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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百六十六話 拉致被害者解放への道

 
前書き
大変お待たせしました。
やっと調子も戻りはじめ去年以来書きかけだったこの話を完成できました。

 

 
宇宙暦794年帝国暦485年7月3日

■フェザーン自治領 帝国高等弁務官邸  ヨッフェン・フォン・レムシャイド

国務尚書リヒテンラーデ侯から突然の連絡が入った。

『卿一人じゃな?』
「はい」
『防諜は完璧であろうな』

「はい」
そう言うと、リヒテンラーデ侯はゆっくりと話し始めた。
『今年の暮れまでに、叛徒との俘虜交換を行う事に成った』

前回同様に捕虜交換とは。

その後のリヒテンラーデ侯の話を聞き、此ほどの事を任されるとはと年甲斐なく興奮してしまった。

早速に動かねば成らんが、叛徒の弁務官は役に立たないであろう。しかしそれでも話はせねば成らぬ。何より俘虜交換は皇帝陛下の思し召しなのだから。




宇宙暦794年 帝国暦485年7月16日

■フェザーン自治領 帝国高等弁務官邸  ヨッフェン・フォン・レムシャイド

リヒテンラーデ侯の話の後、フェザーンに築いた人脈を使い向こうの弁務官に俘虜交換に関する書簡を渡した。しかしあれから2週間が経ったが、全く反応がない状態だ。やはり途中で握り潰されているのか、ルビンスキーにお伺いを立てているのであろう。正にリヒテンラーデ侯の予言通りだ。此処まで虚仮にされた以上最早容赦は要らぬな。

そう考えながらも、同盟とルビンスキーの鼻をあかしてやろうと、レムシャイド伯はほくそ笑みながら、テキパキと部下に指示を与えていった。

その日の内に、翌17日、帝国高等弁務官事務所より重大発表が有るとマスコミ各社に連絡が為された。嘗ての帝国ではあまりない事であったが、昨今のフリードリヒ四世の開眼による帝国の変わりようなどを知っている多くのメディアが今回も相当な事が有ると殆ど全てのメディアが参加を表明した。更に会見その物をTV中継を行う事も許されたのである。



宇宙暦794年帝国暦485年7月17日 午前10時

■フェザーン自治領 帝国高等弁務官邸  

レムシャイド伯が現れると、多数のマスコミやTVクルーが一斉にフラッシュを焚き、TVカメラを向ける。それを見ながらレムシャイド伯は恭しく金で彩られたゴールデンバウム王朝の国章の浮かぶ書類を開け、内容を読み始めた。

「銀河帝国政府は、恐れ多くも皇帝陛下の思し召しにより、以前より貴族荘園より解放してきた拉致農奴に関して故郷へ帰還させる事を決した。またそれに伴う形で捕虜の交換も行う事に決した」

そう発表したレムシャイド伯は心の中で含み笑いをしながらほくそ笑んでいた。
“フフフ、帝国が拉致農奴を返すと言った事に驚きを隠せぬようじゃが、此だけでは済まぬわ、メインデッシュはこれからなのだからな。部下達が銘々に勝手に質問しようとする記者共に“未だ発表が終わっていない”と宥めると、皆が一斉に黙り込みフラッシュが集れ光に浮かぶ我が身を考えると、皆が私を見るのであるから。演劇の主役の気持ちがわかる気がするな、さて後一仕事しなければな”と。

「解放する農奴は200万人、交換する捕虜は100万人の合計300万人」
300万人解放と、農奴の解放に多くの記者が唸りながら手を動かしている。

「質問宜しいでしょうか?」
一人の30代前半で美人の女性記者が声を上げた。今までのパターンであれば後にしてくださいと言われかねないが、なぜか質問が許された。

「何でしょうか?名前と所属をお願います」
マスコミ担当の事務所員がにこやかに聞き返す。端から見れば彼女の美貌に目を奪われたので、質問を受け付けたかの様に見えた。
「週間シトーエータ(これは何ですか)のマルガレータ・ヘルトロイダ・マックレオドと申します」

「それでは、ミス・マックレオドどの様な質問でしょうか?」
「今回の捕虜交換ですが帝国側が拉致被害者を含めて300万人を帰国させるそうですが、私の知っている限りでは、以前の捕虜交換で帝国側の捕虜は60万人前後しか居ないはずですが、その辺のバランスは考慮なさらないのでしょうか?」

記者の質問にレムシャイド伯は真剣な表情で話し始める。

「ミス・マックレオドの質問だが、今回の件は慣れぬ異邦で塗炭の苦しみを受けている臣民を帝国へ帰還させるを第一に考えた事であり、その対象は捕虜だけではなく、言われ無き迫害を受けつつある帝国臣民もその対象である」

「伯爵、言われ無き迫害とはいったいどの様な事なのですか?」
記者の質問にレムシャイド伯は心底心配してるような表情を作り答えた。

「前回のヴァンフリート星域会戦に於いて帝国軍が勝利したのはスパイ活動の成果だと向こう側は邪推したとの事だ。そしてスパイ組織の中心人物として、帝国からの亡命者たるローゼンリッター連隊に疑いをかけ、彼の連隊の関係者は元より、帝国からの亡命者を収監及び取り調べを行っていると、さる筋からの情報で判ったからである」

今まで同盟でも報道管制で知られず、ネット世界でも検閲で中々知られていなかった事が白日に晒された瞬間であった。

「伯爵、それは事実なのでしょうか?」
「悲しい事であるが、事実だ」
レムシャイド伯は悲しそうに演技する。

この会見は同盟側にも流されていたため、捕虜と拉致被害者の帰国を計るべきと世論が騒ぎだした。更に軍内スパイの事と亡命者の事は、事実なのかと騒ぎが起こっていた。

最悪な事に、何処から流れたのか、ローゼンリッター連隊の家族などの住所や家族構成などが流れ、ヴァンフリート星域会戦の遺族などと共に、関係の無い市民による、亡命者宅やローゼンリッター留守宅への投石や放火なども行われたのである。





宇宙暦794年帝国暦485年7月11日 午前10時 

■イゼルローン回廊同盟側近傍   同盟軍イゼルローン方面警備艦隊 旗艦巡航艦アンダルシア 
                        グレドウィン・スコット大佐

最近は以前のように帝国軍が積極的にイゼルローン要塞から出てこなくなって今までしょっちゅう続いていた小競り合いもまれにしか無くなり、パトロールも欠伸が出てくるようになったな。

欠伸をしながら娯楽室で部下と三次元チェスをしていると、後方支援参謀のラオ大尉が血相変えて部屋に入ってきた。

「司令!何をしているんですか!」
「大尉、五月蠅いぞ、今良い所なんだ、静かにできんのか」
全く、この大尉は五月蠅くて仕方が無いな、異動して貰いたいものだ。

「司令、三次元チェスなどしている場合では有りません。イゼルローン回廊より敵艦隊が急速に接近してきています」
「何!」
馬鹿な、敵は最近大人しくしていたんじゃないのか?何で俺の哨戒番の時に来るんだ!

「司令、早急に艦橋へ」
「ああ、判った」
何故だ、何故だ。

艦橋に入ろうとした時、当直以外の者達も慌てて狭い艦橋の入り口に殺到し中々中へ入れない。大尉が声を出し部下達を散らして通路を開けた。
艦橋に入ると、当直が慌てふためきながら、索敵をしていた。

「司令、帝国軍は凡そ100隻ほどで全て高速戦艦で構成されています」
作戦参謀のニコルスキー大尉が落ち着いた声で話しかけてくるが、こっちは巡航艦1隻と駆逐艦12隻しかいないのに何故そんなに落ち着いて居られるんだ!

「何故こんな至近距離まで発見できなかった!索敵士は何をしていた!」
阿呆の索敵士のせいでこのざまだ!
「敵艦隊が、レーダー透視もせずにいた為、隕石群だと見誤ったようです」

ラオが説明するが、俺にとっては怒りにしか成らない。
「何だと、貴官らたるんで居るぞ、軍法会議を覚悟しろ!」

艦橋の空気が俺を責めるようになるが、そんな事は関係無い、兎に角逃げるしかない!
「大尉、司令部へ連絡し急速離脱だ!」
そうだ逃げるしかない、俺は未だ死にたくない!

「既に連絡済みですが、相対速度の点で離脱は不可能かと」
他の連中に聞こえないようにニコルスキーが囁くが、それじゃ俺に死ねと言うのか!
俺は嫌だ、逃げるしかない!

「全艦急速反転最大戦速で転進せよ!」
そうだ逃げるんじゃない、転進だ転進だ!

「司令!敵艦隊増速あと10分もしないで射程距離に入ります!」
索敵士が余計な事を言う。
「憶測で物を言うな!」

逃げねば、逃げねば、そうだ此がある。
「第571駆逐隊に指令、『雷撃戦用意、後退したと見せかけ、敵が突っ込んできた瞬間にありったけのミサイルを叩きこめ』」
「司令、100対13では無謀です」

「100対12だ、本艦は司令部に連絡しなければ成らない以上、誠に遺憾ながら戦闘に参加する事が出来ない、急速に撤退し味方の増援を呼ばねばならないのであるから」

艦橋に沈黙が走るが、お前等だって命は惜しかろう、共犯だ!
「司令、その様な事が通じるとお想いですか?」
ラオの細い眼が更に鋭くなって俺を睨む、何だと言うんだ、文句があるのか!

「敵艦より通信が入っています」
俺とラオとの睨み合いを制するように通信士が声を出した。
「スピーカーに繋いでくれ」

俺を無視してニコルスキーが命令を出す。
『接近する。攻撃の意志はない。貴艦に停戦を求める』
スピーカーから思いも依らない言葉が流れてきた。

「停戦だと?」
「繰り返し、そう言っています」
「罠ではないのか?」

「高々13隻を潰すのに罠を張る事もないでしょう」
「敵艦隊、当方との相対速度を艦砲の射程距離ギリギリに留め居てます」
「司令、取りあえず応答した方が良いかと」

確かに、撃たないというのであれば、可能性が有るが……
『我々は銀河帝国軍として、名誉ある一時停戦を求めるもので有る』
「司令」

仕方ない、このまま行っても死ぬだけなら、聞くしかないな。
「判った。帝国軍との通信回線を開け」

俺の言葉に艦橋でホッとした空気が流れた。
通信士が了解の通信を入れると艦橋スクリーンに帝国軍人が2人映り、見事な敬礼をしてくる。

『停戦を感謝する。小官は銀河帝国軍宇宙艦隊所属アレクサンデル・バルトハウザー准将で有ります』
『小官は、統帥本部所属アルベルト・フォン・ベンドリング大佐で有ります』

見事な敬礼だ、俺も負けられん。
「自由惑星同盟軍所属グレドウィン・スコット大佐で有ります」
「同じく、作戦参謀のニコルスキー大尉であります」

『先ほどより連絡しているように、当方は貴艦隊を攻撃する意志はありません』
いったい何を考えている?落ち着け。
「停戦とはいったいどの様な事ですかな」

俺の問いに、ベンドリング大佐が答える。
『つい二週間前、皇帝陛下の思し召しにより、帝国貴族に抑留されていた民間人と捕虜併せて300万人を其方へ帰国させ、当方の俘虜と交換する事を、フェザーンの其方の高等弁務官へ書簡を送ったのですが、2週間経っても梨の礫なために、此方から直接ご連絡をする事にしたわけです』

何だって、300万人もの捕虜が帰ってくる、それの切っ掛けが俺になるのか、此は出世のチャンスだ。旨く行けば少将も夢じゃないぞ。

「成るほど、それは素晴らしい事ですが、小官の一存で済む問題でも有りません」
『それはそうでしょう。当艦隊は此で帰還しますので、其方の上層部への連絡をお願い致したい』
「了解した」

そう言って、本当に帝国軍はイゼルローン要塞へ帰還していった。

「司令、宜しいのですか?」
「何がだ?」
「捕虜交換の事です」

「大尉貴官は300万人もの同胞が帰国できるかも知れない事を黙っているのかね?」
「いえ、そんな訳では……」
フッ、お前なんぞに手柄を渡してなる物か。

「通信士、FTL(超光速通信)にて統合作戦本部へ連絡だ『帝国から捕虜と民間人300万人の交換を帝国が求めて来たと」
「はぁ」

アハハ、出世だ出世だ!
 
 

 
後書き
マルガレータ・ヘルトロイダ・マックレオドってマタハリの別名ですから、帝国側の仕込みです。

同時テロ的に彼方此方で、捕虜交換と門閥貴族による拉致被害者解放と宣伝する訳です。

ローゼンリッターの住所等は帝国側がやらなくても、憂国騎士団辺りが自分で流してくれるでしょうから、他力本願で手を出してません。

テレーゼはあくまでローゼンリッターには真摯に対応するつもりですから、小細工はしないのです。 
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