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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter36「理想と真実の物語~プロローグ」

 
前書き
皆様本当に大変長らくお待たせいたしました。

最終更新以降、昨年12月上旬から私が利き腕を骨折してしまい、
キーボードをうつことができなくなっていました。

左腕だけでキーボードをうとうとやってみましたが、自分には骨が折れる作業のようで
回復するまで、更新を控えておりました。

私の作品を心待ちにしていた読者さまには大変ご迷惑をおかけいたしました。


では最新話をどうぞ・・・





 

 
「う、うーん……」
「はやてちゃん!」
「起きて、はやて!」

聞きなれた声に呼び掛けかれ、はやては目を覚ます。

「なのはちゃんにフェイトちゃん?そういえば私ら……」

覚醒して間もない意識ではあるが徐々に気を失う前の出来事を思い出す。
忍者装束のブイオと名乗る少女が自分達を襲撃し、更に骸殻を使用してルドガーと戦い、骸殻能力を使っての激戦を繰り広げる最中、2人の力の源である時計が光を放ち謎の空間が展開されて間もなく空間が崩壊した。
落ちて落ちて気が付いたらこの真っ白な空間で気を失っていたというのが、はやてが覚えている事だった。

「そうや!みんなは無事なんか!?」
「皆は無事みたいです。ちなみにはやてちゃんが一番最後にお覚まざめですよ」

はやての心配にシャマルが答える。周りを見るとシャーリーを中心にフォワード達と自分の守護騎士達が既に目を覚まして、この空間の調査を行っていた。こういう状況で医療に携わる人間が説明するとやはり、安心感がわく。

「そういえばルドガーは?ルドガーの姿見えへんけど?」

目に入ったメンバーの中に、ルドガーの姿がなかった事に気付く。

「一応この場所を見失わない範囲だけでアイツを探して見たけど、見つからなかった」
「この空間は限りなく続いていて先が全く見えません。その上思念通信も通じませんので、クルスニク
の捜索で下手に動いては、今度はこちらがこの場所を見失い兼ねません」

ヴィータとシグナムの話しを聞く限りでは、ルドガーの捜索は極めて困難だ。
フォワードとシャーリーを呼び戻し、これからどう動くか話し合う。

「八神部隊長……あのう、ルドガーさんは……」

フォワードを代表して、ティアナがはやてにこの場に居ないルドガーの事を質問する。
突然巻き込まれた状況でも、決して取り乱さずフォワード達は自分達の今やれる事をはやてが気を失っている間に行っていた。それも、今自分達が立たされている状況を知る事よりルドガーの事を優勢させた事に、はやては彼女達が肉体的だけでなく、内面的にも成長している事を実感する。

「ルドガーなら大丈夫や。きっと今頃呑気に自分が迷子になっとる事に気付かず、私達を捜してるはずや」

「「「「「あ、あははは」」」」」

本当にそんな事になってそうだ。はやての話す事に一利あると納得するフォワード達。
自然と表情が柔らかくなるのを見て、はやても気が楽になる。

「み、皆っ!あれ!」
「な、なんや?」

フェイトが指差す方角に全員の視線が集中する。

視線の先にある白い空間の景色が新たな色へと塗り変わっていき、ある風景を映し出していく。

海に浮かぶ幾つもの帆を張る船。

海の上に建つ巨大なトンネル状の橋。

どれも見た事のない建築物や文化が印象的だったが、それらを利用するであろう人の姿が1人も見当たらない事に皆疑問を持っていた。

そんな時、金属を強くぶつけたような音をはやて達は耳にして、そちらに視線をやる。

ルドガー?」

金属の音の正体は剣と剣が斬り合った音だった。
それもその音源はルドガーで、今彼は表情が影に被われた白いコートの男と刃を交えていた。

「ちょ、ルドガーアンタ何してるんや!?」

だがルドガーははやての声が聞こえないのか、全く見向きもせず白いコートの男に斬り掛かる。

「あー!もうっ!」
「主はやて、何を!?」

声が届いていないのだと思ってはやては、騎士甲冑を纏いルドガーの前に立ち、その双剣をシュベルトクロイツで受け止め、戦いを止めようとするが……

「え?」

シュベルトクロイツを構えるはやてをルドガーはすり抜け、白いコートの男と戦いを続ける。

「幻影!?」

幻術魔法を持つティアナは今行った現象をフェイク・シルエットの類いに見えたのだろう。
だが幻術にしては動き繊細な為、戦うルドガー達が幻術の類いではないと直ぐに見抜く。

『はぁっ!』
『うわっ!?』

白いコートの男に剣を弾き返され、一度距離を取り様子を伺うルドガー。
影の上から不気味な輝きを見せるメガネが、白いコートの男から出ている異様なプレッシャーと凄まじい殺気に歴戦の勇士であるシグナムやヴィータ、ザフィーラ、シャマルは首筋に汗を流す。

『くっ!』
『ふっ……同じ構えか。やはり兄弟だな』

「なっ!?」

それは誰の声だったか。

白いコートの男の発した言葉に一同、耳を疑ってしまう。

確かに白いコートの男の双剣の構えはルドガーと酷似しているが、まさかそれが話しだけは聞かされているルドガーの兄ユリウスだとは想像できるわけもない。

そしてはやて達はわからない事があった。

何故、兄弟で本気の殺意をぶつけ戦っているのか?

(まさか……)

ティアナはついさっきルドガーが自分に告げた一言を思い出していた。

“俺が……殺した……”兄を自分が殺した……確かにルドガーはティアナにそう言った。

この戦いを見てその時の事を思い出し出される。

『だが……!』

ルドガーは兄が話し終えるのを待たずに再び斬り掛かる。

『力は天地の差だ!この程度で“審判”に 関わろうなどと……笑わせるなよ、ルドガー!』

力は天地の差……ユリウスの話すとおりだ。
あのルドガーが全く相手になっておらず、軽くあしらわれている。
それにユリウスはまだ一度も自分からルドガーに斬り掛かっていない。

肩膝をついたルドガーは立ち上がり、ユリウスに三度斬り掛かる。

『だああっ!』

ユリウスはたった一度だけ剣を受けると、ルドガーの後ろに回り込み、ルドガーを左脚で軽く蹴り飛ばす。

『あう……っ!』

態勢を崩したルドガーに攻める事なく、ユリウスは語る。

『“審判”は残酷だ。耐えようもないほど』

語り続けるユリウスにルドガーはただ正面から斬り掛かるが、やはりその刃がユリウスに届く事はない。

「審判?」

度々出るユリウスの審判という言葉に反応するフェイトだが、そのワードが何を示すのかは情報が少ないこの状況では予想がつくはずもない。

『人は脆弱だ。世界を壊すほど……そう……これは呪いだ!』

ユリウスは語る……まるで途方もない宿命に対して呪いを掛けるかのように。

ルドガーはがむしゃらにユリウスに剣を振るうが、やはり何も変わる事はなく、逆に反撃を始めたユリウスを前に劣勢になっていく。

『呪いを刻む歯車は継承される屍の鎧。其は時空を貫く槍にして鍵!魂は無の玉座で流転し、歴史の枝は無限に分岐する!』

ユリウスの指す言葉の意味は六課メンバーにわかるはずもないが、一部の者は何か途方もない事だと抽象的ではあるがそう解釈していた。

『うう……』

ユリウスの猛攻の前に歯が立たないルドガー。
既に肩で息をしており、もう余裕など全くない。
だがそれでも立ち上がりユリウスの剣を受け止め、戦う意思を見せる。

全員が考える。

何故ルドガーはこうも必死になり戦っているのか……そして、クルスニク兄弟がこうまでして戦う理由とはいったい何なのかと……。

『必要なのは『選択』……命を、世界を、己のすべてを賭けた『選択』だ!』

凄まじい剣捌きの前にルドガーは弾き飛ばされ、倒れる。

それは完全な隙となり、ユリウスは大技の構えを取ると、ルドガーに素早く迫り容赦なく斬る。

『お前に出来るのか!『選択』が!『破壊』が!審判を超え…答えろ!ルドガー・ウィル・クルスニク!』
『うわああああああああああ!!!!!』

「きゃっ!!」
「キャロ!」

斬りつけられ、断末魔の叫びを上げるルドガーを見せないように悲鳴を上げるキャロを庇うエリオ。
他の人間もキャロ程ではないにしろ、殺されるルドガーから目を反らしたりして見ないようにしていた。当然だろう。見知った人物が目の前で殺される光景など、余程情がない人間でもない限り、見たくはないと思うのが普通だ。

「殺された……?ルドガーが?」

再び現れた白い空間で目の前で起こった惨劇を思い出し、唖然とするはやて。
愛する人間が目の前で……それも唯一の家族だという兄に殺された。
これまで感じた事のないドス黒い感情がはやての心を支配しようとする。
だが寸でのところでそれを抑えこむ。
そしてまた、風景が移りかわっていく。

生活感ある一室でベットに横たわっていたルドガーが飛び起きるように目を覚ます。

『ナァ~!』

ルドガーの枕元に座る立派な体格の猫が、おはようとでも言っているかのように鳴く。
そこで、丁度猫の後ろのベットに設けられた棚に置いてあるデジタル時計を手に取って時間を見る。

『うあっ!?』

時間を確認したルドガーはベットから慌てて飛び降り、自室から出ていった。

『ナァ……』

一匹部屋に残された猫は、呆れたように鳴くとルドガーのベットの上で眠る事を再開した。

「もしかして、これって……」
「うん、間違いない……これは……」
「ルドガーの記憶……!」

なのはとフェイト、はやては確信した。
今まで自分達が見ていたものは全て、ルドガーの過去の記憶なのだと。
そうとしかもう説明がつかない。
さっきのあの戦いはルドガーの夢だったのだろう。

場面は移り、自宅のマンションを出たルドガーはどこかの洞窟らしき中を走っており、黒ずくめで仮面を着けた男を従えた兄ユリウスの前に、息を切らして立つ。

『ギリギリだな、ルドガー。お前、これがクランスピア社の入社試験ってわかってるんだろうな?』
『わかってるよ、兄さん』

息を整えたルドガーはユリウスと話しを始める。

『兄さんはよせ。今日の俺は、お前の試験官だ。クランスピア社の試験は、コネでどうこうなるものじゃないぞ』

エリオとキャロは以前ルドガーからクランスピア社に入社するのが、非常に難しい事だと聞かされ事があったので、過去の記憶で既に起こった出来事とわかってはいるが、これから試験に臨むルドガーを心の中で応援する。

『………』
『どうした、妙な顔して?』

ジーっと暗い顔で自分を見つめる、ルドガーが気になったユリウスはその理由を尋ねる。

『……兄さんに殺される夢を見たんだ』
『俺が、お前を殺した……?』

それまでとは違い少し低い声で心当たりがありそうな風に話すユリウスに、はやてはルドガーの見た夢の意味をユリウスなら知っているのではと期待してしまうが……

『ま……お前が俺のトマトシュークリームを勝手に食ったら、そうなるかもな?』
『ぬっ!?』

返ってきた内容はとても平凡なもの……いや、一部おかしなものが入っていたような気がするが、今はいい。

「この人が、ルドガーさんのお兄さん……」
「うん。ユリウスさんっていうらしいよ」

さっき見た夢の中のユリウスと大分印象が違う事に本当にこの人物がルドガーの兄なのか疑ってしまうが、はやての言葉とどことなく見え隠れするルドガーと似た感覚を感じたティアナは、この人物がルドガーの兄だと納得する。

『さあ、今は夢より現実だ。試験を始めよう』

兄としての会話から、試験官として試験内容の説明に入る。試験範囲は地下訓練場内限定で訓練場から出たら失格だというものだ。

『武器は、これを使え』

ユリウスはクラン社エージェントに支給される双剣、クランデュアルを手渡す。
ルドガーはそれを受け取り慣れた手つきで、回すと同じみの構えをとる。

『ふっ……同じ構えか。やはり兄弟だな』

ニュアンス違うがそれは皮肉な事に夢で見たユリウスが口にした一言と同じだった。

『内容は実戦テストだ。時間内に訓練場内に放たれた魔物を五体倒して戻ってこい。試験中の負傷は、すべて自己責任となる。いいな?』

そう試験のルールを説明すると、緊張するルドガーの肩に手を置く。

『まぁ、試験官は、お前の兄貴だ。死にはしないよ』

その一言でルドガーの表情が和らぐのをティアナは見て、ルドガーも緊張する事があるのだと当たり前なのだがそれを知る事で親近感がわく。

『笑ってる暇はない。来たぞ!』

ルドガーの前に斧のような嘴を持った鳥の魔物CSアックスビークが現れ、ルドガーは戦いを始める。
六課メンバーは初めて魔物を目にする事になった。
現れたCSアックスビークを倒すと、移動し次々と訓練場内のCSアックスビーク部隊を駆逐していく。
その姿を見たフォワード一同は勿論、なのは達隊長陣もルドガーが試験に合格する確信を持つ。

魔物部隊を全て討伐して、放送で指示を受けルドガーはユリウスの元に戻る。

『きゃああ!』
『!?』

戻って暫くすると、直ぐ傍で女性の悲鳴が聞こえ、悲鳴が聞こえた方角を見る。


そこにはCSゲートキーパーという魔物が、クラン社の女性社員に襲いかかっていた。
試験課題に含まれていない事態に一瞬戸惑うルドガーだったが、双剣に力を込め掛け声を上げながら女性を助けようとCSゲートキーパーに立ち向かっていった。

『鳴時雨!』

戦いが終わり、辛勝ではあるがCSゲートキーパーを倒し女性を助けることができた。
過去という事だけあってルドガーの動きを見てシグナムは、今よりも未熟さが目立っているように感じていた。

ルドガーは助けた座り込む女性に歩み寄り手を貸そうとするが……

『ありがとう、助かりました……』
『なっ!?』

助けたはずの女性がルドガーの喉元にナイフを突き付ける。
これにはルドガーのみならず、六課メンバーも驚かずにはいられない。

『騙し討ちは実戦の常套手段だ。いきなり女性が現れたことに疑問をもたなかったのか?』

驚いているルドガーにユリウス達が近づき、そのように告げる。

『これは、お前の判断力を見る試験だったんだよ』

クラン社の入社試験に、スバルとティアナの魔導師ランク試験の試験官を担当したなのはは、試験のレベルが適性試験にしては高すぎる印象をユリウスの言葉を聞きながら感じていた。

『ルドガー・ウィル・クルスニク。不合格だ』
『………』

ユリウスから告げられた厳しい結果にルドガーは顔を落とし落胆する。

「おいおい、これどう考えても適性試験にしては厳しすぎだろ?実戦経験のある奴でも百人が全員見極められないぞこんなの」
「そうだね。ルドガーの判断力を試す方法ならいくらでもあったはずなのに……」

(まさか、この男……だが、そんなことをして何なの得くになるのだ?)

ヴィータとフェイトが話す横で、シグナムはユリウスのルドガーを不合格にした真意が、単に能力不足だけではないのではと詮索し、意図的にユリウスがルドガーを不合格にしたのではと考えたが、そう考える根拠がないため何も話せなかった。

クランスピア社の試験に落ちた後、不合格の結果を引きずりながらもルドガーは仕事を探して、トリグラフ中央駅の食堂でのコックに就職する事ができた。
ここから戦いとは無縁そうなコックからどうやって、落ちたクランスピア社のエージェントに再就職できたのか、この時の六課メンバーに想像もできるはずもない。

『ナァ~!』

トリグラフの朝。
リビングのテーブルで2つの金と銀の懐中時計のメンテナンスをするユリウス。
そんな彼に飼い主にかまってほしいとルルがユリウスの前で甘え、ユリウスはそれに応えお腹を撫でる。

「す、すごいお腹……」

写真で見たルルは記憶とはいえ、実際に目にしているのと同じであり、スバルはルルの立派に出たお腹を見てそう感想を漏らす。
どれだけ旨いものを食べさせたらあそこまで大きくなるのか、六課メンバー全員の疑問だった。

『おーい、ルドガー!いつまで寝てるんだ』

自室で鏡を見ながら身仕度をすまする、ルドガーにユリウスが声を掛ける。

『初出勤だっていうのに、いい度胸してるよ』

ユリウスの話すとおり、今日からルドガーは駅の食堂での仕事が始まる。
ルドガーと出会ってから思っていた事だが、どうも彼は遅刻癖があるようだと、この様子を見てはやてははっきりとわかった。

『兄として一言言っておくべきかな?』
『ナァー』

ユリウスと顔を合わせているルルが短く鳴く。

『お願いします、兄さん』
『そうあらたまられると緊張するが……』

立ち上がりルドガーのもとへ歩み寄る。

『やっと決まったコックの仕事だ。しっかりやりなさい』

元気づけるようにルドガーの肩に手を置くユリウス。
今の彼のルドガーに宛てた言葉は兄というより父親に近いものだったため、ガラにもない事を話すユリウスを見て笑うルドガー。

『笑うなよ』

肩に置いた手をルドガーの頭に置き、揺らし、直ぐに照れたルドガーがその手を払い除ける。

『まあ、お前の料理なら、駅の食堂で立派に通用するさ。毎日食ってる俺が保証する』

そう誉められる事は素直に嬉しいが、この時のルドガーはクランスピア社の事を引きずっており、心中複雑だった。

『ナァ~!』

尻尾を立てたルルがルドガーの足に擦り寄る。
そんなルルを見たルドガーの表情は柔らかくなる。

『ルルもハラへったってさ。メシにしよう』
『ああ』

頷くとルドガーはキッチンへ朝食を作りに向かう。

『シェフ、今朝のメニューは?』
『トマト入りオムレツ』
『お前……俺にはトマト食わせとけばいいって思ってるだろ?間違っちゃいないけどな』

はやてはユリウスが無類のトマト好きだとルドガーから聞かされており、2人の会話とキッチンに置いてある明らかに多すぎるトマトの数を見て笑っていた。

『ナァ~ン!』
『よしよし、ルルにはロイヤル猫缶……』

「ぷっ……!」
「か、顔見えないですよ~ぷっ!」

ルルを持ち上げたユリウスの顔が、ルルの巨体により殆ど隠れて見えないのを見て、はやてとリインは笑いを堪えられなかった。

『じゃなくて、カリカリでガマンしような。最近太ったし』

飼い主としてルルの健康を考えた結果、ルルを太らせない意味でロイヤル猫缶からカリカリを与える事にしたユリウス。太ったという言葉がわかるのか、ルルはユリウスに頬に爪を立てていた。
それをルドガーが見守る。
そんなルドガーの平穏な日常を見た六課メンバーは、ルドガーの見た事のない姿を見て微笑んでいた。
余談だがスバルやリインはルドガーの作ったトマト入りオムレツを見てヨダレを垂らしていた。

朝食を食べ終え後片付けを始めるルドガーと鼻歌を歌いながらまた時計のメンテナンスを再開するユリウス。それぞれのやる事をやりながらテレビから流れるニュースに耳を傾ける。

[政府とクランスピア社が共同出資する自然工場アスコルドが本日より操業を開始します。アスコルドは、エレンピオス最大規模の自然資源生産能力をもっており、その稼働による食料供給安定化に、各界から大きな期待がよせられています]

「自然工場ってリイン達の世界では聞かない言葉ですね」
「ルドガーの故郷エレンピオスは、自然が枯渇してるっていう話しやから、そういう工場が出来たんやろう……私達にはあまり実感は持てへんけど」

自然の枯渇や、食料不足なんて経験した事のないはやて達が実感がわかないのも無理はない。
もっともエレンピオスほど食料不足に悩まされる世界も早々あるわけでもない。

[本日十時、トリグラフ中央駅から式典用の特別列車が運行され、記念セレモニーには、クランスピア社社長ビズリー氏ら、多くの著名人が出席する予定となっています]

『特別列車……お前の勤め先から出発するんだな』
『うん』
『そういや、なにか欲しいものあるか?就職祝いってやつだ』

ルドガーは少しだけ考える。
その際丁度、ユリウスの手元にある金と銀2つの懐中時計が目に止まり、それが欲しいと思った。

『兄さんの時計が欲しい』
『……こんな古いのを?』

「あれ?金の時計ってルドガーさんの物じゃありませんでしたか?」
「そう言えばそうですよー」

かつて骸殻の説明を受けたシャーリーとリインはルドガーの物であるはずの時計をユリウスが持っている事の不自然さわ指摘する。ルドガーがユリウスにあげたか貸しているなら話しはわかるが、ルドガーは金の懐中時計が自分の物だと知っている素振りが見えないのはおかしい。

「何か裏がありそうやな」

はやてはユリウスが何かをルドガーに隠していると確信を持つ。

『時計なら、いい腕時計を買ってやるよ。ああ、ネクタイがいいかもな。駅で大勢の客相手に働くんだ。身だしなみは大切だ』

ユリウスは話しをすり替えるようにネクタイを就職祝いにしようと、ルドガーのネクタイを締め直す。

『っと、もう行かないと…!?』

仕事の時間に気付き、時計に手を伸ばした時、金の懐中時計が一瞬光り、実体が薄れる。
ルドガーにはその現象が見えていないので、目を細めしばし思案したのち、何事もなく懐に2つの時計をしまうユリウス。

『じゃあ、行ってくる。お前も急げよ。駅の人間が遅刻したら洒落にならないぞ』

そう話すとユリウスは外から出ていった。
それから直ぐ戸締まりを確認するとルドガーも部屋を出て、玄関の扉にロックをかけ、仕事に向かう。マンションを出てルドガーと六課メンバーの目に入った風景は、黒匣技術によって発展しているトリグラフの街並みとその中でも一際その存在感を持つ、クランスピア社のビルが目に入り、クラン社がルドガーの世界でどれほどの権力を持っているか、実感する。マンションを出て暫く歩くと、白衣を来た青年がGHS片手に立ち往生して誰かと通話している。

『取材したいっていったのレイアだろ。無理言ってバランさんにチケット頼んだのに、代わりに取材して?僕、どれが特別列車かもわかんないんだけど……なっ!?』

通話を切られたのか、驚く白衣の青年。はやて達はこの青年が何者なのか気付く。
ジュード・マティス。
ルドガーの仲間の一人だった青年だ。

『もう、どうしよう……』困り果てた、ジュードを見兼ねたルドガーは、親切心から話しかける。
『教えてやろうか?俺も駅行くし』
『え、いいんですか?お願いします』

2人は一緒に駅に向かう事になった。

これがルドガーとジュードのファーストコンタクトだった。

ジュードをトリグラフ中央駅まで案内して、特別列車がどのゲートから入るか教えていると駅内がざわめき立つ。
クランスピア社社長ビズリー・カルシ・バクーが現れたからだ。
一大企業の代表の風格からか、彼がホームに現れただけで空気がかわるのがはっきりとわかる。
秘書から業務連絡らしい報告を聞くと駅員の代表らしき人物案内され、ビズリー達は停車する特別列車に搭乗する。

ビズリーも乗った特別列車に搭乗する、別れ際に握手をしジュードを見送るとルドガーは挨拶を兼ねて改札口前にいる駅員に声をかける。

『すみません。立て込んでるので、迷子は事務所の方にお願いします』

駅員の返答の意味がわからないルドガーだったが、直ぐ後ろに少女が立っていることに気付く。
もう数名の六課メンバーも気付いているが、彼女はルドガーの運命を大きく変えるきっかけを作った少女、エル・メル・マータだ。エルは駅員のもとまで近づいて耳を傾ける駅員に耳打ちし、エルから何かを聞かされたのか、駅員は犯罪者を見るような目をルドガーに向ける。

『ちよっと駅員室に来てもらえるかね。女の子が、君に妙なマネをされたと言っているのだが』
『!?』

駅のロビーにいる利用客の視線が一斉にルドガーに集まる。
大の大人がエルくらいの年齢の子供に痴漢したと聞けば、目がいくのは必然だろ。
だがルドガーは痴漢どころかエルと今初めて会ったばかりで、全くの冤罪であり、それは彼の駅での動向を見ていたはやて達が証明できる。

その間に取り押さえられるルドガーを利用して、エルは改札をすり抜けて、口パクで謝罪すると何故か一緒にいたルルと列車に乗り込んだ。

はやて達は理解した。
エルは列車に乗り込む為に、ルドガーを囮にしたのだと。

『待て、逃げる気か!』

出勤初日に痴漢の冤罪で捕まり、社会的に死ぬ等たまったものではない。
ルドガーは感情のままに抵抗し、勢い余って駅員の顔を裏手で叩く。

『うああっ!』
『ぐうっ!』
『きゃあっ!』

乾いた音とがロビーに響くと同時に悲鳴が上がる。
そこでルドガーは自分が取り返しのつかないことをやってしまったのだと気付く。

『お前っ!』

後悔してももう遅い。
これでルドガーの就職は白紙に戻ったも同然であり、痴漢の罪と駅員に働いた暴力で最悪逮捕される可能性だってある。

あまりに理不尽な事に茫然と立ちつくすルドガー。

だが状況はルドガーやはやて達が想像が及ばないような展開へと移る。

駅の定刻を知らせるメロディーが流れると同時に、改札受付前に置かれた荷物が爆発し、煙が舞う中武装集団が現れ、辺りかまわず発泡し列車に乗り込んでいった。

「いったい何が!」
「テロか!」

突然起きた事態に動揺するスバル。
シグナムはこれがテロ行為だと見抜く。

うつ伏せで倒れるルドガーは、この場から立ち去るという選択肢もあったが、冤罪を自分にかけたエルと愛猫ルルの事が気掛かりで、面倒ごとに巻き込まれる覚悟で、改札口を飛び越え列車に乗り込む。



この選択で自分の運命が大きく変わる事を知らずに………


 
 

 
後書き
~暴露オマケチャット~

ルドガー「実はこの36話………………………………………………」

はやて「ルドガー?」

アインス「どうしましたルドガー?」



ルドガー「執筆自体は去年の8月下旬には完成していたんだ!!」

はやて&アインス「な、なんだなってぇぇぇ!?」


マジです。


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