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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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OVA
~慟哭と隔絶の狂想曲~
  矢車草の名を持つ者

小日向蓮――――SAO時代、レンホウという名で最前線を駆け巡るが、二十五層のボス戦を最後にプレイヤーキルを狩るPKK(プレイヤーキルキラー)として生まれ変わり、三桁規模の殺人者(レッド)を文字通りの地獄に叩き落した張本人。

その冷酷非道な狩りの仕方から、当のレッド達のみならず、オレンジ、はたまた狙われる謂れのない一般人(グリーン)さえも恐怖のドン底に突き落とした彼の事を、人々は畏怖と僅かな尊敬の念とともにある一つの異名を献上した。

死者の首すらも嘲笑いながら刈り飛ばす。

《冥界の覇王》と。

しかし彼のその所業すらも、ある日を期にぱたりと止むことになる。

その日の日付を知っている者は、実はかなり少ない。当時にはもう設立され、基盤も磐石なものになっていた《六王》、攻略組みに属する一級ギルドのリーダーと幹部達。それほどしかその日付は通達されていない。

通達されていない、という言葉から解かる通り、水面下で多数の情報屋の手によって厳しい箝口令がしかれたのだ。

何故そんなことをする必要があったかというと、その日、《冥王》によって屠られたプレイヤーの数が完全にそれまでの閾値を越えていたのだ。しかも、バラバラにではなくたった一度の戦闘で、である。

その数、五十四。

これまで、十や二十ほどのレッドギルドが一度に潰される事は稀ではあるがあった。しかし、たった一度の戦闘でここまでの被害が出たのは、《冥王》一人の話どころか、SAO開闢以来の話である。《六王》達が、お抱えの情報屋達に厳しい情報規制、及び操作を命じたのも無理なからむことであるかもしれない。

知りうる人々はその日を、口を揃えてこう呼ぶ。

討論する余地なく、議論する余地なく、《冥王》の最盛期にして最終期。覇王と呼ばれた最凶の存在が、最も猛威を振るった日であり、とうとうその羽ばたきを休めた日。

そして――――一人の女性が、人知れずその命を散らした日。

冥王の堕日(ハデス・ダウン)》と。










今日は風が気持ち良いな、と僕は思った。鉄臭い匂いが混ざる、この風が。










刎ねる。飛ばす。斬る。砕く。

どれも慣れた動作だ。手に染み付いたのは、鮮血の出す鉄臭い臭いだけではなかったという事なのだろう。

奇声とともに飛びかかって来たのは、殺人ギルド《血塗れ粗悪品(ハーシュ・ブラッディー)》の構成員の三人だ。

裏の情報屋から渡されたリストの中にあったかもしれないが、そこまでじっくり見ている訳ではない。リーダーや幹部ならばともかく、しがない構成員のことなど記憶に残っているわけがない。

だからレンは、いつも通りのように右手を閃かせた。

相棒である小刀、《小太刀(こだち)》は度重なる連戦にも拘らず、いつも通りの切れ味を敵の身に刻みつけた。一の太刀で二人の首が一度に刎ね飛ばされ、続く二の太刀で背後から片手斧を振り下ろそうとしていた腕を肩口から断ち切り、三の太刀で左脇腹から右肩までを一気に断った。

悲鳴もなく。

声もなく。

静かに、音もなく地面に倒れた数個の肉塊に、レンはもはや何の感慨も浮かんでは来なかった。

ただ、モノを数えるかのように、あと数匹、と思っただけだった。

残るは、奥のほうで偉そうにふんぞり返っていたリーダーと四人の幹部を残すのみとなっていた。最初の方は、天から降って沸いた名誉獲得のチャンスとばかりにニヤケていたリーダーの顔は、今や澄み渡るお空のように真っ青だった。

小動物のように震えるその目を真正面から見、レンは口を開く。

威圧するまでも、惑わすのでも、魅せいるまでもなく、ただ普通に言う。

「ちょっとは()()()出してくれなきゃ困るなァ、モルモット風情が」

しかしそれは、リーダーを威圧するにも、惑わすにも、魅せいるにも充分すぎた。

ビクリと肩を震わせたリーダーの顔を見、少年は笑う。

鬼のように笑い、修羅のように嗤う。

その笑みに、その嗤いに、リーダー以下幹部達は、もうすでに《喰い千切られて》いた。

リーダーは思う。

残り少ないであろう命が辿ってきた軌跡を、走馬灯のように回想しながら。

どこで間違ったのだろう、と。

いや、間違ったのだと言うのなら、初めからだったのだろう。

そもそも、目の前のこの少年がココに攻めて来るという事が直前に分かった時点で、ギルド総出で適当な階層にトンズラするべきだったのだ。

《冥界の覇王》――――《冥王》と呼ばれるだけの所業を、この少年は一人でしてきたのだから。

死体を踏みつけ、四肢を刎ね飛ばし、累々と積もった屍の上に屹立して高らかに哄笑するほどの、SAO始まって以来の廃人であり狂人。

こうして向かい合っているだけで感じる、圧倒的な威圧感。

冷や汗だけでなく心臓も一緒に飛び出そうな激甚な情報圧。

それらに圧倒され、リーダーは堪らずに口を開いた。開いてしまった。

「ふ、フ………ザけんな。クソガキが」

どうしようもなく震えてしまったけれど、どうにか搾り出せたその言葉は沈黙していた空間に時間というものを思い出させるには充分過ぎるものだった。

自分同様、紅衣の少年に呑み込まれていた幹部達も、頭を振りつつ正気を取り戻す。

―――大丈夫だ。ペースは完全に向こうに渡っちまったが、まだヤレる。取り戻せる。

「ハ、ハハッ!下っ端どもを幾らか狩ったところでイイ気になンじゃねぇよ!こっちは五人、お前はたった一人だろーがッッ!!」

それは半分悲鳴のようなものだったけれど、下がりきった幹部達の士気を底上げするには充分なものだった。

だが、少年は言う。

血色のフードコートを着、漆黒のロングマフラーを首に巻きつけた少年は、言う。

「誰が喋って良いって言ったの?」

悪魔のような。

修羅のような。

鬼神のような。

そんな嗤いとともに、《冥王》がその本性を、本能を、本気を見せる。

今度も悲鳴は――――

聞こえなかった。










ばしゃあぁぁっっ、というポリゴンの破砕される音をBGMに、レンはふぅとため息を一つついた。

本日の殺人数(スコア)、十八人。

胸中にわだかまっている感情を一言で表すのは、少し難しい。

なぜ逃げなかったのか。

こうなる事が分かっていたんじゃ。

どうして命を粗末にする。

そんな行為を続けて意味はあるのか。

様々な疑問が、泡のように浮上しては消えていく。

しかし、その中で最も強く大きかったのは――――

こんな時まで、というものだった。

それと同時、レンは己の背後を見る。

そこには、大木の幹に背中を預け、体を震わせる一人の女性がいた。半ば本能的なものだろうが、身体の前に構えられた、小刻みに揺れる短剣(ダガー)の切っ先が痛ましかった。

年は………二十台前半といったところだろうか。

簡素なライトアーマーに身を包み、その下は白いチュニックと淡い青紫色のフレアスカート。それらを覆い隠すように、明るいブルーのロングヘアが風になびいていた。

青系の髪染めってレアなんだよなぁ、というかなり即物的な第一印象と。

綺麗な髪だなぁ、という極めて安直で素直な第一印象を抱いた。

ともあれ、まずは挨拶からだよな、うん。でもマトモに女の人と話すのって何時ぶりだろ?いっつも話してるのはおじさんばっかりだしなぁ。

まぁ、そのおじさん達はもうこの世界にも、現実世界にもいないのだけれど、と。自嘲気味に心の中で苦笑し、レンは言葉を紡いだ。

小動物のように怯え、縮こまる女性に向かって。

「危ないトコだったね、おねーさん。そんな装備でココらを出歩くのは感心しないよ。でもまぁ、どうせウマい事言われて連れ出されたんだろうけど」

びくり、と女性の身体が痙攣したように震えたのをレンは無感情な目で見た。

女性の眼に次に映るのは、拒否か嫌悪か。

いやどちらもか。

そう思った。

助けたことに一応の礼は言うが、内心では逃げ出したい一心。

そんな人を、そんな者を、レンは何人も見てきた。

それほどまでに、《殺人》というモノは人間にとって本能で受け入れがたいものなのだ。受け入れたくとも、分かり合いたくとも、解かり合えない。解かり合えたくない。

人を殺した瞬間から、たとえそれが自らの命の恩人であったとしても、その人は《バケモノ》になってしまうのだから。《バケモノ》に、見えてしまうのだから。

だけど――――

だけど――――

だけど――――

ソレは言った。

レンの想像だにしていなかったことを、言った。

「ありがとう」

震えながら

そんなことを言った。

《バケモノ》に。血塗れの《バケモノ》に、言った。

だから、想像していなかったことを言われたから、レンの脳は一瞬にして混乱(パニック)状態になってしまった。

結果、まだまだお子様な少年の口元から飛び出たのは

「え、あ、あ、うん。ど、どーいたーまーて」

というものだった。

どもり過ぎな上に、噛んでしまった。

超恥ずかしい少年に、新たな黒歴史が誕生した瞬間だった。

レンのその言葉に誘発されたのか―――レンにしててみれば認めたくないことであろうが―――女性は花がほころんだように笑った。

見た者を明るい気持ちにさせるような、そんな屈託のない笑顔だった。

ついで、その女性は唐突に口を開く。

「リータ」

「え?」

思わず聞き返した少年に、女性は微笑みかけながら、もう一度言った。

「私の名前。矢車草って意味なの」

「リー……タ」

それが出会い。

真っ黒になってしまった透明な少年と、矢車草の名を持つ女性が出会った、始まりの一幕。

それが後に、アインクラッド全てを震撼させる《あの日》に繋がっていく事を、この二人の登場人物が知る由もなかった。










――――思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから―――― 
 

 
後書き
なべさん「久しぶりの始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「ホントに久しぶりだよこの野郎!コラボ終わってから何やってやがった!」
なべさん「い、いやぁ~。色々あったのですよ、色々(しみじみ」
レン「あ、そう」←興味なし
なべさん「…………絵描いたりとか」
レン「やっぱりかクソ野郎!!」
なべさん「うん、あのさ。久しぶりにやってみたら、君のキャラ崩れすぎてない?原形とどめてねぇじゃねぇか」
レン「誰のせいだ、誰の」
なべさん「まぁいいか」
レン「まぁいいのか」
なべさん「はい!自作キャラ、感想を送ってきてください!」
――To be continued―― 
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