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自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
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第六話

 帝国と同盟の戦いは再び切って落とされた。
 帝国軍の侵攻は宣戦布告の3日後にビッテンフェルト艦隊がフェザーン回廊を出立したことで始まる。
 小規模な戦闘が始まったのは、ビッテンフェルト上級大将率いる1万5千隻の艦隊を、ビューフォート准将率いる1000隻にも満たない艦隊がゲリラ戦を仕掛けたことによってだった。この時すでにビッテンフェルト艦隊は同盟領深くに進行しており、この戦闘によりビッテンフェルト艦隊はビューフォートのかく乱により補給戦を遮断され、さらには本体との通信が取れなくなってしまう。
 
 大規模な戦闘は同盟の造兵廠がある惑星ルジアーナで行われた。ルジアーナは惑星に分類されるものの小さく大気圏内航行が不能な同盟の艦艇を製造していたことを表すように、サイズとが小さく重力がほとんどなかった。先発したビッテンフェルトに続き第二陣として出発したミッターマイヤー艦隊は航路とは外れた惑星ルジアーナを目指すことになる。造兵廠は戦略上の意味でも無視できる施設でないことは間違いない。
 ミッタマイヤーの行軍は素早い。フェザーンからルジアーナまで一ヶ月を要さず移動するのは高速艦で編成されたビッテンフェルト艦隊などを除いて普通ではない。その素早さをもって同盟軍が防衛線を作り上げる前に進行する。その目的は常識的に考えて正しいものだった。

 ルジアーナは惑星に分類されるものの大気圏内航行が不能な同盟の艦艇を製造していたことを表すように、サイズとが小さく重力がほとんどなかった。防衛施設はとても多いとは言えず2万隻を数えるミッタマイヤー艦隊の前では風前の灯である。しかしルジアーナの中では長官のバウンスゴール中将以下将兵が脱出する手はずをせず、戦闘準備をしていた。
「帝国艦隊さらに接近」
 レーダーとにらめっこしている兵士がそう告げルジアーナの司令室は緊張に包まれた。彼らが脱出しないのは玉砕するためではない。
「今日中に敵が来る。ヤン提督の予想通りだな。ここからも予想通りに行って欲しいものだ」
「敵有効射程までのこり10分、駐留艦隊出港を開始します」
 2万隻の帝国軍に対し同盟軍駐留艦隊は僅かに5000隻。帝国軍にとまる理由は無くそのまま進軍を続ける。

「敵艦隊有効射程域に入りました」
 ルジアーナとその駐留艦隊から第一射が放たれた。ほぼ同時に帝国艦隊からも第一射が行われる。結果は火を見るより明らかだ。ルジアーナの外壁は溶け、駐留艦隊は後退を始める。
「予定通りに行って欲しいものだ」
 バウンスゴール中将が時計を眺めながら繰り返しそう言い、戦闘継続を指示する。

 戦闘開始から10分、帝国が半包囲網を完成させつつあったとき状況は一変した。変化に気づいたのは帝国艦隊後方に配置されていた駆逐艦のオペレーターだった。惑星攻撃には、消費が激しい駆逐艦の主砲であるレールガンでは不向きで暇をもてあましていたのである。ミッタマイヤー艦隊後方に突如として現れた大規模な艦隊を見つけのだった。
「クナップシュタイン大将の艦隊か?いや規模からするとグリルパルツァー大将も一緒なのか」
 彼の疑問に答えたのは数万本のエネルギーの矢だった。そして距離は遠くとも収束され密度を大幅に増した中性子の束は装甲の薄い駆逐艦を打ち破るのには十分すぎた。

 ミッターマイヤー艦隊に衝撃が走った。三日月のような半包囲陣の真ん中に突如として砲火を浴びせられたのだ。一個艦隊の火力を敵の一点に叩き込む。その手法はヤンが好んで使う戦法である。アムリッツ会戦、救国軍事会議のクーデターでも使われその効果は折り紙つきだ。
「敵艦隊捕捉、数およそ1万5千!」
 ミッターマイヤ艦隊のオペレーターが悲鳴混じりに言葉を発した。その次の瞬間再び同盟艦隊からの一斉射が放たれ薄い陣形の穴がさらに大きくなった。
 奇襲を受けたミッターマイヤの判断は素早かった。
「艦隊を二つに分ける。私は左翼を指揮する。右翼はバイエルラインが指揮を執れ」
 前方と後方を押さえられた状況では横に逃げるしかない。数で勝る同盟軍相手にわざわざ自分達だけで戦う必要はない。ミッタマイヤーは既にルジアーナでの先頭を放棄し撤退を視野に行動を開始していた。しかしその行動は無意味に終わる。
「両翼に敵影、数およそ7500ずつ」
 ミッターマイヤー艦隊は既に包囲されていた。

 球形陣を執ったミッターマイヤー艦隊は数で勝る同盟軍に撃ち減らされていた。
 ミッターマイヤー艦隊の不幸は自分たちの能力の関係のない戦略的な要素で決着が付こうとしていることだろう。ルジアーナを攻撃した時点で既に負けが決定していたのである。
 補給基地が近くにあることをいい事に好きなだけ砲撃を加えミサイルを撃ちつくす旗下の艦隊をヤンはじっと見ていた。もはや指揮を採る必要は無く敵が一方的に消耗するのを待つのみである。
「第一戦目は成功か」
 2万隻の艦隊を倒したしかしそれだけである。帝国の戦力は未だに同盟の3倍以上はあるのだ。悪く言えばたかが2万隻なのだ。
「提督、帝国の後続部隊が進軍を速めたようです」
「距離は?」
「日数で言えば2日かと」
 ヤンの副官であるグリーンヒル少佐はスクリーンに航路図を映し出しながら答えた。航路図には同盟艦隊の位置と数、さらに帝国艦隊の予測される位置と数が写っている。
「速度を速めたのはクナップシュタイン大将とグリルパルツァー大将旗下の艦隊だけか…」
 ヤンの頭には次の作戦案が浮かんでいた。
 
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