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【ネタ】 戦記風伝説のプリンセスバトル (伝説のオウガバトル)

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14 黒騎士と伝説 その三

「ローディス教国が動き出したのよ。
 おそらく、第四次光焔十字軍が発動されるわ」

 私の言葉に、しばらくは誰も口を開かなかった。
 光焔十字軍。
 北の大国ローディスが送り出す大軍の規模は分からないだろうが、その脅威は知っているからだ。
 皆、疑問に思った事はないだろうか?
 新生ゼテギネア帝国崩壊のこの反乱の際に、何でローディス教国は動かなかったのか?
 正解は『動けなかった』のだ。
 なんと、この反乱一年で反乱軍の勝利という短さで終わっている。
 なお、ゲームだと一マップにおいて3-5日以上かかるとカオスフレームの低下が始まるからワールドエンドを狙おうものなら最短勝利を目指さないといけなくなる。
 するとどうなるかというと、最短だと100日以内クリアなんてやらかす訳で。
 これを現実に解釈すれば、英雄の登場とトリスタン王子という正当性の存在に、帝国内部の崩壊といろいろ重なったと解釈されるのだろう。
 さて、問題。
 軍が動員され戦場に出る最短準備間はどれぐらいだろうか?
 時代にもよるが、私がいた現実の現代軍隊においてすら三ヶ月は必要だった。
 という訳で、ローディス教国はついに介入のタイミングが無かったのだった。
 では、今の私たちはどうだろうか?
 反乱勃発から既に三ヶ月が経過している。
 そして、黒騎士ガレスによる聖地侵略という大義名分も存在している。
 軍を動かさない必要があるだろうか?
 ないよね。

「動員兵力は二十万はくだらないでしょうね。
 各地で動員が始まっているみたいよ」

 なお、この兵力はタクティクスオウガの隠しエンディングの一つギルバルトエンディングでの数字だったりする。
 で、オクトパス等の海洋ユニットがいる事も考慮したとしても、ヴァレリア島にこれだけの大軍を派遣できるのだから流石北の大国である。
 軍事上の常識からすれば、全兵力を侵攻軍に使う事はまずない。
 守備兵を考えれば、侵攻軍の倍以上の総兵力を抱え込んでいると考えていいだろう。
 つまり、四十万以上の大軍勢である。
 ゼノビアの平穏を考える私からすれば、ローディスとゼテギネアの共倒れを狙わない訳が無い。

「もちろん、この軍勢が統一行動なんて取れるとは思えないわ。
 主力騎士団の到着は後になるとして、最初は最も近い属国、パラティヌス王国を動かすでしょうね。
 と、なれば、南部軍か西部軍が動員され……どうしたの?みんな?」

「むしろこちらが聞きたいのだが。
 どうして、貴殿はそんなにすらすらとローディス教国の内部事情を知っているのだ?」

 皆を代表してデボネア将軍が口を開くが、まさか知っていたなんて言える訳もなく。
 用意していた嘘でごまかす事にする。

「寡兵で大国相手に戦いを挑む以上、情報だけでもと努力したまでで」

「なるほど。
 ゼノビア攻防時のあの手際はそれか。
 納得した」

 知ってて手を打ったなんて誰も信じないだろうからね。
 皆が信じるだろう嘘を用意すると、私がなんか悪役にやったような気がするのが困る。

「この第四次光焔十字軍は我々にとっては僥倖です。
 遠慮なく利用させてもらいましょう」

 私の言葉に眉をひそめるのは大神官ノルン。
 そりゃそうだ。
 彼女からすれば分家に頭を下げると取られかねないからだ。

「大神官。
 何もローディスに頭を下げろとは私でも言いませんよ。
 ローディス教国がこっちに侵攻する場合、カストロ峡谷からになるでしょう。
 そして、そこからこっちに来る為にはカストラート海を超えなければなりません。
 カストラート海がこちらについている限り、こちらへの侵攻はできないでしょうね」

「それは、カストラート海がこちら側についている事が条件だ。
 先の黒騎士ガレスの侵攻を見れば分かるとおり、人魚の女王ポルキュスはゼテギネア帝国についているぞ」

 元ゼテギネア帝国の人間であるデボネア将軍が口を挟むが、その問いに答えたのは私ではなく今まで黙っていたデスティンだった。
 実に気楽に事も無げに言ってのけたのだった。

「どうせエリーの事だ。
 手は打っているんだろう?」 

「打ってないと言ったらどうするつもりなのよ?」

「それはないよ。
 だってエリーだもの」

 無条件の信頼を示されたと思えばいいのか、ある意味馬鹿にされたと受け取ればいいのか微妙な所である。
 私はため息を一つついて、手の内を晒す事にした。

「打っているわよ。手は。
 帝国軍が撤退してくれたのでやりやすくなったわ。
 大神官ノルンにも協力して頂きたい。
 人魚の女王ポルキュスをこちら側に引きずり込みます」



『大神官ノルンによる布告
 大神官ノルンの名において以下の事を布告する。
 人魚の肉に不老不死の効果は存在しない』

 政治とはカジノにおけるギャンブルに似ている。
 現金をそのまま賭けるのではなく、チップに変換して賭けている所だ。
 何が言いたいかというと、戦闘に勝った勝利を政治に換金しないと勝ちの価値がないという所。
 一応しゃれのつもりなので笑うならば笑ってほしい。
 大神官ノルンに出してもらったこの布告が女王ポルキュス崩しの第二手である。
 黒騎士ガレス率いる帝国軍の敗退は第一手としてポルキュスの足元を激しく揺さぶっているだろう。
 そりゃそうだ。
 人間がマーメイドを長年にわたって迫害していたから、『なんで人間様が、人魚なんかにアタマを下げなきゃならないの?』という声が出ない方がおかしい。
 ここで、そんな反マーメイドの連中を支援してカストラート海侵攻という選択肢も無い訳ではないのだ。
 かの地は押さえなければいけない重要アイテムもある事だし。
 だが、それをするとカストラート海を挟んでパラティヌス王国と隣接する。
 現在の新生ゼノビア王国には二両面作戦を行えるだけの兵力は存在していないのだ。
 だからこそ、帝国におどらされた人魚にはそのまま踊っていただいて、ローディス教国とゼテギネア帝国の無益な戦いの緩衝材になってもらわないといけない。
 帝国にしてみれば、マーメイドは王国軍を食い止めるための捨てゴマにすぎないのだろう。
 だが、我々からすれば、その捨て駒から捨てずに使い続けないと勝てないのだ。
 捨てるならどうぞ。遠慮なく拾って有効活用させてもらいます。
 大神官ノルンによるロシュフォル教会への布告は、人魚に対する偏見解除の為の一手だ。
 カストラート海における人魚迫害はかなり根が深い。
 人魚の肉に不老不死の効果があるとして人魚達を捕らえて殺しているからだ。
 まずこれを、ゼテギネア全土で信仰されているロシュフォル教会を使って公式に否定する。
 先のアヴァロン島における戦いの後で出た布告である。
 こちらのサインにポルキュスが気づかない訳が無い。

『カストラート海の支配者ポルキュス女王陛下へ
 新生ゼノビア王国は、カストラート海におけるポルキュス女王陛下の支配を認める事を、ロシュフォル教会ノルン大神官の立会いの元ここに宣言します。
 新生ゼノビア王国宰相エリー
 ロシュフォル王国大神官ノルン』

 もちろん、トリスタン陛下の承認済み案件である。
 上に述べたデメリットを説明したら、カストラード海掌握による交易収入よりもデメリットが上回るとして簡単にOKが出た。 
 帝国側から見ると私たちは所詮反乱勢力でしかないので、帝国側からも権威が確立している大神官ノルンを立会いに持ってきたのだ。
 これで、

「反乱軍と戦わない訳じゃないですよ。
 エンドラ女王陛下の約束どおり、アヴァロン島への侵攻のお手伝いしましたよね?
 ならば、約束の履行は当然の義務でしょう?」

と、堂々と言い逃れができるのである。
 向こうが嫌味の一つでも言おうものならば、

「ところで、何で帝国が擁立した大神官を攻めたのかその説明をしていただけるのですよね?
 ちなみにアヴァロン島侵攻したせいで第四次光焔十字軍が発動しているみたいですが、反乱軍とローディス教国の二両面作戦をして勝てるのですよね?」

と、ねちねちと突くことも可能だったり。
 もちろん、この言い逃れも私が教えたものだ。
 捨て駒ゆえ、投げ捨てたら拾えない帝国の手の逆を取る作戦は見事に図に当たった。
 このアヴァロン島のマーメイドのケートー経由にて、ポルキュスが大神官ノルンと私への会談を求めてきたのである。


 神聖都市ゾッシアン。
 アヴァロン島の周りにある島々の一つに作られた都市で、お互いのホームでの会談を避ける為にこの島の港にて会談が行われる事になった。
 既に王国軍の大半は撤退しており、この場にいるのは私とデスティンとデボネア将軍と大神官ノルンの四人のみ。
 傍から見れば、港で騎士と乙女が逢瀬をしているようにも見えなくは無い。

「来たわ」

 ちゃぷんと波が跳ねたと思ったら、ケートーの隣に珊瑚の王冠をかぶった美女の頭が波間に浮かんでいた。

「はじめまして。女王陛下」
「挨拶はいいわ。
 質問に答えて」

 夜ゆえ、月明かりと星明りのみだが、その凛とした声に威厳を感じるのは流石女王と感心せざるを得ない。
 けど、波間から見える女王の顔は希望と絶望が入り混じり揺れる心はたゆたう波のよう。

「あなたたちはなぜ、わたしたちを助けるの?
 グラン王は何もしてくれなかった。
 わたしたちは長い間、迫害され続けてきたわ。
 でも、エンドラは約束した。
 マーメイドが安心してくらせる世界をつくるって。
 そのわたしたちの理想をどうしてあなたたち反乱軍が賛同するの?」

 これ、たぶん答え間違えたらそのままバトルだよなぁと思いながら、私が口を開く。
 仕組んだのは私。
 ならば、それを説明するのも私だろう。

「正しいと思ったことに、ゼノビアもゼテギネアもないわ。
 違う?」

「そんな簡単な答えを、今まで私は聞けなかったのよ。
 あなたたちは不老不死が欲しくないの?」

「欲しいのは確かね。
 けど、それに人魚の肉は必要ない。
 私はその技術を知っている」

 ポルキュスの問いかけに私は断言して見せた。
 不老不死とは少し違うが、まあそれに近い魔法がこの世界には存在しているからだ。
 リーンカーネイト。
 タクティクスオウガにて、アンデッド化した者をソルジャーやアマゾネスに転生させる竜言語魔法がそれだ。
 そして、これの改造か上位種魔法を使っているのが魔術師ラシュティと魔女デネブだろうと密かににらんでいる。
 
「だから、私たちが人魚の肉を求める必要は無い。
 それを踏まえて、大神官ノルンにロシュフォル教会に布告まで出してもらった。
 不老不死目的で人魚を捕らえて食べるならば、ロシュフォル教会によって罰せられる事になる」

 こういう時に、国家権力から独立している宗教権力は便利だったりする。 
 中央集権国家を作る時などに壮絶に邪魔になるのだが、帝国から見たら反乱勢力でしかない我々の信用より、攻められたとはいえ帝国自身が擁立したロシュフォル教会大神官の権威は馬鹿にならないからだ。
 あ。
 現状の神聖ゼテギネア帝国とロシュフォル教会の関係って、神聖ローマ帝国とカトリックまんまだ。
 カノッサの屈辱になるか教皇のバビロン捕囚になるか分からないが、国家権力と教会権力の対立はいずれ新生ゼノビア王国にも降りかかるから手を打っておかないと。
 こっちが、そんな不埒な事を考えているとも知らず、ポルキュスは黙ったまま波間に浮かんだまま。

「あなたたちを信用したとして、人間すべてが信用できない。
 多くの仲間が人間に迫害され、海を汚されてきたのよ。
 誰も争うことのない静かな海を、あの美しい海をあなたたちが返して……「返せるわ」!!!」

 私の断言に、ポルキュスの言葉が止まる。
 ポルキュスだけではない。
 あくまで部外者として口を挟むつもりは無かったケートーすらこちらを見て、デスティン以下人間側すら私の踏み込んだ発言に驚きの顔を隠そうとしない。
 私の提案を断ろうとした理由、人魚と人間の本当の対立の軸は環境汚染問題だからだ。
 それならば解決できる。
 私は、それを完全ではないが解決してきた世界の人間なのだから。

「返せるわ。
 海を汚さないようにできる。
 カストラード海を争いの海にしたくないから私たちからも手を出さない」

 そして、私はポルキュスに向けて手を差し出した。

「だからおねがい。
 私を信じて。
 海が綺麗になることが利益になる、人間の欲深さを信じて」




 数日後。アヴァロン島バインゴインにて。

「姫様。
 準備ができましたよ。
 正直、こんな事考え付くなんて、私は今でも信じられませんがね」

 実験設備を持ってきてくれた財務大臣トードの第一声である。
 私の領地である、ポグロムの森の領主館が置かれているゴヤスの下水道に私は潜った事がある。
 逃げ出した黄玉のカペラを追っての事なのだが、汚水がそのまま海に垂れ流されていた。
 そりゃ、人魚も綺麗な水を返してと文句を言いたくなる訳だ。
 ならば、解決するには汚水をろ過すればいい。
 まずは、下水道出口に沈殿池を設置し汚水の垂れ流しを止め、木炭や砂や小石を敷き詰めたろ過装置にてろ過して海に流す。
 小規模集落ならばこれで十分だが、大規模都市だとこれで追いつかない。
 で、ここからがファンタジーの出番。
 タクティクスオウガにクリアブラッドという水系魔法がある。
 この魔法、体内の毒素を取り除く魔法なのだが、じゃあ、『毒って何?』という話となって実験してみたのだ。
 その結果、この世界における毒というのが、人体に害を与える現象全般に効果がある事が分かったのだ。
 さすがファンタジーとそのアバウトさにえらく感動したものだが、じゃあ、体外の毒に対して浄化できるのかと疑問を持つのはある意味当たり前で。
 結論からすればできた。
 ただし、呪文改造してデフグルーザで水属性最大に引き上げるという必要があるのだが。
 神様万歳である。
 なお、オウガバトルの神々には水神グルーザの他に、海神バスクという神様がいらっしゃったりするのだが、もちろんポルキュス含めてマーメイドはそっちの信者だったりする。
 長くなったが、要するに水の浄化は魔法で可能なのだ。
 今までは人魚が浄化していたのだろうが、人魚の手では追いつけないほど人間が多い事が問題だったのである。
 だったら、人間も浄化に手を貸せばいいよねという訳で。

「水神を統べる偉大なるグルーザよ、我らに清らかな水の庇護を与えたまえ!
 デフグルーザ!!」

 私が呪文を唱えると、今回の実験の補佐をしてもらっているウィッチのオデットがそれに続く。

「災厄の泥沙にまみれ、汝の汚れた水を濯がん、
 クリアウォーター!!!」

 クリアブラッド改良呪文。
 クリアウォーター誕生の瞬間である。
 桶の中の汚水が見る見る透明になってゆくのを見て、ポルキュスとケートーが手を取り合って涙を流して喜んでいる。
 なお、この世界変身呪文もある(どこかの屍術師が鳥になったり)ので彼女達はひれを足に換えて陸の上に上がっていたり。
 なるほど。人魚姫の話を考えるとこれもありだよなぁと納得。
 話がそれたが、デスティンとデボネア将軍と大神官ノルンもこの浄化に驚きの顔を晒すが、この実験設備を用意したトードは渋い顔のままだ。

「あら、浮かない顔をしているわね。トード?」

「そりゃしますよ。
 これを町のろ過でやったらどれだけの人員と予算が飛んでゆくか」

「それが狙いよ。
 雇用ができれば、スラムの人間を雇える」

 トードだけが私の話の持つ意味に感づいた。
 スラム救済は大神官ノルンに許しを請うだけの価値があるイベントだと。
 スラムの連中はその貧困からかCやNが多く、ニンジャやウィッチになる連中が多い。
 そんな彼らが使える補助魔法で水の浄化が行える。
 雇用ができて賃金を得られるならば、彼らはスラムから自発的に出てゆくだろう。
 策は重層的に。
 重ねれば重ねるほど威力が大きくなる。

「姫様の狙いは分かりました。
 ですが、それを成す莫大な資金はどうするので?
 大神官ノルン様への許しを請う為にゼノビアとゴヤスぐらいは私の私財を出しましょう。
 ですが、王国全土にこれを作るとなると私の私財では到底足りませんよ」

 トードの言葉に耳を傾けながら、私はポルキュスとケートーの方に振り向く。
 少なくとも、ポルキュスは私の話を信用したいとは思っているみたいだが、トードの言葉に最後の一線を越えられないらしい。
 では、最後の一線を彼女自ら越えてもらう事にしましょうか。

「ねえ?
 あなたたち海の事は何でも知っているわよね?」

「当たり前よ。
 海神バスクの加護を得て、海の中で生活している私たちに知らないものなんて無いわ」

「じゃあ、何処で船が難破するかとか、何処で波が変わるかなんてのも分かる?」

「あ!!!」

 気づいたな。トード。
 彼女たちの乗る船は海神バスクの加護が得られるって事を。
 つまり、難破の危険性が極端に低下するんだよ。
 カストラード海が争いの無い海になったら、海洋交易が激増するって事を。
 そして、ローディス教国とゼテギネア帝国の無益な戦いという最高の消費行為が眼前に迫っている事を。

「カストラード海を争いの海にしない。
 それだけで、十分資金は回収できる。
 私たちは手を取り合えるのよ」

 取って置きの笑みを浮かべながら、私は改めてポルキュスに手を差し出し、彼女は泣き笑いの顔でその手を握ってくれた。
 なお、この光景を見た人間のうちデスティンを除く四人は、「背後に悪寒を感じた」という失礼極まりない理由で一歩下がりやがった。
 失礼な。
 みんなが幸せになる策を提案しただけなのに…… 
 

 
後書き
ろ過周りの話はもちろんオリ設定。
オウガの神々は多神なので、いろいろ調べると楽しかったり。 
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