| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

花天の椿

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章 終わる日常

 
前書き
今回は少し短いです。 

 





第三章 終わる日常






(ただの、飲み会じゃねぇか)


三河郊外にある、食堂の一室でため息をつく、椿
本多・忠勝らと、合流した後にこの食堂に訪れ今では大人組は、すっかり飲み会のムードになっていた。


(護衛って言うから、来たけどぶっちゃけ帰りたい)


椿は、今日何度目か解らないため息をついていた。


「それにしても、椿お前腕上げたなぁ」


酒ですっかり、出来上がっていた忠勝の言葉に苦笑を浮かべる椿


「まぁ、毎日鍛えてるんでね、つーか自分の娘をつっかけないでくださいよ旦那」


笑い続ける忠勝に、呆れる椿
すると、忠勝の後ろに座っていた二代が、小さく手を上げる。


「父上、出来れば改めて紹介を」


二代の言葉に、酒井が答えた。


「あぁ、そうだねそれじゃあ改めて、俺は酒井・忠次ね一応平四天王の実質的リーダー、学生の頃は殿先生が学長兼生徒会長で、俺が総長で君のお父さんが特攻隊長ね」


忠勝が酒井の言葉に、ツッコミをいれ、忠次は次に榊原をからかっていた。そんな三人の姿を見て二代は苦笑を浮かべ、椿は呆れていた。


「そして、俺の後ろで仏頂面で座っているのが、刻風・椿ね」

「変なこと言わないで下さいよ……つーわけで、俺が刻風・椿、一応一回だけ顔会わせたるんだけど、おぼえてる?」

「Jud. 久しぶりで御座るな、椿殿」


椿に頭を下げる二代に椿は、少し戸惑ってしまっていた。


「つーか、結局今日伊井の奴は来ないのか?」


松平四天王、この場にはその内の三人がいるが、もう一人伊井の姿が無いことに疑問を、抱いた酒井が忠勝達二人に問いかける。


「あぁ、伊井君なら………」

「榊原、他言無用だ」


答えようとした榊原を忠勝が止める、そんな二人の姿に椿が違和感を覚える。


(同じ四天王の、忠次さんまでにも内密ってどういうことだ?)


椿は表情に出さないように、考えていた。
すると、店の外少し遠くからこちらに、近づく足音がきこえる。
二代が出口の方を見て


「鹿角様」


Jud. と答え座敷の上がり口で足を止めたのは、長身の侍女服姿のの自動人形、鹿角だった。
そんな、鹿角の姿に酒井が悲鳴に似た声を上げる。


「げぇ、鹿角………!」

「Jud. 下らない、誰かと思えば酒井様ですか」


半眼の視線を酒井酒井にむける鹿角 、すると鹿角は酒井の後ろに座っていた椿に気づく


「おや、今日は椿様も居たのですか」

「お久しぶりです。鹿角さん」


先ほどの酒井に向けた視線とは、違い少し優しい視線を椿にむける鹿角


「あからさまに、態度違うなお前」

「Jud. 当然です、若い未来ある少年少女に対してサービスもせず酒飲みとは、大した大人だと判断できます。二代様、速くお屋敷にお戻りを、そして椿様速くそんな男の側から離れる事をオススメします。」

「………ダっちゃん相変わらず、この女ダっちゃんとこ?」

「しょうがねぇだろ、こいつが一番女房の料理再現出来るし、剣筋再現出来るんだから」


Jud. と頭を下げる鹿角


「現在は、私が二代様の基本師範を努めています。二代様も年頃の女性ですが、忠勝様ときたら、お風呂入ろうなど、焼き肉食べようなど、かなりダメなので………情けない」

(相変わらずだな、この人)


椿の見るかぎり自動人形で、ここまで口が悪いのは鹿角しか居ないだろうと思っている。


「まぁ、ダっちゃんのダは、ダメ人間のダ、だからなね」


酒井が笑いながら言った、その瞬間酒井の眼前、右目の正面三センチの所に焼き鳥の竹串が浮かんでいた。
鹿角による重力制御だ。


「忠勝様の侮辱は許しません」

「ダっちゃん、この女相変わらず、自分は良い、他は駄目の、鬼ルールかよ」

「忠次さんも、いい加減解ってるでしょ」


相変わらずの、やり取りを見て椿は呆れ果てていた。
すると鹿角は、一礼をして告げる。


「それよりも、忠勝様そろそろ、二代様の船の用意をお願い致します。」


鹿角の言葉にJud. Jud. と立ち上がりながら言葉を返す忠勝
そして、椿と酒井に背を向け、こう言った。


「では、我はここまでだ、この先、しっかりやれよ」


ただのコトバノはず、だがその言葉が何故か椿には、重く感じていた。







「それじゃあ、俺も先に帰ります。」


空が少し黄昏色に染まる頃、店の前で椿は堺と榊原に、頭を下げていた。


「ん、気をつけて帰れよ」

「Jud. それでは」


そう言うと椿は、二人に背を向けて歩きだす。
三河の関所までは、距離はそんなに離れていない、この分なら夜にある幽霊払いにも間に合うだろうと、そんなことを考えていると、椿はあることに気づく


(そう言えば、三河に入ってからあまり人を見ていないな)


考えてみると、今日三河で会ったの本多親子と、榊原あと数人ぐらいしか椿は見ていないない
何故か椿の中でそれが、気になってしまっていた。


(何か嫌な予感がする)


三河に来る時に、正純が言った事、そして人の少ない三河
考えすぎなのかもしれない、だが椿心は晴れない。


(気のせいだよな。)


自分に思い込ませ、椿は武蔵を目指す。







空はすっかり夜の闇に包まれていた頃
武蔵アリアダスト教導院に続く道を、椿は歩いていた。
時間的には、少し遅刻しているためか少しはや歩きに、なったいる。


やっとの事で門をくぐり、校舎の前にある橋の階段を上がると、そこには三年梅組の生徒たちがいた。


「あれ、まだ始まってなかったの?」


三年梅組のみんなは、浅間を中心に円を描いて座っていた。
てっきり、椿はもう始まっていたと、思っていたので少し驚いていた。
そんな中、椿の問いに浅間が答えた。


「えっと、今皆に、公主隠し、について話していたんです。」

「………公主隠し?」


公主隠し、一般的には公主様という人影が、子供をさらったり、町に落書きを残すといった都市伝説だ。
公主隠しが、普通の神隠しと違う点は一つ、公主隠しは全てがきえるのだ。
神隠しは、消えた人間の存在は消えることはない、しかし公主隠しは魂も身体も、持ち物も完全に消えてしまうのだ。
ここ極東では、去年に一件起きている。
三年梅組の本多・正純の、母親だ。
そのため今でも、公主隠しについては皆が警戒していることなのだ。


「つーか、大将は?」


公主隠しの事を、考えていたが椿はその場に今回の主役が、居ないことに気づいた。


「トーリ君なら今……」


すると、皆の後ろの校舎のの扉が開き、中からトーリが現れた。


「オッケー! 遅れた、悪い悪い!」


そっちかよ、という皆の顔を前に、彼は笑みの顔で校舎内の闇を示し、


「速く来いよ、暗くて面白いぜ!!」

「隠す気ねぇな、オイ」


トーリを見ながら、静かに呟いた。







校舎内、後側棟の側、一年クラスの多い一階右舷側の廊下を歩いていた椿達は、爆発音を聞き足を止めた。


「トーリ、何を仕込んだ? 金に繋がるか? それとも貴様、死ぬか?」

「つーか、爆発って何だよ!? 冗談じゃねえぞ、大将!?」


シロジロと椿は、トーリの肩を掴みトーリを揺さぶる。


「おいおいシロ、俺ばっか疑うなよ、俺何も仕込んでねぇよ」

「本当か?、絶対だな?、金賭けるか?」

「あぁ!? 何だよお前ら!? まぁーた俺を疑うのかよ!?」

日頃の行いの差だろ、という思いを皆抱いていたが、誰も口には出さなかった。
すると、再び爆発が起き、天井の埃が舞う
そして、その光景を見て再び椿とシロジロは、トーリの肩を掴む。


「ふざけんな!? そろそろ真剣に、命に関係してくるぞコレ!?」

「貴様!? 誰に頼んだ! ちゃんと金で済む相手なんだろうな」

「そこかよ!? シロ」


シロジロの性格にツッコミを入れる椿
すると、前方で三度目の爆発が起きる


「コレ、見に行った方が良いよね?」


ハイディの、言葉に椿と東が首を横に振るう


「解った、じゃあお前ら見に行ってこい、俺ここで見張っとくから」


トーリがふざけた、事を行っているとシロジロとハイディが、トーリの両腕を掴む


「………え? 何してんのお前ら」


戸惑うトーリ、状況についていけない東
それらを無視して、椿は勢いよくトーリの背中にドロップキックを決める。


「うわぁ!? 総長が!」

「気にしない方が良いよ、東君」


勢いよく飛んでいくトーリを無視して、椿とシロジロは出口を目指して歩き始める。






爆発を避けて、校庭に出ると既に皆がいた。
爆発の、原因は浅間達がやった事だと判明した。
椿は校庭に腰を下ろし、ノリキから貰った水を飲んでいた。


「無駄に疲れた。」

「全くだ。」


ため息をつき二人は、立ち上がり皆の方へ歩きだす。
すると、女の子の泣き声が響く
見ると武蔵王ヨシナオと鈴の姿が、見えた。


「オイオイ、王様何やってんだよ」

「ま、待て麻呂、別に何も」


椿の言葉に、焦る武蔵王
するとさっきまで、泣いていた鈴がいきなり泣き止む
鈴は、両の耳に手を当てる、そして


「え………?」


眉をひそめる鈴に椿が武蔵王に、言う。


「王様、退け向井の邪魔だ。」


椿の言葉に武蔵王が何か言っているが、無視する。


「あ、あっち」


と、さげんの方角を見る、そこには各務原の三渓があり、その向こうの南側に三河の町がある。
武蔵からは、山で隠れているため、町の明かりが見えない
しかし、夜の闇を照らす光が生まれた。


「オイオイ、アレ炎じゃねぇか」


椿の言葉に周囲は驚く、その中で直政が呟く


「爆発じゃないかね」


その呟きに、応じるようにネシンバラが答える。


「あのあたり………三河を監視する聖連の番屋の内、一番高いとこのがある筈だよ。確か今朝は三征西班牙の生徒が詰めていた筈だけど、何だろう、事故かな、火災とかの。………下の番屋はこっちからは見えないけど、気づいていないのかな」


だんだん、皆の顔に不安の色が浮かぶ。すると


「おーし! 続きは今度だ!!」


トーリの言葉にヨシナオ以外の皆が頷いた。
すると、皆は各々帰り始めた。
椿は、三河の状況を確認するため酒井に連絡を、とろうと携帯を取りだし番号を打とうとしたとき
ふと鈴の声が耳に入った。


「あ、あれ………その」


皆が鈴の指差す方を見た。そこにいる、一人の少年を


「…………余?」


東は一人鈴に、指を差されていることに、首を傾げた。


「ええと」


東に変な所はない、なのに皆がこちらを見ている状況に焦る


「余! じゃなくて! 後ろ!!」


トーリの言葉に東は、言われた方向を見る。
そこには、東の征服の裾を握る小さな少女がいた。
しかもその少女は


「透けてる………?」


身体の全てが透けていたのだ。


「パパ、いないの………」


そして少女はうつむき、


「ママ、見つからないの………」


迷子か、と東は納得していた。
そしてその東の代わりに、皆が叫ぶ


『で、出たぁーーー!!』






と、その瞬間、皆の後方、三河の方角から大きな光が生まれた。
その光は、言葉にするならまさしく光の柱だった。


「何だよ、アレ?」


皆を代表してトーリが、呟く
だが誰も何も答えられなかった。
たった一人を除いて


「アレは、方向的に三河? いや、まさか!?」


椿の声に焦りが混じる、
そんな椿に浅間が問いかける。


「何があるんです? 椿君」


椿の表情を見る限り、ただ事ではない、ということは皆にも解っていた。


「俺の予想が正しければ、あの光が出ているのは三河の地脈統括炉………そしてあの光の原因は恐らく」


椿の額に汗が浮かぶ、ゆっくりと言葉を紡ぐ


「地脈の暴走、しかもあの光を見る限り、このままじゃあ恐らく…………三河が消滅する」


椿の小さくだが、はっきりと紡がれた言葉に皆言葉を失う。



この日、この瞬間、椿達の日常は、静かに終わりを告げていた。
















 
 

 
後書き
何とか更新出来ました。
少し短めです。
そして次回予定では花天狂骨が登場すると思います。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧