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新 バトルロワイアル 番外編 雁夜おじさんの受難

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少年の暖かな光は道を誤った老人の心に愛を灯した









  ・・これも又ある一つの物語・・


ある世界に何処にでも居る様な平凡な
ある一人の男が居た


男には一人の兄と何百年も生きている
父の名を語った老人 一族の創設者が居た
男の名は間桐雁夜 兄の名は間桐鶴野
老人の名は間桐臓硯と言った


そして鶴野には慎二と言う名の一人息子が居た


そうなのである つまりは雁夜も又血塗られた
一族の末裔 殺し殺されるのが当たり前の
魔術師の世界で生きる定めを背負った
男であった否その筈だったのだ


しかし雁夜はそれを嫌悪し間桐家の支配者たる
臓硯に逆らって家を出た それは間桐家の
魔術の起源に理由があった


間桐の本来の起源は水 その真の姿は
水や大気中の蒸気を自由自在に操る水の
魔術の真髄


しかし不老不死と言う妄想に囚われた
臓硯によって何時しか間桐の魔術は人の
血肉を喰らい臓硯の糧とする生き地獄へと
変えられてしまった


雁夜は衰退を始めた間桐家にとっては
久し振りの希望であったのだ しかし
雁夜はそれを受け入れる事はなかった


   「おい臓硯てめぇ今何て言った!!
  二度も同じ事を言わせるでない  
良いから言えよ!!  禅城の娘と結婚せよと
言ったのだ雁夜よ貴様あの娘が好きなの
だろう? 幸いにしてあの娘も貴様を
憎くは思っておらん  てめぇ  後は儂が
上手くやってやる そうなれば我が間桐家も
安泰じゃ  ふざけるな糞爺!! 何が
間桐家だてめぇの望みは葵さんの身体
だろうが!!  心配するなあの娘には
手は出さん  はっそんな言葉信じられるか
  本当じゃよ・・何故ならば貴様達が
結婚すれば間桐家最高の器が手にはいるの
じゃからな!!  器だと・・っ!?
・・臓硯てめぇ・・正か正か  大人の身体を
乗っ取るよりも精神が未熟な赤子の方が
効率が良いからのぅ  臓硯ってめぇ
其れが目的かぁあああ!!  クハハ
ハハハ!! 何を怒っておるんじゃ雁夜よ
子供何ぞ幾らでもこさえれば良いではないか
  その子供はどうせてめぇの予備の肉体に
されるんだろうが!! そんな事絶対に
させるかよ!!  成らばどうする儂と
戦うか?  それよりももっと良い方向が
在るさ・・俺が間桐家から居なくなれば
葵さんは無事でいられるし間桐家も軈ては
衰退して亡ぶだろうさ  雁夜・・貴様
本気か? 貴様が居なくなれば禅城の娘を
儂が狙うとは思わんのか  葵さんには
時臣が居る彼奴は大嫌いだがあの野郎なら
葵さんを守ってくれるだろうさ  己ぃ
小賢しい  じゃあな臓硯・・もう二度と
会わない事を願ってるぜ  良いじゃろう
今回は引いてやる・・じゃがな雁夜よ
覚えておけ もしも再び儂の前にその面を
見せたなら貴様も弾正の娘も只では済まさんぞ
  そんな日は来ないさ・・永遠にな」


そして雁夜は間桐家を飛び出し二度と
間桐家に戻る事はなかった否その筈だったのだ


しかしそれは遠坂時臣と弾正葵との間に
二人の娘 凛と桜が産まれた事により
終わりを告げる事となる


凛と桜は二人共人並み以上の優れた魔術師の
資質を秘めていた しかし魔術とは一子相伝
一人は魔術師としての道を諦めざるを
得なかった しかし生粋の魔術師たる
時臣はそれを認めなかった


其処に古くからの盟約を利用した臓硯が
時臣に桜の間桐家への養子の話を持ち掛けた
のだ しかしその真の理由は桜を蟲への
生け贄とし己の新たな器とする為であった


それに気付かなかった時臣は桜を間桐家に
養子に出してしまう 或いは例え知っていても
生粋の魔術師たる時臣は其れを拒みは
しなかったで在ろう


そしてそれを知った雁夜は己が間桐家を
飛び出した事に責任を感じ一度は忌み嫌い
捨て去った間桐家に戻る決意を固めた
のであった


   「桜ちゃんを間桐に養子に出した
だって!? 何故そんな事をしたんだ
葵さん!!  雁夜君も間桐家の人間なら
わかっている筈よ  葵さんは何もわかって
無いんだ!! 間桐の魔術は君が考えてる様な
生易しい物じゃない!! 間桐の魔術に
染まったら最後ニ度と生きては帰れないん
だぞ!!  そう・・・そうなんだ  
何でそんなに落ち着いてるんだ葵さん!!
桜ちゃんがどうなっても良いのか!!
  そうね・・貴方が間桐家から逃げ
出さなければこうはならなかったわね
  葵・・さん?  貴方にそんな事言う
資格はないでしょ雁夜君  葵さん  
桜の事頼むわねあの娘雁夜君の事が大好き
だったから・・それじゃあね  待ってくれ
葵さぁあああん!!」


間桐家に戻った雁夜は臓硯に一年後に迫った
聖杯戦争に勝利して聖杯を持ち帰る代わりに
桜を自由の身にしろと交渉を持ちかける


今回は様子見のつもりだった臓硯にとっては
どう転んでも己に損はないと理解すると
それを承諾し雁夜は戦いに勝ち抜く為に
臓硯の蟲をその実に受け入れ平凡な人生に
幕を下ろした


総ては桜を救いだし葵と凛の元へと返す為に


しかし雁夜にとっての不幸は葵も又桜を養子に
出す事に承諾したと言う事実を受け入れず
時臣の勝手な判断だと思い込んでしまった事だ


その為に雁夜は時臣を殺せば総てが丸く
収まるとそう思い込んでしまった


雁夜の性格は魔術師には欠片も向いてはいない
しかし葵は違う 彼女は自らの意思で
時臣の妻となり桜を養子に出す事を承諾
したのだ


真に子供を愛している母親ならばそんな事を
承諾する筈がない つまり正史においての
葵も又臓硯や言峰綺礼同様に壊れていたのだ


そしてそれを理解した時雁夜の心は壊れ
葵をその手に掛けた しかしそれでも
桜を救うと言う意志だけが彼を支えていた
しかしそんな彼も最後は救いたかった桜の
眼前で蟲に喰らい尽くされその生涯に
幕を閉じ様としていた


   キィキィキィキィイイ!!
   「(どうしてこんな事になって
しまったんだろう 俺は只桜ちゃんを
救いたかっただけなのに 桜ちゃんを
葵さんと凛ちゃんの元に帰したかった
だけなのに その為に三人の幸せの邪魔をする
時臣を殺そうとしただけなのに なのに
何がいけなかったのかなぁ)」


蟲達が俺の身体を喰らい尽くしていく
もう俺は助からない俺は此処で死ぬ 
否もう既に俺は死んでいたんだそれが
遅いか早いかの違いだけだ


でも俺が死んだら桜ちゃんはどうなるんだろう
このまま臓硯の思惑通りになってしまうん
だろうか


俺の目の前では感情を失った桜ちゃんが
無表情な瞳で俺を見つめている 其処には
嘗ての幸せ一杯の笑顔だった頃の面影はない


俺は懸命に腕を伸ばし口を開く


   クチャクチャクチャ
   「ごめんよ桜ちゃん君を助ける事が
出来なかった  ・・・・どうして?
  ぇ・・桜ちゃん?  どうして貴方は
そんな事するの  どうしてって桜ちゃんを
助ける為じゃないか!!  どうして
助けるの?  そんなの決まってるじゃないか
桜ちゃんを葵さんと凛ちゃんの元に返す為
だよ!!  でもあの人達は私を捨てたん
だよ?  違うよ桜ちゃん捨てたのは
時臣だ!! 葵さんはそんな事しない!!
  ならどうして桜を助けに来てくれないの?
  それは!?・・時臣に止められたから
  じゃあやっぱり桜は捨てられたんだ
  だから違うよ桜ちゃん!!  だって今
雁夜おじさん言ったじゃない  え?
  あの人は私の事より自分の愛する人を
選んだんでしょ?  っ!?」


その瞬間俺の脳裏に葵さんの言葉が甦った


  ・・(「貴方は何もわかってない
うぅん貴方にはわからないでしょうね
  どう言う事だよ?  本当に人を
愛した事のない貴方には私達の気持ち何て
わからないのよ!!  気持ちって何だよ!?
じゃあ葵さんは自分の意志で桜ちゃんを
捨てたって言うのか!!  そうよ  
嘘だ  私はあの娘を捨てた事に後悔何て
してない  嘘だっ  私は時臣の妻よ
あの人の決断は私の決断よ  嘘だぁあ
あああ!!  魔術から逃げ出した貴方が
偉そうな事言わないでよっ この卑怯者!!
  止めろぉおおおおお!!  何度でも
言ってあげるわよこの偽善者!!  
どうしてっ どうしてそんな事言うんだよ
うぅうぉおおおぁあああああ!!」)・・


その瞬間俺は総てを理解した 俺には
魔術師の心何て理解出来ないって事を理解した


   ボキボキボリボリ
   「そっかぁ・・そうだったんだ
・・俺は結局何もわかって無かったんだ
・・・でもね葵さん俺はそれでも葵さんには
笑顔でいて欲しかった 桜ちゃんにも
凛ちゃんにも笑顔で居て欲しかったんだよ
  雁夜おじさん・・泣いてるの?  
ねぇ桜ちゃんどうやら君を救うのはおじさんの
役目じゃないみたいだ・・でも大丈夫だよ
桜ちゃん 君は何時かきっと笑顔になれる
  雁夜・・おじさん  君はきっと
凛ちゃんと一緒にあの公園で幸せに笑える
日が来るよ  雁夜おじさん・・逝かないで
  桜ちゃん・・幸せに・・なって」


そして無表情な瞳から一筋の涙を流した
桜ちゃんの目の前で俺の身体は蟲に喰らい
尽くされこの世から消え去った


  ・・そして一つの人生が幕を下ろした・・


桜「雁夜おじさん・・起きてよ・・ねぇ」


私の目の前には蟲に喰い散らかされた
嘗て雁夜おじさんだった者の肉片が辺りに
散らばっていた


桜「駄目だよ雁夜おじさん かくれんぼ何て
してないで早く出てきてよ」


もう雁夜おじさんは何処にも居ない 
何時も私を助けてくれた優しい笑顔の
雁夜おじさんは何処にもいない


  ・・(「大丈夫だよ桜ちゃん君はきっと
お家に帰れるおじさんがきっと返してあげる
約束するよ  本当に帰れるの?  
あぁ本当さ・・その時は桜ちゃんをお嫁さんに
してあげるよ  ぅん・・約束だよ雁夜
おじさん  あぁ約束だ」)・・


私が大好きだった雁夜おじさんはもう居ない
手作りの指輪をプレゼントしてお嫁さんに
して下さいって言ったら照れた様にはにかんで
くれた恥ずかしがりやのおじさんはもう居ない


  ・・(「ねぇ雁夜おじさん  ぅん?
何だい桜ちゃんそんなに畏まった顔して
  私大きくなったら雁夜おじさんの
お嫁さんになる!!  え?・・あ・・
あははは・・まっ参ったなぁ  駄目かなぁ
  そっ・・そんな事ないよ!! 桜ちゃん
みたいな可愛いお嫁さんなら大歓迎さ!!
  本当に!!  勿論さ・・でも桜ちゃんは
未だ子供だからね・・そうだなぁ桜ちゃんが
おじさん位に大きくなってそれでも未だ
同じ気持ちだったらその時はおじさんと
結婚しよう  約束だよ!! 絶対に
約束破っちゃ駄目だよ!!  あぁ約束
するよ」)・・


雁夜おじさんにとってはその場凌ぎの
言葉だったかもしれないけどね私は本気
だったんだよ


私は大声を上げて泣きたいのにそれすら
出来ない自分を恨みながらもその想いを
口にする


桜「馬鹿ぁ 雁夜おじさん桜をお嫁さんに
してくれるって言ったじゃない約束した
じゃない なのに約束破っちゃ駄目だよ
嘘吐いたら針千本飲まなきゃいけないんだよ」


もう私の中には何もない たった一つの光さえ
失ってしまった もう生きている意味何てない


キキィキッキィイイ!!
桜「?・・・?」



ふと目の前に意識を戻すと雁夜おじさんに
群がっていた蟲達が私の方ににじり寄って来る


でも何だか様子がおかしい 何時ものような
私の身体に群がる時の気配じゃない


まるで獲物を狙う時のようなそんな感覚だった
そして私はその理由に気がついた 蟲達が
見てるのは私じゃない


桜「私の身体に染み付いた雁夜おじさんの血?
・・・そっかぁ雁夜おじさんはずっと
私と一緒に居てくれるんだ・・良いよおいで」


蟲達は私の身体に染み付いた雁夜おじさんの
血を狙って私に群がって来る 私の心には
迷いも恐怖もなかった


だってこれで私も雁夜おじさんと一緒の所に
行けるんだから


キィキィイイ!! ワサワサワサワサワサ!!
桜「雁夜おじさん・・今私も行くね・・
今度こそ約束破っちゃ駄目だよ」
ボリボリボリバリバリャアアア!!


お腹を空かせた蟲達が私の身体を貪り喰って逝く
幼い私の身体はあっと言う間に人の形を
失って逝く


最後の瞬間私の脳裏に雁夜おじさんの次に
大好きだった姉の姿が浮かぶ


桜「凛お姉ちゃんに貰った大切なリボン
返せなかったなぁ・・ごめんね凛お姉ちゃん
・・さようなら」


そして私の意識はこの世から完全に消え去った



  ・・そして哀しい二つの人生の幕が
閉じた・・





新 バトルロワイアル 超番外編 慎二君の
憂鬱 第1話 雁夜おじさんの受難







  ・・それは長い間久しく忘れていた
感情じゃった・・


雁夜「ねぇお爺ちゃん このコップの中の
水を浮かせる事って出来るかな!!」


臓硯「ふぉふぉふぉどうやら今のがお気に
召したようじゃな 雁夜よお主魔術に
興味があるのか?」


間桐家の真の姿は冬木市に根付く魔術師の家系
だが表向きの姿は土地を管理する遠坂家と
遂になる財政管理を行っており数百年
生きている臓硯の知識と相まって冬木市一の
財産を所有していた


今ではその膨大なネットワークによって
黙っていてもお金が転がり込んで来る程で
あった


最も事実上の当主である臓硯はお金等に
興味がなかったし二人の子供鶴野と雁夜は
未だ幼かったのでその殆どを孤児院に
寄付していた


尚この際宝石魔術を生業とする為に常に
財布の懐がピンチな現遠坂家当主が要らない
なら寄越せと怒鳴り混んできたのを臓硯が
哀れみの眼で見て鼻で笑って追い返したのは
近所では有名だったりする


その時の近所の主婦の会話をお見せしよう


   「ねぇねぇ見てよ 遠坂さんったら
又間桐さん家に押し掛けてるわよ  
本当にっ あんないたいけなお爺さんに
暴力を振るう何て恥って物がないのかしら
  優雅な貴族何て振舞ってるけど今時
流行らないわよねぇ  抑此処は日本よ
あんな真っ赤っ赤の服を着た貴族何て
浮いてるわよねぇ  それじゃああれかしらね
時臣君も将来ああなるのかしら  ちょっ
それって不味いんじゃないだってそうなると
当然相手はあの可愛らしい雁夜きゅんよね!?
  でもそれならお爺ちゃんと鶴野君が
守ってくれるんじゃないかしら  でもあの
しつこい似非貴族の遠坂さんよそんな簡単に
諦めてくれるかしら  はぁ・・心配よね
  ふぅ・・心配だわ」


この会話が元で主婦達の間では雁夜きゅんを
守ろう同盟が結成したとかしないとか


時は雁夜が未だ十歳になったばかりの頃
彼は母親の血が色濃く出たのか正史よりも
可愛らしく育ちその愛らしさは女の子と
見間違う程であった


そんな彼は物心着いた頃から父親(臓硯)と
兄にベッタリで何をするにもトコトコと
二人の後を付いて回っていた


可愛らしいつぶらな瞳で甘えられると
悪い気はしない物で鶴野は女の子の様な
男の子と言う意味で男の娘と命名し雁夜を
溺愛していた


一方の臓硯はと言うとその能面の様な表情
からは何を考えているのか窺い知る事は
出来ないが 邪険にした事がない事から
悪い気はしていないのかもしれない


そんな穏やかな生活が続いたある日の事
臓硯は間桐家の魔術書が納められた書斎で
これからの事考えていた


臓硯「ふぅむ雁夜ももう十歳か間桐の血筋を
絶さぬ為にもそろそろ始めねばならんな
・・余り遅くなり過ぎると身体に馴染まん
からのぅ」


雁夜に眠る魔術回路と素質は凄まじい物がある
あれは奴が五歳の頃じゃったか突然高熱を出し
三日三晩生死の境をさ迷った


儂としても兄の鶴野の貧弱な魔術回路には
微塵も期待はしておらなんだから此処で
雁夜を死なす訳にはいかんかった


儂は有りとあらゆる人脈と手を尽くして
雁夜を看病した鶴野も学校を休んで迄
雁夜に付きっ切りじゃった


そして三日後やっと容態が落ち着き目を
覚ました奴の身体に今迄以上の魔術回路が
精製されているのを儂は確と感じた


臓硯「考えられる可能性はやはり生死の境を
さ迷った事による影響じゃろうが・・
じゃがあの時の呟きは一体何だったのか」


容態が落ち着いた雁夜は夢現の中で奇妙な
言葉を口走った あの時雁夜は確かに
こう言ったのだ


臓硯「約束するよ桜ちゃん・・桜とは
一体誰じゃ?」


本人に聞いても何も覚えておらなんだが
その言葉がどうしても気なった儂は本人に
気付かれぬ様こっそりと雁夜の記憶を
覗いたが可笑しな処は何もなかった


もしや何かが憑依したのかとも思ったが
そんな気配は欠片も無かった


間桐家始祖たるこの儂の眼は誤魔化せん
奴は間違いなく正常であり何人も乗り移って
はいない


例え第二魔法キシュア・ゼルレッチ・
シュバインオーグ(並行世界)の雁夜で
在ろうとも魂が別である以上は儂の魔術で
見抜ける筈じゃ


臓硯「成らばやはり只の夢じゃったのか
・・ふむ思えばあれからじゃったか 
雁夜が儂や鶴野に甘える様になったのは」


最近では儂自ら雁夜との時間を作っておる
こんな気持ちになったのは始めてじゃ


臓硯「誰じゃ・・・・そうじゃ初めてではない
儂は遥かな過去にも同じ気持ちを味わった
事がある・・真っ白い肌と雪のような髪の毛
・・あれは一体誰じゃったか」


じゃが思い出せないと言う事は大した事では
ないのだろう 抑過去を思い出して何になる
儂の目的は只一つ聖杯を手に入れ不老不死を
実現する事のみ


それこそが遥かな過去からの儂の望み
生け贄となった彼女に誓った儂の唯一の償い


臓硯「彼女じゃと!?・・又じゃ一体
誰なのじゃ!? 儂の頭に巣食うお主は
一体誰じゃ!!」


総ては五年前雁夜が甘える様になってからじゃ
あやつの顔を見る度に儂の記憶の中の
誰かと重なる


その度に儂は捨て去った筈の良心を刺激され
償いきれぬ罪を犯している様に感じる


臓硯「そうじゃ・・抑儂は何の為に聖杯を望む
不老不死になって儂は何をするつもりじゃ
・・駄目じゃ何も思い出せん!! 儂の心を
かき乱すお主は一体誰じゃ!! 「うひゃ
あああ!!」 〔ドガラガッシャアアアン!!〕
 誰じゃ!! 「うわぁあ!! どうしよう
床が汚れちゃったよ!!」 その声は
・・雁夜か?」
カチャ


雁夜「あっ邪魔しちゃってごめんねお爺ちゃん
今片付けるから」


儂が扉を開けると其処には床に座り込み
あたふたとしている雁夜が居た どうやら
儂の叫び驚いてトレイの中身を落として
しまった
様だ そして床に飛び散っているのは


臓硯「やはり雁夜かこんな夜遅くにどうした
・・サンドイッチとコーヒー?・・もしや
儂にか?」


雁夜「うん疲れてお腹も空いてるだろう
なぁって思って・・でも溢しちゃった
 「そうか・・儂が大声を出したからか」
 違うよお爺ちゃん!! 僕がしっかり
持たなかったからいけないんだよ!!
お爺ちゃんは悪くないよ!!  っ!?」


  ・・その言葉が表情が儂の中の何かを
刺激した・・


  ・・(「はい■■■■ 疲れたでしょう
差し入れよ  コーヒーとサンドイッチか
ありがとう■■■頂くよ  どうなの令咒
システムの進捗は上手くいきそう?  
うぅん正直難航してるよ・・令咒その物は
そう難しくないんだが  なら何が問題なの?
  呼び出すのは現在過去未来で名を馳せた
英雄達だからね しかも呼び出すだけじゃ
なくてその後も制御を続けなければならない
  つまりそれだけの魔力を何処から
持ってくるかって事ね?  あぁ・・
弱音を吐くつもりはないが正直こればかりは
やってみなくちゃわからないからね 
僕達三人だけならそれも良いが選ばれるのは
七人だ万が一にも失敗は許されない  
中々儘ならない物ね・・聖杯の方も準備は
出来てるけど 貴方が今言った様にそれ程の
魔力を蓄え維持するとなると生半可な物じゃ
耐えられないわ 其こそ異常とも言える
魔力回路が必要だわでも人間なら兎も角
無機物にはそれは望めないし  ふぅ
・・難しく考えてもしょうがない少し
一休みしよう  そうね根を摘め過ぎると
良くないしね  それじゃあサンドイッチ
頂くよ■■■も食べなよ  えぇ頂くわ
 〔ガシャアアン!!〕 きゃあっ  
うわぁあ!!  ごめんなさい!!  
ごめんよ僕が余計な事したからだね  
違うわ余所見していた私が悪いのよ」)・・


  ・・その光景は儂の記憶を狂おしい程に
刺激した・・


ガタガタガタ
臓硯「何じゃ今の光景は 儂は今の光景を
知っておる・・じゃが思いだせん」
ブルバルブル


儂は何かを忘れておる途方もなく大切な何かを
決して忘れてはならなかった何かを 
絶対に思い出さなければならない何かを


じゃがどうしても思い出せない 何時の間にか
儂の顔からは大量の汗が噴き出し身体が
激しく震えだす それを儂の怒りと勘違い
したのだろう雁夜が涙目になりながら
申し訳なさそうに誤りだした


雁夜「ごめんお爺ちゃん直ぐ片付けるから!!
 「あっ・・違うんじゃよ雁夜怒って何か
おらんよ」 そうなの?・・でも何だか
様子が変だよ 「あぁ・・仕事の事で
少し行き詰っておってのぅそのせいじゃよ」
 そうなんだ・・でもそれじゃあやっぱり僕
邪魔だったよね 「そんな事ないぞい雁夜や
お前が来てくれたお陰で疲れも吹き飛んだわい」
 本当に!! 「あぁ本当じゃとも」
 はぁああ良かったぁ 僕てっきり大好きな
お爺ちゃんに嫌われちゃったかと思った」


ズキン
臓硯「そんな訳なかろう・・(又じゃ
この子の笑顔を見ておると何かを思い出し
そうになる 一体何なのじゃ)・・兎に角
これを片付けんとな」


雁夜「うん!! それじゃあ僕雑巾と
掃除機持って来るね!! 「そんな物なくても
大丈夫じゃよ雁夜」 え?・・でも床
綺麗にしなきゃ 「まぁ見ておれ」 
〔フワァアリ〕 わぁあ!!」


儂は零れたコーヒーに意識を集中させると
指先を割れずに無事だったコーヒーカップ
へと向ける


床に飛び散ったコーヒーが儂の意識に
促される様にカップの中に収まってゆく


同様に割れて粉々になったコーヒーカップも
綺麗に形を整え元の状態へと戻る


この程度の物体移動や再生は魔術の初歩たる物
しかも間桐の起源は水 幾ら蟲術へと
改竄されたとは言えこの程度の事は造作もない


だが魔術の初歩も知らない雁夜にはまるで
空中でダンスを踊っている様に見えたのだろう
華咲くような満面の笑顔になる


雁夜「凄いやお爺ちゃん!! まるで
魔法みたいだ!! 「当然じゃ 何を隠そう
儂は何百年も生きておる魔法使いじゃ
からのう」 うわぁああお爺ちゃん魔法が
使えるんだ!! そうだ!!」
トテトテトテ


儂の冗談とも本気とも言える言葉に身体中で
感激を表現している雁夜は何を思ったのか
今度は部屋の中にある水の入った水差しを
手に取ると満面の笑顔で儂に差し出した


雁夜「ねぇお爺ちゃん このコップの中の
水を浮かせる事って出来るかな!!」


臓硯「ふぉふぉふぉどうやら今のがお気に
召したようじゃな 雁夜よお主魔術に
興味があるのか?」


雁夜「全然わかんなぁああああい!!
 「何じゃ魔術が使いたい訳ではないのか?」
 でも今の凄く綺麗だったよ!! きっと
お爺ちゃんが優しいからだよね!!」


ズキィン!!
臓硯「っ!? (又じゃ誰じゃ!?お主は一体
儂に何を伝えたいんじゃ!!) お主は一体
誰何じゃ!!」


雁夜「お爺ちゃんどうしたの!?」


雁夜の心配そうな言葉等耳に入らぬ儂は
再び記憶の旅へと遡っていった


  ・・(「ごめんなさい直ぐに片付ける
から!!  大丈夫この程度ならその必要は
ないよユ■■・・ほいっ  はああぁ・・
大した物ねぇ 何時見ても■ォ■■■の魔術には
感服するわ  はは惚れ直したかいお姫様?
  馬鹿っ調子に乗らないの  ごめんごめん
  でも本当に凄いわよね■ォル■■の魔術は
・・何て言うかまるで水が生きてるみたい
  おいおい褒めても何も出ないよ  
別にからかってないわよ・・何て言うか
貴方の水からは優しさを感じるわ それは
きっと貴方の心の表れ貴方が優しいから水も
こんなに喜んでいるんだわ  ユ■■・・
ありがとう 君にそう言って貰えて嬉しいよ
  何時かその優しさを私も欲しいな
  何言ってるんだよ  え?  僕が
こんなに優しくなれるのは君のお陰さ
君が居るから僕はこんなに優しくなれるんだ
  ■ォル■ン・・ふふ そんな調子の良い事
言って私が気を許した隙に狼にでもなるつもり
でしょう?  あちゃあ ばれたか  
ばればれよ・・ありがとう■ォル■ン私も
貴方が居るから優しくなれるのよ  
ぅん・・何か言ったかい?  うぅん
何でもない!! さぁ休憩は終わりよ
続き頑張りましょう  あぁ頑張ろう(ユー■
君は何があっても僕が守る その為にも必ず
聖杯のシステムを完成させる そして君を
アインツベルンの呪縛から解き放ってみせる
・・愛してるよ僕の愛しいユー■)」)・・


  ・・その女性の笑顔を儂は知っている・・


儂はその光景を知っている そうじゃ
儂は誰よりも彼女の事を良く知っている


彼女はアインツベルンのホムンクルス
今から凡そ二百年前盟友である遠坂永人に
誘われて共に日本に渡った儂の同朋であり
生涯でたった一度だけ儂が心から愛した女性


儂が世界総てを敵にしても己の命と引き換えに
してでも守りたかった女性 今は大聖杯と
一体化し聖杯戦争における核となって
しまった女性


臓硯「なのに何故じゃ!! 何故思い出せんの
じゃあああああああああああああああああ!!」



雁夜「お爺ちゃん落ち着いてよ!! 
一体どうしたのさ!!」


臓硯「止めてくれ儂を見んでくれっ 
責めるんじゃお前の瞳が彼女の瞳が儂を
責めるんじゃ 儂は何をした!! 儂は何を
忘れておるんじゃあああああ!!」


タタタタタ タァアアン
雁夜「お爺ちゃああん!! 〔ポフッ〕
 「のわぁあ!!」 大丈夫だよお爺ちゃん
大丈夫だから」
ナデナデ


臓硯「雁夜一体何を?」


雁夜「ずっと前僕が高熱出した時お爺ちゃん
こうして僕の頭を撫でてくれたよね 
「あれは・・お前に死なれると困るからじゃ
儂はお前が思っている程優しい人間ではない」
 凄く暖かかったんだ でもねその時僕には
お爺ちゃんが助けてって痛い痛いって
泣いてるように聞こえたんだ 「っ!?
・・儂が泣いておるじゃと?」 だから僕
もっとお爺ちゃんの事知りたいと思ったんだ
お爺ちゃんには絶対笑顔が似合うから
 っ!?・・ユスティーツァ?」


取り乱しておる儂を落ち着かせようと
テーブルに登った雁夜が大きくジャンプして
儂の肩に飛び乗るとその小さな手で儂の頭を
優しく撫でる


その温もりはやはり彼女に似ていた


その後の雁夜の言葉が又しても儂の記憶を
刺激する そしてその記憶の中から一つの
言葉が浮かび上がってきた


そして儂は喪われた総ての記憶を思い出した


  ・・(「駄目だ止めるんだユゥウウ
リィイイイ!!  ごめんねゾォルケンずっと
一緒に居られなくて  逝くなユーリ
逝かないでくれぇええええ!!  こらっ
男の子が泣かないの・・ねぇゾォルケン
私貴方の笑顔が見たいな  見せてやるさ
幾らでも見せてやるから早く戻るんだ
ユーリ!!  お願いよゾォルケン私の
頼みを聞いて  くぅうっ・・畜生!!
  ねぇゾォルケン何時か世界から争いが
なくなって魔術も核も世界からなくなったら
そしたら私達もう一度会えるかな?  
ユーリ・・・あぁ会えるさきっと  
約束よ  あぁ約束だ・・誓うよユーリ
僕のこの手で世界中から総ての悪を根絶
してみせる そして必ず君を迎えに行くよ
そしたら僕と結婚しよう平和な世界で
何時までも一緒に暮らそう  うん待ってる
私その日を何時までも待ってるから  
さよならは言わない  うん・・行ってきます
  ユーリ? ユーリ!!・・見ていてくれ
ユーリ僕は絶対に諦めない 何時か総ての悪を
排除して世界を平和にしたら胸を張って
君に会いに来るよ」)・・


  ・・儂は何をしていたのだろう・・


思い出した総てを思い出した 彼女の名も
嘗ての誓いも総てを思い出した


彼女の名はアインツベルンのホムンクルス
ユスティーツァ・リズライヒ・フォン
・アインツベルン又の名を冬の聖女・・


そして儂はアインツベルンにその知識と腕を
見込まれてユーリの護衛兼教育係として
雇われた


軈て儂等は互いに恋心を抱き相思相愛の
仲へとなっていった


その後更なる知識の向上の為に時計塔に渡った
儂等は其処で同じように知識の向上の為に
時計塔を訪れていた日本の魔術師遠坂永人と
出会った


臓硯「うぅおおぁあ・・ユーリ・・おぉ
おぁああ・・儂は儂はっ儂は何と言う
馬鹿な事をしていたんじゃああああ!!」


雁夜「お爺ちゃん・・大丈夫だよ大丈夫だから
だから今はうんと泣いて良いんだよ 
きっとその人も許してくれるよ そしたら
きっと笑顔になれるよ」
ポンポン


臓硯「うぅおおぁああああああああああ!!
ユーリィイイイイイイイ!! おぉおぁあああああああああああああああああああああああああ!!」


儂は恥も外聞もなく雁夜の胸の中で泣き続けた
総ての涙を出し尽くさんばかりに何時までも
泣き続けた 何時までも何時までも泣き続けた


儂を抱き締める雁夜の暖かさが心地良かった


泣き続けながら儂はまるで懺悔する様に
己の罪を語り始めた


それは今から二百年前の事 時計塔で
互いに切磋琢磨しながら魔術の腕を磨いていた
儂とユーリに永人がある話を持ちかけてきた


魔術師の悲願である根源へと到達する可能性が
見つかったと それは人間よりも遥かに
高純度の英霊の魂を使う事



その話に興味を持った儂等は永人の提案に
乗った


その為に必要な物が三つ 一つは魔術とは
縁遠くそのような大規模な儀式を隠蔽
出来る場所 これは永人が土地の管理を
している冬木市がその場所に適していた


霊脈が幾つも存在していたのも選ばれた
要因だった


一つは召喚された英霊が己の欲の為に
万が一にも裏切らない様に英霊を従わせる
為の術式 これは己の起源故に人間の
身体の力の流れを自在にコントロールする
術に長けていた儂が引き受けた


最後の一つはそれだけの膨大な魔力を
溜めておく為の器言うなれば聖杯である
しかもこれは二つ必要で英霊の召喚から
マスターの選抜まで聖杯戦争の総てを
取り仕切る大聖杯と一時的に魔力を蓄えておく
為の小聖杯が必要となる


これにはアインツベルンのホムンクルスであり
錬金術にも長けたユーリが選ばれた


それから三年後漸く令咒システムの目処が
立ったものの聖杯のシステムは不完全で
根源へと到達する為に必要な七人のマスターは
揃わなかったが儂等は聖杯降臨の儀式を行った


雁夜「完成する迄待つ事は出来なかったの?」


臓硯「出来なかった 「どうして?」
 それは大聖杯が収められている柳洞寺に集う
霊脈も関係してるいからじゃ」


霊脈から効率的にマナを吸い上げそれを
英霊召喚に必要な魔力へと変化していく
その周期が凡そ六十年なのじゃ つまり
聖杯降臨の儀式は一代で一度しか出来ない


従って後世に結果を残す為にもそのチャンスを
逃す訳にはいかなかったのじゃ


雁夜「それで・・どうなったの?」


臓硯「儀式は大失敗じゃった 召喚された
英霊は此方に従う事なく問答無用で襲い
かかって来た」


儂等は強制力は低いものの何とか効果の在る
令咒を使い時間を稼いだが奮闘虚しく
先ず最初に永人が殺され儂等の命も風前の
灯火じゃった


しかし聖杯も又不完全だった事が幸いした


英霊達は現界していく為の魔力が無くなり
消滅していった


何とか生き延びた儂等二人は聖杯システムの
更なる改善を始めた


儂は絶対に諦める訳にはいかなかったのじゃ


雁夜「どうして?・・んと・・そのごんげぇに
行きたかったから?」


臓硯「儂はそんな事に興味は無かった
儂は只ユーリに人間の幸せを与えてあげ
たかった太陽の下で眩しく生きている
広い世界を見せてあげたかった」


ユーリ達ホムンクルスは産まれながらにして
身体中に膨大な魔術回路を埋め込まれた
代償として十年も生きられない身体じゃった


そうユーリは人間でありながらも生きた一つの
魔術回路なのじゃよ


そして一回目聖杯降臨の儀式の失敗と
その後の行き詰まりが彼女にある決断を
させてしまった


それは彼女自身が大聖杯と一体化する事により
システムを完全な物へとする事じゃった


ユーリは自分の命が長くない事を知って
おったし儂の願いが世界の悪の根絶じゃと
言う事も知っておった


それがユーリの意志を不変な物へと変えて
しまったのじゃろう


そして儂が気がついた時にはもう遅かった
ユーリは既に大聖杯と一体化してしまっていた


彼女は儂に夢を叶えてくれと言った 
世界から悪をなくすと言う儂の願いを
絶対に諦めないでくれと じゃが違うんじゃよ
儂が総ての悪を根絶しようと思ったのは
ユーリに平和な世界で生きて欲しかった
からじゃ


なのに彼女がいない世界に生きても何の
意味もない それでも儂は彼女に約束
したんじゃ 何時か自分の夢を叶えて
君を迎えに行くとそう約束したんじゃ


その為には何としても死ぬ訳にはいかない
儂はその為に不老不死の術を欲した


それが己の身体を蟲に変える事じゃった
じゃが何時のまにか目的と手段が入れ替わって
しまった


そして償いきれぬ程の罪を重ね続けた


己の身体を維持する為に己の子供達を
容赦なく蟲への生け贄にした その中にはのぅ
雁夜やお前の本当の両親も含まれておるんじゃ


そうやって儂は何百年もの長い時を生き続けて
きたんじゃ


そして何れはお前や鶴野も同様の道を
辿ったじゃろう


臓硯「これで儂のはお仕舞いじゃ・・
わかったじゃろう雁夜や儂はお前が言う様な
優しい人間ではないんじゃよ」


雁夜「うん良くわかったよ やっぱり
お爺ちゃんは僕の大好きなお爺ちゃんだって
事がわかったよ」


臓硯「雁夜・・儂を責めんのか?」


雁夜「お爺ちゃんはさ・・ぇと・・うぅんと
・・そうだ!! お爺ちゃんは悪い悪魔に
騙されていたんだよ!! そしてお爺ちゃんは
今元に戻ったんだ だから大丈夫!!
お爺ちゃんはこれからもずっと僕の大好きな
お爺ちゃんだよ!! 世界中でたった一人の
僕のお爺ちゃんだよ!!」


臓硯「雁夜っ・・雁夜ぁああああ!!
 〔ギュウウッ〕 「わぷっお爺ちゃん
苦しいよ」 儂もお前が大好きじゃよ雁夜
世界中の誰よりもお前を愛しているよ」


キュウッ
雁夜「お爺ちゃあん・・お父さんとお母さんが
死んじゃってた事ちょっと哀しいけど
・・でもさ・・僕にはお爺ちゃんが居るから
大好きなお爺ちゃんとお兄ちゃんが居るから
だから僕は全然寂しくないよ」


臓硯「雁夜っ雁夜っ雁夜ぁあああああああ!!
あぁずっと一緒じゃ もう絶対にお前を離さん
お爺ちゃんがずっとお前を守ってやる
からな!!」


雁夜「ぅん・・ありがとうお爺ちゃん」


臓硯「儂もじゃ ありがとう雁夜・・
そして(ありがとうユーリ)」


儂等二人は何時までも抱き締め合いながら
泣き続けた


じゃがこれは今迄のような哀しみの涙ではない


そして流しきった涙の後には輝かんばかりの
満面の笑顔があった


雁夜「えぇと・・不束者ですがこれからも
宜しくお願いします臓硯お爺ちゃん!!」


臓硯「うむっ こんな可愛い嫁さんなら
大歓迎じゃ!!」


雁夜「もうっ お爺ちゃん僕男だよ!!」


臓硯「がははははは!! 良いではないか
良いではないか わははははははははは!!」


雁夜「えへへへへへへ」


  ・・そしてこの日儂に本当の家族が
出来た・・



その後二人の間でこんな話をしたとか
しないとか


臓硯「処で雁夜や聞きたい事があるんじゃが」


雁夜「なぁにお爺ちゃん?」


臓硯「悪い悪魔と言うのは誰の事じゃ?」


雁夜「うぅんとね・・時臣君!!」


臓硯「時臣と言うと遠坂の小倅か? 
あやつに何かされたのか?」


雁夜「時臣君ね初対面で僕にキスしようと
したんだよ!! それで僕が嫌だって言ったら
大きくなったら君をお嫁さんにするって
強引だよね僕にだって選ぶ権利あるのにさ!!」


臓硯「ほぉう・・そぅかそうか あの遠坂の
腐れ○ンポがそんな戯けた事を言って
おったのか」


雁夜「どうしたのお爺ちゃん顔色が真っ赤だよ
何処か具合悪いの?」


臓硯「何でも無いんじゃよ それより儂は
これから出かける処があるからのぅ 
儂が帰ってくる迄は鶴野としっかりお留守番
してるんじゃぞ」


雁夜「うんっわかったぁあああ!! 
お爺ちゃんも気を付けてね!!」
ギィイ パタン



臓硯「ふはは・・ひゃはははは・・ぬひゃ
ひゃひゃひゃ!! あの糞餓鬼がぁあああ!!
親子揃ってキ○タ○を蟲に喰らわせてくれるわ
ぁあああああ!!」


この日冬木市のある一つの家で凄まじい
轟音が鳴り響いたが どうせ何時もの
借金取りだろうと納得し近所の人々は
気にも止めなかったと言う


  ・・その日の深夜蟲倉にて・・

儂は今長い間共に生きた儂自身とも言うべき
蟲達を見下ろしている


思えばこの二百年己の時間は止まって
いたのだろう 前に進むのが怖かったのだろう


だけどこれからは少しずつ前に進んでみよう
もう過去を振り返るはやめよう


この世の総ての悪を根絶すると言う原初の
誓いは破るつもりはない


臓硯「じゃがのぅユーリ儂は今暫くは
儂の家族達と今を生きる事にするよ 
そして何時か胸を張って君に会いに行くよ」


そう誓うと儂は蟲倉を出ると外側から
二度と入れぬよう封印を施し蟲達への
魔力供給をカットした


そして儂は後ろを振り返る事なく蟲倉を
後にした


   【幸せになってねゾォルケン】


ふと懐かしい声が聞こえたような気がした


臓硯「ありがとうユーリ君に会えて幸せ
だったよ」


  ・・空には満天の星々が輝いていた・・












後書き


と言う訳で今回の主役は間桐臓硯お爺ちゃん
でした


臓硯とユーリの過去は私のオリジナルですが
それ故に力を入れました


過去を振り切った臓硯は真の家族を手に入れ
これから一緒に歩んでゆきます


そして直接の出番はありませんでしたが
時臣が良い味を出していますね


次は彼が主役かな(笑)








 
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