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八条学園怪異譚

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第五十三話 空手部主将その十二

「そうした輩が身に着けたものを何に使うか」
「やっぱり暴力ですよね」
「碌なものに使わないですね」
 二人もこのことを察して答える。
「ボクシングとかでもですね」
「障害事件起こす人いますから」
「あれは恥だ」
 武道、格闘技をする者にとってというのだ。
「わしはそうした輩が最も嫌いだ」
「何でもそこに心がないと駄目なのよね」
 茉莉也も自分のこととしてしみじみとした口調で述べる。
「巫女のお仕事もね」
「そういえば先輩巫女さんとしては凄いですよね」
「ちゃんとお祓いも出来ますし」
「いつも積極的に動かれてますし」
「巫女さんの力はありますね」
「これだけは真面目にって思ってるのよ」 
 実際に普段とは違い真面目な顔で話す茉莉也だtった。
「私は神社の娘、巫女だからね」
「だからですか」
「それだけは」
「真面目なことは真面目にね」
 茉莉也もこうした考えだった、それで今二人に言うのだ。
「あんた達だってそうでしょ」
「食堂のことですね」
「パン屋さんの」
 やはり二人のバックボーンはそこにある、二人にとってそれぞれの家の仕事は絶対のことでありその人生のかなりの部分を占めているのだ。
 だからだ、それぞれこう茉莉也に答えたのだった。
「それを忘れたら駄目ですね」
「私じゃないです」
「でしょ?心は忘れたら駄目よ」
 絶対にというのだ。
「あんた達もね」
「わしにとってそれは空手だ」
 大田はまた言った、そしてだった。
 その場で準備体操をはじめた、それはストレッチまで入れた本格的なもので身体を十分に動かすものだった。
 そのストレッチを見てだ、愛実は首を傾げながら聖花に問うた。
「大田さんって今実体ないのよね」
「ええ、幽霊さんだから」
 足はある、しかし身体は透けている。それを見れば彼が幽霊であることは誰が見ても明らかなことである。
 実体はないから怪我はしない、しかし事前の準備体操しかもストレッチまでしている彼を見てそれで言ったのだ。
「それでもね」
「何でなの?」
 愛実はまた首を傾げさせて言った。
「大田さんストレッチまでされてるのかしら」
「ううん、どうしてかしら」
 聖花もわからないといった顔で愛実に答える。
「言われてみればそうよね」
「どういうことなのかしら」
「それはだ」
 そのストレッチまで行っている大田が答える、今は股割りをしている。
「こうして心をほぐすと共に神経を集中させているのだ」
「準備体操からですか」
「ストレッチまでされて」
「事前の準備体操は絶対だ」
 身体を動かすのなら、というのだ。
「それはわしの空手をはじめた頃からの習慣なのだ」
「それで今もですか」
「準備体操をそこまでされてるんですか」
「そうだ、心の準備体操なのだ」
 それになるというのだ、今は。
「それではだ」
「今からですね」
「修行ですね」
「朝までする」
 その修行をというのだ。
「鶏が鳴くまでな」
「実態がないから疲れないからね」
 また言う茉莉也だった。
「朝まで休みなしでいけるのよ」
「しかし心は疲れる」
 これは大田の言葉だ。 
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