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八条学園怪異譚

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第五十三話 空手部主将その三

「普通のストレートを飲んでました」
「それもお砂糖を入れないで」
「ヘルシーね、けれどお茶はお砂糖を入れないとね」
 どうかとだ、茉莉也は二人に店の奥即ち家の中に案内してもらいながら話す。その手には今も三段ティーセットがある。
「健康的なのよね」
「お砂糖が入ってないとですね」
「確かにそうですね」
 二人も茉莉也のその言葉に頷く、これは日本茶にしても中国茶にしても同じだ。
「コーヒーもそうですし」
「無糖もそれはそれで味がありますから」
「そうなのよね、私はどっちかっていうと紅茶派だけれど」
 紅茶かコーヒーかどちらかと言われるとだ。
「お砂糖を入れなくてもね」
「それはそれで味がありますよね」
「美味しいですよね」
「そうそう、いつもはブランデー入れてるのよ」
 ここでも酒だった、茉莉也は。
「それでも今は」
「入れないんですか?」
「今回は」
「そんな気分じゃないから、ブランデーよりもね」
 ここで茉莉也が言うものはというと。
「ミルクね」
「本格的にイギリスですね」
「イギリス風ですね」
「ティーセットで飲むのはワインだけれど」
 飲む時もあるというのだ、伊達に日本酒を和菓子で飲む訳ではない。それは洋菓子とワインの組み合わせもあるというのだ。
「赤ね」
「けれど今はですか」
「アルコールはなしですか」
「そう、ミルクでしかも」
 尚且つというのだ。
「ノンシュガーね」
「純粋なミルクティーですね」
「そっちですね」
「そう、それでお願いね」
「わかりました、それじゃあ」
「ミルクティー淹れますね」
 こうした話をして茉莉也を迎えたのだった、そして。
 三人でイギリス風のお茶を楽しみながらだった、二人は茉莉也に二人がこれから行く空手部の道場について尋ねた。
「あそこどういったところですか?」
「誰がいるんですか?」
「ああ、あそこね」
 まずはこう言った茉莉也だった、三段セットの一番上のスコーンを食べつつ。
「あそこは元空手部主将の幽霊さんがいるのよ」
「青春を過ごされた場所 にですね」
「おられるんですね」
「そういうところよ。高校を卒業して母校の先生になってね」
「それでまたですか」
「あの道場に入ったんですね」
「そう、今度は顧問としてね」
 空手部に入ったというのだ、空手部にいる幽霊は。
「定年、六十までずっといたのよ」
「へえ、じゃあ合わせて四十年位ですね」
「それだけの歳月をあの道場で過ごされていたんですか」
「そう、定年してから八十歳で大往生だったけれど」
 死んでからだったというのだ、彼もまた。
「愛着のあるあそこに入ったのよ」
「ううん、この学園の幽霊さんですね」
「何か常ですね」
「私が産まれるちょっと前からいるらしいわね」
 茉莉也は今度はミルクティー、ミルクだけで砂糖を入れていないそれを飲みながら話した。小柄な茉莉也が紅茶を飲む姿は妙に子供っぽい。
「大体年代わかるわよね、これで」
「ですね、今生きておられたら百歳ですか」
「それ位ですね」
「最終的には八段だったかしら」
 その幽霊の段位も話される。
「そうだったかしら」
「ええと、八段っていいますと」
「強いんですか?」
 空手、格闘技や武道の類には疎い二人は段のことを言われてもわからない。それで茉莉也にきょとんとした顔で尋ねたのだった。 
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