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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第27話 嵐の後は


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月27日 13時05分――

「酷い戦いだった……」

ウェスタディア王国首都星ウェリンの衛星軌道上に鎮座する総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦橋で、アドルフはそう呟いた。

ミンディア星域会戦の後、銀河帝国軍は撤退したルフェール、九王国連合への追撃部隊を送り込む傍ら、宇宙艦隊司令長官ロイエンタール元帥を総司令官とした50000隻の艦隊をティオジア連星共同体の本部があるティオジア星系に送り込み、残りをアドルフ自らが率いてウェスタディア王国の首都星ウェリンを直撃した。

10万隻を超える艦艇に囲まれ、最早成す術の無いウェスタディア政府は何の抵抗もせずに降伏。
無血開城を行い、女王ルシリアも他国へ亡命せずウェスタディアに残ることを選択した。

少々呆気無い気もするが、抵抗らしい抵抗が無いのは寧ろ喜ばしいことであった。

とはいえ、先のミンディア星域会戦で銀河帝国軍は10万隻に及ぶ艦艇の損失を出している。
ティオジアを下し、ルフェールに大打撃を与えた代価とはいえ帝国にとって大きな打撃であるのは間違いなく、再建の苦労を思うと溜息が出るばかりであった。

「この戦いで失ったものは多かったですが、得られたものも多い。そう納得するしかありませんな」

メックリンガーがそう言って慰めるが、それでもやはり納得できないのが人の心というものである。

「ルフェールはこれまでになく弱体化しておりますが……如何なさいますか?」

気分の転換も兼ねてであろう、チェン上級大将が別の話題を振ってきた。

「どうもこうも、ティオジアの領土運営と失った部隊の再建を考えれば今後10年は動けんよ。これ以上戦線を増やすのは自殺行為でしかない」

ここ10数年で銀河帝国の領土はかつてとは比較にならないほど拡大している。

だが、あまりに早過ぎた。
急速に拡大する領土に統治が追い付かないのだ。

現状ではロアキアすら持てあましており、それにティオジアの各国が加わるのである。
とてもではないが戦争などやっていられない。

考えれば考えるほど鬱になる思考をアドルフは止めることにした。

「そういえば、ロートリンゲン級の戦果は上々だったようだな」

ロートリンゲン級打撃戦艦は、帝国が新たに建造した新タイプの戦艦である。
艦首に備えられた2門の大口径拡散ビーム砲はその圧倒的な本数のビームによって巡航艦以下の軽艦艇を容易く沈め、範囲も広いため多くの艦を一度に葬ることが可能であった。
また、戦艦の場合は装甲こそ容易に貫かれないものの、それ以外の露出している通信アンテナ等は破壊される。
つまるところ、ロートリンゲン級の大口径拡散ビーム砲を受けて無事な艦はほとんど存在しないと言っても過言ではない。

このミンディア星域会戦には1番艦ロートリンゲンと2番艦カールスルーエが参加しており、共に数百隻の敵艦を屠るという戦果を上げている。
これは単艦での戦果としては極めて高く、この艦の有効性を示す良い結果であった。

「これほどの戦果です、量産が決定されるのは確定でしょう。ですが、標準戦艦以上の艦を沈められないというのが問題ではありますな。ここ一番という時の信頼性に関わります」

「うむ……だが、そこらへんには目を瞑るしかあるまい。何にも万能な艦など未だ存在しないのだから」

そう言いながら、――そんな艦が敵に有れば大惨事だな――とアドルフは思うのであった。
また、――降伏した国々の王女たちを喰う(性的に)のが楽しみだ――とも考えていた。

実に無駄な並列思考の使い方である。


* * *


ミンディア星域会戦における敗北と95000隻に及ぶ艦艇の損失は、ルフェール共和国内に激震を齎していた。
だがそんな中、その事実を冷静に受け止めて冷やかな目で見る人物たちも存在する。
ルフェールを陰から牛耳る財界の人物たちだ。

「覚悟はしていたものの、やはり負けたか……」

「『ウェスタディアの双星』などと持て囃されていても、結局本物の奇跡を起こすには至らなかったようだな。嘆かわしい」

「ですが、そう他人事を言っている場合ではありませんよ。連合軍の敗北により我等ルフェールは嘗て無い窮地に陥った訳ですから」

「統合参謀本部長ホーイング元帥、宇宙艦隊司令長官リッカー大将は責任を取り辞任。代わりに統合参謀本部次長ゲイム中将、第一艦隊司令官ニトラス中将がそれぞれ昇進して統合参謀本部長、宇宙艦隊司令長官に就いたようだが………」

「誰が就こうと立て直しは容易ではあるまいよ。それと、第四次新規艦隊建造計画の中止が決定された」

第四次新規艦隊建造計画では第十六~十八の3個艦隊を新たに編成する計画であったが、ミンディア星域会戦での未曽有の被害がそれを不可能にした。

「まあ、それが妥当だろうな。既存の艦隊の再編が急務である現状、新規艦隊の増設など出来るわけがない」

「奴等が、銀河帝国が次に動くまでどのぐらいかかる?」

「さすがに今度ばかりは10年単位の期間は必要とするでしょうが……逆に言えばその時がルフェールの終焉でしょうな。近いうちにこの国から脱出する手はずを整えておくべきかと」

この言葉が紡がれた瞬間、この場にいる者は一人残らずルフェールを見限った。
もとより、彼らにとって重要なものは自分や家族の命と財産であり、ルフェールという国や民主主義の存続などではない。

「なるほど……それが得策か。不動産を捨てねばならんのが残念だが、致し方あるまい」

「しかし、逃げると言っても何処へ逃げるというのだ。九王国連合か?」

「いえ、私がお勧めするのは銀河帝国です」

「何!?」

「ロアキアと辺境を呑み込んだ銀河帝国は遠からずルフェールを呑み込み、最終的には九王国連合をもその手中に収めるでしょう。その時になってまた逃げ出すのですか? 今度は何処へ?」

「ううむ………」

「ならば今、銀河帝国に下った方が賢明と言えるでしょうな。もちろん、何らかの土産は用意せねばならないでしょうが。ああ、それとどうしても不動産を捨てきれないという方はここに残って銀河帝国と内通するという方法もありますな。どの選択をなさるかは皆様方次第です」

その後、彼らは男の提案について検討し始め、最終的にルフェールを切り捨てて銀河帝国へ寝返ることを決定した。

・・・・・

誰も居なくなった部屋、銀河帝国への寝返りを示唆した男は不敵に笑う。
その様子は、まるでこの場にいない人物たちを蔑んでいるようでもあった。

「はっ、この期に及んで保身しか頭に無いとは度し難い愚物共だな。だが、それはそれで僥倖だった。おかげで事がスムーズに運んだよ」

男は、既に銀河帝国に寝返り内通していたのである。

財産の保全と相応の地位を与える代わりに、ルフェール財界の有力者たちを帝国に誘致する。
それが、この男と銀河帝国との密約であった。



――宇宙暦813年/帝国暦504年 8月15日――

銀河帝国の辺境制圧によって嵐は止んだ。
だが、それは次に嵐が訪れるまでの幕間に過ぎなかった。
 
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