールが五月九日――寮への襲撃は四月九日。
 月の満ち欠けは約二十九日周期で繰り返される。
 そして今日が満月ならば――――

「! 美鶴聞こえるか!?」

 ことに気付いた真田が呼びかけるが……

「クソ! 急いで戻るぞ!!」
「何これ……今までのより大きい……それに人を襲ってる……」

 状況はよくないらしい。
 全員が真剣な顔で頷き、駆け出す。
 唯一事態を把握出来ていない風花だけは困惑しているようだが、それを説明している暇はない。

「ターミナルはどこだ……!」
「ハムっち! 散開して探した方が……」
「ダメ! 今の状況でバラバラになって全員の帰還が遅れる方がアウトだから!」

 風花なら、風花なら分かるかもしれない。
 先程コイツが言っていたことから推測するに…………

「風花、よく聞いてくれ。力の流れを探れないか? 一番下へと向かっている力の流れだ」
「え?」

 ターミナルがどういったものかは知らないだろう。
 判断材料が不足している状況では探れないのかもしれない。
 だが、ターミナルという装置の特性を鑑みるに、あれは下へと繋がっているのは明らか。
 だったらその線で探してもらえば――

「――――よく分からないけど分かった。ちょっとだけ待って」

 静かに目を瞑る風花の身体から薄ぼんやりとした影が顕われる。
 やはりペルソナ使い、更に言うならばチドリと同じ――いや、恐らくはそれ以上の力の持ち主だ。

「! この上にある。ナビするから走ってキーくん」
「了解」

 ナビ通りに動くとすぐにターミナルへ辿り着けた、俺達は一目散に起動させエントランスへ。
 そこでは二体の巨大シャドウが美鶴と岳羽を襲っていた。

「美鶴!」
「真田サン! シャドウの気ぃ逸らさないと!」

 伊織の判断は正しい。
 風花を下ろし、俺はそのままペルソナを召喚する。

「――――来い、カルキ」

 力の奔流がエントランスを駆け抜け、シャドウらが俺達の存在を見つける。
 これでターゲットは俺達に向いた。

「気を付けろ……コイツら、普通の攻撃が効かない……!」

 普通の攻撃が効かない?
 全員が戸惑いを隠せなくなったその時、更なる火種がこちらへやって来る。

「風花……」
「森山!? 待て、何でここに……!」

 安全面を考慮するとの美鶴の言葉でコイツだけは寮に場所を移させていた。
 そいつが何故ここにいる!?

「森山さん……? 逃げて! ここは危ないからっ!!」
「わ……私、あ、あんたに謝らなきゃって……」
「馬鹿野郎!」

 シャドウの攻撃が森山に向かう。
 咄嗟に蹴り飛ばして庇うも、俺が痛手を負ってしまった。
 別にどうなろうと知ったこっちゃなかったが――――風花が逃げてと言ったのだ。
 助けないわけにもいかないだろう。
 …………本当に、素面じゃなくてよかった。

「ッ! キーくん……森山さん……私が……私が守らなきゃ!」

 両手を胸の前で組み、祈るような姿勢を取る風花。
 そんなアイツを包み込むように影が――完全な形となって顕現する。

「ペルソナ……やはり山岸は……」
「――――見える。私、あの怪物達の弱いところ、なんとなくだけど、見えます」
「思った通りだ。美鶴、バックアップは彼女が代わる。お前と岳羽は下がっていろ」

 真田の指示に二人が下がる。

「指示をお願いします!」
「分かった。山岸さん、あのシャドウの弱点を探って!」

 ずんぐりむっくりのシャドウと、のっぽのシャドウが迫る。
 奴らも直感的に悟ったのだろう――――風花が脅威だと。

「させるかッッ!!」

 カルキを盾にして二体の攻撃を防ぐ。
 決して軽くはない衝撃が俺の身体を奔るが、この程度慣れっこだ。

「! 左のエンプレスは物理攻撃が弱点! 右のエンペラーは属性攻撃です!」
「了解、裏瀬くんと真田先輩はエンプレスを、私とジュンペーはエンペラーをやるよ!」

 リーダーの号令に了解を返し、一番槍として俺達が前に出る。

「ポリデュークスッッ!!」
「吹っ飛ばせカルキィ!!」

 二体のペルソナがそれぞれの武器である拳と剣を用いてエンプレスを狙うが、

「庇った!? 二人共、攻撃を止めて!!」

 エンプレスの盾になるようにエンペラーが立ち塞がる。
 公子が叫ぶが――――もう遅い。
 攻撃を途中で止められるはずもなく、ポリデュークスの拳が先に着弾する。
 不思議な力場で衝撃を掻き消され、ノーダメージ。
 そして俺のカルキの剣が少し遅れてヒットするのだが、

「――――は?」

 予想外の事態が起こった、漏らした声は誰のものか。
 カルキの剣はエンペラーの身体を抉り飛ばしたのだ。
 奴が物理攻撃を無効化するという情報は確かなもので、現に真田の攻撃は散らされた。
 だと言うのにカルキの攻撃は通った、これはおかしな事態だ。
 当事者である俺すら一瞬戸惑ったのだ、他の連中の動きが止まるのも仕方ない。

「順平攻撃! ケルベロス、アギラオ!!」

 だが、唯一公子だけは指す手を間違えなかった。
 どんな理由にしろこれはチャンスなのだ、攻撃しないわけにはいかない。

「え? あー……ヘルメス、こっちもアギだ!!」

 地獄の番犬と盗人の守護神から火球が放たれ、エンペラーを火達磨に。
 半身を抉られ、全身を炎に包まれるその姿は――――後一押しで崩れる。

「そっ首刎ね飛ばせェ!!」

 エンプレスが何かをする前にカルキに命じ、エンペラーの頸を刎ね飛ばす。
 そして返す刀でエンプレスの肉体を切り裂く。

「今がチャンス! 一斉攻撃いっくよー!!」

 怯んだエンプレスを見て、畳み掛けるように公子が命じる。
 ペルソナ、そして俺達自身をフル活用してのタコ殴り。
 巻き上がる砂塵の中で削り殺されるエンプレスには思わず同情してしまいそうになるが――

「目標沈黙、私達の勝ちです!」

 勝ちは勝ち、これで万事落着だ。
 その時だった。

「…………ッッ!」

 ――――心臓がこれ以上にないほど脈打ったのは。
 何かから解き放たれたような、吊り橋の板を一枚踏み抜いてしまったよう、そんな不思議な感覚が俺を満たす。
 ふと宙を見ればカルキの身体から何かが零れ落ちていた。

「……鎖?」

 巻き付いていた鎖が三本ほど千切れたのだ。
 これは一体――――

「敵、他に敵は……」
「大丈夫だ。もう心配はない」

 風花と真田の声で、思考の渦から引き戻される。
 考えたところで分からないのだから、今はひとまず置いておこう。

「風……花……あんた……」
「け、怪我はない?」

 ああ――――風花は俺なんかよりよっぽど強い人間のようだ。
 さっきもそうだが、今も尚森山を気遣っている。
 俺なんかにゃとても真似出来そうにない。

「う、うん……」
「良かった……」

 安堵の笑顔を浮かべた刹那、風花の身体がよろめく。
 咄嗟に近付いて抱き留めるその胸に顔を寄せる。

「風花!?」
「……鼓動はしっかりしてる。疲労だ。そこまで取り乱すこっちゃない」
「風花……あ、あたし……!」

 森山は心底から風花を気遣っている。
 乱心してた時は気付かなかったが、コイツは……コイツは普通の人間だ。
 影時間が終われば総てを忘れる。
 けど――――もう大丈夫だと思う。
 最初っから、俺が出しゃばる必要はなかったのかもしれない。

「すまん、俺は先に帰らせてもらっていいか?」
「ああ。一人で大丈夫か?」
「問題ない」

 そのままエントランスを出て外へ出ると、忌々しい程に輝く月が街を照らしていた。
 …………何故だろうか、満月を見ていると心がざわめく。

「ん?」

 風花を抱いたまま歩き出そうとしたが、

「どうしたよ?」

 背後からの視線に足を止められる。
 視線の主は岳羽だった、彼女はしばしの逡巡の後に頭を下げる。

「あー……その、さ。何かごめん」
「はい?」
「裏瀬にとって山岸さんはそれだけ大切だったんだよね。だから、あんなことも平気でやった。今のアンタ、すっごく優しい顔してる」

 バツが悪そうな顔で謝罪を述べる岳羽――律儀な女だ。

「変に距離取ったってか……うん、ホントごめん」
「ありゃ俺の自業自得だ。避けられるような真似をした俺の非。岳羽達は悪くねえよ」
「まあ、そうだけどさ。でも、ちゃんと謝っとかないと気分悪いし」

 照れ臭そうに笑うその顔は――とても綺麗だった。

「じゃ、気を付けてね?」
「おう、サンキュ」

 今度は振り返らずに歩き出す。
 棺桶だらけの街を歩くのはどうにも変な気分だ。

「ん……」

 学校と家の半ばほどの地点で風花が目を醒ます。
 このまま眠っていてくれても良かったんだがな。

「おはよう」
「キー……くん?」
「ああ、俺だよ」

 寝ぼけ眼のまま気の抜けた声を漏らす風花、その顔はどこか晴れやかだった。

「説明はさ、後日ちゃんとした場でやるだろうから今は休め」
「うん……」

 腕に感じる重みが尊いものだと強く思う。
 自分には手の届かないものだから余計に……

「なあ風花」
「何?」

 美鶴らは風花を取り込もうとするだろう。
 そうなればコイツは家から離れられると思って喜んで入部するはずだ。
 けど、もしも拒否した時は――

「――――俺の家に住まないか?」
「ふえ!?」

 両親には俺が話をつけてやってもいい。
 何なら学費、生活費だって出しても構わない。
 それぐらいを捻出出来る程度には金を持っている。
 親の遺産と、それを種銭にして色々稼いだ俺自身の資産、余裕は十分にある。

「ほら、俺って留守がちだろ? たまに部屋に来ているんだろうし……いっそ住んでもいいんだぜ?」

 俺は別にホテルでもエスカペイドでも、どこでだって暮らせる。

「……何か今日のキーくんは、優しいね。子供の頃に戻ったみたい」
「いっつもは優しくないってか?」
「ううん。そんなことないけど……素直じゃないもん」

 静かな夜、俺と風花の声以外に音はなく、世界で二人きりになったみたいだ。

「ねえキーくん」
「ん?」
「一つワガママ言っていいかな?」
「何だ?」

 風花がわがままを聞いてくれなんて珍しい。

「朝まで、たくさんお喋りしたいな。キーくんの部屋で子供の時みたいに」
「……ああ、気が済むまで付き合ってやるさ」 
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