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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第十一章 追憶の二重奏
  プロローグ 恐怖の実家

 
前書き
 ゼロの使い魔編も折り返し地点にきました。

 それでは第十一章始まります。

 ……短いですが。 

 
 ゲルマニアの深い森の奥。そこに広がる霧が漂い、黒く染まった木々の森に、フォン・ツェルプストーの城はあった。その姿形は、トリステインのものとは違い、些か品やら協調性が見えなかった。
 造られてから永い時を経たのだろう、石造りの壁には罅や時による侵食が所々に見える。が、城の他の所々には、罅や侵食が見られないものも多くあった。それは、同じ時に造られたものではないことを示していた。増築されたと思われる場所は、無秩序に、また無計画に築かれたのだろう、それが歴史ある建造物を歪なものと感じさせていた。場所場所によってトリステインやガリアの古代カーペー朝の様式のものもあれば、アルビオンのものもあり、その全てが協調をまるっきり無視し、無理矢理纏めたように造り上げている。それぞれの国の貴族の者が見れば、誰もが顔を顰めるような城であった。とは言え、そのようなものが、変化と革新の国―――火の国ゲルマニアに相応しいと言えるのかもしれない。
 その城の一室、一際派手で、広い部屋―――キュルケの部屋の中に設置されたテーブルを囲む、タバサを除く学院のメンバーの姿があった。



 テーブルを囲む者たちの顔色は悪く、緊張に引き締まっている。
 彼らの視線はテーブルの上に置かれた一枚の手紙に向けられていた。上質の羊皮紙で出来た封筒には、トリステイン王国の花押―――百合の紋章の姿がある。つまりそれは、トリステイン王国女王アンリエッタからの手紙であった。
 それは返事の手紙であった。



 昨日の夜、タバサとその母親を連れガリアを脱出した士郎たちは、ここ、キュルケの実家であるゲルマニアのフォン・ツェルプストーの城に到着した。キュルケの実家に着くまでには、様々な出来事があった。やはりアーハンブラ城での戦闘は余りにも目立ち過ぎたのだろう。アーハンブラ城から脱出した早朝には、既に街道にガリア軍による検問が行われていた。だが、ロングビルやキュルケの口八丁手八丁、そして変化の呪文などによりその全てを突破することに成功した。とは言え、それが可能であったのは、地方軍兵士の士気の低さゆえであった。話には聞いていたが、ガリア王政府直轄の軍以外の士気は、想像よりも低いものであり、買収に応じる者もいれば、何の検索もせずに素通りさせる者もいた。
 しかし、中には仕事をする者たちがいた。
 東薔薇騎士団と名乗る、ゲルマニアとの国境に配備された隊である。それまでの検問の余りのゆるさに、油断がなかったとは言えなかった。東薔薇騎士団の団員たちは、細部まで馬車を検閲し、変装し眠るタバサを発見したのだ。無理矢理突破するかと士郎たちは身構えたが、騎士団長であるカステルモールと名乗る若い男は、「問題なし」と越境を許可した。
 ゲルマニアへと向かう馬車へ向け、彼は一部も隙のない礼を送っていた。
 無事ゲルマニアへと入り、目を覚ましたタバサに尋ねてみると、何やら事情がある様子に見えた。
 と、まあ、そんなこんなで何とかここ、キュルケの実家にたどり着いたのが昨晩のことであった。到着するなり、ルイズはタバサの救出についてアンリエッタに梟で手紙を出した。
 その返事の手紙に、今、士郎たちは難しい顔を向けている。
 テーブルの上に置かれたまま、何時までも放ったらかしにさせる手紙に、士郎は溜め息を一つ吐くと手を伸ばす。
 テーブルを囲む、士郎以外の者が息を飲んだ。

「ち、ちょっと待ってくれないかね隊長。ま、まだ心の準―――」
「そ、そうだ。ちょっとお茶でも飲んで一息ついて―――」
「ふん」
「「ぎゃあああああ~~っ!!」」

 横から士郎を止めようとギーシュとマリコルヌが声をかけるが、士郎は華麗に無視し一息に便箋を開ける。
 中には一枚の手紙が入っていた。手紙には、短く一行だけ記載されていた。それに目を通した士郎は、広げた手紙を閉じると、首を傾げた。
 
「え、っと、シロウ。手紙には何んて書かれていたの?」
「ん? いや、よくわからないんだが、『ラ・ヴァリエールで待つ アンリエッタ』と書かれていた」

 士郎がキュルケの問いに応えた途端、ガタンっ! と椅子が勢いよく倒れる音が部屋に響いた。
 全員の視線が一斉に音が聞こえた方向、ルイズに向けられる。

「ちょ、ちょっとどうしたのよっ!? 顔真っ青じゃないっ?!」

 キュルケの戸惑った声が響く。
 テーブルに手をつき、立ち上がったルイズは全身を震わせ、歯をカタカタと鳴らしている。
 
「じ、じじ、じっ―――」
「ど、どうしたんだい一体?」

 ロングビルがルイズに近づき問うと、ルイズは伏せていた顔を上げ、テーブルを囲む全員をぐるりと一巡りさせた後、パクリと口を開き、

「実家は、ヤバイ」

「「「「「実家は……やばい?」」」」」

 全員の首が傾げ、戸惑うような視線がルイズに向けられる。
 皆の視線が集まると、ルイズは顔をヒクつかせながら口を開いた。



「―――殺される」



「「「「「―――……は?」」」」」

 


  
 

 
後書き
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